D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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いよいよラスボスとの対峙です。もろもろ設定の開示もあります。


第213話 異界と信念

 卒業式では快晴であったが、国が違えば天気も違う。闇が包む夜空をさらに覆うように黒い雲からは、大量の雨が降り注いでいた。大一が何度か転移を繰り返してたどり着いた場所は、ひと月近く前に無角と戦った奇妙な屋敷の近くであった。

 傘代わりになるシャドウとローブのおかげでなんとか雨をしのぎながら、魔法を使って光を照らす。悪魔なのだから夜間でも目は慣れているはずだが、この雨では視界があまりにも不安定であった。幸先の悪さを感じながらも、大一は例の屋敷を目指していく。

 10分後、例の屋敷を見つけると、雨宿りもかねて足早に入っていく。室内は暗く、無角との戦いで壁が壊されていたため、部屋の区切りは無いようなものであった。

 

『…ここにいるはずだよな?』

「奴が提示していたのはここだ。時間もそろそろだが、人の気配は───」

 

 大一は言葉を切ると、奥を睨むように目を細める。暗闇の中からローブを来た者が現れたのだ。確認した瞬間、シャドウは右肩から血走った眼を走らせる。

 

『来たな、サザージュとやら。戦うなら…』

「待て、シャドウ。こいつは違う。生命力を感じない」

 

 ローブを来た何者かは後ろを振り向くと、ひょこひょことおぼろげな足取りで屋敷の奥へと進んでいく。まるで誘導するような動きであり、大一は見失わないようについていった。少し歩いていくとローブの人物は足を止める。一見、何もなさそうであったが、大一が近づくと床が光りだす。かなり古い文字で描かれた魔法陣が記されていたようで、発せられた光は再び大一の姿をこの場から消し去った。

 一瞬の浮いたような感覚から、すぐに足が地面へと着く。雨に濡れた土や木材の匂いは消えさり、肌を刺すような寒さが感じられた。転移した場所の周辺には雪がわずかに地面を覆っており、目の前には巨大な洞窟の入り口があった。ローブの人物が洞窟へと入っていくのに対して、大一も足早に後を追っていく。

 洞窟に入ってさらに15分ほど歩き続けると、ようやく開けた場所にたどり着いた。学園の体育館をさらに二回りほどした広さであり、無造作にテーブルや棚が置かれていた。この不自然さに加え、天井には鈍い赤い光を放っていた大きな宝石のような存在が埋め込まれており、洞窟一帯を不気味にしていた。定期的に心臓のように脈打つため、辺りが魔法陣の光に照らされていても、天井の存在には気になった。

 もっとも視線の先にいる人物から、注意を背けることは無かったのだが。

 

「来てくれたな」

 

 白と黒の入り混じった髪、ギラギラと野心的な光を宿した瞳、見た目は記憶していた時よりもやつれていたが悪辣さがにじみ出ている。クリフォトの残党であるサザージュが出迎えるように腕を広げながら歩いてきた。

 

「俺の手紙に気づいてくれて嬉しいよ。誰にも話してないな?」

「話しても用意周到なお前のことだ。問題は無いんだろ?」

 

 大一はここまで案内したローブの人物に目を向ける。今はくたりと倒れており、ローブの中からはマネキンが見えていた。

 

「まあな。わざわざ魔力でマネキンを操り、さらに教会の奴らが使う抑える服とローブを身につけさせて案内した。しかもこの場所には屋敷にも仕掛けた『異界の魔力』を持たないと入れない結界を張ってある。それでも…俺はお前なら約束を守ると思ったがな」

 

 自信ありげに、どこか芝居がかった話し方で答える。その姿は英雄派のスパイであった時や正体を垣間見た醜悪さとは違った雰囲気…ユーグリットの言葉を借りるのであれば、底知れない様子がそこにあった。

 

