D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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ちょっと21巻で触れていなかった情報も出しています。


第209話 龍の心

 一誠の上級悪魔昇格儀式の前日、駒王学園では九重の学校見学があり、一誠やリアス達が対応していた。

 その一方で、グレモリー家の地下にあるフィールドでは2人の男が模擬戦を行っていた。白い鎧を身に着けたヴァ―リがジグザグに動き、四方八方から魔力で強化した拳を叩きこむ。このヒット&アウェイの戦法に、龍人状態の大一は、黒影で形成した錨でいなしていった。鋭い白銀の閃光を追うことは至難であったが、向かってくる攻撃を対応するだけの反射速度は充分であった。

 

「ならば、これでどうだ?」

 

 移動速度はそのままに、今度は複数の魔法陣を展開させると、様々な属性の魔法が撃ち出された。彼が学んでいた北欧の魔法は、実戦でも十分に通じるほどの威力であるのは間違いない。

 

『威力、手数ともに十分。だが守りなら俺も相応に自信がある』

『そして手数なら僕がいる!』

 

 大一の背中から黒い腕が4本も生えだしていくと、その手の平に疑似的な防御魔法陣が展開された。武器である感知と併用することで、どこから攻撃が向かってくるかを読みつつ、防いでいった。

 とはいえ、攻撃を防ぐことで黒煙が一気に展開される。この煙を隠れ蓑にヴァ―リは大一の後方へと距離を詰めていった。それに気づいた大一も素早く振り向くと、ヴァ―リの拳を真正面から錨で防いだ。鎧と硬化した錨がぶつかり合い、力と力が押し合う中、間もなくヴァ―リの方が後方へと大きく下がった。

 

「…このあたりで止めるかな」

 

 鎧を解除したヴァ―リは、ため息をついて首を横に振る。その態度は大一としてはどこか不全感を抱くものであった。今回の模擬戦はヴァ―リから誘ってきたものであるのに、勝手に期待外れのような反応をさせれば、眉間にしわの数本呼び込むのも当然であった。

 

「ったく、いきなり実力を試したいと言うから付き合ったのに、勝手に不服そうにされるのは気分悪いぞ」

「実際、期待外れだったからな。キミの新たな力を見れると思っていたんだが、どうもその気が無いようだからね」

 

 何を期待していたのかを理解した大一は、ようやく腑に落ちた想いであった。要するにヴァ―リは、彼の龍魔状態と戦いたかったのだ。すでに彼の新しい能力は「D×D」メンバーには知れ渡っており、一誠たちの前ではその姿を披露したこともある。身体が肥大化するため、インナーは特製のものが手放せない状態であったが。

 

「俺はそれに満たない相手と言うことかな」

「いや、少なくとも龍人状態で十分だと判断したから、発動しなかっただけだよ。そもそもお前だって、新しい力を見せなかったじゃないか」

 

 反論しながら、大一はフィールドの横で戦いの見学…というよりも、そこで菓子を食べながらぼんやりとしていたオーフィスとリリスを見る。オーフィスの方は身長が伸びて、グラマラスな体型となっていた。なんでも一誠の「龍神化」の負荷を肩代わりし、調整したことで姿が変わったのだと言う。おかげで隣にいるリリスとは本物の姉妹に見えた。

 一誠が彼女の力を借りて「龍神化」という進化を発揮したのと同様に、彼もまた彼女の助力により「魔王化」を発動した。ヴァ―リ、アルビオンの能力を過不足なく発揮した新たな形態は、アジ・ダハーカを見事に打倒したものであった。

 特に申し訳ない様子も見せずに、ヴァ―リは肩をすくめる。

 

「さすがに考えなしに出来るほどのものじゃないからな。このフィールドが耐えられるかわからない」

「だったら、俺にも求めるなよ。まったく、最上級悪魔の男だろうに」

 

 やれやれといった様子で、大一も反論する。今回の一件を通じて、ヴァ―リには最上級悪魔への昇格が決まっていた。一誠のように大々的に儀式は行わずに、秘密裏に昇格の話は進められた。仮にもテロリストとして表向きに行うのは世間体という大きな問題があったのだから当然ではあった。もっともあまり地位に拘らない彼としてはこの話自体は、煩わしさも思うと断っても良かったのだが…。

