D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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20巻分で出来なかった両親との再会です。


第196話 信頼も覚悟も

 首都リリスにあるセラフォルー記念病院に、大一は赴いていた。そこには一誠が入院しており、家族や仲間達が集まっていたのを知っていたからだ。

 これから大切な人達に会いに行くというのに、彼の気持ちは穏やかでなかった。無意識に足は早まり、呼吸も荒くなっていく。

 

『僕はあれで良かったと思うよ。むしろまだ仕事を残すのかとも思ったけどね』

(シャドウ…俺は…)

『しっかりしなよ。想いを無下にするべきじゃないぜ』

(わかっている。覚悟だって決めたんだ。それでも…あー…くそっ!)

『落ち着きなって。これから仲間や家族に会うんだからさ』

 

 がしがしと頭を掻く大一は、出来るだけ冷静を装いながら歩を進める。シャドウの指摘が正しいことであるのは理解しているが、それを認めるのは並大抵でない勇気が必要に思えた。

 こんな時にディオーグはまるで口出しをしない。もっとも彼から紡がれる言葉が、大一に対して慰めや鼓舞である期待は皆無なのだが。

 どんどん歩を進めていく大一は、やがて一誠がいる集中治療室に入り仲間達のもとへとたどり着いた。彼の姿を確認するなり、朱乃が安堵した表情で駆け寄ってくる。

 

「大一、来てくれてよかった。用事はもう大丈夫なの?」

「俺は問題ないよ。それにしてもあいつはまだ目覚めないのか」

 

 大一はベッドに横たわる一誠へと目を向ける。話を聞いたところ、オーフィスの力を借りて至った龍神化の影響で、彼は昏睡状態であった。アグレアスから脱出した辺りは、完全に意識も無く、生命の危機が常に隣り合わせであった。

 そんな彼の命を繋いだのは、病院に運び込まれてから半日した頃に入ったアザゼルの連絡であった。内容は母乳とフェニックスの涙を混ぜた液体の中に入れる、というもので傍から聞けばバカバカしいことこの上なかった。実際、大一も伝聞で知った時はアザゼルに対して大きくため息をついたものであった。もっとも同時に一誠の身体も回復し始めたことを知り、情けなく頭をうなだれてしまうことになったのだが。

 しかし身体は回復しても目が覚める様子は見られなかった。今も彼はベッドに横たわっている。そして彼のベッドの横には…。

 

「大一…」

「…父さん、母さん」

 

 両親の姿を見た瞬間、大一は無意識に唾を飲み込んだ。それでも息を整えて、彼は両親へと話そうとするが、口を開く前に母が大一を抱きしめた。

 

「ごめんね…また背負わせていたことに気づけなくて…」

 

 ボロボロと涙を流しながら、母は大一に謝る。リアス達から謝罪の意も込めて、大一も悪魔であることを両親は聞いていた。3年前に苦しみの中から、必死に悪魔としての人生を歩み続けてきたこと、そして一誠が悪魔になってからも彼を支えるために戦い続けていたことを…。

 父もどこか力の無くした表情で大一に話す。

 

「リアスさん達から聞いたよ。その腕もイッセーを助けるために…」

 

 親としてはいつも兄として振舞っていた彼に対して、自分たちの知らないところでも弟を助けてくれていたことを知ると、胸が苦しくなる想いであった。片腕を失ったのも、それが原因であると聞いて、長男への熱い想いがとめどなく溢れていく。

 母親の背中を撫でながら、大一は父にも顔を向けた。

 

「俺が勝手にやったことだし、一誠はひとりだけでも頑張っていたんだ。俺はあいつをほんの少し手伝っただけだし、俺だって助けられたしな。だから、なんというか…謝らないでくれよ。こんな俺らを子どもとして信じてくれる、それがとても嬉しいんだからさ」

 

 いまいち言葉がまとまらない。両親を慰めることに比重を置いたような言い方だ。しかし大一にとっては、心からの本音であった。両親からの愛情を間違いなく感じたからこそ、謝られるよりも彼らに安心して欲しかったし、自分も感謝を伝えたかった。これほど道を外れて生きてきた自分を愛してくれる両親だからこそだ。そしてこの本音を両親は理解してくれたと、心のどこかで感じていた。