「…ダメだな。いよいよ成功が近いと昂ってしまう。さて兵藤大一、まずは話そうじゃないか。茶でも淹れよう」

「俺は敵であるお前とお茶会をするために来たんじゃないぞ」

「だがお前は知りたいはずだ。『ディオーグ』や『異界の魔力』についてな。俺はお前よりは遥かに情報を持っている。せっかくだから、共に真実を語り明かそうじゃないか」

 

 テーブルがガタガタと動き、大一とサザージュの間に割り込むように鎮座する。椅子も同じように動き、サザージュはどこからともなくティーポットとカップを出して、湯気の立つ紅茶をそれぞれに注いだ。さらにテーブルにはミルク入れや角砂糖、はちみつなどが次々と現れた。

 サザージュは身を投げ出すように椅子に座ると、さっそく一口飲む。

 

「魔力で淹れてもそこそこの味は出せる。しかし限界はあるから、味の調節は自分でやってくれよ」

「…毒は入っていないようだな」

「ディオーグと完全な融合を果たしただけはあるな。匂いだけで分かるのか」

「煽ってるのか?」

「いや本気だ」

 

 苛立ちながら、大一は挑戦的に紅茶を飲む。味は良くないが、雨や雪にさらされた後では、温かい飲み物は非常に美味しく感じられた。

 しかし隙は見せずに警戒を強めていた。相手が敵であるのはもちろんだが、どうも先ほどの会話から気にかかることがあった。

 

「その口ぶり…お前はディオーグを知っているな?」

「ああ、知っている。その実力や恐ろしさも。しかしお前だって同様だろう。完全な融合を果たした、それによって記憶も流れ込んでいるはずだ」

 

 大一は眉間にしわを寄せる。この男はどこまで知っているのだろうか。まるで全てを見透かしているように話す様子は、気味が悪かった。

 

「…思い返せば、あいつの正体を知るヒントは何度かあった」

 

 大一はポロリと言葉をこぼす。いくら感知能力が優れているとはいえ、別次元の相手を簡単に察知できるだろうか。オーフィスやグレートレッドは他の勢力でも行っていたが、一誠しか気づかなかった別次元の乳神の存在まで感知すると常軌を逸していた。そしてディオーグの記憶と照らし合わせ、大一はひとつの仮説にたどり着いた。

 

「ディオーグはこの世界の存在じゃないんだろう?」

 

 ディオーグはこことは違う異世界から来た、大一はそのように考えていた。クリフォトの話していた異世界の存在、それがひとつとは限らない。過去に文字通り自分のいた世界を破滅させてから、より強い強者を求めてグレートレッドやオーフィスと戦う。その際に横槍を入れられて、この世界へと降り立って、ひとしきり暴れると、数日後に封印される。かつてディオーグが語っていた話とも合致する仮説であった。

 

「オーフィスがグレートレッドに住処を奪われた頃だろうから、封印されたのはかなり昔のはずだ。知らない者が多くてもおかしくはない。それでも伝承も残っていないのは気になるが…」

「しかしそれが事実であることは、記憶を共有したお前は気づいているだろう。そして封印のことにも気づいているなら、『異界の地』がどういうものなのかも予想しているんじゃないか?」

 

 大一は渋い表情で、促してくるサザージュを睨む。会話の主導権は完全に相手が握っていた。もちろんこの一件について解き明かしたいものの、敵の意図が読めずにヤキモキする。時間稼ぎか、情報の引き出しか、それとも気まぐれか…。

 

「俺が思うにお前は『異界の地』は何度か行っているはずだ」

「…そうだな。俺は2回行っている。魔獣騒動の時に1回、そしてその前に…ディオーグに呼び寄せられて1回だ」

 

 これもディオーグと融合して気づいたことであった。あの次元の狭間の中で、ディオーグが「異界の地」へと繋がる場所を見つけられたのは、彼が長い期間封印されていた場所であり、同じ魔力を引き寄せやすいものであったことが推察される。ディオーグ自身、あの地に降り立った際には気づいていたようだが、彼はそれを言葉にしなかった。おそらく彼自身にとっても不確定なものだったのだろう。

 つまりあの幻のような土地の正体は…。

 