 

「そう簡単には変わらないさ。まあ、最上級悪魔になることで冥界では様々な特典もつくと言うしな。それにアザゼルの最後の意志でもある」

 

 サーゼクスと共に隔離結界へと飛び立ったアザゼル、彼との別れを痛烈に実感していたのは、他でもないヴァ―リであった。父親代わりの存在との別れは、彼に強い後悔と自身の無力を抱かせるものであった。

 同時に受けていた愛情も間違いなく心に根づいており、それをハッキリと気づかせてくれた。そこに信頼関係は間違いなくあったと、ヴァ―リは言い切れる自信もあった。戦いやまだ見ぬ世界への渇望だけでなく、「守る」という感覚を彼は学んだ。いやアザゼルだけではない。他の仲間や、トライヘキサと邪龍との戦いの前に探し出した母親との出会いも…。しかしこれを彼以外が知る余地は無かった。

 

「今回はお前もいろいろあったからな…」

「そういった同情はいらないぞ、兵藤大一」

「しないよ。それが出来るほど、俺も余裕があるわけじゃないからな」

 

 淡々と答える大一に、ヴァ―リは深く鼻から息を吐く。これで話の区切りがついたともいうように身をひるがえすと、出口へと向かおうとした。

 しかしすぐに思い出したように後ろを振り向いて、ニヒルな笑みを向けてくる。

 

「そうだ。レーティングゲームの大会、キミも参加するだろう?」

「その口ぶりからすると、お前の方は参加するんだろうな」

「当たり前だ。多くの強者が集まり戦うんだぞ。すでにキミとも縁があるサイラオーグ・バアルや曹操、デュリオ・ジェズアルドは参加を表明し、幾瀬鳶雄も登録は済ませている。しかも神クラスも何人か参加する。公式的に神に挑めるなんて、滅多に無いチャンスだからな」

 

 言葉の端々に興奮と昂ぶりが感じられる。戦いへの野心と渇望は彼の精神を燃え滾らせている。この大会への期待がハッキリと伝わってきた。たしかに今回の戦いは、悪魔だけのものでは無かった。様々な勢力が強者の捻出に躍起になっており、同時に今後は他の勢力でもレーティングゲームを取り入れようとする動きがあるため、参加する種族は多岐にわたっていた。

 

「リアス・グレモリーのチームとしてか、それとも兵藤一誠の方か…俺としては気になるところだね」

「…期待してくれるのは嬉しいが、俺はその大会に出ないよ」

 

 期待しているヴァ―リに対して、大一はきっぱりと言い放つ。理由は様々であるが、正式ではないにしてもルシファー眷属としての立場や、参加するのであれば自分の眷属を率いて参加したいという想いが選択を止まらせていた。先日の無人島での釣りの際に、リアス達にも事情を説明しており了承を得ている。

 

「…そうか。それは残念だな」

「意外だな。理由を聞いたり、出場を促すものだと思っていたんだけど」

「キミも兵藤一誠もその身体はひとりのものじゃないだろう?特にいろいろあったみたいだしな」

 

 ヴァ―リはそれだけ言って、フィールドから立ち去っていく。予想外の反応ではあったが、同時に彼の中でも何かが変わっているのが確信できた瞬間であった。

 大一は疲れたように身体を伸ばすと、オーフィスたちの下へと向かっていく。菓子を食べることに熱中して、そもそも模擬戦が終わったことに気づいていないように思えた。リリスはともかく、オーフィスは見た目が成長しても雰囲気がまるで変わっていないように思えた。

 

「終わったよ。帰るぞ」

「ん、わかった」

「リリスも行く」

 

 口をもごもごさせながら2人とも立ち上がる。さすがに放っておいて帰れば、何をしでかすかわからないため、最後の引率まで行わなければならなかった。

 オーフィスは疲れた表情の大一にバナナを差し出す。

 

