D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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今回から22巻分スタートです。
この巻分を最終章とします。


卒業式のグレモリー
第207話 不透明な未来


 2月下旬、すでに邪龍たちとの戦いから20日以上経っていた。風呂から上がった大一は廊下を歩きながら、首にかけているタオルで額の水滴を拭っていた。

 

「やっぱりこの姿で汗が出るというのは、どうも変な感じがするんだよな」

『違和感はあるだろうね。龍人状態の時とも違うみたいだし。あの怨念の影響もありそうだよな』

「思い出すだけでも疲れるな」

 

 シャドウの言葉に、げんなり気味に答えると、居間でテレビを見ていた父親に大一は声をかける。台所では母が難しそうな表情をしながら、2つの缶を見比べていた。

 

「父さん、風呂いいよ」

「おう、ありがとな。俺もさっさと入ってしまうか」

 

 ソファから立ち上がり父は大きく伸びをしながらつぶやく。なんてことない日常のようであったが、これが大一にとっては大きな変化であった。彼の左半身はディオーグによって再生した傷だらけの体、さらに右腕は無い状態で、肩からはシャドウが眼玉をギョロつかせている。

 そして今の姿を両親の前で普通にさらけ出しているのだ。これまで悪魔のことを隠し続けていた彼であったが、今はさらけ出した状態でいられるのは気が楽であった。もっともこの姿になった後に会った際は、本気で号泣されて仲間達よりも説得に時間がかかったのだが。

 密かな気楽さを感じながら、彼は冷蔵庫に向かって冷たい飲み物を取りに行こうとしたが、そこで母に呼び止められる。

 

「そういえば、大浴場の方を大一は使わないの?」

「使わないのって、あっちは女性専用…いやその言いぶりだと、もしかして一誠が使っていたこと気づいている?」

「わりと最近だけどね。リアスさん達が同意の下ならいいと思うけど」

 

 母は肩をすくめながら小さなため息と共に答える。呆れと同時に半ば諦めたような雰囲気であった。弟のエロさについてはもはや諦めている節があるのだろう。

 

「だとしても、俺が使うのはおかしいだろ」

「違うのよね…要するに…大一ももっと朱乃さんたちと距離を縮めるべきだと思うの」

「あーはいはい、そうですねー」

 

 母の言葉に、急激に反論する気力が減っていくのを感じた大一は適当に答える。冷静に考えれば、リアスやアーシアが裸エプロンになるのを止めなかった人達だ。心配な息子に、発破をかけるくらいはやるだろう。

 

「そうだぞ、大一。あれほどいい人はしっかりと繋ぎとめておかないとな。父さんも母さんも期待しているんだ」

「悩んだときはいつでも言いなさいよ。私たちでなくても、影ちゃんだっているんだから」

「だからって息子の恋愛事情に物申さないでくれよ…」

 

 げんなりした様子で、大一は冷蔵庫からお茶のペットボトルを取ると、その場をそそくさと立ち去っていく。さすがに両親からこれ以上のお節介を受けるのは、さすがに辟易していた。なによりもこの件に関しては、今の大一にはあまり触れてほしくないものであった。

 エレベーターに乗った大一の肩から眼をギョロつかせながら、シャドウは半分当惑したような声を上げる。

 

『この前から思ったんだけど、影ちゃんと言われるのは慣れないな。そんな感じとは無縁だったからさ』

「まあ、いいんじゃないのか。嫌ってわけじゃないんだろ?」

『別に呼び方はどうでもいいんだけど…なんというかな…むず痒いし疲れるんだ』

 

 歯切れの悪い言い方であったが、シャドウが大一に行ったことを踏まえれば、この神器なりに思うところはあるのだろう。もっとも大一はシャドウに支配されたことを両親に明かすつもりは無かった。ヴァ―リを許したほどの両親であれば、シャドウのことも許すだろう。それを確信はしているゆえに、わざわざ話す必要も感じられなかった。

 こんな会話をしながら、彼の足は自室へと向かっていく。いつも通りの行動のため、頭で考えたものでは無く、身体が覚えているものであった。そのため彼はドアを開ける際の違和感にまるで気づかなかった。

 扉を開けて真っ先に視界に入ったのは透けたランジェリー姿の朱乃の姿であった。

 

「あらあら、ちょうどいいタイミング♪」

「…ごめん、部屋を間違えた」

 

 淡々としたリアクションで扉を閉めようとした大一であったが、彼女は手早く近づいていき、腕をつかんで引っ張っていく。

 

「大丈夫。間違っていないわ」

「いやどう見ても別物…」

 

 無骨なデザインであったはずのセミダブルベッドは、3人くらいなら悠々と横になれる大きさものであり、それが部屋の真ん中に陣取られている。テーブルやイスは見慣れないデザインとなっており、もろもろ詰められていた本棚は消え去っていた。

 

「悪魔と天使が子づくりしても問題ない部屋に変化するドアノブがあったでしょう。あれの堕天使バージョンをいただいたのよ」

「つまり俺の部屋のドアノブを変えて、その別部屋に繋がったと」

「そういうこと」

 

