D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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一誠とアーシアがベリアルの下へ向かっている最中の出来事です。


第190話 外れた道理

 アグレアスでは各所で戦いが起こっていた。爆音が響き、地が揺れ、強い魔力が渦巻いている。

 大一もまたクリフォトのひとり…ギガンを相手に戦っていた。使われていない建物の屋上に落下した直後、大一はシャドウを合わせた腕を伸ばして彼に拳を打ち込もうとする。しかしギガンは易々とそれを掴むと、大きく引っ張るが、大一も伸ばした腕を途中で引きちぎると、連続で魔力の塊を口から吐き出していく。

 全て命中したのを実感するが、それでダメージを与えたとは思えない。彼の硬さは、3回も戦った大一がよく分かっていた。

 

「うっとうしい」

 

 煙の中から現れるギガンは小さく呟く。両腕の肌は岩石へと変化しており、魔力がぶつかった跡として煙が揺らめいている。身体は無傷で、その腕で防いだことは明らかであった。

 だがそんなことは百も承知。大一は腕から黒い錨を取り出すと、油断なく構える。

 

『ここでお前を倒す。そしたら次は一誠達のところに行って、父さん達を助けるんだ』

「そういうのが、うっとうしいんだ。元人間の悪魔が」

 

 ギガンは建物に自身の腕を突きさすと、そのまま持ち上げるように腕を動かす。それに呼応するように突起が出現し、大一に向かって突き進んできた。

 

『おそらく避けることまで想定しているんだろうな。それでも…』

 

 脚力を強化した大一は走ってそれを避けると、ギガンへと向かっていく。それに気づいていたかのようにギガンもジャンプして、彼を叩きつけようと大木のような腕を振り上げていた。

 腕が振り下ろされる瞬間、大一は翼の付け根にある尾をシャドウによって伸ばすと、ギガンの振り下ろされる腕に縛り付け、体をひねらせて攻撃をかわしながら、縛り付けた尾を利用して小規模な逆バンジージャンプのように飛び、敵の上を取った。

 

『上さえ取れば…』

『重さが活きる!』

 

 大一とディオーグの言葉が重なった瞬間、錨を相手の首付近に振り下ろす。硬度、重さ共に最大級まで上げた一撃はギガンを押し込み、屋上へと叩きつけた。ギガンほどの巨漢が叩きつけられたことで、屋上全体にひびが入り込んでいき、間もなく建物の上が完全に崩れることとなった。

 ギガンが崩れた屋上の瓦礫の下敷きになったのを確認した大一であったが、息をつく間もなく彼の後ろに巨大な岩の腕が現れる。後ろを向いた瞬間に殴りつけられて、大一は隣のビルへと叩きつけられた。

 崩れた瓦礫を強引にどかしながら、大一は頭を押さえて立ち上がる。煙にせき込み、頭から流れる血を拭いながらも、彼の眼は油断なくギラギラとした光を放っていた。

 

『あの一撃、かなり魔力込めたのに…!』

『落ち着け、シャドウ。ダメージを与えられたんだ。これまでよりもチャンスはある』

 

 彼の視線の先では同じようにギガンが瓦礫をどかしながら現れる。気怠そうな表情ではあったが、彼の口からは細い血の跡が見えており、錨を振り下ろした首根っこ辺りには痣が残っていた。

 

「俺に手傷を与えたのだけは評価してやる」

『だったら、お前を倒してその評価を更新させてやるよ』

 

 ギガンの手痛い一撃を受けながらも、大一の言葉に迷いはなかった。これまでの2回の戦いと違って、単独でダメージを与えていたことで、わずかながら勝ち筋を見出していた。それを実現するために考えをめぐらす一方で、ギガンは眉間にしわを寄せて不愉快をハッキリと見せた。

 

「お前と戦っていると苛立ちと怒りを感じる。そういう感情は『異界の地』で長年生きて、枯れたと思っていたんだがな」

『だったら、出てこない方が良かったんじゃないか?』

「そうでもないさ。冥界が混乱する光景なんかは一見の価値があるだろう?」

 

 2人が再びぶつかる前に庁舎から巨大なマイク音声が響く。それはギガンが言ったような冥界を混乱の渦中へと引きずり込むことの始まりであった。

 

『ごきげんよう、冥界の皆さん。ディハウザー・ベリアルです。私が消息不明となっているようですが、この通り、平穏無事です。さて、いまから皆さんにお伝えしなければならないことがあります。それはレーティングゲームの闇だ』

 

────────────────────────────────────────────

 

 ディハウザー・ベリアルはクリフォトの手を借りて、冥界中に彼の告白を放送していた。明かした内容は、当時レーティングゲームに流れていた一種の噂とあるひとりの女性を皮切りに始まった。その噂は現在ディハウザーと共にランキング上位に位置する2人の悪魔が決して才能豊かでないというものであった。これ自体は一笑に付すものであったが、彼の従妹…クレーリア・ベリアルはその噂を調べた。ディハウザーの実力を何よりも知っていた彼女は面白おかしく過激に書きたてられるこの噂話を快く思わず、独自に調べ続けていた。