 あふれそうになる想いを抑えるように呼吸を整えると、大一はベッドで横になる一誠を見る。

 

「まったく、さっさと目を覚まして安心させてほしいものだ」

「いえ、実は1時間前に目は覚ましたんですけれど…その…大変なことになって…」

 

 非常に深刻かつ、言いづらそうに朱乃は反応する。その様子に嫌な汗が流れるのを感じるが、覚悟を決めて彼女の次の言葉を待った。

 

「『おっぱい』が認識できなくなっていたの」

「(『は?』)」

 

 頭の中でいくつか考えていた可能性とはまるでかすりもしない、そんな意外な方向の深刻さに大一どころか、彼の頭の中でもディオーグとシャドウが間抜けな声を上げる。

 彼女の話では、目を覚ました一誠は女性の胸がモザイクのかかったように見えて、「おっぱい」という単語も思い出せずに言うことができなかった。それどころか、思い出そうとするだけ体が張り裂けそうに痛みを感じるようだ。もっともこの状態は性的興奮を感じる胸が限定なのか、母や小猫の胸は普通に見えるようであった。

 いつの間にか、彼の横にいた小猫は目を細める。

 

「…別にエッチな目で見て欲しいわけではありませんが、納得できません」

「大丈夫、お前は魅力的だよ。それでつけっぱなしのテレビから『おっぱいドラゴンの歌』が流れて、また気絶したと…意味わからんな」

「アザゼル先生の話だと、龍神化の反動で糧としていたものが、猛毒になったのだとか…」

「ますますよくわからん」

 

 扉近くで大一は小さく頭を掻く。おそらく本人にとっては、アイデンティティを揺るがすほどの深刻なことではあるのだが、これまでの経緯を知る兄としては納得を示したくは無かった。

 感動と間抜けさ、安堵と情けなさと山の天気のように移り変わる感情に、大一は戸惑いを感じていた。

 

────────────────────────────────────────────

 

 大一が到着してから約1時間後に、一誠は再び目覚めた。アーシアの回復を受けて、フェニックスの涙も飲んだ彼はベッドから上半身だけ起こしてアザゼルの話を聞いていた。

 

「───と、まあ、そんなことなんでな。龍神の力は、もう2度と使うな」

 

 忠告するようにアザゼルはくぎを刺す。そもそも禁手自体、本来はあり得ない現象であった。それが多方面で頻出して、その中でも二天龍である一誠とヴァ―リは独自の進化を遂げている。何段階もすっ飛ばして進化していく、そんな彼の体に負荷がかかるのは当然の結果であった。

 アザゼルは兵藤家へと頭を深々と下げる。

 

「…イッセーが…息子さんが、こんな体になったのは、俺のせいだ。こいつの能力が、成長が、何よりも興味深くて、誇らしくて、短い時間の中で無茶な注文をしすぎてしまった。大一のことも、頼れる相手としてずっと振り回してきて…2人ともそれぞれ応えて、困難を乗り越えてくれたが、子どもが背負うにはあまりにも大きかった。俺の───過失だ」

 

 いつもの飄々とした雰囲気は鳴りを潜めて、どこまでも真摯に謝るアザゼルの姿に、一誠は慌てる。

 

「ちょ、ちょっと、先生!止めてくださいよ!俺は全然気にしてませんって!先生のおかげで俺は強くなれたんですから!」

「だがな、イッセー。お前の大好きなものまで俺は奪ってしまったんだぞ」

「だから、それは仕方ないんですって。…あれが俺のダメージになるのは、すごい残念ですけど…そのおかげで皆、死なずに済んでます。先生の指導があったから、俺は皆を救えるだけの力を得たんです。誰かを失うぐらいなら、俺は───自分の腕や足の一本ぐらい失った方がいい」

 

 これを受けて、両親も一誠に続くように言葉を紡ぐ。どこまでも実直な声に感じられた。

 

「先生、頭を上げてください。私の息子が、こんな立派なことを言えるようになった。これだけで私は十分です。先生は息子たちを男として育ててくれたんですね。父親として、これ以上の感慨はない」

