D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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引き続き、リアス達の戦闘になります。
燃え盛る女の本領です。


第191話 貫く野心

 頭に響く痛々しい悲鳴を何度も聞いてきた。同士の身体が無残に横たわるのを何度も見てきた。おびただしい傷を伴う実験を何度も経験してきた。

 それでもバーナが折れなかったのは、己の強さに確固たる自信があったからであった。もともと他の精霊とは異なる価値観を持っており、併せて同士が死んでいく実験に耐え続けて、その度に力が沸き上がるのを実感した。

 そしてある日、その力は解放されて彼女を捕えていた悪魔は研究所や他の実験対象と共に獄炎と灼熱に呑まれた。残った彼女はたったひとりの生き残りと共に、さまよい続けることになった。生まれてから今日まであらゆる苦しみに耐え抜いて、自信に溢れた彼女が復讐以上に渇望したのは…。

 

「知らしめたいのさ。この世にバーナ・ロッシュという存在がいるというのを…!」

 

 独り言のように小さく呟いたその声はリアスと朱乃に届くことは無かった。それ以上に彼女達の目の前に立つバーナの姿が放つプレッシャーが凄まじかったのだ。マグマと炎が入り混じったその姿は、精霊というよりも怪物の類に思えた。

 

「崩すわよ!朱乃ッ!」

「承知しました!」

 

 リアスと朱乃は互いの片手を合わせると、魔力を溜めていきバーナに向けて一直線に放つ。滅びの魔力と雷光が入り混じり、赤龍帝の力も合わさって魔力の入り混じった龍となりバーナを飲み込もうとした。

 それに視線を逸らさず、バーナは巨大な魔力の龍に飲み込まれていく。絶大なパワーを誇るグレモリー眷属の2トップの攻撃は、余波で敵の立っていた地面を大きくえぐり取った。

 

「さすがの威力だ。しかし先ほどと同じ感覚で来るのなら…甘いんじゃねえか?」

 

 魔力の入り混じった龍が煙を上げながら溶けていく。同時にあらゆる箇所から発火し、形が崩れていく中、無傷のバーナが現れた。

 リアスは鎧の中で小さく舌打ちをする。倒せたと思わなかったが、朱乃との合体技でダメージを与えられなかったのはさすがにショックを受けた。完全に命中する直前に体のマグマと炎で、体に触れないようにしていたのだろう。

 バーナが睨みを利かせる中、朱乃が動く。水の塊を龍の姿へ変化させて攻めたてていくが、相手は真正面から殴り飛ばした。水を受けてもまるで弱まった様子は無く、むしろ彼女の苛立ちが炎となって噴出しているようにすら思えた。

 

「そんなもので消火できると思うな!堕天使の娘よォ!今度はこっちから行くぞ!」

 

 バーナは大きく膝を曲げると体全身をバネのように伸ばして大きく飛び上がる。同時に背中から炎を噴出させると、一誠の鎧のブースト機能のように、炎の勢いで一気に朱乃との距離を詰めた。朱乃もすぐに防御魔法陣を複数張り出すが…。

 

「これはッ…!」

「この状態になった私に防御が通用すると思うなッ!」

 

 朱乃が張り出した魔法陣は、ロスヴァイセから学んだ魔法による堅牢さに定評のある強力な防御であった。

 しかしバーナとの距離がほとんどなくなると、魔法陣の文字が急に発火して消えていくのであった。術式が崩れれば、防御も保てない。弱体化した彼女の魔法陣はバーナのエルボーで次々と破られていくと、そのまま相手の肘が腹部へと入り込み、地面へと叩きつけられた。

 

「朱乃ッ!」

「次はてめえだ、リアス・グレモリー!」

 

 空中で向きを変えたバーナは再び背中から炎を噴射させると、その勢いでリアスとの距離を詰めていく。マグマによって形作られ炎によって包まれた両腕で、猛烈な拳の連打を打ち込み始めた。

