D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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今回から21巻分の始まりです。


自由登校のルシファー
第195話 終焉の始まり


 『私は海から一匹の獣が上がってくるのを見たのだ。獣には、七つの頭と十の角があり、その角には十の冠があった。そしてその頭上には、神を穢す名があった。その獣は、豹に似ていた。熊の足を持ち、口は獅子のようであった。龍は獣に、自分の力、座、そして大いなる権威を与えたのだ。頭のうちの一つは致命的な一撃を受けたが、その傷はすぐに癒えてしまう。地に住むすべての者は驚き、その獣と、獣に権威を与えた龍に従うしかなかった。誰がこの獣に匹敵するのか。誰がこの獣と戦うことができようというのだ』

 

 黙示録に記されていた文言…その通りの姿と実力を持った怪物がこの世に甦った。発端は5日前、リゼヴィムは死んだ際に自身の魂をエネルギーとして強制的にトライヘキサを復活させるようにしていた。

 同時に、ユーグリットのデータから生み出された自立式の赤龍帝の鎧も動き出した。偽物のため能力こそ不完全ながらも、その物量は千近くあった。しかも独自にこの構成を解析しており、数が減ってくるとトライヘキサが卵から生み出すまでしてくる。

 不完全ながらも復活したトライヘキサといくらでも湧く偽赤龍帝軍団は、アポプスとアジ・ダハーカが奪い、コントロール下に置いた。去り際に彼らがアザゼル達に挑戦を叩きつけてきた。邪龍と天龍の頂上決戦、ドラゴンはどこまでも純粋に力を振るうことを目的としていた。

 すでにグリゴリの主要施設、天界の第一天から第六天を破壊して、多くの被害者を出している。堕天使側の幹部や天使側の四大セラフですら、重傷を負っている。アジ・ダハーカの仕業なのか、一定以上の破壊を終えると彼らは別地点へと転移することを繰り返していた。

 偽赤龍帝と邪龍の軍団、すべてを破壊するトライヘキサ、そして彼らを操るアポプスとアジ・ダハーカ…この世を終わらせるような戦力が敵にはあった。

 現在、その大軍勢は北欧に進行していた。北欧も天界のようにいくつかの層になっているが、この日に最上層であるアースガルズにその姿を現していた。勇者とヴァルキリーの大部隊と「D×D」が前線に立って、彼らと相対して侵攻をくい止めている状況だ。

 冥界の首脳陣は、首都リリスの魔王城にてその様子を映像に映しながら、対応を協議していた。天使側も来られたらよかったのだが、あいにく天界の復興に尽力している状況であり、堕天使側もアザゼルとバラキエルのみであった。

 アザゼルは小さくため息をつく。すでにハーデスの動きに警戒を見せるなど、手は打っているが十分とは思えなかった。

 

(…現役を引退したのがちょいと早かったな)

 

 この5日間で多くの命を失った。大切な教え子たちに無理をさせてきた。感じられる責任感は、飄々とした仮面の下でとてつもなく膨れ上がっていたのは否定できない。

 思案と対応にふける中、状況の大きな変化はいきなり起こった。北欧の戦いに、インド神話の増援が現れて、徐々にではあるが相手の軍勢を押し込んでいく中、トライヘキサ達がその姿を消したのだ。すぐに首脳部の方で転移した場所を探るものの、どこにも確認されない。気配も消えてしまったのだ。

 

『うおおおおおおおっ!!!』

 

 映像の中で、戦士たちが勝利の咆哮を上げる。5日目にしてようやく敵を退けることが出来たのだ。

 

「どうやら、北欧は守れたようだな」

 

 疲れた表情のサーゼクスが席に着く。用事を済ませて、ようやく協議の場へと来ることができたのだ。

 

「ま、奴さんどもが、どういう了見か知らないが…とりあえず、この場での戦闘は防衛成功ってことでいいだろうさ」

「そうよね☆」

 

 アザゼルの言葉に、セラフォルーも嬉しそうに同意する。しかしこれが一時的なものであることは、その場にいる全員が感じていた。そしてその原因について、現四大魔王のファルビウム・アスモデウスが気難しい表情で切りこむ。

 

「…聖杯かな?」

 

 この言葉には、アザゼルも同様の考えを抱いていた。聖杯になんらかの異常があったのか、一時的に限界を迎えたのか、敵にとっては中核にあるもののため、慎重に扱っていくことだろう。

 いずれにせよ、ここで得たインターバルは貴重である。それにあたり、まずはサーゼクスとセラフォルーが立ち上がり、冥界の民衆に語りかけることになった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 建物内にある放送スタジオで、緊急の放送が始まる。全チャンネルを使って、冥界全土にその映像は流されていた。

 

『冥界の皆さん。現在、冥界全土、堕天使領を含め、この悪魔の世界に未曽有の危機が襲っております』

 

