オリ主は大会に参加しないので…。
卒業式を終えた3年生たちの反応は多種多様であった。笑い合う者、涙を流し合う者、思い出にと写真を撮る者…それぞれが滾る熱い感情を胸に抱えていた。
そんな中でリアス、朱乃、大一は卒業証書の入った丸筒を持って、校門をくぐっていく。彼女たちを出迎えるのは、オカルト研究部のメンバーであった。卒業する3年生だけでなく、在校生たちもそれぞれ想いを抱えていた。さっそく、その想いを告げるにあたって一誠に背中を押された、祐斗、小猫、ギャスパーが緊張感のある面持ちで話す。
「あ、あの…卒業おめでとうございます」
「おめでとうございます」
「おめでとうございます!」
「ええ、ありがとう、祐斗、小猫、ギャスパー」
後輩たちからの祝福にリアスはにっこりと微笑む。そんな彼女を前に3人は気恥ずかしそうにもじもじしていた。
「そ、それで…卒業されて…もう、駒王学園高等部の…オカ研の部長も引退されましたし…」
「もう、3人ともどうしたの?いつものあなた達らしくないわ。何を言いたいのか、ハッキリ口にしないと───」
「───リアス姉さん」
「リ、リアス姉様…」
「リ、リアス、お、お姉ちゃんっ!」
リアスの言葉を遮りながらも、祐斗は意を決して言葉を紡ぐ。それを皮切りに小猫とギャスパーも続いていった。3年生の卒業が迫る中、祐斗たちは一誠を筆頭とした今年入ってきたメンバーに、リアスへの呼び方について相談していた。自分たちを救ってくれた頼れる恩人、祐斗たちにとっては彼女は姉のような特別な存在であり、その感謝と思いを包んだ呼び方であった。「部長」に代わるこの呼び方について、一誠達の後押しもあって、彼らは伝えたのであった。
それを受けたリアスは虚をつかれたようにポカンとしたが、すぐにぼろぼろと目から涙をこぼしていく。
「まったく、門をくぐったら、卒業式より感動させることを言われるなんて思ってもみなかったわ」
眷属を家族のように大切にしていた彼女としては、祐斗たちの言葉は喜びで心を震わせるほどであった。涙が落ち着くと「もう1度呼んでほしい」と言って、さらに上機嫌になるのであった。
「あらあら、私もお姉ちゃんって呼ばれたいですわ」
「朱乃さんのことも姉だと思っていますが…『朱乃さん』呼びがどうにも公私でカッチリしてしまったというか…大一さんの方も『さん』や『先輩』で凝り固まってしまって…」
「俺は呼び方なんて気にしないけどな」
申し訳なさそうに答える祐斗に、朱乃はからかうような笑みを、大一は気にしていないというように肩をすくめる反応を見せる。
それでも後輩としてフォローしなきゃと思ったのか、ギャスパーがあたふたと答える。
「い、いずれ、お呼びします!今回はリアスお姉ちゃん呼びの心の準備だけで、精いっぱいでしたぁっ!」
「…ギャーくんは朱乃さんや大一先輩のこと『お姉様』『お兄様』って呼んでいるからいいんじゃないの?」
「…ハッ!」
小猫の突っ込みに全員が笑う。平和を感じられる和やかな時間、特別な先輩たちが卒業していくのに一誠には幸せがもたらされている気持ちであった。それを噛みしめるほどに、彼もケジメをつけることを決めていた。
一誠は一歩前に出ると、恥ずかしそうに頬を掻く。
「リアス、卒業おめでとう。今日から、俺、キミと普通に話せるようにしようと思っている。俺なりのリアスへの敬語を卒業…ってやつかな。公の場で、主に対しての敬語を使わざるを得ない場面はあるだろうけど、それ以外はどこであろうと、こうやって気兼ねなく話せればいいかなって」
「ええ、嬉しいわ。今日は本当に最高の卒業式になったわ!」
一誠にとって、リアスと付き合っても会話に困ることは少なくなかった。少しずつ育んだ関係性であったが、やはり主と眷属の立場の違いから混乱することも多かった。そういう意味でもこのケジメは必要であった。
