今回の行いはリゼヴィムにとって、性に合っていたものだと考えていた。ヒーローとして支持を受ける赤龍帝の真の姿を、彼の家族に明かすことで、双方ともに絶望を植えつけるものであった。彼が1度死んだこと、彼の兄である大一や娘同然のアーシアも悪魔であること、紡がれていく言葉は一種の快感すら覚えていった。自分の残酷さを前面に押しだされており、まさに「悪魔」として満足できるものに昇華されるはずであった。
だが現実は違った。龍の姿になった一誠を、彼の両親は受け入れた。化け物でしかないその姿に直面しても、彼らは息子を疑わず強い心で信頼を示したのだ。
「もう少しだぞ、一誠。いける!なんなら俺も一緒に行ってやるぞ!」
「なら、母さんも一緒に行くわ!一緒にあんなちんちくりんを倒してしまいましょう!」
「私も行きます!私も───兵藤家の一員です!」
「…大丈夫だよ、父さん、母さん、アーシア。3人が俺を支えてくれる限り、俺は何度だって───」
それどころか痛烈な攻撃を入れても、兵藤夫妻は一誠を鼓舞し、アーシアが回復させる。苛立つリゼヴィムの視線の先にあるのは、なおも諦めずに咆哮を上げる一誠の姿であった。それに呼応するように神器も光り輝き、一方で隣に立つディハウザーは苦渋の表情で構えを解いていた。目に映るあらゆる事象が、リゼヴィムをさらに激昂させた。その原因を思えば…。
「その親どもが原動力か!何か得体の知れない異能を発揮してんだろう!?ならば、ぶっ殺せば上々ってことだッ!」
リゼヴィムの強大な魔力の波動が兵藤両親に襲いかかる。一誠はかばおうとするも、すでに体力もかなり振り絞っている状態であり、間に合う状態ではなかった。
しかし魔王の息子の攻撃は届くことはなかった。アーシアを中心に発生していた黄金の光が、波動を完全に防ぎ切っている。追撃として撃ち出される魔力の塊もまるで通さず、彼女から放たれる龍をかたどった黄金の光は絶対的な防御を示していた。
「お父さんとお母さんは、私が守ります。絶対に守り切って見せますっ!」
「…禁手だと!?しかも、そのオーラは…黄金の龍王…ッッ!ここまで私に…俺に楯突くってのか…ッ!」
ファーブニルの想いが合わさり禁手へと至ったアーシアの神器は金色の鎧となって彼女の身体を包んでいた。同時に放たれる光は攻撃を通さずに、リゼヴィムを怯ませている。
「…んだよ、それ。なんなんだよ、それ…ッ!」
「…リゼヴィム様、彼らは私たちも抱くであろうものを見せているだけです」
「だから、なんなんだよ、それは!?愛、とか言うつもりか!?バカかよッ!んなものは幻想だ!クソみてぇな嘘っぱちだっ!」
必死で否定するリゼヴィムであったが、一誠は確信していた。龍となった自分を信じてくれた両親と触れ合った瞬間に見た不思議な空間。とても温かく不思議な場所で、自分が祝福されて生まれてきたことを、両親からの愛情を受けていたことを知ったのだ。どれだけ望まれてきたか、どれだけ両親が懸命に家族の幸せを感じてきたか。そして自分だけでなく、大一やアーシアにも惜しみない愛情を注がれている。その強い想いを知っているからこそ、一誠は気づけば鎧の姿に戻り、アーシアの禁手の意味も理解していた。
それでも体力の限界は感じる。胸に宿る温かみを感じても、身体の方は立つのも精いっぱいであった。そんな一誠の耳に、いきなりオーフィスの声が聞こえる。
(───イッセー、ようやく届いた。我の声が聞こえるなら、それはやっと満ちたということ)
それはドライグにも聞こえており、感じられるものに笑っていた。期待に満ちたその声は部屋中に轟いた。
『ルシファーの息子よ。白龍皇ヴァ―リ・ルシファーの祖父よ。お前が最初の客になりそうだ。しかし喜べ。こんな呪文はそう聴けたもんじゃない。よく、耳を傾けておけ。何せ、龍神が作りし無二の呪文なのだからな』
「俺のなかでさ、オーフィスの声がするんだ。───一緒に謳おう、と。───一緒に、游ごうってな」
一誠の頭の中に呪文が次々と浮かび、口にしていく。共にオーフィスも言葉を紡ぎ、力が沸き上がっていく。右腕の籠手の宝玉からは真紅の輝きが、左腕の籠手の宝玉からは漆黒のオーラが混じり合いながら身体を包んでいき、鎧を変化させていく。
「『───汝、燦爛のごとく我らが燚にて紊れ舞え』」
一誠とオーフィスの声が重なって最後の一説を唱えたところで、宝玉からけたたましく音声が鳴り響き、∞の文字が浮かび上がっていく。
