D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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激動の21巻分も今回で終わりです。
久しぶりに彼との会話も。


第206話 不穏

 サーゼクス達との別れを経てから、大一はルシファーの転移魔法陣を展開させる。向かった先は病院で、そこに3人を医師と看護師に預けた彼は早々に着替えを済ませ、リアス達に一誠達を運んだことを報告した。その後にすぐに無角と戦った屋敷に戻り調査を行った。もっとも魔力も何も感知できず、成果は無かったのだが。

 正直なところ、リアス達の下に直接向かわなかったこの判断は正解であったと感じていた。背中に一誠、左にグレイフィア、右にアリッサと大所帯だ。シャドウがいなければ運ぶことは間違いなく不可能であった状況で、込み入った話は避けたかった。あとから聞けば、援軍として駆けつけたメンバーもいたので、尚のことであった。

 戦いの余波による破損物や土地の修復や一般人の記憶操作といった戦後処理のために、「D×D」は駆り出されていた。そんな中、とある海岸に設置された休憩所のテントにグレモリー眷属とシトリー眷属が集まったところで、大一はようやく仲間達と合流した。

 彼が皆の前に姿を現した時、何者かすぐに気づかなかったようだ。いや直面しても、誰かだとハッキリと理解していたかと言えば怪しい。ゆえに大一が口を開いて声を出したことでようやく気付かれたようなものであった。

 

「お疲れ様です」

「…大一なの?」

「俺以外にいないでしょう」

 

 リアスから問われると、大一は肩をすくめる。仲間達が衝撃的な表情をしているのが目に入るが、ほとんどが驚きで言葉が紡げないような様子であった。おそらく同じような反応をこれからも見ていく必要があると思うと骨が折れる想いであった。

 そんな彼に朱乃が震える手で頬に触れた。

 

「その傷…どうしたの…?」

「たぶん相当ひどいことになっているんだろう?」

「だって…だって…」

 

 朱乃は言葉が紡げない。左半分近くが火傷と傷が入り混じった顔、変わった皮膚は首へと続いていき残った左腕を覆っている。誰でも初めて見れば怯むには充分な容姿であった。すぐにアーシアが回復のオーラを当てるが、その皮膚は変化することは無かった。愛する男がどうしてここまで酷い状態になったのか、それを思うと胸が絞めつけられる。

 朱乃は目からぽろぽろと涙をこぼしながら振り絞るようにつぶやいた。

 

「…無事でいるって約束したじゃない…!」

「逆だよ。無事だからこそ、この姿になったんだ。俺は死んだはずだった。それを助けてもらったんだよ」

 

 大一はこの姿へと変化した経緯について話し始める。無角との戦い、ディオーグが命を与えてくれたこと、新たな力…口にするのは舌が重く感じるものの、炎駒達に話した時と同様に落ち着いていた。

 

「俺にとって大切な相棒が残してくれた命であり、ディオーグが生きた証なんだ。未練はないよ」

「…いつもそうやって…私は知らないところで…またあなたを失いかけたのに…」

「いつも心配かけさせてごめん。でも今回は失ったものも多かったな」

 

 大一は朱乃を優しく離すと、リアスとソーナに向き合う。自分の姿は二の次であった。今回の件でもっとも話をするべきは彼女たちであった。そして意を決して大きく頭を下げた。

 

「今回の作戦、俺は知っていました。サーゼクス様とセラフォルー様が覚悟を決めていることも。お二人にそのことを伝えられなくて、申し訳ありませんでした」

 

 サーゼクスたちの作戦を止められたわけが無い。代わりに犠牲になれたわけが無い。それでも真実を知っていながら、最後まで関わりの深い彼女たちに伝えなかったことは謝るべきだと考えていた。大一にとって、これはひとつのケジメであった。

 そんな彼の様子にリアスは小さく息を吐く。

 

「あなたは悪くない…と言っても、あなたなりのケジメなんでしょうね。たしかに辛いものよ。お兄様はルシファーである前に…私にとってはグレモリーの兄でもあるんだから。せめて卒業する私を見て欲しかったの。お節介だけど、優しくて強いあの人に」

「リアスさん…」

「でもそんなお兄様だからこそ、世界を守るために旅立つことを決めたのよ。私はそんな兄を誇りに、今日の光景を忘れないわ。あなたにとってのディオーグと同じように、兄は私の心の中で生き続ける」

 

 リアスの頬には涙が伝った跡が見られる。それだけでも彼女が、兄との別れに抱いた想いを察するには充分であった。同時に彼女の言葉が本物であることも理解していた。偉大な主の妹であり、自分の最初の主の強さを大一は改めて目の当たりにするのであった。