「ディオーグの宿主、上げる」

「ありがとよ」

「ディオーグ、バナナ好きだった?」

「いや、あいつはそこまででもなかったな。美味いとは言っていたけど」

「クロウ・クルワッハはバナナ好き。ドラゴン、バナナ好き多い?」

「別にそういうわけじゃないと思う。そもそも…あー…とにかく、このバナナはもらっておくよ」

 

 彼女から受け取ったバナナの皮を剥いて、大きくかぶりつく。その甘みは疲労に染み渡るような感覚であったが、同時に模擬戦後としてはこの絡みつくような食感は微妙にも感じた。

 

「ディオーグ、もういない。求めているもの、分からなかった」

「…そうか。俺も似たようなものだ。あいつの記憶を得ても、確証は持てないんだ」

「宿主はディオーグの代わりをする?」

「どういう意味だ、それ?」

「強い覚悟があるように見えた」

 

 さらりと言い放つオーフィスに、大一は特別反応も見せずに2人ともにフィールドから去っていく。頭の中では表向きの様子とはまったく違う動揺した雰囲気でシャドウに話しかけていたのだが。

 

(顔に出ていたか…?)

『いや、野生の感みたいなものだよ。慌てていると、逆に感づかれるって』

 

 シャドウのとりなしに応えるように、静かに息を整えていく。先ほどヴァ―リには話していなかったが、大一にとって大会に参加しない本当の理由は、優先するべきことがあるからだ。それを終わらせない限りは心から臨むこともできないため、レーティングゲームの大会に出ることは見送ることを決意していた。

 

────────────────────────────────────────────

 

 あくる日、オカルト研究部のメンバーは冥界にある列車へと乗り込んでいた。そこにはリアスの両親や、兵藤家の両親も乗っている。彼らがこれから向かう先は、魔王の領土にある巨大な式場であった。そこで一誠の上級悪魔昇格の儀式が執り行われるのであった。

 一誠は朝からグレモリー城で今日の日程の確認やリハーサルを行っており、なんとも忙しなさが感じられる。加えて城から出発してこの列車に乗るまでも、多くのマスコミに囲まれるなど、すでに疲れを感じるような出来事の連続であった。

 しかしこの列車の中でもっとも緊張しているように見えたのは兵藤家の両親であった。それに気づいた一誠が心配そうに声をかける。

 

「…ところで父さん、母さん、やけに緊張しているようだけれど…大丈夫?」

「あ、ああ、そ、そりゃ、大丈夫だ!なあ、母さん?」

「え、ええ、もちろんよ!初めてのところで緊張しているだとか、息子の晴れの舞台で舞い上がっているわけじゃないのよ!」

 

 2人の答えに一誠は恥ずかしそうに頭を掻く。すっかり緊張に参って、のぼせ上っているような反応に、息子としては羞恥心が掻きたてられた。

 そんな2人を安心させるように、リアスの両親が言葉をかける。

 

「ご夫妻、どうか、気持ちを落ち着かせてください。お二人は式場の関係者席でお座りいただくだけでいいのです」

「そうですわ。息子さんの姿を見守るだけでいいのです。式場に呼ばれるのは一誠さんの『王』であるリアスと、とうの本人たる一誠さんだけなのですから」

「…そ、そう言われると、今度は俺が緊張してきたんですけどね」

 

 リアスの両親言葉は、逆に今回の主役である一誠の緊張を駆り立てていた。あと数時間もすれば、彼を中心とした壮大な式典が始まる。多くのお偉方やマスコミ、世間がこぞって注目する。考えてみれば、冷静でいろという方が無理な話であった。

 

「あなたはもっとすごい場面を何度も経験しているのだから、これぐらい慣れなきゃダメよ?ロキだって、リゼヴィムだって、殴ってきたじゃないの」

 

 緊張ですっかり固まっている一誠に、リアスを筆頭に皆が笑う。見方しだいではあるが、一誠からすれば戦闘の時の方がはるかに気楽であったのは否定できない。

 そんな彼はまるで動じずに座りながら、アイスコーヒーを飲んでいた兄の下へと向かう。

 

