次の日の放課後、オカルト研究部には2人の来訪者が来ていた。2人も女性であったが、片方は大一も見覚えがあった。アルバムの写真に一誠と写っていた栗色の髪の女子…紫藤イリナであった。彼女はもうひとりの青髪に緑のメッシュが入った凛とした表情の女性…ゼノヴィアと共に、昨日兵藤家に訪れていた。あくまでイリナの懐かしさからの寄り道であったが、彼女らは一誠達の正体を知っていた。それどころか彼女らは現役の教会関係者であり、悪魔とも敵対していた。それにもかかわらず、今回は彼女らから話し合いを打診してきたのだ。
敵対組織との会合、全員が緊張感を持って臨むこの状況で、口火を切ったのはイリナであった。
「先日、カトリック教会本部ヴァチカン及び、プロテスタント側、正教会側に保管、管理されていた聖剣エクスカリバーが奪われました」
聖剣エクスカリバーはかつての戦争で破壊され失われた。そのため現存するエクスカリバーはかつての破片を集められて、錬金術により再構成されたものであった。全部で7本あるエクスカリバーだが、その内の1本をゼノヴィアが見せる。
「私の持っているエクスカリバーは『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』。7つに分かれた聖剣のひとつだよ。カトリックが管理している」
彼女が傍らに置いていたものの布を解いた瞬間、大一達に戦慄が走る。聖剣に宿る力が悪魔である彼らを圧倒したのだ。ゼノヴィアはすぐに布で再びエクスカリバーを覆う。その布には文字がいくつも刻まれており、その力を普段は抑制していることが想像できた。
さらに続くようにイリナも取り出す。彼女が取り出した紐のようなものはあっという間に一本の刀へと変化した。
「私の方は『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』。こんな風に形を自由自在にできるから、持ち運びにすっごく便利なんだから。このようにエクスカリバーはそれぞれ特殊な力を有しているの。こちらはプロテスタント側が管理しているわ」
見せられたエクスカリバーに祐斗の殺気が増す。教会関係者が来たことを聞いて今日の部活に参加した彼であったが、イリナとゼノヴィアに対する敵意を隠そうともしない。その様子に仲間たちは内心ひやひやしていた。
「…それで、奪われたエクスカリバーがどうしてこんな極東の国にある地方都市に関係あるのかしら?」
祐斗に意識を向けつつも、リアスは話を進める。彼女らの話ではエクスカリバーは行方不明である1本を除いて6本をそれぞれ教会で管理しているが、今回はそれらから1本ずつ、計3本のエクスカリバーが盗まれた。そして犯人はこの地へと逃げ込んだらしい。
「奪ったのは『神を見張る者(グリゴリ)』だよ。主な連中は把握している。グリゴリの幹部、コカビエルだ」
コカビエル…聖書にもその名を連ねる堕天使の幹部であった。その実力は計りかねるが、強大なものであることは間違いない。現に彼女らの話では、取り返そうと潜り込んだエクソシストはことごとく消息を絶っていた。
それほどの強大な相手ではあったが、教会側の彼女らの要求は一切関与しないことであった。教会側としては、悪魔が堕天使と手を組むことを危惧しているからとのことであった。
一方で、この申し出にリアスは不満を見せる。プライドの高い彼女からすれば堕天使と組むことはあり得ないし、その疑いを持たれることすらも不服であった。自分の領土で好き勝手されているとくれば尚更だ。
いずれにせよ、三すくみの関係がある以上、互いに余計な関与は避けるべきであることは認識したようであった。大一としては一触即発の可能性も考えていたため、この結果には胸をなでおろす気持ちであった。もっとも昔の知り合いが玉砕覚悟で今後を考えている様子には、あまりいい気持ちもしなかったが。
話が集結すると、2人は部室から出ようとするが、ゼノヴィアの方がふとアーシアに目をつけた。