 サーゼクスは事件の経緯について、落ち着いた様子で話していく。同時に流れているトライヘキサとの戦いの映像は凄惨そのものであったが、それを理解しつつ落ち着かせるような声で説明を続ける。

 

『この映像のように私たち悪魔だけが戦っているのではありません。同盟関係にある堕天使、天使の方々、さらには他の神話勢力からも続々と心強い味方が駆けつけてくれています。トライヘキサと邪龍たちの戦力は膨大です。1度退けることができましたが、すぐに姿を現し、破壊を再開させることでしょう。これは数か月前の「魔獣騒動」の規模を超える戦いとなります。しかしながら皆さん。ご心配なく、心を強く持っていただきたい。我々には希望の星がある』

 

 そう言って切り替わった映像には、一誠やリアス、サイラオーグやデュリオと若き強者たちが映し出された。

 

『テロ対策チーム「D×D」をはじめ、我が悪魔世界が誇る勇猛な戦士たちもこの冥界とそこに住む国民の方々を守るため、各勢力の世界をも守るため、命を賭して戦いに応じるでしょう』

『そうよ!皆!私も前線に立っちゃうんだから、心配しないでね!』

『必ずこの冥界とそこに住む皆さんを守ります。この私の命を懸けてでも、必ずあなた方を守って見せる』

 

 数十分、サーゼクスとセラフォルーはレーティングゲームの不正にも言及しつつ、放送を終えると、スタジオにいたアザゼルと合流する。3人とも表情は落ち着いていたが、その雰囲気はどこか覚悟が感じられた。

 

「こういうときでも相変わらずだな、セラフォルー」

「こういうときだからこそよ。さて私も前に出ないとね」

「キミとキミの眷属にはいつも迷惑をかけるな」

「もう、そんなつれないこと言わないで。ながーく、一緒にやってきた仲じゃない?それにこういうときに動いてこそ、『私も魔王だ』って心の底から自覚できるわ」

 

 相変わらずの横チョキというポーズでセラフォルーは答える。それでも彼女の並々ならぬ覚悟はアザゼルもサーゼクスも理解していた。今回の戦いには堕天使からも幹部クラスが動き、天使たちもセラフ級が挑む。この共同戦線は少しまでは考えられないが、今は現実になろうとしていた。

 

「サーゼクスちゃんはどうするの?」

「出るさ。私にも『魔王』をやらせてくれ。…その前に雑事はあるがね」

「そっか。じゃあ、私は先に行くわね!」

 

 友の言葉を確認したセラフォルーはこの場をあとにした。残されたサーゼクスはアザゼルに小声で問う。

 

「例の計画、いつでも実践できるのだろうか?」

「ああ、他の主神からも承諾は得ている。あとは、お前達の決断だけだ。ま、お前達が無理だといっても、いざとなったら、俺たちだけでやってやればいい」

「ここまできたら一蓮托生だろう?」

 

 彼らの話す計画がどれほど特別なもので厳しいものであるかは、互いに理解していた。それでも最悪の結果を免れるのであれば、世界を救うために繋がるのであれば…今度こそは相手に勝つ、その心意気が彼らを包んでいた。

 

────────────────────────────────────────────

 

 大一は冥界のはずれにある建物に赴いていた。そこは石造りで、見るからに堅牢さが売りであることを示している。規模もかなり大きく、周囲が自然に包まれている中で異常に目立っていた。

 建物内を歩きながら、小さく息を吐く。北欧での防衛戦を終えてから、すぐにここへと赴いたため、顔にも疲労の色が見られた。右腕も義手がつけられておらず、足取りも重そうに動かしていた。

 

(邪龍に偽赤龍帝軍団、遠巻きに見えたトライヘキサ…とんでもない相手だったな)

(俺は戦い足りない)

『信じられねえくらい自信にあふれた言葉だね…』

 

 シャドウがげんなりした様子で反応する。「D×D」が北欧へと到着したのは3日前。そこから敵が撤退するまで、最低限の休みのみで戦っていたため、彼らの疲労は想像を絶するものであったのは否定できない。

 もっとも大一自身は他のメンバーよりも半日遅い参戦であった。その理由は、これから会いに行く男が原因であった。

 間もなく彼はひとつの扉を開ける。狭い部屋であり、ベオウルフと数人の悪魔がそこにいた。

 

「お疲れ様です、ベオウルフさん」

「あれ、大一くん?戻っていたの?だったら、みんなと一緒に休んでいた方が…」

「用事が済んだら戻ります。まだ家族にも会えていないので」

 

 正直なところ、ベオウルフの指摘する通り、仲間達の下に戻って休みたいというのが本音であった。アグレアスで一誠達と別れてから、大一は彼らと合流していなかった。オーフィスによって強力な力を覚醒したこと、それによって現在は昏睡状態でいること、両親に悪魔であることが露見したこと、腰を据えて話をしたいことなどいくらでもあった。