同時に仲間達に宣言する。平和や恋人との関係性だけではない。シヴァに指摘された強者を求める姿勢からであった。
「そして、もうひとつ皆には聞いてほしい。俺も、俺だけのチームでレーティングゲームの大会に出る。アーシア、ゼノヴィア、レイヴェルは俺についてくると覚悟を決めてくれた」
一誠の決意を止めるものはいなかった。むしろ彼がここまで参加表明をするのを引っ張っていた方が珍しいくらいだ。
それに呼応するように、リアスも改めて宣言する。
「私も参戦するわ。将来、レーティングゲームに正式に参戦する以上、今回の大会は持って来いの催し。どんな結果になろうとも、参加することは大きな経験になる。たとえ、あなたと戦うことになったとしても───」
2人の間に、緊迫感が張り詰める。大切な仲間で愛する者同士であったが、この瞬間から明確に強いライバル意識も抱くのであった。
「ロスヴァイセ、私や大一とした約束は頼むわね」
「任せてください。私はイッセーくんのチームに行きます」
胸を張って答えるロスヴァイセに、リアス、朱乃、大一以外のメンバーは驚いた。当然、もっとも狼狽えていたのは一誠であり、口をあんぐりと開けながら問う。
「ど、どうしてまた…?」
「上級悪魔として日が浅いあなたには、いざという時に頼れる相手が必要だわ。それにロスヴァイセの力を最大限に活かすのであれば、イッセーのチームの方が良いと思うの」
「俺としてはありがたいですけど…ロ、ロスヴァイセさんはそれでいいんですか?」
「ええ、すでにリアスさんとは話しました。教師として、仲間として、皆さんを助けますよ」
妙に頼もしい雰囲気を醸し出しながら、ロスヴァイセは答える。実際、ロスヴァイセの戦闘スタイルは似たようなことが可能なリアスや朱乃がいる彼女たちの下よりも、一誠のチームの方が活用できるだろう。一誠としても年上の頼れる相手がいる方がありがたかった。
もっともこの提案の発端は大一であった。上級悪魔として日が浅い弟のサポートとして、大会に参加する際には、特別な信頼を寄せる彼女が助けてあげて欲しいと、先日の休日での釣りの場面では頭を下げて頼み込んでいた。
リアスも新たに眷属にしたメンバーは、心のどこかで一誠によって引き寄せられた節があると考えていた。そのため「アザゼル杯」では、改めてチームを編成することを決めていた。
当の本人であるロスヴァイセも、主と惚れた相手の意図を汲むのと同時に、自分を最大限に活かすためにも、今回のようなことに至った。
そんな中、今度はイリナが少し縮こまったように挙手をする。
「あ、あの…私の意志表明も聞いてもらえるかな?いま、天界でも転生天使を中心にした大会参加チームが構成されているわ。ジョーカーを『王』としたチームが、すでに構成され始めているの。でも、私は今回そこに入るのは止めようと思うわ。───私は、イッセーくんのチームに入りたい」
天界は彼女にとって特別な領域であった。しかし本気で惚れた相手や親友と共にいる、その願いに正直に生きるという想いが今回の決断に至らせていた。上級悪魔昇格の儀式の後に決心した彼女は、すでに天界の上司たちにも連絡して許可を受けていた。あとは当事者がどう答えるか、その一点だけであった。
「イリナが来てくれるなら、これほど心強いことはないよ。入ってくれるのか?」
「ええ、もちのろんよ!ダーリン!」
続々とチームが組みあがっていくことに、一誠の気持ちは更なる昂ぶりを感じていた。リアスとの関係性の発展、アザゼル杯の出場、これらを終えたことで段階的に上がってきた気持ちは、いよいよ最高峰に達するために最後の決心を言葉にした。
「最後に大切なことを伝えたい。いつか、必ず俺はリアスと肩を並べるというか…対等な関係になる。同じ上級悪魔として、誰から見ても釣り合っていると、お似合いだと言われる2人になりたい。つまり、その───将来、俺と共に歩んでほしい」