「『異界の地』はディオーグが封印されて生まれた場所だろう。そして『異界の魔力』は封印し続けられたあいつの力が滲みだして、あの地で特殊な変化を果たしたものだと思っている」

「…ほとんど正解だ。そこまで気づいているとはな」

「お世辞は止めてもらおうか。お前は俺がここまで予想できると思っていたんだろう?」

 

 大一の声には刃のような鋭さがあった。記憶を引き継いだ中で、ディオーグとある人物の会話が流れ込んでいた。辺り一帯はクレーターだらけで激戦の跡を感じさせ、ディオーグの巨体を相手に対面する黒髪の青年が睨み合っていた。

 

『ディオーグ、貴様は危険だ。私の力でも封印が限界だ』

『舐めやがって!まだ決着はついてねえぞ!かかってこい!』

『危険なのは力じゃない。その傲慢さだ。まるで自分ひとりを信じていないような…だからこそ、この魔法を伝える。いつか本当に信じられる人物が現れた時に、その力を正しく使えるように』

『潰してやる!』

 

 その瞬間、巨大な魔法陣が複数ドーム状に張られていき、目の前の男の生命力が弱まっていくのと同時に、ディオーグの身体は魔法陣の光が鎖のように巻きつき、複数の鉱石で包まれていった。

 

「ディオーグを封印した人物…見た目はだいぶ変わっているが、お前がそうなんじゃないか?」

 

 サザージュは椅子の背もたれに寄りかかりながら瞑目する。大一の言葉を頭の中で反芻させながら、噛みしめるように頷いていた。やがて感情をどこかに置き去ったように、彼は淡々と話し始めた。

 

「…彼の名前はノロ。ディオーグや乳神のように別世界の存在だ。不思議な男でな。正義感に溢れており、持ち前の実力と技術で幾多の世界を渡り歩いて平和をもたらしてきた。そんな彼がこの世界に現れた恐ろしい力を持つドラゴンと対峙して、命をかけて封印をした。死にこそしなかったが衰弱しており、この世界での隠遁生活を決めていたんだ」

 

 そこで言葉を切ると、サザージュは右手を見る。そこには魔力が宿っており、引き寄せられるような感覚を抱いた。

 

「この『異界の魔力』はディオーグからにじみ出た力と、ノロの封印による魔力が混ざり合って生まれたものだ。あの地全体に宿っており、それが幻の土地となった所以だろう。基本的にはあの地に長い期間いた上で、さらに1部の強者にしか宿らない。お前はディオーグの繋がりがあったから、たった2回しか行かなかったのに宿ったんだろうな。それは俺も同様だ」

「つまりお前は…!」

「偶然だった。俺は世界のあらゆる場所を回っていた時に、朽ち果てかけていたノロに出会ったのさ。身体以上に心が死にかけていてな。あれほど幾多の世界を救ってきた男は、3大勢力の戦争やトライヘキサの暴虐、二天龍や邪龍といった存在などで世界に絶望を感じていたのさ。そして最後の望みとして、俺に教えてくれたのさ。ディオーグと融合したものと同じ魔法を」

 

 サザージュの話は、大一の背中に冷たいものを走らせた。目の前の敵は、言わば自分と同じような存在なのだろう。

 だがそれでも腑に落ちなかった。それほど正義と平和を求めていた男の意志を無視して、サザージュはテロリストとして活動していることに納得など出来るはずもなかった。

 

「だったら…お前はどうしてそんなことを…」

「言っただろう。ノロはすでに絶望していたのさ。彼は俺と融合する際に託したのは、『世界のためにキミの思うようにしてほしい』ということだった」

「それがクリフォトで暴虐の限りを尽くすことだったというのか?」

「俺から言わせてもらえば、3大勢力の存在も大差ない。結局のところ、戦いと力によって弱者が苦しむだけだろうが」

 

 サザージュは勢いよく立ち上がると、後ろに歩いていく。そして吐き捨てるように苛烈さを込めた声で再び話し始めた。

 

