D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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ラスボスがどうしてここまで面倒なのか…。


第214話 名も無き悪魔

 洞窟の中で轟音が響くのと同時に戦塵が巻き起こる。視界は遮られるもの、龍人状態になった大一は煙の中を走りながら、油断なく敵の位置を感知していた。

 

『…まだ来るか』

 

 舌打ちをしながら呟く大一のその場で立ち止まると、背中から黒い腕を2本生みだす。腕の先からは疑似防御魔法陣を発生し、飛んできた様々な属性の魔力の塊を防いだ。規模は小さいものの威力はなかなかのもので、魔力がぶつかった瞬間、爆発が起きて再び煙が巻き起こった。

 大きく翼を羽ばたかせて、視界を遮る周囲の煙を一気に薙ぎ払う。戦い始めてからまだ10分程度、身体に傷こそ無かったものの、彼は敵の実力を実感していた。

 

『…強いな』

『少なくとも前に戦った時と比べると雲泥の差だよ』

 

 苦々しく答えるシャドウと共に、大一は上空を飛ぶ敵の姿を見る。今のサザージュは全身を白と黄金の鎧に身を包んでいた。両腕のブーステッド・ギアのような籠手、背中のヴァ―リを思い出すような鋭利な翼が印象的で、胸には天井のシステムと似たような紅の宝玉が埋め込まれている。鋭利さと重厚感の相反するような要素を感じさせながらも、一種の美しさすら感じるフォルムの鎧であった。

 

「見事なものだろう。これも俺の研究の結晶だ」

『ただの禁手には見えないな…そもそもベースの神器が分からない』

「そんなものはないさ。お前と戦っていた時に見せた3つの神器、クリフォトが持っていた赤龍帝と白龍皇のデータ、他にも俺が手に入れてきた神器を研究し、そのエネルギーを使って組み上げていった鎧だからな。名前を『進化に生まれし反逆の鎧(エヴォルト・ノロ・リベリオン)』、この世界への反逆者として悪くないだろう?」

『神器の研究において、アザゼルが1番だと思っていたが…』

「俺の持つ知識は神器とは似て非なるものだ。この世界以外にも同じような力はあったのさ。ノロはその研究に精通しており、それらを武器として使っていた。俺は神器の類似点から研究を進め、この鎧の作成にまで至ったのさ」

 

 なかなか突拍子も無い話に感じたが、同時に納得できることでもあった。大一がディオーグとの繋がりで生まれた錨は、想いを力に変えるような神器の根幹こそ無かったものの構造はほとんど同じであった。ディオーグを封印し、融合する魔法を伝えたのが、そのノロであったのならば影響があってもおかしくはないだろう。

 大一は息を吸い込むと口から複数の魔力の塊を吐き出す。牽制の割には威力もあり、軌道もバラバラであった攻撃は敵へと向かっていくが、サザージュの翼が光ったかと思うと攻撃の規模は一気に小さくなり、片手ではじかれていく。

 さらに急降下していくサザージュは、拳を合わせて振り下ろす。大一は硬度と重さを上げて攻撃を防ぐも、すぐに相手は距離を取り縦横無尽に動き回っていく。通り過ぎるたびに鋭い打撃を叩きこむヒット&アウェイの戦法だ。

 

『赤龍帝の「倍加」や白龍皇の「半減」もあるな。「譲渡」や「吸収」は無いが厄介だな』

『スピードは例の靴か。色んな属性の攻撃は槍だろうし、盾の防御もできると考えていいだろう』

「扱い方は様々だ。能力だけのものだと思うなよ」

 

 サザージュは再び飛び上がると、周辺一帯に円形の盾を複数展開させる。そのひとつに向かって手の平から撃ちだした炎の斬撃がぶつかるとバウンドするようにはじかれた。さらに飛んでいった先に別の盾がぶつかり、斬撃はさらにバウンドする。盾にあたるごとにスピードが上がり、洞窟内を駆け巡っていく。

 

「さらに追加といこう。避けられるか」

 

 続けざまに撃ちだした水、風、雷、闇、光の斬撃は、炎と同様に盾にバウンドして高速のスピードで動き回った。サザージュは使っていた盾の神器の特性を活かし、疑似的に一誠やヴァ―リのような「反射」の力を再現させていた。

 

『なるほど、能力だけじゃない。持っている手札を過不足なく活かすというものか。だが避ける必要はない』

 

 大一は黒く染まった両腕を地面へと振り下ろす。彼の周囲は黒く染まっていくと、小さなドーム状の形に変化していき、すっぽりと覆っていった。高速で駆ける敵の斬撃はやがて大一へと向かってくるが、シャドウのドームによって攻撃は全て防がれていった。

 すぐさま影を解除した大一に、サザージュは身の丈もある斧槍を振り下ろす。対抗するよう錨を2本創り出すと、それらを交差させて敵の一撃を防いだ。互いの得物がぶつかった衝撃で、周囲のテーブルや棚は音を立てて割れていく。

 