「『Dragon∞Drive!!!!!』」
ドライグとオーフィスの声が合わさって宣言され、新たな鎧は完成へと至った。紅と黒を基調とした有機的な鎧、背中にある4枚の翼があり全てにキャノンが収納されている。グレートレッドの力で構成された身体ゆえに堪えることを可能とし、オーフィスの力を得て至った覇龍を超えた新たな進化…龍神化、後に「D×D(ディアボロス・ドラゴン)」と称される姿の一誠がリゼヴィムと対峙していた。
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一誠とアーシアが新たな力を覚醒していた頃であった。四方八方から岩の触手が突き刺そうと狙ってくる。複数の岩石が降り注いでくる。明らかに激しさを増したギガンの攻撃に対して、大一は動きを止めずに防御と回避を続けていた。
『あいつ、どんだけスタミナあるんだよッ!これほど魔力を使った攻撃を出来るなんて!』
『いや、このステージが原因だよ』
焦りに満ちたシャドウの声に対して、大一は淡々と答える。ちょうど後ろから迫ってきた足場から生えてくる岩の突起を回避するために、伸ばした腕を手近なビルの柱へと巻き付けてターザンロープの要領で飛び上がり、別の足場へと着地したところであった。
『ギガンはあくまでこの周辺のビルの形や地面を変化させているに過ぎない。だから攻撃の規模の割には、そこまで魔力は消費していないようだ』
『じゃあ、魔力でもこっちが不利じゃん!』
『関係ねえ!相手を叩きのめす一撃を放てばいいだけだ!そうだろう、小僧?』
相変わらず重さを感じられるディオーグの声であったが、同時に大一への問いは期待が感じられた。まるでこれから行うことを見透かしているような印象を受けて、相棒の龍の雰囲気はいつも以上に大一の気を引き締めた。
『ああ、任せろ。全てをひっくるめての戦い…この勝負は必ず勝つ』
大一は激しい攻撃を避けつつ、努めて冷静さを維持する。気を張り続け、常にギガンの位置を把握し続けた。攻撃をかわしていく中で、複雑に入り組んだ地形の大まかな構造を把握することもできた。そして相手の肉体と何度かぶつかり気づいたこと…すでに彼は勝利への道筋を見つけていた。
『あとは俺にそれを実践できる力があるか…』
心のわずかな隙間に、彼の元来的な不安が生じる。仲間や家族を信じても、自分を信じきれない情けなさであった。
そんな自分に対して軽く嘆息をすると、大一は手の錨を強く握りなおす。何度も握ってきた錨は、手足同様にシャドウを使って容易に創造することができた。それを実感するほどに己の積み上げてきた経験を感じ、小さく笑う。
『何を考えているんだか…俺にも武器はある。これでやってやろうじゃないか』
ちょうど向かってくる岩の触手から身をひるがえしてかわしたところで、大一は動きを変えた。避けた岩の触手を足場に、次から次へと別の足場へと飛び乗っていく。向かう先は感知で分かるギガンが隠れているビルの柱であった。
『そこだッ!』
「無駄なことを」
ため息でもついて回りそうな声と同時に、ギガンは柱の中を移動して上階の床の中へと潜む。
「お前のように生半可な奴に負けるか。愛、信頼などと無意味なことしか言えないガキが。自分の無力を思い知れ」
そのまま別の足場の中を移動していくが、どのように動いているかを大一は捉えていた。魔力で脚部を強化すると、すぐに彼と同じ足場へと移動して追っていく。その間にも隆起して生みだされる岩の触手や壁が、周囲から進路を妨害するように迫ってくるが、ルートを変えてビルと同化した相手を追っていく。
『…次はこれでどうだ』
移動しながら影で形成した右腕を縮ませると、ギガンのいる方向へと狙いをつける。撃ち出した拳は高速でギガンの進む進行方向へと迫っていくが、相手は進路を変えて再び回避した。
「また外したな。お前ではその程度が関の山だ」
『…それでも狙うだけだ』
「ならば諦めさせてやる。これで潰して、終わりにしてやろう」
鈍い音を響かせながら大一の対面にあるビルが形を変えていく。徐々に巨大な腕を形成していき、大一を握りつぶそうと迫ってきた。
『規模は大きいが、ぼろぼろの建物を変化させただけだ。スピードも遅いし、砕いてやる』