「母親としては、これ以上の無茶も、これまでの無理も容認したくないけれど…私の子ども達は、誰かを救ってきたんですよね?それなら、親として誇らしく思います。なにより、そうなるように教えてくださったアザゼル先生には感謝の念が絶えません」

 

 我ながら強い親だと、大一は実感した。そのような信頼感を目の当たりにするほど、彼らが龍となった一誠を目の当たりにし、アーシアが悪魔であると知っても信じ切ったことに説得力が生まれている気がした。

 大一は何も言わなかった。アザゼルは馬の合わない相手ではあるが、信頼においては一誠達にも勝るとも劣らないところであった。同時に彼の…彼らの今後を思うと、どのような言葉を発せばいいのかわからなかった。

 間もなく、アザゼルは頭を上げる。その表情は覚悟に満ちており、大一は数時間前にも同じような顔を見ていた。

 

「あなた方の息子さんたちは、冥界の財産です。だからこそ、俺は今のイッセーにはこれ以上の無茶をさせたくないと思っています。

 あとは俺たちに任せろ。俺も…俺たちトップも今回は前線に出るつもりだ。だから、お前はここで寝ているんだ。…と言っても、飛び出すかもしれないが…これだけは約束してくれ。龍神の力は、二度と使うな」

 

 アザゼルの言葉に、一誠は頷く。堕天使元総督の言葉を、本当の意味で理解していた大一はこの場に来る前のことを思い起こして仕方なかった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 病院に行く前、呼び出しを受けた大一は監獄で一緒にいたベオウルフと共に、ある城に赴いていた。数か月前に彼がルシファー眷属として認められた場所、彼らにとっての拠点のひとつであった。

 部屋に入ると、すでにそこにはサーゼクスと他のルシファー眷属が集結していた。世界の危機に、この緊急招集は嫌でも緊張感を高められた。

 全員が集結したことを確認したサーゼクスは穏やかな笑顔で眷属たちを見渡す。

 

「忙しい時に集まってくれて、ありがとう。どうしてもキミらに伝えることがあってね」

 

 主の落ち着いた言葉に、大一は小さく唾をのむ。この緊張あふれる空気、それに対して穏やかなサーゼクス、それを踏まえると嵐の前の静けさのように思えるのだ。

 

「トライヘキサを止めるには、その核を文字通り完全に消し去るしかない。いやそれでも再生する可能性がある。完全に倒すにしても、封印術を開発するにしても膨大な時間がかかるのは間違いない。そこでこれを使う」

 

 サーゼクスが指を鳴らすと魔法陣が現れて、そこから立体映像が映し出された。なにかの結界であり、その周囲には理論が展開されていた。

 

「アザゼルが開発した『隔離結界領域』に閉じ込める。強固なものだが、内側から攻撃され続けられれば、いずれ破壊されるだろう。そこで各勢力のトップクラスも入り込み、トライヘキサを完全に倒しきるまで戦い続けるものだ」

 

 この言葉に驚かない人物はいるのだろうか。要するに、自分たちの身を呈してトライヘキサを抑え込み、この世界に平和をもたらすということだ。もちろん、トライヘキサを無力化すれば、結界から戻ってこられるだろう。しかしそれがいつになるかはわからない。悠久の時の中で、トライヘキサと戦い続けなければならないのだ。

 

「もちろん、各勢力の今後も考えて残るメンバーも決められている。我々の方ではアジュカだ。彼なら冥界をより良く導いてくれるだろう。しかし私を含めて、他の3人は向かうことになる。魔王最後の仕事だ」

 

 そこで言葉を切ると、サーゼクスは大きく息を吐く。その穏やかな雰囲気の中に、とてつもない責任感を隠しているのがよく分かった。

 そして優しくも強い瞳で、眷属たちに問いかける。

 

「最後までつき合って欲しい」

 

 その言葉に全員が膝をついて、同意を示す。主の覚悟と信頼をよく知る眷属たちに、拒否するという選択は持っていなかった。

 公式的な眷属でない大一ですら、そのような態度を取っていた。内心、感情が激流のように渦巻き、穏やかとは程遠い感覚であった。仲間とも家族とも愛する人とも別れて、戦いの世界に身を投じる。いきなりそのような可能性を見せられたのだから、感情が混乱するのも当然であった。むしろ彼が他の眷属たちと同じように、跪いているのが異常なことであった。しかしこれが多くの人たちを救うことになるのであれば…。彼が願ったように冥界で悲しむ人が減るのであれば…。その願いを叶えるためであれば、これもひとつの道であることは確かであった。