 なんとも楽しそうな笑顔で朱乃は答える。同時にどこか覚悟めいた雰囲気であり、彼女は身体を預けるように大一に抱きつく。

 彼女の身体の柔らかさ、風呂上りなのか鼻をくすぐるシャンプーの匂い、見惚れるような黒髪、あらゆる要素が大一を緊張させており、そこに追い打ちをかけるように朱乃のしっとりとした声色が耳に届く。

 

「私もお風呂は終えたわ。お願い。私の初めてを…」

「ちょ、ちょっと待って。まず落ち着こう」

 

 言葉を続けようとする朱乃を、大一は慌て気味に引き離す。少し不満げに頬を膨らませる彼女に、彼は気恥ずかしそうに疑問をぶつける。

 

「なんか最近、積極的すぎないか?」

「んー、嫌かしら?」

 

 彼が今の姿になってから、朱乃はアプローチを積極的にしかけていた。今まで以上に身体を密着させ、キスも何度も求めてくる。明らかに加速する好意に対して、すべて応えることが出来なかった彼としては、申し訳なさと同時に疑問も抱いていた。

 

「そういうわけじゃなくて、どうしてそこまで…」

「何度も愛する人を失いかけたのよ。しかも今回は私の知らないところで。不安だから一緒にいたくなるのは当然よ。それにあなたのことだから、今の見た目を気にして距離を置こうとするかもと思って」

 

 誘うようにウインクしながら、朱乃は主張する。今の大一は外出する際は義手に加えて帽子やメガネが手放せず、学校に登校する際には、仲間の手を借りて魔力や特殊なゴム製の皮膚を貼って傷をごまかしている状態だ。

 もちろん彼は今の姿を肯定している。ディオーグから貰った命を反故にするような感情はさらさら無かった。

 とはいえ、見た目のおぞましさは否定できない。仲間達から距離を置かれないことは安心しつつも、恋人に対して積極的に触れ合うことには二の足を踏むだろう。そう予想した朱乃は、彼に対して積極さを増していった。

 

「朱乃、俺は別に…」

「でも否定はできないでしょう?無意識に距離を取ってもおかしくないじゃない」

「信用なさすぎだろ」

「今までが今までだったから当然よ」

 

 さらりと言い放つ朱乃に対して、大一は反論する材料を持ち合わせていなかった。実際、心の中でどこかブレーキをかけられていたからこそ、彼女の期待に応えきれなかったのだろう。

 

「私があなたを見た目だけで好きになっていたら、もっと早く一緒になっていたでしょうね。もっともその場合は、今のような関係にならなかったかもしれないけど」

「そこまで言われると…生き残ったのがすごく嬉しく感じる」

「ふふっ、じゃあその嬉しさを私にもちょうだい」

 

 そう言うと朱乃は目を閉じて顔を上へと向ける。腕は彼の首の後ろに回しており、何を求めているかは明らかであった。少し迷った大一であったが、間もなくゆっくりと唇を合わせる。触れるだけのキスでありすぐに離れたが、彼女はそれでは満足せずに顔を向けたままにする。

 

「えーと…」

「もっと」

 

 再び唇同士を触れさせるが、それでも彼女がねだるのは終わらなかった。3度目ともなると自然に唇を動かし、気づけば互いに舌まで触れ合うようなものに発展していく。互いの腕には力が入り、さらに密着していく。

 戻れなくなる、そんな想いが彼の脳裏をよぎったが、それはすぐに頭の中から吹き飛ばされていた。愛する感覚、愛される感覚、今の大一は彼女の想いに応えようとしていた。しかし…

 

「邪魔して悪いけど、打ち止めにしてくれる?」

 

 いきなり扉の近くから聞こえた声に、大一も朱乃も身体をびくりと震わせて、互いに顔を離す。声の方を見ると、リアスが真面目な雰囲気で立っていた。その後ろでは小猫とロスヴァイセが覗き込むようにちょこんと立っていた。

 

「ちょっとリアス、いくらなんでも…」

「好きで邪魔したわけじゃないわよ。私だってイッセーと…いや、それはどうでもいいわ。さっき冥界のニュースで、レーティングゲームの国際大会が開かれることが報じられたの。このタイミングで仕掛けてきたのは、どうも気になってね。これから冥界に確認に行くわよ」

「あらあら、でしたら仕方ありませんね。残念ですけど」

「こればかりはどうしようもないって」

 

 大一の慰めに、朱乃は渋々とした様子で頷くともう1度だけしっかり抱きしめて、服を着てリアスと共に出ていく。

 残った大一はまず部屋を戻すために、ドアノブを取り外しにかかるのであった。

 

「ところで小猫とロスヴァイセさんはどうしてここに?」

「…偶然です」

「こ、小猫さんと同意見ですッ!」

「答えになっていない気がするけど…」

 

 逢引きを他の女性に覗かれている、この状況は3人ともどことなく既視感を抱くものであった。

 なんと声をかけようか迷う大一であったが、その前に小猫たちの方からくぎを刺すように話しかけられた。

 

