D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

2 / 221
 どうしても立場上、この序盤は主人公が曇る状況になっています。


第2話 瀕死の弟

 ここ最近、一誠はさっぱり腑に落ちない毎日を送っていた。少し前までは初めてできた彼女に浮かれていたのだが、その彼女にデート中、殺されるという夢を見てから彼の生活は一変した。

 まずすっかり夜型の生活になってしまった。それも昼夜逆転しただけという単純なものではなく、夜になると不思議なことに力が湧いてくるのだ。体力は上がり、フルマラソンでも問題なくできそうな実感すら湧いてくる。

 これに併せて、朝はかなり辛いものになっていた。朝の時間、そのものが一誠にとって厳しく、言葉にもできない気怠さが襲ってきた。

 この体の変化だけでもおかしいのに、これ以上に不思議なことが彼の周りに起こっていた。それは天野夕麻の存在を誰も覚えていないことであった。大親友である松田と元浜には写真を見せたし、兄である大一とは一緒にデートプランまで考えたほどだ。少なくともこの3人には間違いなく話したのに、全員が名前すら聞いたことないというではないか。不審に思ったが自分の携帯電話にはメールアドレスも写真も初めから無かったかのように消えており、一度は一誠も夢だったのかと疑いすらした。しかし何日かは彼女ができたことで浮かれていたのだ。そんな数日分を一度の夢で見るわけがないし、彼自身も他の連中に話したと確信しているのだ。

 それなのに現実はそれを否定してくることばかり。心身ともに気怠い感覚に襲われながら、一誠は今日も一日を過ごしていくのであった。

 

────────────────────────――――――――――――――――――

 

 ここ最近、大一はさっぱり腑に落ちない毎日を送っていた。毎朝、母に無理やり起こされる一誠を見て尚更そんな感情が湧きおこる。毎晩、弟が夜中まで起きているのは大一も知っており、外に出て走っている姿も見ていた。3年前の中学時代、自分も同じことをやっていたのを思い出す。もっとも自分が悪魔になった時と、今の弟の境遇はだいぶ異なるのだが。

 また天野夕麻について知らない、と嘘をつき続けるのも大一としてはやきもきしていた。これまでも家族には自分が悪魔になったことは特別な力で隠していたが、知っていることについて嘘をつくのはどうも気分が良くなかった。弟の死因について自分がよく知っているとすれば尚更だ。

 

「弟くんの調子はどう?」

 

 ある日の夜、大一はリアスと街を歩いていた。悪魔の敵対勢力である堕天使が町に入ってきたという情報があり、対象を探すためであったが、リアスとしては大一と話すために意図的にペアになっていた。

 

「ここ数日は目に見えて困惑している様子がありましたよ。さっさと話せばいいのにと思いますけどね」

「自分が変わったことを自覚させるために時間は必要でしょ」

 

 リアスの発言に、大一は押し黙る。この点については賛成できなかった。人間から悪魔になる経験をした身としては、あの変化は気味の悪いことこの上なかった。何かしらの説明は必要だったのではないだろうか。

しかし同時に変化に気づかないまま、事実を直面化させるのも心苦しいものがある。彼女の言うように、今までの自分とは違うことを気づいたうえで知るべきことではあるのだ。死んだ、という事実に。

 

「大一、わかっていると思うけど…」

「あなたが悪いわけじゃない。あいつに神器(セイクリッド・ギア)があるなら、遅かれ早かれ堕天使に狙われていたでしょうよ。もっともあいつを殺してしまったのは俺の責任でもありますが」

「やっぱりわかっていないじゃない。これはあなたじゃなくて私の責任。だから彼を悪魔にして生き長らえさせたの」

 

 珍しく自信ではなく、自嘲がこもったような声色で彼女は話す。大一としては、そんな彼女に怒りなど湧かなかった。一誠が堕天使に殺されたと知った時に、大一はただ呆然とした。どこか受け入れがたく、同時にその可能性は常々考えていた。自分が悪魔になってから家族の誰かに危険が降りかかることを。しかし自分にとって都合のよい言葉で、情けないながらも目をつぶっていた。巻き込まれない、悪魔になったのは自分だからなのだと。