将来を約束するプロポーズ、その言葉は周囲の仲間達を湧き立たせた。だがその盛り上がりもプロポーズを受けたリアス本人の気持ちには遠く及ばなかった。本当に不意打ちだったようで、自慢の紅い髪にも劣らないほどに顔を紅潮させている。
間もなく瞳に涙を溜めながら、ハッキリと答える。
「…はいっ」
「よっしゃああああああっ!」
『おおおおおおおっ!』
一誠のやり切った叫びと仲間達の興奮の歓声が上がる。彼の本気の告白は新たなスタートであり、互いの気持ちを最大まで高めていた。
騒ぐ仲間達の様子を見ながら、大一と朱乃は小声で会話する。
「よく皆の前で言えるものだ」
「あらあら、いいじゃない。私は好きよ。イッセーくんが試合中に告白した時はリアスがちょっと羨ましいって思ったもの」
「ああいうのに憧れるってことか。しかしなぁ…」
困ったように頭を掻きながら大一は答える。この驚きの連続で大声を上げていたせいで、遠くから一誠の友人の松田と元浜が向かってくるのが見えていた。彼の卒業は仲間と過ごすだけでなく、いつものような友人や後輩への説明にも費やされるのであった。
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卒業式を終えた一行は、兵藤家の地下に集まってささやかなお祝いをしていた。もっともささやかという言葉を使うには人数も多く、すでに2次会を終えて3次会にまで差し当たっていた頃なのだが。
ひとしきり祝われた大一は、壁に寄りかかりながら一誠とリアスがロスヴァイセのトレードをしている様子を眺めていた。肩からはシャドウが血走った眼でギョロつかせながら、酒瓶を自身の黒影の部分に突っ込んでいた。
『くっそ!赤龍帝ばっかり!神滅具持ちばっかり!』
「落ち着け、シャドウ。それじゃ、くだをまいている酔っ払いだぞ」
『言っておくけど、僕は神器だからアルコールを飲んでも酔わないんだよ。味覚を共有しなければ、酔いが大一に行くこともないしな』
「じゃあ、なんで飲んでいるんだ?」
『気分!』
すでにシャドウは父親たちと5回ほど乾杯しており、かなりの量を飲んでいるはずなのにまるで酔っぱらった様子はなかったので、彼の言葉は正しいのだろう。とはいえ衣食も可能という時点で他の神器とは明らかに違っており、改めて彼の特殊性を目の当たりにしていた。
大一としては、シャドウが不満を漏らすのも理解はできた。チーム集めに告白の成功、友人へのリアスとの関係性のカミングアウトと、傍目から見ればこの日も一誠はことごとく成功の連続であった。もちろん、大一自身が不満を抱いたわけではないが、いまだに神滅具持ちに良い感情を持てないシャドウからすれば嫉妬による文句が出るのも不思議ではなかった。
そんな大一にひとりの男性が声をかける。バラキエルであると気づいた瞬間に、大一は姿勢を正そうとするが、彼は気にしないというように手を振った。
「少しいいかな?」
「は、はい。なんでしょうか?」
落ち着くことを自身に言い聞かせるものの、その声はどこか上滑りしたような雰囲気であった。
バラキエルは大一の横に同じように壁に寄りかかる。
「まずは卒業おめでとう。いろいろあった学生生活だろうが、良い卒業式だった」
「ありがとうございます」
卒業の際に号泣していたバラキエルの顔が思い浮かぶ。クラスメートでも何人か気にしていたほど印象的であったため、心からの言葉のように思えた。
そんな彼はリアスの近くでトレードを見守っている朱乃に視線を向ける。
「赤龍帝は告白をしたそうだな」
「ええ。リアスさんもそれを受けました」
「そうか。…あまり人の色恋沙汰に首を突っ込むべきでないことは分かっている。しかし娘のこととなれば、話は別だ。正直に言おう。大一くん、私はキミがこのまま朱乃と付き合い続けることを心配している」