「———兵藤一誠の家で出会った時、もしやと思ったが、『魔女』アーシア・アルジェントか?まさかのこの地で会おうとは」
彼女らはアーシアを知っていた。どうやら敵対勢力をも癒すその力は、「魔女」という評価を受けていたようで、昨日見かけた際には彼女の正体も看破していた。それどころかゼノヴィアの方は、アーシアにまだ神への信仰があることを見抜いた。
驚くイリナは、アーシアの方を向く。
「そうなの?アーシアさんは悪魔になったその身でも主を信じているのかしら?」
「…捨てきれないだけです。ずっと、信じてきたのですから…」
「そうか。それならば、今すぐ私達に斬られるといい。今なら神の名の下に断罪しよう。罪深くとも、我らの神ならば救いの手を差し伸べてくださる筈だ」
布に巻かれたエクスカリバーを向けるゼノヴィアだが、そこに一誠が割って入る。
「アーシアに近づいたら、俺が許さない。あんた、アーシアを『魔女』だと言ったな?」
「そうだよ。少なくとも今の彼女は『聖女』ではなく『魔女』と呼ばれるだけの存在ではあると思うが?」
「ふざけるなッ!救いを求めていた彼女を誰一人助けなかったんだろう!?アーシアの優しさを理解出来ない連中なんか、皆ただのバカ野郎だ!友達になってくれる奴もいないなんて、そんなの間違っている!」
大一はぎゅっと目を閉じて、一誠が落ち着くのを祈った。別に彼女らのアーシアへの評価を擁護するつもりは無い。仲間である彼女への罵倒に怒り心頭なのも理解はできる。しかしここで言い争ったところで、何かが変わるわけでは無いのだ。立場が大きく違う相手ならば尚更だ。ライザーの時と同様に自分が割って入ろうかとも思ったが、あの時と違ってリアスが冷静な今なら彼女が抑える方が主として正しい振る舞いと言えるだろう。
しかし大一の願いとは裏腹に、一誠の怒りは留まることを知らない。リアスも困ったように制止をする。
「イッセー、お止め…」
「ちょうどいい、僕が相手になろう」
この白熱する論争に割って入ったのは、祐斗であった。穏やかな笑顔には隠そうともしない殺気が込められており、彼の狙いに大一は大きくため息をつくのであった。
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場所は少し前に球技大会の練習をしていたところ、そこで一誠とイリナ祐斗とゼノヴィアがそれぞれ対峙する。彼女らは羽織っていた白いマントを脱いで黒いボディスーツに身を包んでいた。すでに周囲には結界が張られており、大一達は外からその様子を見守っていた。
どんどん口論がこじれた結果、喧嘩を売った一誠と祐斗がイリナ、ゼノヴィアと戦うことになった。私的な小競り合い程度のため問題に発展することは無いだろうが、それでも怪我の可能性を考えると、この意味のない喧嘩は大一にとって心臓に悪いものであった。
目の前の聖剣の存在に復讐心を駆られる祐斗、淡々と勝負に応じるゼノヴィア、ここまでの戦いに発展するとは思わず戸惑う一誠、なぜか張り切ってやる気満々のイリナとそれぞれが反応を見せる中、最初に動いたのは祐斗であった。一誠が発動したブーステッド・ギアに彼女らが驚いたところに、ゼノヴィアに斬りかかっていった。しかしゼノヴィアはその攻撃を防ぎ、不敵に笑みを浮かべる。
「我々にとって異端視されている神器ばかりだ。悪魔になったのも当然と言えるのかもしれないな」
「こちらもいくよ、イッセーくん!」
イリナの方も一誠に対して斬りかかるが、彼は受け止めずに回避に徹していた。攻撃を回避して倍加の力を貯めるつもりなのは明白であったが、同時に彼の表情を見て大一は何か嫌な予感がした。あの表情は何度も見たことがある、弟はエロい妄想を展開させている時のものであった。
「…気をつけてください。イッセー先輩は手に触れた女性の服を消し飛ばす力を持っています。…女性の敵、最低です」
「あぅ!痛烈なツッコミだよ、小猫ちゃん!」
「なんて最低な技なの!イッセーくん!悪魔に堕ちただけでなく、その心までも邪悪に染まって!