 しかし彼女は秘密裏に始末され、詳しい理由を伏せられて死んだという事実だけがディハウザーの耳に入った。彼女を妹のように可愛がっていた王者は、真相を探り続けており…

 

『結論から言えば「王」の駒は存在する。そして、いまあなた方の目の前に開示されているだろうと情報と、ゲームプレイヤーの顔ぶれ、彼らはその「王」の駒を使用して力を得たのだ』

 

 クリフォトから冥界の上層部によってクレーリアが始末されたことを知ったディハウザーは、復讐としてこの真実を冥界全土に公表したのであった。彼はその後もリアス達がアジュカから聞いた話を公表し続けていた。

 この放送を聞いたリアスはビルを見上げる。

 

「クレーリアの件は、人間の男性と恋に落ちたからじゃなかったの?いや、どちらも上層部からすれば消すには十分の理由か…」

「ハッハー!さすがだね、ディハウザー・ベリアル!これは冥界も大混乱間違いなしだな!」

 

 リアスの前方で、バーナが大口を開けながらゲラゲラと笑っている。彼女の周囲には地面からマグマが柱のように真っすぐに何本も噴き出しており、強烈な熱気が周囲を包んでいた。

 リアスの隣では、堕天使化した朱乃が苦しそうに呼吸をしている。魔力で防いでいるだろうが、リアスのように鎧をつけていないゆえに、より強い熱気にあてられていた。

 

「朱乃、大丈夫?」

「ええ、なんとか…それにしてもあんな放送があっては冥界が…」

「いいじゃねえか!支配を覆して革命でもなんでもすればいい!そしてもっと死んでいけばいいんだよ!」

 

 バーナの非情な意見に、リアスは鎧の中で唇をかむ。彼女の声には強い悪意が感じられた。相手はクリフォトなのだから当然の感想かもしれない。それゆえに「D×D」として、ひとりの上級悪魔として彼女に強い怒りを抱いた。ただでさえこれまでの事件や愛する人を苦しませたことで抱いていた炎は、相手の残酷な言葉が薪となり更に燃え盛っていた。バーナの言動もまた、リアスにとって入っちゃいけない領域を荒らされたようなものであった。

 リアスが感じる激情を、朱乃も感じたのか悲痛な声で問う。

 

「…どうしてそんなことが言えるのか理解できませんわ。悪魔があなたに何をしたというの?」

「…そうだな。まあ、地獄は見せられたよ」

 

 バーナがパチンと指を鳴らすと、マグマの柱はうねりだし、蛇のように彼女たちを狙っていく。リアスと朱乃は大きく飛び上がり向かってくる攻撃を起用に避けていく。短い攻防の中で下手に防げる威力でも無いのは理解していた。

 飛び上がったリアスは倍加した滅びの魔力の塊を撃ち込むも、バーナも対するように同規模のマグマの塊を撃ち出してその攻撃を相殺した。これを狙ってバーナはジャンプしてリアスにマグマの拳を打ち込む。

 

「くっ…!」

 

 赤龍帝の鎧をつけて防御魔法陣まで張っていたのに、苦悶の声が漏れるほどの熱さと痛みがリアスを襲う。振り払おうにも、想像以上の剛腕に上手くいかなかった。

 だが隣から朱乃の雷光龍がバーナに噛みつき、そのまま地面へと叩きつける。そこにリアスが追撃するように滅びの魔力を球体化させたものを複数撃ち込んだ。

 

「助かったわ、朱乃…」

「大丈夫よ。それにしても彼女は───」

 

 朱乃の言葉は突然切られる。目の前で火柱が上がり、彼女らはさらに警戒を強めることになったのだ。

 2人が向けた視線の先には、軽く首を回すバーナの姿が立っていた。

 

「いてえな…こういう戦いはやっぱり嫌いだな。昔を思い出す」

「…あなた、本当に何者なの?」

「バーナ・ロッシュ。ただの炎の精霊さ。しかし敢えて特別なことを挙げるなら…そうだな…さっき言ったように悪魔には地獄を見せられたよ。あたしは捕まって多くの実験を受けていたのさ」

 

 こぼした声は苛烈な印象を受けるバーナにしては冷静であった。その打って変わったような声の調子と、「実験」という単語にリアスも朱乃もごくりと唾を飲み込む。多くの闇を見てきた彼女達にとって、それが意味することは容易に想像できてしまったのだ。

 

「なんだよ、そんな驚くことじゃねえだろ。どこの勢力だって、ひとつやふたつはとんでもないことをやっているものさ。ましてやあたしが悪魔に捕まっていたのは、それこそ旧魔王時代で他の勢力と睨みを利かせていた時代。戦力として利用できるものが欲しかったのさ」

 

 バーナは自分の身体を見せるように腕を開く。ディハウザーの告発を聞いた以上、彼女の過去もクリフォトに加担するには十分な理由に思えた。

 リアスはゆっくりと降り立ち、彼女に向き直ると震える声で問う。

 