 だが、それよりも彼は優先するべきと感じたことがあった。

 

「まだ何も言いませんか?」

 

 何もないことを示すかのように肩をすくめるベオウルフは、部屋に複数個あるモニターの一つに目を向ける。そこにはギガンが四肢に鎖を巻きつけられて、座り込んでいる姿が見えた。

 そこは冥界の中でも古い監獄であった。古いものの旧魔王派の特殊な魔法陣や動きを封じる術式が組み込まれており、今回のような特殊な相手を幽閉するにはうってつけの場所である。また大一が北欧での戦いに遅れたのも、彼の連行に付き添っていたことが理由であった。

 

「ここ数日、何度か問い詰めてはいるけど、一向に無言すね。まあ、別に拷問とかしているわけじゃないからな」

「…傷が治っていますね」

 

 大一は目を細めて呟く。戦った際に胸部にあったはずのクレーターのような跡はすっかり消えており、盛り上がった筋肉がそこにあった。

 

「気がついたら治っていたんだよ。しかも飯もここに来てから最低限しか食べていない。まるで全部のやる気がそがれたような雰囲気なんすよ。にもかかわらず、この回復力だからねえ」

「とんでもない生命力ですね…」

「まあ、そういう意味じゃゴグマゴグに改造された悪魔なんて考えに納得しちゃうけどね。それでここに来たのは、やっぱり彼から『異界の魔力』関連のことを訊くため?」

「そうですね。というのも、さっきまでの北欧の戦いで彼らの仲間と思われる奴らが現れなかったんです」

 

 先ほどの北欧の戦いで大一がより疲労を感じたのは、「異界の魔力」を持つ相手からの不意打ちも危惧して、気を張っていたからもあった。アザゼルの話では、サザージュがリゼヴィムを裏切り、邪龍と手を組むと宣言してきた。リアス達がバーナを倒したものの、敵の中で「異界の魔力」を持つメンバーは他にもいる。それを踏まえれば、あれほどの混乱の中で仕掛けてきてもおかしくはないと思っていた。

 しかし現実はそのような気配も無く、大一は仲間達と共に邪龍や偽赤龍帝軍団と戦った。そこで彼らが計画を練っているのではないかと勘繰り、唯一の情報源となりえるギガンに問うことを考えた。

 大一がこの疑問を打ち明けると、ベオウルフは考えるようにあごを撫でる。

 

「ふーむ、たしかに疑問としては引っかかるけど、知っていても口を開くとは思えないすね。ここ数日のあいつの様子を見ていれば尚更ね」

「そうですか…」

「まあ、ここには常に人を残すよ。サーゼクス様だって、こいつは貴重な情報源だと思っているだろうからね」

 

 ベオウルフが答えるとほぼ同時に彼らの下に連絡用魔法陣が現れる。差出人は話にも出てきたサーゼクスであり、文字だけの簡素なものであった。それを確認した瞬間、2人は不思議そうに顔を見合わせるのであった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 雨が降り注ぐその日、いつもの古びた屋敷にて、サザージュはソファに座り、静かにお茶を飲んでいた。彼の視界にはいつものように仲間達が映っていた。無角は微動だにせず壁に寄りかかり、ブルードは明らかに動いていない目で開かれた本を見ている。モックはすっかりうなだれており、わずかに見える顔は何年も悲惨に生きていたような打ちひしがれたものであった。

 サザージュはカップに残る液体を完全に飲み干すと、ふっと息を漏らして良く通る声で話し始めた。

 

「さて5日前に例の結界の試作品については、上手くいった。アザゼル、ヴァ―リ、ファーブニルの攻撃を防ぎ切ったんだからな。となれば、次はトライヘキサに合わせるところと更に大規模なものだ。この数日で調整も済んでいる。無角、最後の協力を頼むぞ」

「任せろ」

「すまないな、キミは特異とはいえ最後まで付き合わせて。2人はどうする?」

 

 無角が小さく頷いたのを確認すると、今度はブルードとモックへと視線を向ける。サザージュの静かな問いかけにモックは顔を上げ、ギラギラとした戦意と凶悪な殺意を双眸に宿らせていた。

 

「グレモリー眷属は僕が殺す…!姉さんの仇は…この手で討ってやる…!」

「…私も付きあおう。終わる前に旧友に会えるかもしれないからね」

 

 力強く立ち上がるモックに、対照的に滑らかな挙動でブルードも立ち上がる。彼らには相変わらずの頼もしさを感じる一方で、自分の野望に巻き込んでしまった申し訳なさも抱いてしまった。

 しかし後戻りをするつもりは毛頭なかった。同志であるバーナは死に、ギガンは捕まった。邪龍は破壊を気ままに行い、上に立つ者に足りえないと感じる。その現状は彼の心に揺らめく炎を、さらに燃え上がらせていた。

 

「では、それぞれ動こうか。幸運を祈る」

 




かなり構成で迷いそうです…。
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