にしても、そろそろシリアス以外も書きたい…。
「…んがッ!」
間抜けな声を出しながら、大一は目を覚ます。無角を倒した彼は龍魔状態を解除して、そのまま倒れこみ気を失っていたようであった。
頭を押さえながら、ゆっくりと立ち上がる。全身がきしむように痛み、とてつもない疲労感が襲ってくる。急激な肉体変化の負担は想像以上のものであった。
「体力が上がってこれとは…多用できるのはまだ先になるか…どれくらい経った?」
『ほんの15分程度だよ。大一のやるべきことは終わったんだ。あのまま倒れて休んでも…』
「そうもいかないだろう。まだ仲間達が戦っているんだから。他にもやることはあるしな」
黒影で伸び切ったズボンを無理やり締めなおした大一は、シャドウの心配に答えると、半分以上崩壊している部屋を見渡す。生命力は感じられないが、特殊な魔力を感知して見つけ出すのは苦労しなかった。
ふらつきながらも歩いていく大一は、黒影で右腕を形成すると至る方向に伸ばしていく。次々と掴んだのはバラバラになったマネキン人形のようなものであった。それらをまとめると、瓦礫の山に転がっていたアリッサの首のもとへと向かう。
「大丈夫か?」
「これを見て大丈夫と思える?身体はバラバラで碌に動けないし、あんたに借りを作るしで、気分は最低よ」
苦々しい反応を見せるアリッサに、回収した彼女の身体を近くに置きながら大一は困ったように頭を掻く。
「この程度で借りを返したとは思っていない。あなたには命を救われたからな」
「身体の方じゃなくて、無角の件よ。本当は私がケリをつけるべきだった」
「それは製作者として、ということか?」
「当然よ」
答えるアリッサの首の下から魔力が細い糸のような形でいくつも出てくる。魔力は回収された身体に繋がれると、ゆっくりと動き出し、少しずつ繋がれていく。繋がれ始めると人間のような生き生きとした活力が出てくる。もっとも身に着けていた服も完全に破れていたため、大一はすぐに後ろを振り向いて視線を逸らした。
「…完全に戻すには時間がかかるわね。まさかここまでなるとは。無角を侮っていたわ」
「製作者なら能力とかわかっているんじゃないのか?」
「あいつに特別なものなんてつけていないわ。怨念のコントロールは独自に編み出したのでしょうね。あんな不気味な刀だって、どこで拾ってきたのやら」
後方でがさがさと音を立てたかと思うと、アリッサは大一の隣に立つ。いつの間にか服も調達しており、簡素なワンピースを身にまとっていた。もっとも欠けた指や腕に残る傷痣は生々しく、彼女の言うように戻るのには時間がかかりそうであった。
大一の視線に気づいたアリッサは目を細める。
「そんなに私の壊れた箇所が気になる?」
「まあ、そうだな…」
「心配は無用。私は魂さえ無事であれば死なないからね。ハア…外の世界の奴に心配されるなんて、私もまだまだね」
「…俺にはそこまで協力関係を嫌がる理由がわからないな」
ため息をつくアリッサに、大一は腑に落ちない様子でつぶやく。種族や立場のこだわりや価値観の違いは、京都妖怪との交流や教会の戦士との戦いで経験してきた。
しかし「異界の地」に住むメンバーはどうも統一性の無い存在にしか思えなかった。種族はバラバラ、立場や目的も違って敵対関係になる場合もある。少なくともアリッサは、サザージュの誘いには乗らずに、彼らと戦う道を選んだ。それならば互いに協力することも出来たのではないかと思ってしまう。ましてや他の相手がクリフォトに協力したのだから。
「私は外の世界がどうなろうが知ったことじゃないわ。そもそも干渉したくないの。さっきも言ったけど、製作者として無角へのケジメをつけたかっただけよ」
「そういうものかね…」
「そういうものよ。だから私はあなたに大きな借りを作ってしまったのよ。私と違って生身のあなたが、そんな姿になるのはね」
大一の半身は酷い傷と火傷が入り混じったような肌をしていた。痛みは無いが、あまりにも不揃いな姿は不気味さを醸し出している。
しかし姿が変わるという外面的な事情よりも、彼にとっては相棒を失ったという喪失感の方が大きな傷跡を残していた。ディオーグとの付き合いは1年にも満たない。それどころか悪夢の件で苦しんだ年月の方が長かった。