 鎧のおかげで朱乃ほど直接的にマグマと炎に触れないものの、その熱気とパワーにリアスは後ろに下がりながら、相手の打撃をいなしていくしかなかった。もっとも彼女が脅威に感じたのは、熱さやパワーだけではないのだが。

 

「さっきまでの威勢はどうした!」

 

 バーナはいなしていくリアスの腕を掴むと、纏う炎の勢いをさらに激しくする。あまりの熱さに彼女は自分の腕が火傷を負うのを感じたが、バーナの攻撃は終わらなかった。掴んだ腕を強引に引っこ抜くかのような勢いと共に、体をブリッジさせながら後方へと投げ飛ばし、地面へと叩きつけた。

 受け身も取れずにまともに食らうリアスは苦しそうにせき込むが、それで手を休める敵ではない。大きく脚を上げたバーナはそのまま彼女の頭を踏みつけようとするが、寸前のところでリアスは転がるように回避し、距離を取ることに成功した。

 

「こんなものか」

 

 リアスへと睨みを利かせながら、バーナはゆっくりと歩を進める。彼女の眼には怒りが込められていた。その気迫にリアスは尻もちをついた状態で後ずさる。

 

「本当に気に食わないな。その実力で、あたしに対して同情していたのか?哀れんでいたのか?」

 

 バーナはリアスの片手で首を掴むと強引に持ち上げて、そのまま炎の勢いを利用したマグマのパンチを彼女の腹部に深々と入れこんだ。

 一気に後方に吹き飛ばされたリアスはニーズヘッグによって作られた瓦礫の山に叩きつけられ、苦しそうに鎧の中で吐血する。鎧は腹部が完全に破壊されており、それに伴い細かい箇所も崩れていた。

 

「何が慈愛に溢れた悪魔だ。あたしは同情するために生まれてきたんじゃないんだよ。ただの炎の精霊じゃなく、あたしという存在を示すために、あの男の誘いに乗ったんだ。それを哀れむべき相手というように思われたのは…あたしのプライドが許さない」

 

 落ち着きながらも、身体のように燃え盛るような気迫を感じる声でバーナは言う。

 そんな彼女に対して、勝てない、という言葉がリアスの脳裏に一瞬でもよぎってしまった。一見すればただの小さな野心家のような発言に聞こえたが、先ほどから打ち合った実力と確固たるハングリー精神を実感した。それゆえに彼女の言葉にも鬼気迫るものを抱き、気持ちの面で圧倒されていた。

 

「これで終わらせてやる」

 

 バーナは足をしっかりと踏ん張ると、背中を膨らませていく。間もなく背中から噴出したマグマは火山弾となり、地面を揺らしながら周囲に降り注いだ。

 

────────────────────────────────────────────

 

「敵の攻撃か…無茶苦茶だ」

『見境なさすぎます。他のみんなも無事だといいんですが…』

 

 祐斗と小猫は落ちてくる火山弾を回避し、この状況に表情を渋くする。バーナの火山弾は周囲に雨のように降り注いだ。敵味方関係なく撃ちだされるこの攻撃は周囲のビルを破壊し、量産型邪龍を潰し、ギャスパーが展開していた闇の怪物を燃やしていき、文字通り彼らの戦いの場を混乱させていた。

 しかし彼ら以上に渋い表情を見せていたのは、敵対するモックであった。彼は注意を祐斗達ではなくバーナへと向けていた。

 

「マグマと炎が混じっている熱はダメだ。姉さん、これ以上は…」

 

 呆然とした様子でモックはバーナ達の方を向く。この無差別攻撃を気にしているのか、それとも別の心配があるのか、足まで止めて上の空な印象を受けた。

 この状況に祐斗は不思議に感じた。いくら感知能力が強い相手だからと言っても、これほど無差別な攻撃に動きを止めることは迂闊に思えた。しかしこの火山弾はモックには当たらず、彼の立っている場所には落ちてこなかった。

