D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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22巻の一誠とヴァ―リの会話の裏での出来事と思っていただければと。


第208話 繋がりを求め

 その日、グレモリー家に足を運んだ大一はグレイフィアと会っていた。血色よく、落ち着いた様子である彼女の姿を確認するだけでも胸を撫でおろされる想いであった。

 

「お元気そうで何よりです」

「あの人と仲間達が助けてくれた命だもの。私なりに出来ることはしないと」

 

 微笑むグレイフィアの美しさは無意識にも緊張を抱く。それだけでも彼女も大一と同様に、大きな別れと悲しみを乗り越えたことを実証しているように思えた。

 

「ユーグリットにまで知らせる役目をお願いしてごめんなさいね」

「私自身、彼と話す必要もありましたので大丈夫ですよ」

「…もしかしてサーゼクスから頼まれたのかしら?」

 

 グレイフィアの指摘はたしかに正しかった。例の作戦を伝えた後、サーゼクスが残してまで大一に頼んだことは2つあった。そのひとつが「ルシファー眷属としてグレイフィアを助け出す」というものであった。病院まで運び、彼女の心身の負担にならないように、気をまわしていた。

 

「もっとも言われなくても、そうするつもりでしたよ」

「最後まで迷惑をかけましたね。ところでもうひとつは?」

「いやそれは何というか…」

「無理に聞きだすつもりもありません。心の中にしまっておきなさい」

 

 本気で隠すつもりはない。ただ彼としてはどうもこの言葉は、口にするのも気恥ずかしくなるものであった。それゆえにグレイフィアの気遣いには安堵し、落ち着いた状態でお茶を飲むこともできた。

 

「そういえばアリッサのことは聞きましたか?」

「病院から抜け出したみたいですね」

 

 その件について、大一は数日前に連絡を受けていた。治療を始めてから20日以上経っていたが、アリッサのダメージはかなり深刻で、身体の構造も悪魔などとはまるで違うため、困難を極めていた。それでも少しずつ回復していたのだが、忽然と姿を消していた。誰にも気づかれず、病室のベッドはもぬけの殻になっていた。

 完治していないにもかかわらず、その姿を消したのはやはり心配してしまう。

 

「動けるくらいに回復していればよいのでしょうが…」

「例によって『異界の魔力』を利用して感知されずに抜け出したのでしょう。ただ───」

「どうかしましたか?」

「私は厄介ごとになる前に、逃げ出したとも思えるのですよね」

 

 思案した表情でグレイフィアは呟く。狙っているのか、それとも無意識なのか、鋭い雰囲気の彼女の言葉は、ルシファー眷属の「女王」としての威厳が感じられた。

 

「なにか起こるのですか?」

「いや、そういうつもりじゃないんですよ。ただ、大一くんの話では彼女もクリフォトに勧誘されていたらしいじゃないですか。結局は断ったものの、彼女の態度や協力した他のメンバーを踏まえれば、私たちに敵対心を抱いてもおかしくないと思うんです。

これから世界は大きく変化します。より力を求める時代に。今回はあまり表沙汰になっていませんが、『異界の魔力』も注目されるのは時間の問題でしょう」

「要するにアリッサは、その力に目をつけられて利用される可能性があるから逃げたと?」

「私の推測ですけどね」

 

 肩をすくめながら答えるグレイフィアであったが、その推測には説得力があるように思えた。「異界の魔力」を持つクリフォトのメンバーは、いずれも強い憎しみや怒りを抱えていた。同時に倫理や道理を外れたものも見ていた。それを思えば彼女の考え通り、アリッサはいずれ利用される可能性を考えて逃げた可能性はありえるだろう。

 

「前にアザゼルは、『異界の地』は行き場所が無くなった者がたどり着く場所、と話していました。自分は今回の戦いを経験して、それが事実だと実感しました。彼らの所業は許せるものじゃありませんが、同時にもっとなにか出来たのではないかと思うんです」

「…それを言い始めればキリがありませんよ。長い歴史の中で何度もあったことなのですから」

「ええ、理解しています」

 