「さっさと倒れてくれるとありがたいんだが、さすがはディオーグと融合した男、一筋縄ではいかないな」

『負けるつもりはさらさら無い。一気にやらせてもらうぞ』

 

 相手の斧槍をはじいた大一は素早く後退していくと、全身に生命力をさらに流していく。身体は肥大化していき、上着は破れていくずば抜けた生命力と共に人間離れした姿へと変化した彼は、洞窟内を震わせたと錯覚させるような雄たけびを上げた。ディオーグの力をさらに引き出した「龍魔状態」となった大一は赤い双眸を敵へと向ける。

 

『手の内はある程度わかった。ここから決めるぞ、シャドウ』

『合点承知!』

「ほう、それが完全な融合を果たして得た力か。見せてもらおうじゃないか」

 

 上空に飛ぶサザージュは、ちょっとした部屋並みの大きさはある巨大な氷塊を造り出すと、盾を使って速度を上げて撃ちだす。規模と質量を伴った攻撃であったが、大一は両腕を一気に縮めていくと同時に放ち、一気に砕き割った。

 さらに大きくジャンプして距離を一気に詰めていく。飛んでいる最中に、多属性の斬撃が飛んでくるが、魔力を通してさらに硬度を上げていた堅牢な龍の皮膚には傷は全くつかなかった。

 

「これほどの防御とは…!」

『怨念をもはじくこの皮膚、簡単に破られるか!』

 

 猛々しく応えると同時に、角に重力の魔力を纏わせた状態で、痛烈な頭突きを敵の腹部へと打ち込む。鎧が砕けるような金属音が耳に届き、深々と肉に食い込むような感触を感じる。そのまま首を後ろにそらすと、一気に振り下ろして、角で捉えた相手を地面へと叩きつけた。

 戦塵が舞い散る中、さらに追撃に口から巨大な重力の玉を吐き出して、周囲の岩肌ごと叩きつぶしていく。

 

『これは決まったぜ』

『…いや避けたな』

 

 地面へと降り立った大一は、目を細めながらシャドウの歓声を否定する。頭突きの一撃は手ごたえがあったものの、重力の玉が命中する前に素早く走り込み回避されたことに気づいていた。

 とはいえ、動き方はハッキリと感知している。大一は両腕から黒い錨を作り出すと、振り向いてそれらをブーメランのように投げていった。

 鎧が再生していたサザージュはそれらの間隙に入り込み避けていくと、斧槍を下から上へと大きく振り、巨大な斬撃を飛ばしていく。地面の岩肌をも削っていく一撃ではあったが、硬度を上げた龍魔状態の大一は腕を交差させて真正面から攻撃を受け切った。

 

『これくらいなら…』

「効かないんだろう?だが俺を舐めるなッ!」

 

 猛々しい声と共にサザージュは接近すると、左腕を腹部へと当てる。前腕にはいつの間にか堅牢な6つのクローが展開されており、肩、わき腹、太ももに引っかかり龍魔状態の大一の身体を固定した。

 

「これを受けてみなッ!」

 

 サザージュの声と共に胸部の宝玉とクローが光りだす。間もなく大一は意識が飛びかけるような衝撃を感じ、身体をくの字に曲げて吐血した。そのままクローが外れると一気に後方へと吹き飛んでいき、洞窟の壁へと叩きつけられた。

 

『だ、大一!?大丈夫か!?なにがあった!?』

『わ、わからねえ…とんでもない衝撃が…身体の奥にまで…響いたんだ…』

「ぜえぜえ…効いただろう、今の攻撃。神器のエネルギーを利用したこの一撃は、内部へと浸食し響いていく。どれだけ硬い皮膚や鎧、魔法陣を覆っていてもな」

 

 見た目の派手さは無いものの、その破壊力は絶大であった。表面的な防御なら何とかなるものの、内部への直接的な攻撃には手の打ちようも無かった。仙術とも違ったもののため受け流すことも叶わない。サザージュ最大の武器は、あらゆる防御を無視して貫く強力な矛であった。もっともその反動の激しさなのか、放った左腕をかばうように右手で抑えていた。

 口からの流血が止まらない中、大一はふらつきながら立ち上がる。まともに受けたのは今の一撃なのに、そのダメージは計り知れなかった。

 目に見えないながらもかなりの傷を負っていた彼であったが、先ほどの一撃を受けた瞬間よりも意識はハッキリしていた。もとより覚悟を決めている戦い、弟や仲間のことを思いだせば立ち上がるのも当然であった。同時に心に引っかかっていた疑問を吐露する。

 

『ハアハア…腑に落ちねえな…』

「俺にここまでやられたことがか?」

『お前と何度も戦ってきて、この状況になったことに今さら驚くか。俺が腑に落ちないのはここまでやる理由だ』

「理由だと?」

『そうだ。ディオーグを封印した男と融合したのはわかった。しかし彼の遺言を汲み取っているなら、今までのテロ行為は少なくともお前自身の意志となる。ユーグリットの話だとハーフ悪魔みたいだが、むしろ旧悪魔体制側であった「禍の団」や「クリフォト」に協力する理由がわからない』