「…言っておきますけど、私も先輩がどんな姿になっても受け入れますからね」

「私だって同じ気持ちですよ!い、いや、仲間としてですけど!」

「その発言が出るということは覗いていたと」

「じゃあ、私はもう寝ますので。おやすみなさい」

「えーと、学校の準備とかもありますので私もこれで!」

 

 大一の発言を半分無視したような形で、2人は去っていく。残された彼は再びドアノブを取り外しにかかるが、彼女たちの言葉に心身ともに燃えるような感覚を抱いていた。

 

「熱いな…」

『惜しかったなぁ。いろいろ変われるチャンスだったぜ』

 

────────────────────────────────────────────

 

 数日後、大一は京都にある零の屋敷へと招かれていた。まさかこの1年で何度も京都に足を運ぶとは思わず、不思議な感覚を抱きながら彼は初めて通された部屋にて零と対面していた。

 

「また奇妙になったな」

「この見た目については仕方ないんですよ」

「もっと内情的な方だ。お前の龍の件は私の耳にも入っている。ただ転生悪魔にその力が混ざりこみ、いよいよ異形の存在と化していると思っただけだ」

 

 茶をすすりながら、ズバリと指摘する零について、どうも居心地の悪さを感じられた。別にその存在について指摘されたからではない。

 思い出すのは、繋がるきっかけとなった炎駒の存在であった。彼女はトライヘキサの戦いの際に、現地へと赴いていた八坂たちの代わりに京都を守っていた。それゆえに炎駒との別れは後から知った形であった。

 口の中で言葉がうごめいているような気分を味わう中、その言いづらい話題を零の方から切り出した。

 

「炎駒の件は残念だったな」

「自分よりも零様の方が…」

「正直、あいつとは古い友人というだけだ。弟子であるお前の方が落胆は大きいだろうよ」

 

 そのまま零は土産の串団子にかぶりつく。もしゃもしゃと口を動かすさまは、キツネの顔と合わせて妙に様になっていた。

 同じような問いを何度か受けていた。そんな彼としては、零の問いに答えることに迷いは無かった。

 

「今回の一件では身体、相棒、尊敬する人たちと失ったものを数え上げればキリがありません。しかし同時に多くのものを貰いました。それらが私の心にあるかぎり、未来を向いて生きていくだけです」

「…炎駒め。入れこんだ甲斐はあったということか。まあ、お前がそのように言えるくらいなら大丈夫なのだろう」

「ご心配ありがとうございます」

「勘違いするな。私が気にするのは部下の方だ」

 

 零はちらりと閉じられたふすまに目を向ける。そこに紅葉が隠れており、こっそりと話を聞いていた。大一もそれには気づいていたが、特に何か言うわけではない。ただ3人ともそれぞれ安心したことを実感していた。

 

「さて、前置きはこれくらいにして本題といこうか。レーティングゲーム国際大会というのが開かれるらしいな」

「零様も参加するのですか!?」

「私がそういうのに微塵も興味も無いのは、お前も知っているところだろう。まあ、八坂は張り切っていたな。少なくともあいつの娘は出ると思うぞ。お前の弟のチームとして」

「ああ、一誠の件は聞いていたんですね」

「史上初ともなる1年未満の上級悪魔への昇格、耳に入らない方がおかしい」

 

 零の声の調子には、皮肉めいた感覚があった。長い時間をかけて今の地位を築いた彼女からすれば、どこか不全的なものを感じたのかもしれない。

 

「すでにチームも集まっているんじゃないのか?」

「お察しの通りです」

 

 前から一誠についていくと話していたアーシアやゼノヴィア、レイヴェルに加え、今回はイリナも天界側でなく一誠のチームに参加を希望していた。さらにタンニーンの息子であるボーヴァが眷属入りを希望していることを耳にしている。まだ上級悪魔昇格の儀式をしていないのに、すでにかなりのメンバーが集まっているような状況であった。

 

「お前はチームを連れて出ないのか?」

「私はそもそもまだ下級悪魔ですので。いちおう中級悪魔昇格の話は上がっていますが」

 

 一誠の上級悪魔昇格の話題と同時に、大一や他のグレモリー眷属、ソーナの眷属の椿姫、匙にも中級悪魔昇格の話は持ちかけられていた。実力面を踏まえれば遅いくらいであったが。

 そもそも大一は今回の大会について、出場するかどうかも決まっていなかった。彼の身体の中にはサーゼクスの「悪魔の駒」が残っている。正式に他の誰かの眷属となることは出来ない。リアスから自分のチームに来てほしいと打診は受けていたが、それにもまだ正式に答えられなかった。

 

「…好きにすればいい。とりあえず、我々はせいぜい観戦くらいだろうからな」

「それでいいと思います。アジュカ様たちは今後を見越しての強者の発見を期待したものではありますが」

「強者ねえ…その考え方は不穏に思う時はある」

「どういうことですか?」

「いよいよ力の無い者達は蹂躙されていくしかないのかと思うだけだ」

 




眷属関連は考えもしたのですがね…。
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