はっ!まさか大一お兄さんもそっち方面に!?」
「えーい、何でもかんでも兄弟というだけで俺を巻き込むな!一誠、お前もう負けろ!」
「それが仲間で弟に言うことか、兄貴!」
本当に勝負なのか疑いたくなるやり取りが展開される一方で、隣では祐斗とゼノヴィアが刃を交える。祐斗が炎と氷の魔剣を生成し、さらに特有のスピードで攻めるものの、ゼノヴィアはそれを最小限の動きで的確にいなしていく。
「『騎士』の軽やかな動き、そして炎と氷の魔剣か。だが甘い!わが剣は破壊の権化。砕けぬものはない」
ゼノヴィアが振るエクスカリバーは祐斗の魔剣を打ち砕き、さらに地面に大きなクレーターを生みだすほどの破壊力を見せつけた。『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』の名に恥じぬ破壊力に、祐斗の表情はさらに険しくなった。
そして土埃が舞う中で、イリナも勝負をかける。スピードは一誠よりもはるかに速かったが、彼もブーステッド・ギアの能力を発動させたことで身体能力を上げ、積極的にイリナへの「洋服破壊」を狙っていく。
「いつも以上にイッセーくんの動きがいいですわ」
「…スケベ根性が先輩の身体機能を向上させているなんて」
「あいつが俺から逃げる時に異常に速くなる理由がこんなところで解明されるとは…」
仲間からの呆れもよそに、ついに一誠はイリナを追い詰める。彼は喜びと期待を込めて突撃するが、直前のところでかわされてその先にいるアーシアと小猫に触れてしまった。つまり…
布が引き裂く音と同時にアーシアと小猫の裸体がさらされる。その光景に一誠は鼻血を出すも、すぐさま言い訳を始めた。すぐに体をかがめて隠そうとするアーシアはともかく、殺気のこもった小猫に彼の言葉は当然届くはずも無かった。
「…この、どスケベ!」
「ぐっふぅぅぅ!」
小猫の一撃が一誠のみぞおちへと深く入り込み、そのまま体を吹き飛ばす。重く、強烈な打撃は地面へと叩きつけられた一誠がすぐに起き上がれないほどの威力であった。
大一はなるべく目を背けながら、アーシアと小猫に上着と自身の着ていたシャツを投げ渡す。シャツを受け取って羽織った小猫は大一にも疑いの視線を向けていた。
「…先輩も見ましたよね?」
「不可抗力ということでどうにか」
「…またおごるということで今回は許します」
「…はい」
大一が自身の財布の中身を心配する中、一誠はイリナにふらつきながらも反撃を試みる。しかし不意を突いた渾身の打撃をかすらせるも、同様にかすめた聖剣の攻撃に彼の体は耐えられず、ふらふらと再び地に倒れ込んでしまった。
一方で祐斗の方も渾身の巨大な魔剣を創り上げるも、破壊力においてはゼノヴィアに軍配が上がった。魔剣は折られ、腹部に柄頭を強烈に入れこまれたことで彼も倒れ込んでしまった。
「次はもう少し、冷静に立ち向かってくるといい。リアス・グレモリー、先ほどの話、よろしく頼むよ。それと、下僕をもう少し鍛えた方がいい。センスだけ磨いても限界がある」
リアスに向かって言葉を向けたゼノヴィアは言い放つと、マントを羽織りこの場を去ろうとする。
「ひとつだけ言おう。———『白い龍(バニシング・ドラゴン)』はすでに目覚めているぞ。いずれ出会うだろうが、その調子では絶対に勝てないだろうね」
「ちょっと待ってよ、ゼノヴィア。じゃあ、そういうことでイッセーくん。裁いて欲しくなったら、いつでも言ってね。あっ、お兄さんも昔のよしみでオッケーですよ。アーメン♪」
彼女らが去った後には、完敗した一誠と祐斗が倒れていた。
オリ主の性格を考えると、どうしてもこういう場面でグイグイいけません。次回は聖剣の討伐隊ですが…。