それ以上に、彼の圧倒的な実力と生き様は大一に大きな影響を与えていた。融合したことで気づいた魔力と生命力、恩恵で得た才能、龍という種族ではなく彼自身の誇り…ディオーグから貰ってきたものは数え上げればキリがない。それを自覚しているからこそ、相棒の意志を受け継いで生きることを決心しており、口から発せられる声はどこまでも強かった。
「俺は大丈夫だ」
「…まあいいわ。あとは勝手に…」
去ろうとするアリッサであったが、完全に身体が修復できていないからか、よろめいて倒れそうになる。すぐに大一は彼女に肩を貸して、身体を支えた。
「そんな状態で放っておくわけにはいかない。こっちで治療を受けさせる」
「余計なお世話はいらないのよ…さっさと転移魔方陣のところに戻らなきゃ…」
「だとすれば、尚更だ。まだ戦いは───」
大一がいきなり言葉を切り、険しい目つきで天井を見上げる。一瞬、はるか遠くから凄まじいプレッシャーを感じ取ったのだ。何度も身近に感知した龍の存在であったため、それが何者か気づくのに時間はかからなかった。
「一誠とヴァ―リだな…強い力だな。これはまた覚醒したようだ」
『また神滅具か…』
「ふてくされるなよ。それにどちらかと言えば、龍としての力に思えるな。そういえば感知して気づいたけど、外は妙に静かだな」
結界は無角を倒して解除されたため、感知してみると邪龍の存在が察知できなかった。そとの戦いはルシファー眷属が勝利したのだと気づいて間もなく、部屋の大きく削れた壁の穴から炎駒達が現れた。
「大一殿、無事ですか!」
「炎駒さん。ええ、なんとか」
「うおっ!?だ、大一くん、どうしたんすか!?」
ベオウルフが驚愕しながら声を上げる。炎駒も目を見開いて衝撃を受けており、感情を表に出さないバハムートですらポカンと口を開けていた。予想通りの反応であったが、これから重要な使命へと向かっていくルシファー眷属に余計な心配をかけさせたくない。
「えーと…」
「…大一殿?」
「…わかっていますよ。誤魔化すつもりはありません。無角との戦いで死にかけたんです。ただディオーグが命をかけて、俺のことを蘇らせてくれたんですよ」
「たしか若もオーフィスやグレートレッドのおかげで助かったんすよね。それと同じ感じかな?」
「詳しいことはわかりませんが、一誠と違って新しく身体を培養したわけではありません。だからこういう不揃いになったのかもしれませんが…」
大一の言葉にベオウルフは顎に手を当てて考え込むが、炎駒は小さく息を吐く。どこか呆れを感じさせるものであったが、同時に安心も込められたものであった。
「…あの龍も逝ったか。貴殿を守ってくれたということなのでしょうな」
「あいつに言ったら、文句が出そうですけどね」
「それでもけっこうです。私は最初からあまり信用できませんでしたからな。…しかし彼は私のことも安心させてくれた。弟子が死んでは、これから向かう先の覚悟が揺らいだかもしれませんからな」
炎駒の声は穏やかであった。彼としては弟子を苦しませた原因であったが、融合したことで大一が強くなったこともハッキリと目の当たりにしていた。それゆえに彼なりにディオーグが最後にもたらしたことに安心を抱き、そこに偽りはなかった。
一方でバハムートは、大一が支えているアリッサへと目を向けていた。
「彼女は?」
「彼女が前に俺を助けてくれたアリッサです」
「ああ、マグレガーさんのところで話していた人すね。どうしてここに?」
「それは───」
「話す筋合いないでしょう」
大一が説明を続けようとするも、アリッサが言葉を遮る。無機質かつ鋭い印象を抱かせる声の調子は、先ほどまで戦っていた無角を思い出させた。彼女も似たような存在であることを改めて実感させられる。
無理に治療させようとしている面もあったため、あまり大きく言えない大一は困ったように頭を掻く。
すると突如、彼らの足元にルシファー眷属の魔法陣が展開された。力強い光に包まれながら、大一はいよいよ時が来たことを悟った。主と師と尊敬できる先輩たちとの別れの時が…。
「では、参りましょう」
炎駒の言葉に、ルシファー眷属は頷くのであった。
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戦いは苛烈を極めていた。少なくとも「D×D」を筆頭に、三大勢力側が有利に思える展開が続いていた。