「…あなたも壮絶な過去を経験してきたということね」

「何をもって壮絶とするかだな。特性を知るためにありとあらゆる耐久実験を受けたことか、同類の精霊の断末魔を聞きながら消えていく姿を見てきたことか…他にもたくさんあるしな」

 

 あまりにも淡々としているバーナの言い方であったが、それが逆にリアスの感情を刺激した。彼女の語る過去は、自身の大切な眷属である祐斗や小猫のように勝手な思惑で利用されてきたものに感じた。それゆえにわずかに迷いが生じた。目の前にいる相手とも分かり合えるのではないかと。

 しかしその考えをリアスはすぐに振り払う。たとえどれだけ相手が苦しい過去を背負っていても、それを理由にクリフォトの行いを肯定するわけにはいかないのだ。

 

「あなたが冥界への復讐を目的にしているのは分かったわ。だからといって、それを認めるわけにはいかない。私の愛する人たちを、世界を苦しませたあなたを許せないわ」

「…復讐ねえ。やっぱり嫌いだよ、お前みたいな女」

 

────────────────────────────────────────────

 

 祐斗と小猫は苛立ちを感じていた。その原因はギャスパーの代わりに請け負った相手…モックとの戦いであった。その姿は先ほどまでの少年のような姿とは違い、はちきれんばかりの筋肉を持ったサメの魔物へと姿を変えていた。

 

「小猫ちゃんッ!」

『了解です!』

 

 祐斗の掛け声と共に小猫は火車を複数展開させて一斉に敵に向かわせる。不規則な軌道で動く浄化の力は、避けることは難しいものであるが、モックは動きを理解しているかのように高速でかわしていく。さらにあっさりと回避した後に、サメの形をした水の塊を撃ち出した。祐斗は龍騎士団を出現させて攻撃を防ぎきると、自慢の神速で火車を避けているモックの隙をつこうとした。

 しかし祐斗の聖魔剣の一撃を、相手は腕から出しているヒレで受け止めた。

 

「聖なる力は悪魔には効果があるが、僕はただの魔物。それくらいじゃ斬られない」

「ただの魔物ってよく言えるよ…!」

 

 つばぜり合いの状態で、祐斗は苦々しく呟く。押し込もうにも相手の腕力は相当なものであり、ヒレも魔力を纏っているのか斬れる様子は無かった。先ほどの小猫の火車の動きを見極める感知能力や、自分にもついていけるほどのスピードとその辺りの魔物とは一線を画す実力であった。

 

『祐斗先輩、危ないッ!』

 

 小猫の叫びと共に彼女の火車がモックを狙う。相手は素早くバックステップをして攻撃をかわすと、そのままさらに距離を取った。

 祐斗は荒く息を吐きながら、聖魔剣へと目を向ける。相手のヒレと交えていた辺りの刃がかなり削られており、あのまま力勝負のつばぜり合いを続けていれば、斬り落とされていたのは想像に難くなかった。

 

『大丈夫ですか?』

「助かったよ、小猫ちゃん。ありがとう。…サメ肌というやつか」

『感知能力も高いですね。たしかアウロスでは長距離から水の攻撃をしてきました』

 

 小猫は息を整えながら、油断なく相手を睨む。実際に相手して分かったが、クリフォトが一筋縄でいかないことを改めて実感するのであった。

 

「種族も鍛えてきた練度も違うんだ。勝てると───」

 

 モックはハッとした様子で言葉を切る。その表情は衝撃に満ちており、祐斗達とは別の方向に顔を向けていた。

 

「この感覚、熱さ…まさか姉さん…!」

 

────────────────────────────────────────────

 

 バーナの身体から放たれる熱気は、先ほどよりも勢いと熱さに拍車がかかっていた。リアスと朱乃は苦しそうに顔をゆがませるが、それ以上に相手の変化に強い警戒を感じていた。衣服は消え去り、全身が赤く染まっていく。肩や背中はぐつぐつと沸いており、各所に炎が燃え盛る。その姿は炎とマグマが入り混じり、それが人の形を形成していた。

 

「リアス・グレモリー…そうやって理解できると思わねえことだ。あたしはそういうのが嫌いなんだよ。どんどん熱くなってしまう…」

「こ、この熱さは…!」

「復讐だけでこんなことが出来るかっての。あたしはモックと一緒に、あたし達の存在を証明したいのさ…」

 

 バーナはゆっくりと歩を進める。踏んだ地面からは煙が上がり、焦げた匂いが広がっていった。向けられるプレッシャーは先ほどの比ではなく、リアスは思わず怯むように一歩下がってしまった。

 しかし隣にいる親友は強い覚悟を目に宿しながら、リアスへを顔を向けて頷く。

 

「最後まで付き合いますわ、リアス」

「ありがとう、朱乃。…勝つわよ」

「その疑わない信念の強さ…いい感じにムカつくね。塵も残さないほど燃やし尽くしてやるから、覚悟しな!」

 




気づいていると思いますが、バーナとモックは血のつながった姉弟ではありません。
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