 重い沈黙が2人の間に流れる。グレイフィアとしては若者の沈痛な悩みであったが、今の大一にとってはこれまでの責任感とは少し勝手が違った。「異界の地」…この存在は特別なものになっていたが、同時に確証は持てないゆえに誰にも話すことは出来なかった。

 

「そういえば、大一くんはレーティングゲームの大会には出場を考えていますか?」

「あー、いや…まだなんとも…リアス様から打診は受けているのですが…」

「無理に受ける必要はないと思いますよ。あなたはずっと抱えてきた。これからはもっと自分の道を歩んでも良いはずです」

 

 言い切ったグレイフィアは内心、このような言葉が出てくることに驚きを感じていた。これから大きく変わる新時代に、大一は必要な人物だと考えていた。そういう意味ではこの大会に参加することは、彼だけでなく冥界にとっても大きな意味を持つ。

 しかし同時にこの言葉を撤回するつもりも無かった。若い身でありながらリアスの支えやルシファー眷属としての仕事を期待以上に遂行してきた。その結果、神器の事件で精神をすりつぶし、弟を助けるために片腕を失った。挙句の果てには残った半身を大きく変えて、精神的支柱であった相棒も失った。それを思えば、彼はもう解放されても良いと思ったのだ。

 そんな彼女の言葉に、大一は目を丸くしていた。そして小さく吹き出した。

 

「おかしいことを言いましたか?」

「い、いえ…失礼しました。ただ先ほど話したサーゼクス様が私に残してくれた言葉と同じようなものだったので」

「それって…」

「ええ、あの人は言ってくれました。『大一くん自身のために未来へと進んでほしい』と」

 

 あの日、サーゼクスが魔王としての立場ではなく、ひとりの悪魔として大一に託したことは、愛する妻の無事と自分に尽くしてくれた少年の未来であった。ディオーグにも別れ際に伝えられたこの言葉は、自分で口にするのはあまりにも気恥ずかしく感じたゆえに先ほどは口をつぐむ方を選んだ。

 そして大一の言葉に、グレイフィアは熱い想いがこみあげてくる。今は離れているものの、愛する夫とのつながりが改めて感じられたのだ。それもひとりの眷属を通して。

 

────────────────────────────────────────────

 

 グレイフィアと別れた大一はその足でとある無人島へと向かった。そこには家族とグレモリー眷属たち、さらにはヴァ―リチームのメンバーが揃っていた。そもそも発端は前日の夕食の会話時に、なぜか父による熱い釣り語りが始まり、あれやこれやと話はまとまって、なぜか全員で釣りに行くことになった。もっとも大一はグレイフィアとの先約があったため、遅れて合流となったのだが。

 転移魔法陣から皆のいる島へと降り立った大一は、左手に封筒を握りながら最初に見つけた相手の元へと向かった。

 

「釣れたか?」

「わあああっ!び、びっくりさせないでくださいよぉ!お兄様!」

「ご、ごめん。まさかそこまで驚くとは…」

「うふふ、ギャスパーったらそんなに驚いちゃって」

「…私はギャーくんの叫びで釣り竿を落としそうになったよ」

「まあまあ、小猫さん落ち着いて」

 

 大一が後ろから声をかけたことに、ギャスパーは大声を上げ、隣に立つヴァレリーは穏やかに笑い、小猫はじろりと睨むように見て、それをレイヴェルが落ち着かせる。1年生組+αの組み合わせで、彼女らは釣りに勤しんでいた。バケツの中身はまだ小さな一匹しかいなかったが、のんびり穏やかな時間を彼女らなりに楽しんでいたようだ。

 そこに黒歌が嬉しそうに、大一に話しかける。

 

「おっと、大一も用事を終わったにゃん?」

「まあな。…ん?お前、釣り竿はどうした?」

「いやいや、私は食べる専門だからね。白音たちが釣り上げたのを、美味しくいただこうとしているのよ」

「だから上げないって言っているじゃないですか」

「もう、そんな意地悪言わないでよ。お姉ちゃん、白音が釣った魚を食べたいにゃ」

「自分で釣ってください」

 

 竿から目を離さずに小猫は答える。すっぱりと切り捨てるような内容であったが、その割には彼女の声は穏やかな印象も感じられた。

 そんな彼女たちに、大一は思い出したように言葉をかける。

 