 

「…攻撃が来る場所が分かっているのか?」

『祐斗先輩も思いましたか。たぶん、魔力による遠距離攻撃とかは強く感知できるのじゃないでしょうか。私の火車の動きは予測してかわし、先輩の剣による攻撃は直接防いでいましたから。つまり…』

 

 そこで言葉を切ると、白音モードの小猫の身体が白い光でおおわれていく。間もなく光が納まると、制服を着たいつもの小柄な身体の彼女が現れた。頭には猫耳、腰のあたりからは尾が伸びており、猫又モードの状態であった。

 小猫はがっしりと両拳を合わせて、モックを睨む。

 

「作戦変更です。近接戦で崩しましょう」

「そろそろ僕らも反撃しなければね。そのためにも…この隙は逃さない」

 

 火山弾の隙間をぬうように、祐斗は高速でモックへと向かっていく。さすがに敵が接近して来れば彼も気づき、腕のヒレで聖魔剣の一撃を受け止めた。

 

「ただの悪魔ごときが…お前らに構っている暇は無いんだ。一刻も早く、姉さんを───」

「そうはいかない。あっちでは僕たちの仲間が戦っているんだから」

「あなたの相手は私たちですッ!」

 

 祐斗を跳び越すように現れた小猫は、モックの鼻先に痛烈な飛び蹴りをお見舞いする。火車の攻撃を予測していた彼にとって、この一撃は不意を突かれたものであり、同時に仙術も利用したもののため、魔力の維持にほころびが生じた。

 ヒレの硬度が落ちたと感じた祐斗は手早く聖魔剣をもう一振り創り出すと、両手に持った剣でモックの腹部を×印に斬った。強靭な肉体から鮮血をまき散らし、モックは衝撃の表情を浮かべながら数歩下がっていく。

 

「たしかに種族も練度も違うかもしれない。しかしそれで僕らが負ける理由にはならない!」

「勝ちます、この戦い!」

「ふざけた悪魔どもが…!」

 

────────────────────────────────────────────

 

 数十発も火山弾を撃ち出したところで、バーナは息を切らしながら攻撃をやめる。怒りのままに繰り出した攻撃はさすがに疲労を感じ、胃の中が逆流するような気持ち悪さも抱きながら、わずかに身体をよろめかせていた。

 しかし同時にこの怒りは静まらなかった。

 

「ムカつくな…!なぜ…なぜ立っていられる!」

 

 荒ぶる声で問うバーナの先にはリアスが立っていた。赤龍帝の鎧は腹部から胸、頭部まで砕かれており、3分の1近く壊されていた。身体のいたる箇所から流血しており、特にまともに拳を入れられた腹部は、白い肌が見る影も無いほど惨い火傷の跡が残っていた。顔も血でぬれており、表情を読み取ることは困難であった。しかしその中にも見られる彼女の青みがかった瞳には闘志が宿り、何とも言えない凄みが感じられた。

 肩で息をするリアスは呼吸を整えると、ゆっくりと前に進む。傷と疲労のおかげで大声は出ないにもかかわらず、その声はよく通るものであった。

 

「まだ私の夢を成し遂げていないから」

「夢だぁ?愛する赤龍帝と結ばれることか?クリフォトを倒して平和を取り戻すことか?」

「レーティングゲームに参加し、各大会で優勝を重ねることよ。魔王の妹というだけでなく、私を…リアス・グレモリーという存在をさらに知らしめるために」

 

 何度も語ってきた夢だ。レーティングゲームの各大会での優勝しランキングトップとなる、力がものをいう悪魔の世界で彼女が大いに憧れたものだ。それは名誉や富のためではない。自分の実力によって実績を勝ち取ることと、それによって自分自身の存在を冥界中に轟かせるこの経験を手に入れたかったのだ。