今度は左腕を後方に伸ばしてねじり始める。拳は錨の先端のような形へと変化させ、一気に前方へと撃ち出した。ユーグリットの鎧も砕いた一撃は、自分よりも遥かに大きいビルで形成された掌を打ち砕いた。
以前、雪山で同じ攻撃方法で砕かれたギガンとしては、強い苛立ちを感じた。だがそれ以上に苛立ったのは、今もなお大一が感知をやめていないことに気づいており、動きを止めざるをえないことであった。
砕いた瓦礫が飛んでくるものの、大一はそれよりも距離を取ろうとするギガンへと向かって飛んでいく。岩の触手がまたしても進行を防ごうとするが、先ほど砕いた巨大な拳の瓦礫がうまい具合に相手の攻撃を妨害していった。
間もなく、撃ち出された砲弾のごときスピードで大一は突っ込んでいく。そしてギガンと同化している足場へと一直線に向かった。
その突進はたしかに速いが、同時にこのまま突き進めば避けられることもわかっていた。それはギガンも重々承知であったが…。
「これは…ッ!」
ギガンの潜伏する足場の先は崩れており、それ以上に前を進むことを許さなかった。そして気づいた時には時すでに遅く、大一の硬度を上げた突進が命中し、彼が同化していた足場は崩れていく。
落下していく中、上空にいる大一を睨むギガンは吐血しながら呟く。
「ぐおっ!こ、これが狙いか…!」
『そうだ。さっきお前が俺を殴りつけた時に砕いた足場だ。そこへ行くように誘導するように、攻撃を仕掛けさせてもらった』
「避けられることは想定していたわけか。よく俺の動きとこの地形を観察したものだ。しかし惜しかったな。今の突進の狙いは完全ではなかった」
大一の突進はギガンを完全に捉えてはいなかった。彼が当たった場所は、敵が隠れていた箇所よりもわずかに後ろで、足場を崩すことは出来たもののその突進はギガンに痛烈なダメージを与えることは出来なかった。
『いや狙いどおりだ!』
大一はシャドウによって脚を伸ばすと、ギガンの腰と左肩に巻き付けて、逃げられないように捕縛する。同時にまたもや腕を後ろに伸ばして、攻撃のセットアップをした。
『あの程度の突進で倒せるとは思っていない!だからこそ、お前を倒す渾身の一撃を入れる準備をしなければならなかったんだ!空中ならば同化できる岩場も無いだろう!』
「…そういうことか。下からの突進にしたのも、その勢いのまま俺の上を取るためということだな。しかしそれでもお前が勝つにはまだ足りない!俺の硬さは圧倒的だ!」
ギガンは全身を岩石化させていく。最初にダメージを与えた時と違い、その硬さは魔力から凄まじいものであることを察せられた。そして何度も戦ってきたゆえに、相手の言葉がハッタリでないことも十分に理解できた。
大一は昂る気持ちを抑えるように、小さく息を吐く。怒涛の攻撃を耐えしのぎ、相手が逃げられない状況を作りあげた。懸命に勝利への道筋を組み上げたからこそ、いよいよ最後の一手が迫ろうとしている今、その緊張感は絶大であった。
だがそこで潰れるような心は無く、経験値が支える柱として存在していた。それを証明するかのように大一は錨のようになった腕にさらに力を込める。
『正面からの打ち合いでは、そうかもしれないな。だがこの勝負は勝たせてもらう!ここで勝たなきゃ…大切な人たちに会わせる顔もないからな!』
ここでギガンと戦ってから幾度となく肉体をぶつけ合ってきた。自分が錨で殴りつけたこともあれば、ギガンから瀕死の一撃もくらった。何度も何度もぶつかりあうことで、大一はひとつの事実に気づくことができた。
以前、黒歌が与えてきたわずかな仙術の名残が相手の身体に感じられることを。そして冷静であったため、相手の胸部辺りにその名残を感じられた大一は、その一点に最大の一撃を加える盤面を整えたのだ。
後方に伸ばした腕が回転しながらギガンに突っ込んでいく。間もなく痛烈な一撃が相手の胸部に命中し、掘削するかのように耳に響くような音が鳴っていく。同時にギガンの耐えるような苦悶の声が聞こえてくる。口から血を吐きながら、大一の伸ばした腕をつかもうとする。
「舐めるなぁぁぁ!悪魔ごときがぁぁぁッ!」
『押し込む!』
大一の全力の一撃はさらに伸びていき、ギガンを捕縛していた影の脚がちぎれていき、そのまま遥か下の地面へと叩きつける。周囲のビルをわずかに揺らすほど落下に煙が上がり、彼の視線には血にまみれたギガンが大の字になって倒れている姿が映るのであった。
オリ主に覚醒?ありませんよ。
それにしても、だいぶ20巻も終わりに近づいてきましたね