邪龍軍団の首領格であるアポプスとアジ・ダハーカは、再び龍神化を発動した一誠と、同じくオーフィスの力を借りて新たな覚醒である魔王化を果たしたヴァ―リによって打ち倒された。量産型邪龍と偽赤龍帝軍団も、ギャスパーとヴァレリーが聖杯の機能を停止させたことで、これ以上増えていくこともない。さらには日本海付近に現れた邪龍と手を組む強者も、「D×D」のメンバーによって無力化した。
アポプスに勝利した一誠はサーゼクスと共に、彼の力に興味を示したトライヘキサの核と孤島で戦っていた。少年の姿をしており、グレートレッドとオーフィスの感覚に引き寄せられたようだ。相手はたしかに強いが、もっとも恐ろしく感じたのはその再生力であった。超越者のサーゼクスが見せた真の姿による滅びの攻撃を何発も食らっても、身体は再生されていく。ほんのわずかでも身体の一部が残っていれば再生が可能であるようだ。
これに対して、一誠はドライグの指示のもと灼熱の炎で攻撃をしかけた。かつてドライグが必殺技としていた「燚焱の炎火」は、勢いの止まらない炎で受けた相手を問答無用で焼き尽くすものであった。
これほどの攻撃にもかかわらず、トライヘキサの核はその身を燃やしながらも再生を続けて向かってくる。どれほど邪龍を倒しても、向かってくる悪意を抑えても、この破壊の権化が止まらないことを一誠は実感した。
次の瞬間、全身に猛烈な痛みが感じた一誠は膝をつく。さらにトライヘキサの動きを封じていた結界も徐々に解け始める。
『結界が解けたか。───やはり、あの案は必要ということだな』
一誠の横に駆け寄ったサーゼクスは、手早い動作でトライヘキサの核に向けてロスヴァイセの使っていたものと似た魔法陣を放つ。相手が動きを止めたのを確認すると、今度はルシファーの魔法陣を展開させる。間もなく、そこにはルシファー眷属が転移されて跪く。
『ルシファー眷属すべて御身の前に』
現れた眷属たちをサーゼクスはざっと見るが、変わり果てた大一の姿に目を止める。なぜか見知らぬ女性まで支えている状態なのだから、不思議に思うのは当然だろう。
『大一くん、その姿は…』
「説明すれば長くなります。ただ使命を果たすために必要なことでした」
『…わかった。結界の外や他の場所ではどうだ?』
「はっ、表のトライヘキサは活動を再開する兆しを見せてます」
「他の領域でも、核は出現し、猛威を振るっております。再生力が並外れているため、攻めあぐねている状態ですね。そこに加え、本体にかけられている術も解けかかっております」
サーゼクスの問いに、マグレガーと沖田が答える。さらに彼の耳元には複数の連絡用魔法陣が展開されていた。
間もなく、連絡で確認を終えたサーゼクスは決意のまなざしで眷属たちを見る。
『あれをおこなう。いいね?』
主の問いに、眷属たちは力強く頷いた。すでに彼らの覚悟は決まっていた。そんな中、サーゼクスはグレイフィアへと近づく。
『───グレイフィア』
「───ッ!?サーゼクス様、いったい何を!?」
サーゼクスは手元から魔法陣を展開すると、グレイフィアの顔へと向けて術を浴びせた。それはアザゼルから教えられた特別な催眠の術式であり、彼女は力なくその場に座り込んでしまった。滅びの力そのものとなっている彼は抱きしめるような素振りだけ見せて腕を引っ込めると、眠りに落ちていく妻に囁いた。
『すまないな、グレイフィア。お前はこっちに残って欲しいのだ』
「…そん…な…ずるい…ずるいわ、サーゼクス…っ!…いつまでも一緒だと…誓い合ったじゃないの…っ!」
『これからのミリキャスには…母親が必要だ』
「…あの子は…本当は、あなたを…サー…ゼクス…」
抵抗を示していたグレイフィアは目を涙に濡らしながら、そのまま深い眠りについてしまった。そんな彼女を大一は抱えて、倒れている一誠の横へと寝かした。
『…すまない、我が眷属たち。嫌なところを見せてしまったな』
「いえ、これでいいのです、これで」
「まあ、こんなことでもしなければ、姐さんなら、絶対に俺たちに付き合っただろうからな」
『うむ、悪いが皆、最後まで私に付き合ってくれるな?』
『はっ、我らが命、サーゼクス様と共に───』
大一を除いたルシファー眷属が主の言葉に応じると、動きを封じた核の周囲に集まり術をかけ始める。さらに離れた上空に巨大な空間の歪みが生まれ穴となり、そこに巨大なトライヘキサ本体がわずかに吸い込まれていくのが見えた。