「そうだ、2人とも。戦いの時に『異界の魔力』を持つ敵の感知ありがとう」

「…いえ、必要なことでしたし」

「そもそも、私の方には来なかったけどね~。あっ!それでご褒美なしとか言わないよね?」

「そんなこと言わないさ。というか、ご褒美ってココアの件だろう?それくらいなら、いつでも淹れる」

「にゃ!?嬉しいこと言ってくれるわ!言質を取ったもんね~。じゃあ、ご褒美は別でお願いしようっと」

「…相変わらずというか強かですわね。小猫さんのお姉さまは」

 

 黒歌が嬉しそうに体を揺らすのに対して、レイヴェルは何とも言えない表情で彼女を見る。その一方で、姉と比べて明らかに煮え切らない様子である小猫の横へと大一は立った。

 

「モックを祐斗と一緒に倒したんだってな」

「…実力で勝てたとは思えません。相手は冷静さを欠いていましたから」

「戦いは時の運もあるんだ。小猫たちが勝ったことには変わりないよ」

「…そうですね」

「なにかあったか」

 

 モックとの戦いを話題に挙げた瞬間、小猫の声の調子が僅かであるがさらに落ち込んでいた。彼女自身、それを理解していたため、大一の方から受け入れてくれる態勢を見せてくれたのは胸を撫でおろす想いであった。

 横目でちらりと姉の方を見る。今はギャスパーとヴァレリーと話しており、短い間なら大丈夫だろうと確信した。小猫は小さな声でつぶやくように話す。

 

「モック・ロッシュを倒した際に言われたんです。姉さまのことで仲間に頼ればいいと。ただの敵であったはずなのに…なんというか…昔のことや姉の件でシンパシーを感じたんです。だから妙にその言葉が耳に残って…」

「そうか…小猫はどうしたい?」

「私は…」

 

 姉の行動の結果、地獄を見せられたのは事実だ。そして後に彼女の愛情も知った。それゆえに板挟みになり、今日まで悩み続けていた。だが根底に黒歌に姉妹としての特別な感情を抱いているのも自覚はしていた。それを純粋にさらけ出せれば、どれだけ楽だろうか。しかしどうしても二の足を踏んでしまう。もし以前のように拒絶されたら、あの時のようにギラギラとした恐ろしさを目の当たりにしたら…。

 

「…先輩は受け入れてくれました。兄や姉って受け入れてくれるものでしょうか?」

「絶対とは言えないよ。弟や妹よりも長く生きているとはいえ、向かってくる想いを全部受け止められるとは限らないからな」

「…もうちょっと考えます」

「まあ、止めないけどさ。考える以上は、最終的に答えを出さなければって。俺も考えることが多くなって、最終的に苦労することが多いから思うんだけどな」

 

 大一の言い方は、どこか促しているようにも感じられた。結局のところ、自分は踏ん切りがつかない状態を後押しされることを求めていたのかもしれない。そんな考えが脳裏をよぎった。しかし似た境遇の相手の助言と大切な人からの言葉が、彼女の心を振るいあがらせた。おそらくすぐに戻るのは難しいだろうが…。

 

「…もしもの時は支えてくれますか?」

「前に言った時と答えを変えるつもりはないよ」

 

 意を決した小猫は、黒歌へと呼びかける。悪魔の寿命は長いが、関係を戻すのにもさらに時間がかかるはずだ。将来になって後悔を残すことにしたくない。

 

「姉さま、お魚が欲しいなら調理の時に手伝ってください。そしたら…えっと…一緒に食べましょう…」

 

 恥ずかしそうに尻すぼみになっていく小猫の言葉に、黒歌はキョトンとした顔で妹を見ていた。

 そして間もなく嬉しそうに近づいて、妹をぎゅっと抱きしめてわしゃわしゃと頭を撫でる。

 

「にゃはは、もちろんよ。一緒にね♪」

「く、苦しいです…まだそこまでは…」

「いいじゃん!姉妹なんだから!」

 

 小猫と黒歌の様子を見て、大一は小さく息を吐く。完全な和解ではなくとも、彼女たち姉妹は間違いなく1歩踏み出した。特に小猫は困惑しながらも、これまで大一が見てきた表情の中でも心から安心しているように感じられた。