 その想いがすっかり先行している彼は、罪悪感こそ湧けど自分の主に怒りなどは抱かなかった。もっとも彼が悪魔になったこと、弟が狙われたことは関係ないのだが。

 モヤモヤとした気持ちで歩いていると、大一の体にわずかに電流のような痺れる感覚が走った気がした。悪魔になってから、何度も経験した特有の感覚だ。

 

「…リアスさん」

「部活中は部長でしょ」

「いるな…堕天使の感覚。しかも悪魔の近くで一人となれば…!」

「今、私も感知したわ。いくわよ」

 

 2人は背中から黒い悪魔の翼を出すと、目的地へ一目散に飛んでいった。

 

────────────────────────――――――――――――――――――

 

 一誠は苦しんでいた。ただ親友の家でエロDVDの鑑賞会をして帰路についていただけなのに、いきなり出会ったスーツ姿の男に光の槍で攻撃されるなど誰が思うだろうか。まさか自分の人生で2度も命を狙われるとは思いもしなかったし、その理由も皆目見当がつかなかった。

 苦しさと恐ろしさが入り混じる。目の前の男は殺そうと迫ってくる。死ぬ覚悟なんて決められるわけがなかった。だからこそ彼の頭にはあの時の紅が浮かんだ。本当にいたかわからない彼女に殺された夢の時、わずかに見えた、それでいながらはっきりと頭に残った紅の髪…

 

「その子に触れないでちょうだい」

 

 風切り音と共に男の手から血が流れる。一誠の横を通り過ぎた女性は、彼が夢で見たその人であった。

 

「…紅の髪…グレモリー家の者か…」

「リアス・グレモリーよ。ごきげんよう、堕ちた天使さん。この子にちょっかいを出すなら、容赦しないわ」

「そもそもすでに手を出しているんだ。すぐにでもそっちを倒して拘束しても、こっちは構わないが」

 

 聞き覚えのある声に、一誠はさらに視線を上げる。スーツの男の後ろで同じくらいの身長の男が傘のような物を向けている。わずかに見えたその顔は、毎日顔を会わせている兄であった。

 

「…ふふっ。これはこれは。その者はそちらの眷属かこの町もそちらの縄張りというわけだな。まあいい。今日のことは詫びよう。だが、下僕は放し飼いにしないことだ。私のような者が散歩がてらに狩ってしまうかもしれんぞ?」

「ご忠告痛み入るわ。この町は私の管轄なの。私の邪魔をしたら、そのときは容赦なくやらせてもらうわ」

「その台詞、そっくりそちらへ返そう、グレモリー家の次期当主よ。我が名はドーナシーク。再び見えないことを願う」

 

 スーツの男は背中から黒い翼を出すと飛んでいった。危険が去ったと安堵した時、一誠は膝をつきそのまま意識が途切れていった。

 

────────────────────────――――――――――――――――――

 

「おい、一誠!」

 

 大一は近づいて呼びかけるが、一誠は目を閉じて気絶していた。軽く頬を叩くも反応は無く、その姿はダメージの大きさを物語っていた。

 倒れた一誠をリアスも覗き込む。彼女の視線は腹部の傷に向かっていた。

 

「これは少しばかり危険な傷ね。仕方ないわ。大一、家に運びましょう。治癒は私がやるわ」

「…助かりますか?」

「しっかり魔力を流し込めば大丈夫よ。一晩、添い寝する必要はあるけど」

「あー…わかりました。それじゃお願いします」

 

 大一は気絶した一誠を背負うと、自分の家に向かって歩き出す。幸い、ここからだとそこまで遠くはなかった。

 むしろ大一は罪悪感が再び溢れてきた。弟が再び命の危険にさらされる前に何かできたと思うと胸が押しつぶされそうな気持ちだ。せめて自分が魔力を流し込むことができれば…しかし絵面的なことを考えると、できたとしてもリアスに頼むだろう。ただ明日の朝はできるだけ家を早く出る、大一はそのことを固く胸に誓った。

 




 巻きで行こうと思うのと同時に、そこまで展開をしっかりと決めていないというジレンマ…。
 次回あたりに、主人公の力については出したいところです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。