 

 純血でない存在が旧悪魔の体制では難しい立ち位置であるのは、大一も理解している。名家はもちろんのこと、中級や下級でもその過酷さは察せられるのは歴史が示している。それらはサーゼクス達の台頭によりそれらはだいぶ改善されてきたはずであった。

 しかしサザージュはテロリストとして加担していた。ただのハーフ悪魔であれば、むしろ敵対関係にある方が納得のいくように思えた。

 

『それほど俺たちに恨みがあるということか…?』

「…戦う理由などそれぞれさ。ブルードは亡き仲間や信徒への弔いのため、無角はこの世界への憎しみからの復讐、バーナやモックは恨みよりも存在を示すことを、ギガンはあの地ですでに怒りを捨てていたようなものだが最後に少しでも世界を潰したくて動いた。そして俺は…」

 

 鎧の頭部を収納して、顔を出したサザージュは朧げな目で上を見つめる。まるで何かを思い出して憂いているような表情であった。

 

「母親は愚かで同情する価値も無かったよ。俺を生んで間もなく死んだんだ。美貌しか取り柄が無くてな、ひとりの悪魔に心を奪われて一晩を共にして、あとは狂っていくだけだった。悪魔としての影響なのかね、俺はすぐに出生の秘密に気づいたんだよ。人間と悪魔のハーフだって。しかしそれからが長かった。人間社会に溶け込むには、幼い頃の俺は力の使い方が下手でね。いや、能力自体は大したことなかったんだ。しかし魔力をちょっと出すだけで、俺は化け物扱いだ。ならば、悪魔の世界はどうだろうか?それも難しいのさ。頼れる伝手は無いし、魔力をちょっと使えるだけだから歯牙にもかけられない。挙句の果てには、はぐれ悪魔や天使とかからも追われる」

 

 サザージュは言葉を区切ると、目頭を手で押さえる。そして身の毛もよだつような雰囲気で自嘲的に小さく笑い、言葉を続けた。

 

「地獄のような毎日だったよ。食う飯は無く、安心して眠れることもできない。無いこと尽くしの苦しみを数百年以上だ。それでも俺は懸命に努力した。独学で魔力の扱いを、人間界と冥界での振る舞いを覚えいった。この洞窟も長い間、俺の拠点としてあった場所でな。どうにかして自分の居場所を探していた。そして俺は冥界でどうにか食っていけるまでの地位を手に入れた」

 

 再び言葉を切ったサザージュの目には涙がたまっていた。彼の言葉には噴火前のような激しい緊張感と、深海のごとく深い嘆きという矛盾した感情が複雑に入り混じっていた。

 

「なあ、兵藤大一。俺は期待していたんだ。魔王の血を受け継ぐ者なら、英雄なら、本当に世界を変えられるんじゃないかと思ってな。しかし現実は権力の座を取り戻したい奴、力を追い求めて魔人へと変化する奴…期待外ればかりだ。その最たる存在が、リゼヴィムだ。あれほど恵まれた素質と環境を持ちながら、それを磨くともしない。それでも絶対的な名声と実力を持つんだ。多くの者が惹かれて、力を貸すんだ。俺は…心の底から嫉妬したよ」

『お前がリゼヴィムに止めを刺したのもそれが理由か』

「それもあったさ。あいつには侮蔑的な感情はあったしな。同時にあの男がこれ以上の生き恥をさらさないための介錯でもあった。それが俺に出来る唯一の手向けだったからな」

『お前はいったい何を…?』

「どれだけ伝説の悪魔でも全てを記すことは出来ない。どれだけ特別な存在でも完璧な存在などいない。だから…おかしくないだろ?冥界にもっとも影響力のある悪魔…魔王ルシファーが美しい人間の女性を気まぐれで抱き、それによってひとつの命が生みだされていても」

 

 その告白に大一もシャドウも言葉にならない衝撃を受ける。それだけでも目の前の男がどれほど特殊で、壮絶な生を送ってきたなど察することは出来る。しかし誰がその正体に対して、驚かないでいられるだろうか。

 

「腹違いの特別な兄と違って聖書には載っていない…しかし確かに俺という存在はここにいる。サザージュ・ルシファー…父の性を名乗らせてもらうのはめったに無いけどな」

 

 これまで見てきた黒髪と入り混じった白髪、正体をさらした際の悪辣さ、そして先ほど大一を勧誘した時の雰囲気、あらゆる要素が世界を混乱に陥れた例の男と重なっていた。

 サザージュは攻撃の反動で震えている左手を上げて、まるで握手を求めるかのように差し出す。

 

「ノロとディオーグのことだけじゃない。同じように恵まれた兄弟を持ち、本当の意味で苦しみを知り、英雄ではないお前だからこそ誘った。お前とならば、ただ恵まれているだけの奴らを超えて、本当の意味で平等と平和を創り上げられると思ったからだ。もう1度だけ言う。大一よ、俺と共に来い」

 




オリ敵軍団は彼の正体については知っています。
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