 

「それに永遠の別れと決まったわけじゃない。次に会った時にもっと立派になった私を見てもらうんだから。そうでしょう、ソーナ?」

「…私だって同じ気持ちです。お姉様の覚悟を無下にはしません」

 

 ソーナは目を真っ赤に泣きはらした状態で答える。いつもの整然とした様子は鳴りを潜めいたが、それでも出来る限り気丈にふるまっているのが見て取れた。それでも再び堪えきれなくなったのか、後ろを振り向くと眷属たちを連れて、戦後処理へと向かっていった。

 ソーナ達の後姿を見ていた大一に、今度はリアスが話しかける。

 

「あなたも多くを失ったわね…」

「ええ。でも悲しんでいれば、それこそ尊敬する人たちに顔向けできないでしょう」

「私の眷属から離れたと思ったら、こんなに強くなっているんだから…。それじゃ、私たちもそろそろ行くわよ」

 

 リアスの指示のもと、彼らも戦後処理へと向かう。それぞれ大きな存在を失ったものの、彼らは未来に向かって強く踏み出すのであった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 数日後、大一は特殊な異空間に位置する部屋で椅子に座っていた。彼以外に部屋にいた人物はひとりしかおらず、テーブルを挟んで対面にいた。

 

「なるほど、義兄上たちはそうなったと」

「お前には伝えておこうと思ってな。言っておくが、アジュカ様やグレイフィアさんから許可は貰っている」

「まあ、姉上を巻き込まなかったことは評価しますよ」

 

 シャツの襟を正しながらユーグリットは答える。最後に会った時と比べると血色はよく、不気味な印象も薄れていた。

 大一はユーグリットに、ここ数日でのもろもろの事件を伝えていた。もっとも大きな出来事はサーゼクス達がトライヘキサを抑えるために旅立ったことであったが。

 

「私としては姉上から聞きたかったですが」

「今のグレイフィアさんにお前を会わせられるわけないだろ」

「やれやれ、そう声を荒げるものではないですよ。すでに醜い姿なのですから、少しでも愛嬌はよくするべきでしょう」

「お前くらいだよ。今のところ、この見た目にそんな反応ができるのは」

 

 皮肉っぽく言うユーグリットに、大一はため息をつきながら答える。この数日で仲間や家族に会ったが、口を開けて驚かれたり、すっかり言葉を失ったり、挙句の果てにはわんわんと号泣されたりといった反応がほとんどであった。彼のように一笑に付す反応は初めてであった。

 

「しかし現魔王3人に『女王』を除いた眷属たち、堕天使はアザゼル、天界ではガブリエル以外の4大天使とその配下…他にも北欧やギリシャの神々とは、世界は大きく変わりますよ」

「充分、理解している。それもあってお前に話しに来たんだ」

 

 大一としても、ただの同情心でユーグリットに今回の一件を話しに来たわけではない。アザゼルが信頼する相手に残していたとあるレポート、それを持っていたアジュカからある件について打診が来ていた。

 

「リゼヴィム様のことですか?」

「話が早くて助かる」

「あの人がただ死ぬとは思えないので」

 

 トライヘキサの件について説明するにあたり、ユーグリットにはリゼヴィムの死を伝えていた。もっとも聞いたところで動揺らしいものは見られず、知っていたかのような雰囲気を醸し出していた。

 その態度はむしろ歓迎するものであった。リゼヴィムが死んだ際に、トライヘキサの復活することを知っていたとすれば、彼はクリフォトの計画について他にも知っている可能性は高い。魔女集団を率いていたヴァルブルガや独立チームとして動いていたギガンよりも、遥かに情報を得られる見込みがあった。

 

「極秘事項ではある。しかしお前にとってはすでに知っていることかもな。リゼヴィムは何度か異世界に対して情報を送っている。グレートレッドを潜り抜けて、こちらに侵攻することを望んでいたわけだ。行っていたのはリゼヴィム、アポプス、アジ・ダハーカ…しかし異世界の可能性を提示したお前が関わっていないとは思えない。知っていることがあれば、話してほしい」

「やれやれ、ずいぶん要求が大きいな。まあ、たしかに直接的なやり取りはしていませんが、繋ぐ協力はしましたよ。しかしそれだけです。直接のやり取りは彼らだけ、あなた達が知っている以上のことは知りません」

「本当か?」

「嘘をつくメリットがない。私はフェニックスの涙の模造品の精製、赤龍帝の身体の調査、実働部隊の指揮…もろもろやりましたよ。しかしこの件に関しては、そこまで深く立ち入ってません」

 