 眷属たちの姿を見たサーゼクスは静かに頷く。

 

「…ありがとう。私はいい眷属を持ったな。しかし大一くん、キミは残って欲しい」

 

 その言葉に、大一は身体をびくりと震わせて頭を上げる。

 

「サーゼクス様、私もルシファー眷属です。皆さまが戦うのに、私だけ覚悟を見せないなど言語道断です。愛する人たちを守るために、私も戦います」

「真面目だね。しかし覚悟は見せてもらった。ここにいるメンバーは、キミが生まれる前から付き合いのあるメンバーばかりだ。その長い年月で築き上げた信頼関係がある。そして今…キミは同等の信頼を示してくれた。それが私にとって、とても嬉しいことなんだよ。それに未来ある若芽をここで終わらせることなど、私には出来ない」

「し、しかし───」

 

 言葉が続けないほど舌が重い。目からは涙がこぼれそうになる。胸に熱いものがこみあげてくる。自分が情けなかった。共に戦えないこと、そして一瞬でも安心してしまったことに、彼は唇を強く噛んでいた。

 そんな彼の背中を横にいた炎駒が優しくなでる。その気づかいが心に鋭く刺さるような錯覚を抱かせるのであった。師や先輩たちの本当の覚悟への敬意に、いよいよ涙を堪えきれなくなった。

 

「ハッハッハ、そんなふうに尊敬されるのも悪い気はしねえな!」

「珍しくセカンドに同意させてもらいますよ。ねえ、ベオ?」

「いやー、俺も照れるというか…いい後輩もったなって思うすよ」

「…俺も安心」

「バハムートのそういう表情、初めて見ましたね。大一くん、祐斗のことを見守ってあげていてください」

「弟子を思う気持ちは一緒ですな、総司殿。サーゼクス様、寛大な処置に感謝します」

「もともと、大一くんは残すつもりだったよ。そうだろう、グレイフィア?」

「ええ、そうです。もしあなたが彼を巻き込もうというものなら、それこそ抗議していましたよ」

 

 自分の想いを口々にするルシファー眷属たちに悲壮感は感じられなかった。強い決意と使命感、魔王の眷属としての誇り高さが、彼らの中に宿っているのを大一は目の当たりにしたのだ。

 

────────────────────────────────────────────

 

 30分ほど眷属たちは作戦の説明を受けた後、大一はサーゼクスによって残されていた。2人きりという奇妙な空気の中、主は冥界の不思議な空の下に映る景色を窓越しに見ながらつぶやいた。

 

「謝らなければならないな。ルシファー眷属として、公表できないまま終わりそうだ」

「そんなことは気にしません。短い間ですが、あなたの眷属になれて私は幸せでした」

「そう言ってくれると、悪魔冥利に尽きる。秘蔵のひとつをキミに使ったのは、正解だったと実感するよ」

 

 サーゼクスは大一に向き直る。わずかに彼の頬には涙の跡があったが、その顔にはもう迷いが見られなかった。かつてリアスが彼を眷属にした理由や、炎駒が褒めていたことが、その表情だけで理解できた。

 

「いずれにしても、キミが残る理由については若いだけだからじゃない。先ほどの作戦の説明でもあったように、キミにしかできないことがあるからね」

「わかっています。それについては必ず遂行して、サーゼクス様たちの道を切り開きましょう」

「期待している。さて、話は変わるがキミと2人だけになったのは理由がある。ここからは私情にもなるが、聞いてほしい。私の…サーゼクス・グレモリーとしてのワガママだ」

 

 その言葉に、大一は眉をピクリと動かす。主が何を思っているのかは図りかねる。しかし最後まで自分のやり方で付き合うと決めた大一は、落ち着いたことで答えた。

 

「なんなりと」

 




原作だと終盤に明かされたこの作戦。明かされたことでオリ主が行うことは…。
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