するとサーゼクスの周りにセラフォルーとファルビウムの立体映像が投映された。
《サーゼクスちゃん、こっちの準備は整ったわ》
《いつでも転移できるよ》
『セラフォルー、ファルビウム、了解した。愛しい者に別れのあいさつは告げられたか?』
《…最後まで悩んだけど、あの子、泣いちゃうだろうし、私、あの子の泣き顔は見たくないかな。きっと、行くのをためらっちゃうから…》
《こっちは元々そんなのいないしさ。まあ、こっちに残るうちの『女王』にあとの事はだいぶ先まで伝えたよ》
『そうか。私もセラフォルーやファルビウムと同様に今後のために「女王」をここに置いていくことにした。だから、グレイフィアもここに残る』
目の前で繰り広げられる魔王達の会話に、彼らとの別れが近づいているのを大一は実感した。おそらく同じような気持ちを抱いている者達が、この瞬間にも各地にいるだろう。
そんな中で、消耗しきって動けない一誠がサーゼクスに問う。
「…サーゼクス様…?どういうことですか…?」
『これはね、我々、トップの最後の手段なのだよ』
サーゼクスは一誠にこれから行うことを淡々と説明する。トライヘキサを完全に止めるために膨大な時間がかかること、隔離結界の中で多くのトップ勢が戦い続けること…それを聞くたびに一誠の目は大きく見開かれていた。
『先ほど、連絡が届いた。真にルシファーを継げる者が現れたというのも喜ばしい。ヴァ―リ・ルシファー、彼こそルシファーを真に継ぐに相応しい者だ。悪魔にルシファーは必要だ。しかし魔王はこれから他にも必要になるだろう。イッセーくん、キミは魔王になってみるといい』
もはや言葉も出せないほど体力を失っている一誠の意志は消えかけていた。そんな彼に現魔王は意思を残そうとしていた。
『キミなら、きっといい魔王になれる。いまは足りない部分も多いだろうが…遠くない将来、必ずキミは───全勢力の希望のひとつになれる』
『リアスと、ミリキャス、そしてグレイフィアをしばらくの間、よろしく頼むよ。ああ見えて、彼女はリアス以上に寂しがり屋でね。私がいない間、彼女の話し相手になってあげて欲しい。リアスやソーナ、サイラオーグたちと共に冥界を頼むよ。そして次のミリキャスたちの世代も、そのさらに次の世代も、私の代わりに見ていてほしい。また会う時まで…』
サーゼクスは言葉を切る。とうとう限界が来た一誠はそこで意識が途絶えてしまったようだ。
小さく息をする一誠に、大一はちらりと視線を向ける。どこまでも期待を向けられる弟に、一種の感心すら覚えてしまった。
サーゼクスは微笑むと、今度は大一へと視線を向けた。
『みんなを頼むよ。無事にここから連れ出してくれ』
「ええ、もちろんです。グレイフィア様のことも心配しないでください」
『そうだろうな。そのような姿になっても、約束通り我々の道を切り開いてくれたのだからね。…行く前に教えてほしい。何があったのかを』
「…ディオーグが私の代わりに命を懸けてくれた、それだけの話です」
『…そうか。ならば、やはりキミを残すことは正解だったのだろう。あの龍が命を懸けて守り切った命なのだから』
無名と言われた相棒を、主や師がハッキリと認めてくれたことに大一の心の中で熱い思いが込み上げてきた。目からあふれそうになる涙をこらえながらも、最後まで主たちの勇姿を見届けるために彼は耐えた。
『キミは本当によくやってくれた。表立ったルシファー眷属でないにもかかわらず、その成し遂げたことに感謝しかない。だからこそ、キミにはイッセーくん以上の期待をしてしまうんだ』
「…私は弟よりも強くなりますよ」
『それが聞ければ満足だ。またいつか会おう』
「ご武運を祈ります」
サーゼクスが眷属の元へと向かっていく。そしてトライヘキサの巨体が上空への穴へと完全に吸い込まれるのと同時に、まばゆい光が辺りを包み、大一の2人目の主君は他の眷属や魔王と共にその姿を消していった。
残された彼は大きく息を吐きだすと、シャドウを使って一誠、グレイフィア、アリッサを抱えて、この場を離脱するのであった。
短期間で2回も大きな別れを経験しましたが、もはや覚悟は決まっています。
ということで、次回あたりで21巻分のラストとなります。