 淡々と答えるユーグリットの目は、真っすぐに大一を見据えていた。余裕を感じる雰囲気に、大一はわずかに苛立ちを感じたが、同時に彼が嘘をついていないと直感的に思えた。もはや彼にとってクリフォトはどうでもよく、姉のことが気がかりなだけなのだろう。

 ユーグリットは優雅に足を組むと、小さく鼻を鳴らす。

 

「むしろもっと近くのことを心配した方がいい。各勢力のトップが消えた今、他にも警戒するべき相手はいるでしょう?」

 

 彼の言う通り、危惧すべき相手はいくらでもいる。少なくともアジュカは帝釈天ことインドラや、冥界の神ハーデスあたりを危険視していた。そもそもリゼヴィムのおかげで、世界の認識は大きく変わった。外敵の存在に、人々の不安は掻き立てられ、多くの勢力で対抗できる強者を求める傾向が強くなった。悪魔も魔王に加えて、ベリアルの告白もあって多くの強者が不在となったため、早急に代わりを必要としている状態であった。もっともアジュカはそれを踏まえて、シヴァと協力しレーティングゲーム国際大会を企画し、将来に向けて強者を生みだそうと考えていたようだが、彼らがそれを知る由は無かった。

 大一はため息をついて頭を掻く。傍観者として余裕のあるユーグリットの態度と相まって、今後の不安が膨れ上がっていくような想いであった。

 

「もっとも無用な心配かもしれない。冥界には赤龍帝がいるのだから。たしか上級悪魔への昇格の話があるそうじゃないですか」

「…誰から聞いた?」

「さあね」

 

 たしかに悪魔の上層部で、一誠の上級悪魔昇格の話が出ていたのは事実であった。これまでの活躍と、今回の戦いでアポプスを倒したことを踏まえたうえでの評価であった。転生して1年未満での昇格は、過去に例を見ないものであった。ヴァ―リと共に未来の超越者候補として数えられているようだ。

 しかしこの話は、大一はアジュカから打診を受けた際に伝えられたもので、まだ公にはされていないものであった。それゆえに目の前の男が、どこで聞いたのか不気味に思えた。

 

「あなたはどんどん追い越されているようですね」

「そんな煽りを気にする俺じゃないぞ」

「事実を述べただけですよ。あなたにも底知れなさはありますが、どうも気づかれていないようだ」

 

 大一としては、どうもただ煽られているようにしか思えなかった。情報も期待したほど得られず、早々に立ち去ることが賢明と判断すると、椅子から立ち上がり扉の方へと向かおうとする。

 

「サザージュは見つかりましたか?」

 

 ドアノブに手をかけた大一の動きが止まる。まるで彼の心の中にあったわずかな不安を見透かしたような一言であった。

 息を整えると、彼は動揺を丁寧に隠しながら振り向いた。

 

「目下、捜索中だ。当てがあるのならば教えてほしいが」

「私は何も知りませんよ。ただあれには注意した方がいい」

「あいつのチームは、ほとんど無力化している。今さら、兵を集められるとは思えないが…」

「たしかに彼はリゼヴィム様や邪龍と比べれば大したことない。赤龍帝達と比べれば、特別なところは無い。しかしたまに覗かせるんですよ」

「なにをだ?」

「そうですね…底知れなさ、とでも言いましょうか」

 

────────────────────────────────────────────

 

 その洞窟には、広い空間に奇妙かつまるで似合わないテーブルが複数あった。大量の薬品に魔導書が乗せられており、それらは煙を上げたり、不気味な光を放っていた。壁や床のいたるところには不気味な紋様や魔法陣が、乱雑に記されており、自然的な要素は廃されている。

 もっとも不気味さを出しているのは、天井に埋め込まれ、鈍い紅い光を放っているものだろう。石のように見えたが、定期的に心臓のように脈打っており、硬さと柔らかさの要素を内包している様子は、この世のものとは思えなかった。

 そんな洞窟に置かれている椅子に腰かけながら、サザージュは静かにグラスに注いだ酒を煽っていた。人間界でも買える安酒であり、味わっているというよりも気を紛らわせるために飲んでいるとしか思えなかった。

 据わった眼で、彼は天井の存在に目を向ける。

 

「ずいぶんと時間がかかった…多くのものを失った…だがこれで決着がつく…」

 

 彼は人生をかみしめるかのように呟いていく。生まれてから今日という日まで、なんとも数奇な運命をたどったものかと感じていた。

 しかしそれに終止符が打たれる時も近かった。最後の目的を果たしたとき、彼は初めて心から満たされるのではないかと思っていた。

 

「世界を…終わらせようか」

 




いよいよ次回から22巻分となります。
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