 なんとも私欲にまみれた野心だと自覚していた。サイラオーグやソーナほど冥界のために貢献するような夢ではない。それでも彼女にとってはずっと抱いてきた夢なのだ。目の前の相手と同じように…。

 

「…ふざけるな!お前のように赤龍帝から力を借りるような奴と一緒にされちゃ堪らねえんだよ!」

「そうね。あなたと私では想いの強さに違いがあるでしょう。しかしそれが勝敗を分けるとは限らない」

 

 リアスは両手に溜めていた魔力を合わせ始める。生半可な一撃では彼女に勝てない。それを理解した彼女は、火山弾の攻撃が始まった時からなけなしの防御魔法陣と鎧に守りを任せ、魔力をずっと溜めていた。

 

「あなたにはあなたの道理や正義があるのでしょう。でも私の愛する人の両親を連れ去り、大切な人たちを悲しませたことを許すわけにはいかない。そして何よりも…ここで死ぬわけにはいかないのよ!仲間と私自身のために、この勝負は勝つ!」

「うるせえ!実力も伴わねえ女が!その小さなプライドごと焼き尽くして終わらせてやる!」

 

 バーナのマグマと炎が再び燃え盛り、彼女の頭上に巨大な球体を作り出す。まるで小規模な太陽かというほどの存在にリアスは圧倒されかけるが、その足は後ろに下がることなく踏みとどまる。

 1対1の戦いなら玉砕覚悟も考えていたかもしれない。しかし彼女の夢をよく理解し、支えると約束してくれた親友の存在が、リアスに勝利を確信させていた。

 突如、周囲の黒煙の中から雷光龍がバーナの背後に現れて、体をしびれさせる。すぐに彼女のマグマの体によって焼き尽くされるが、完全に注意は逸れて、バーナは苦々しく背後へと目を向けた。そこには朱乃が倒れながらも、敵へと手を向けている様子が見られた。

 

「死にぞこないの巫女が…!」

「リアスッ!」

「任せなさいッ!」

 

 この一瞬の隙をリアスは見逃さなかった。残る倍加の力を発動させると、彼女は両手の中で形成した「消滅の魔星」を撃ち出す。これに対してバーナも出遅れながらも巨大な火球を落とし込んだ。

 ゆっくりと進む圧縮された滅びの魔力は空中で火球とぶつかり合う。濃厚な魔力のぶつかり合いは、周囲の空間をゆがませるような錯覚を感じさせるほど凄まじいものであった。

 しかし朱乃の攻撃によって、練り上げた火球にはほころびが生じ、攻撃のタイミングも遅れた。これによりリアスの撃ちだした魔星は肥大化していき、巨大な火球を徐々に飲み込んでいき、間もなくバーナも飲み込んでいった。

 

「あたしが…負けるッ…!」

 

 彼女の攻撃が消えると同時に、余波によって辺りの黒煙が晴れていく。全身全霊を尽くしたリアスは息を切らしながら膝をつき、残った鎧もバラバラに砕け散っていった。朱乃も目をうっすらと開けながらも、もはや動けなさそうに倒れこんでいる。

 そして彼女たちの目には、上半身が半分以上消え去ったバーナの姿が見えた。身体はいまだに炎を纏っているが、流動的に感じたマグマの身体は黒く変色して固まっていた。おぼつかない足取りで彼女は少しずつリアスへと近づこうとしていく。

 

「死ぬわけにはいかないんだ…あたしは…モックと…一緒に…」

 

 リアスの元にたどり着く前に、バーナの身体は崩れていきその場に燻ぶった火と共に黒い塊を残していった。

 自分とどこか似た野望を掲げていた敵の亡骸を前に、リアスは小さく呟く。

 

「バーナ・ロッシュ…あなたの名前と実力を私は決して忘れないわ」

 




彼女たちを活躍させてもいいと思うんですよ。
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