バラキエルの言葉を聞いて、大一は驚かなかった。むしろ当然だとすら思っていた。一誠のように強さや名声は無く、変わり果てた姿を踏まえれば安定性に欠ける。またアザゼルから女性関係についても聞いているだろう。それを踏まえれば、愛する娘を預ける相手としては不安が残るだろう。
しかしバラキエルが不安を抱いた最大の理由は、大一の不器用な気真面目さが自分と重なるからであった。自分がかつて愛する妻を守り切れなかったことが頭をよぎる。そして大一自身も、バラキエルの想いを無意識に理解している節があった。
「私は朱乃が幸せであることが一番だと思っている。それを見極めるためにも今度の『アザゼル杯』では期待していたのだが、キミは出場しないようだからな」
これを言って、その心配が解消されるなどとバラキエルは考えていなかった。むしろこれを伝えること自体、大人げないことも自覚している。
それでも愛娘の幸せを最優先にする彼としては、どうしても物申しておきたかった。
「ハーレムを作るのを否定はしないが、それで朱乃が悲しむのであれば…別れた方が…」
『なんだと!この親バカ堕天使!大一が赤龍帝に劣るとでも───』
「シャドウ、やめろ!…バラキエル様、今どれだけ自分が決意を話しても、薄く感じると思います。自分にはその言葉を支えるような目に見える実績はありませんから。それでも…」
言葉を切った大一は制服の襟を正し、バラキエルに向き直る。
「私は今でも彼女を愛しています。それだけは変わらない事実です」
「その愛が変わらないという保証はあるのか?」
「今はまだ…しかし必ずやあなたに認められるように精進します」
目の前の少年と会ってからまだ1年も経っていない。それにもかかわらず、彼の姿は二転三転と酷い状態だ。見た者が驚き、恐れ、心配を感じるような見た目であった。心もとなさが付きまとうのにも関わらず、なぜか今の言葉はバラキエルの耳に強く焼きついた。まるで亡き妻への想いを吐露する自分のように…。
「…期待しよう」
それだけ答えると、バラキエルは離れて飲み物を取りに行った。その後ろ姿を見ながら、大一の頭の中ではシャドウがギラギラと野心的な声を上げた。
『尚のこと、今日は負けられない理由ができたね』
(元より、そんな悲観的な考えは持っていない)
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その日の深夜、祝うのも終わって皆が寝静まった頃、大一はベッドから起き上がる。隣で穏やかな寝息をしている朱乃を起こさないように注意しながら着替えていく。バアル家とのレーティングゲーム時にも使った特殊な加工をした制服だ。そして悪魔のローブに身を包み、最後に机にしまっていた先日のファンレターが入った封筒を持って、部屋を出ていく。
そして地下にある魔法陣部屋に到着すると、時計を確認する。約束の時間には充分に間に合うことを理解すると同時に、持っていた封筒を強く握る。この封筒の中に入ってあるファンレター…これに『異界の魔力』を感じたことで、ただの手紙でないことに気づいた大一は、魔力を通して書かれていた本当の内容を知ることとなった。時間と場所の指定、そして誰にも話さないことを釘刺すような文言しか書かれていなかった。傍から見れば罠にしか思えないこの手紙を、大一は正直に受け取ることを選択した。必ずあの男から接触してくる、それを自覚していたからこそ、差出人も書かれていないこの手紙を信用していた。
『やっぱり誰かに話しても良かったんじゃないの?その手紙に「世界が終わることになる」なんて陳腐な脅し文句は書いているけどさあ』
「気持ちはわかるが、どうもユーグリットの言葉が引っかかるんだ。それに…いや…とにかくそろそろ行こう」
大一は息を吐きだすと、転移魔法陣に魔力を流し目的地へと向かうのであった。
さて、いよいよクライマックスが近づいてきました。