「兄貴は全然緊張していないな…」

「仮にも家の中では、もっとも冥界に慣れている俺が動揺すれば、それこそ父さんたちはもっと変な感じになるだろうよ」

「まあ、それもそうだけど…」

 

 一誠は疲れた表情で、兄の向かい側に座る。両親の様子とは対極にあるようなその姿には、一種の頼もしさすら感じられる。

 

「義手はしていくんだ」

「そうだな。いちおう二の腕の半分から下が無い状態だから、つけなくてもスーツ着るのは問題ないんだ。しかしせっかくの式だからな。…そういえば、まだお前に言ってなかったな」

「なにが?」

「上級悪魔の昇格、おめでとう。大したものだよ」

 

 小さく笑みを浮かべる大一の言葉に、一誠は気恥ずかしそうに頬を掻く。式への緊張とは違う感覚が身体中を駆け巡っていた。

 

「…ありがとな、兄貴」

「正直、こんなに早くなれるとは思わなかったけどな」

「俺だってそうだよ。まさか1年以内にここまで来れるとはさ」

 

 上級悪魔になってハーレムを作る、その目標はもはや遠い未来ではなく現実的なものとなっていた。それは心から喜ぶべきものであったが、同時にここまで来るのに失ったものも多かった。最近ではサーゼクスやアザゼルとの別れは、彼の心に鋭い杭を打たれたようであった。

 その気持ちを吐き出すように、一誠は兄に話す。

 

「でも不安が無いわけじゃないんだ。上級悪魔になれば、今までとは勝手が違うだろうし…」

「上級悪魔になるのは、大きな責任と期待を伴う。言わば、永い悪魔人生の中でこれはひとつのスタートだ。ここからお前がどうするのか、それが直接的な評価にもなっていく。しっかりと考えるべきなんだろうな」

「兄貴、手厳しいな!」

「一般論を言ったまでだよ。ハーレム作ってハイ終わり、といかないのはお前だって理解しているだろ」

「そうだけどよ…」

 

 自分なりに考えは持っているつもりであった。しかし改めてその問題を直面化させられると、どうにも不安が泉のように湧いて出てくるのであった。

 

「だがそのための眷属でもあるんだ。信頼できて、背中を預けるにふさわしい相手、そういったメンバーを見つけていけばいい」

「兄貴、上級悪魔じゃないのにそういった考えをよく持てるよな」

「嫌味か、お前ッ!仮にもルシファー眷属として、いろいろ学んできたつもりだからな。それに不安を煽るようなことは言ったけどな、まずは今日をしっかり終えることからだろう」

「…そうだな。まずは上級悪魔への昇格をしっかりと終わらせる」

 

 一誠は気合いを入れなおすように頬を軽くたたく。目の前のことを終わらせる、考えるのはそれからだ。それに何かあったとしても、仲間やこれまで培ってきた経験が彼を支えていた。気づけば彼の持つ緊張感はだいぶ消えていた。

 そんな弟を見て、大一は短く息を吐く。これから上級悪魔になるのに、その単純な面は相変わらずだと感じられた。おそらくこれからも同じようなことは繰り返されるだろう。それでも彼は受けている期待には応えていくのだろう。

 

(俺がいなくても大丈夫だよな)

『だからこそ超えていこうぜ』

 

 ギラギラと野心に満ちたシャドウの声が頭に響く。大一はその言葉を否定しなかった。それが何を意味するのか自覚しているものの、言葉としては出さず、ただ心の中で力強く燃え上がらせていた。もっとも…

 

「ところでご夫妻。実はこのようなものを作りました。『おっぱいドラゴン牛乳』といいまして、グレモリーの領地で育てている冥界乳牛から取れるミルクに独自の製法を───」

「まあまあ、これはうちの子を模したとかいう作品の関連───」

「喉ごしも良くて、甘みもありますな!これなら子供からお年寄りまで───」

「今年の夏までには商品化を目指しまして。もちろん、それによって発生する著作権使用料はご子息のもとに───」

 

 両親とリアスの父の会話の方にすっかり気を取られてしまうことになったのだが。

 




ということで、大会にオリ主は出ません。
そうなると、原作で戦っていたあの人が物申したくなると思います。
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