 

「…大丈夫だろうな、小猫も」

「私も親友としてすごく安心しましたわ」

 

 いつの間にか大一の隣にいたレイヴェルは微笑む。潤んだ目を拭って落ち着くように呼吸を整えると、彼女は大一の握っているものへと視線を向ける。

 

「そういえばお兄様、その封筒はなんですか?」

「…ああ、これな。ファンレター貰ったんだよ」

「ファンレター!?」

 

 大一の発言に意外そうに声を上げたのは小猫であった。黒歌、ギャスパー、ヴァレリーも気になった様子で近くに来ていた。

 

「ギャスパー、大一さんってすごい有名人なのね」

「イッセー先輩と比べればそこまでじゃないはずだけど…」

「にゃはは、ギャーくん言うねえ♪でもこういうのって、まとめて管理されるものじゃないの?」

「グレモリー家に直接送られてきたんだよ。それでグレイフィアさんから渡してくれた」

 

 黒歌の指摘通り、一誠やリアスを筆頭に彼女たちへのファンレターや贈り物は数え上げればキリがない。それゆえにまとめて管理やチェックをしていた。しかしすでに大一は大手向きにはヴェネラナの眷属であったためか、その類のものはほとんど見られなかった。今回のファンレターもグレモリー家に直接送られていたため、そのまま渡されていた。封筒には『あなたのファンより』と書かれてある。

 

「女性からですか!?写真とかあるんですか!?」

「おっと、白音ったら焦っている~。赤龍帝ちんのような人気はないから、油断していたでしょう?」

「そ、そういうのじゃありません!どうなんですか、先輩!?」

「小猫が思っているようなものじゃないよ。ほら」

 

 大一から渡された封筒の中身を、小猫はすぐに確認する。他のメンバーも後ろから覗き込むように見ていた。文章量は多いが、内容は要約すれば、レーティングゲームの復帰を望むものであり、以前のサイラオーグ戦の時に感銘を受けたなどといったことが書かれていた。一人称は「俺」、語尾には「っす」などと読むほどに男らしさが滲み出るような文体であった。

 

「読む限りは…大丈夫そうです…」

「よかったじゃない、白音」

「か、からかわないでください…!」

「まあ、納得してもらえたなら良いだろう。さてと、俺も父さんたちの方に行って、竿を借りてこないとな」

 

 大一は小猫から封筒を受け取ると、そのまま感知して父たちの下へと向かった。打って変わった険しい表情を、仲間達に見せないようにしながら。

 

────────────────────────────────────────────

 

 数分後、大一は両親と合流した。父は釣りの教授を美猴やアーサー、ルフェイにしており、母はリアスと朱乃、それとなぜかウエットスーツを着ていたロスヴァイセとパラソルの下で話していた。彼が来るのに気づいた母が声をかける。

 

「あら、大一も来たわね。」

「ああ。先に小猫たちに会って話していたんだけどさ。ところでロスヴァイセさんはどうしてそんな恰好を?」

「潜って魚を捕っていたんです。けっこう捕れましたよ」

 

 得意げに胸を張りながら答えるロスヴァイセは、捕まえた魚たちを見せる。すでに5匹ほど捕まえており、彼女の技術の高さが垣間見える。

 

「お義姉さまは元気だった?」

「ええ、もうすっかり。落ち着いていましたよ」

「あなたがいてくれて助かるわ。私には無理して気丈に振舞おうとするときがあるんだもの」

 

 やれやれといった様子で首を振りながら、リアスはため息をつく。彼女も定期的にグレイフィアのところへ出向いているが、義理の姉という立場もあってか気丈に振舞うことが多いため、判断がつかないことが多かったらしい。

 そして朱乃の方は彼が持っているものに視線を向けていた。

 

「ところで大一。その封筒はなにかしら?」

「…ただのファンレターだよ」

「ファンレター!?」

 

 つい先ほどの小猫と同じような反応をしながら、朱乃は驚く。彼女にファンレターを渡して読むのを待ってから、大一はリアス達に神妙な声で話を切り出す。

 

「3人ともちょっと相談があるのですが」

 




さて原作では大会の方にフォーカスが当たりますが、こちらの方では…。
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