「ノロがディオーグを封印した時、この世界の理から外れた力がぶつかったことで、彼らに関する記憶が全て消えていった。彼らが暴れても、この世界に記録や伝承が残っていないのはそのためだ。オーフィスやグレートレッドは次元の狭間にいたから覚えているがな。『異界の魔力』の特異性もそこに起因しているのだと、俺は考えている。そこで研究を続けた俺の結晶があれだ」

 

 大一の方を振り向いたサザージュは天井に埋め込まれている謎の宝石を指さす。相変わらず脈打つように動いており、不気味な赤い光を放っていた。

 

「『異界の魔力』をベースに絶対的な力を持つトライヘキサとオーフィスの情報、そこに『王』の駒による力を増加させるものも合わせた。模造品ながらその効果は本物だ。あれを作動させるとどうなるか…『異界の魔力』を除いたこの世界の魔力や聖なる力、魔法力などがすべて消え去る。つまり力の根幹が消え去り、全てが平等になるんだ」

「なんだと…!?そんなことをしたら世界は混乱に陥るぞ!」

「そこにいる人や悪魔達は生き残るさ。神は消えるだろうが、むしろ超越的な力の存在が消えるから、平和になるだろう。神がいなくても世界は回った、ならば特別な力が消えても世界は動くさ」

「くそっ…!」

 

 立ち上がった大一はすぐに魔力を口に込めると、一気に吐き出す。しかし彼の攻撃は宝石には届かず、見えない壁に阻まれたように霧散した。

 

「当然、結界を張ってある。それに下手に破壊すれば力は暴発して余計に酷いことになるぞ」

「ふざけやがって…結局はお前が強者としていたいだけじゃないか!」

「本気でそう思っているなら、お前をここに呼ばずに発動させている」

 

 ピシャリと言い放つサザージュの瞳には、強い執念の炎が宿っていた。そのギラギラとした視線は真っすぐに大一へと向けられていた。

 

「兵藤大一、俺と一緒に来い。同じような境遇のお前ならば、本当の平和の世界を作り上げられるだろう。独裁者ではなく、互いの抑制を図れるからな」

「それを納得すると本気で思っているのか!」

「むしろお前たちは気づくべきだ。どれだけ自分たちが危険であるのかを。兵藤一誠、ヴァ―リ・ルシファー、3大同盟…あらゆる勢力がこれらに集中している。それは統一しているように見えるが、同時に恐ろしいことだ。彼らこそが正義となれば、そこに理不尽や非が生まれた時に誰も逆らえなくなる。いやその意志すらも湧かないのだ。俺の言う弱者とは、そういう奴らだ。そういう意味では『禍の団』や『クリフォト』もその類だな。そして俺についてきてくれた仲間達も…だからこそ、俺はここでその力を断ち切るんだ!それによりもたらされる平和と平等、それこそ俺がここで果たすべき使命なんだ!」

 

 サザージュの信念を目の当たりにした大一は気圧されたように一歩引いた。相手が信じ続けていたものはあまりにも重く、彼の心にくさびを打ち込んだ。この1年で自分と違う考え方を幾度となく目の当たりにした。大切な仲間や恩人、妖怪たちなどの第3者、禍の団やクリフォトといった敵、そして自分を救ってくれた龍や神器…そのたびに不安を抱き、己の信念をぶれさせていた。

 しかし何度も失敗してきたものの、彼らと分かり合うことも間違いなく出来ていた。ユーグリットとは話すこともできるようになり、生島純とは悲しみを分かちあえた。朱乃とは互いに愛するほどであった。

 そしてディオーグが言ってくれたように、自分のために生きるというのであれば、彼の取るべき行動は決まっていた。

 

「…たしかにお前の言うような世界が実現できれば、少しでも悲しみを減らせるかもしれない。それでも俺はお前の誘いを断らなければならない。俺は…俺は人を信じたい」

「…残念だ、兵藤大一。お前と茶を飲む時間も終わりのようだな」

 




世界を平和にするために力そのものを消せばいい、と考えています。
面倒くさいのはオリ主にも劣りません。
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