D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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たしかに似ている点は多い2人ですが…。


第215話 人知れぬ戦い

 目の前の男が口にしたひとつの告白、それは洞窟内の音を全てかき消したかのような錯覚を抱かせるほど、大一にとっては衝撃的であった。その内容はルシファー眷属である彼の頭で反芻し、どこか別の空間に飛ばされたかのような呆然とした思いを抱かせた。やがて動揺によって声をわずかに震わせながら言葉を絞り出した。

 

『お前が…リゼヴィムの弟だと…』

「そうだ。もっとも初代ルシファーやリゼヴィムは知らなかった。そもそも俺の血筋を知っている者は、ほとんど残っていないがな」

『…目的は母親の復讐か。それとも無角のようにこの世界への恨みか』

「さっきも言ったが、俺は母に軽蔑しかない。愚かなあいつのために復讐などするつもりはないよ。恨みも少し違う…たしかに俺の人生は碌でもなかったがな。しかしそれ以上に世界の残酷さを何度も見てきた。本当の弱者の存在も…俺以上に苦しむ者達も…だから世界を変えるのさ。力自体を無くして、本当の意味で平和をもたらす。その野望が果たされることで、父や兄を超えたというささやかな自信を得られるんだ」

 

 感情をどこかに置いてきたようにサザージュは淡々と答える。にもかかわらず、彼の語る野望には積み上げてきた絶望と裏打ちされた確固たる信念を感じられた。特別な血筋を持ちながらも、地獄のような長い年月を送り、必死に這い上がってきた過去を、この数分だけで目の当たりにした。

 そしておそらくこの男は、ルシファーの名を出すことは無いだろう。彼にとっては悪魔にとって特別な名前など無価値でしかないのだ。

 龍の顔で神妙な表情になる大一を見て、サザージュは落ち着いて言葉を続ける。

 

「こんな俺の最後の計画…やはり完璧に遂げたいのさ。お前を仲間に引き入れることも含めてな。どれだけこの世界に苦しみが溢れているのか、その神器を扱い、俺の仲間と戦ったお前ならわかるだろう?どれだけ力があっても、それが絶対ではなく、同時に世界を破滅に導くほど恐ろしいのだ。お前の仲間も含めてな。

それに安心しろ。仮に俺の野望が果たされても、お前の愛する者達は力を失うだけで生き残る。失うことも無いんだ」

『俺は…』

「残った力を真の平和に役立てるためにも、一緒に世界を変えようじゃないか」

 

 サザージュの表情は穏やかであった。しかしその裏には燃えるような期待や渦巻く哀しみ、経験してきた幾多の絶望があるのだろう。

 それを目の当たりにするほど大一は胸が締め付けられるような想いであった。知らない世界の悲しみを覗き込み、それによって積み上げた相手の信念は、自分の願いや戦ってきた理由がどれだけちっぽけな感傷かを実感させた。

 一瞬、揺らいだことは否定しない。相手がルシファーの息子だから、優れた兄弟を持つから、異世界の存在と融合したから、それらは理由ではない。純粋にサザージュの信念に圧倒され、己の偽善的な覚悟では勝てないと思ってしまったのだ。

 

『…違う』

 

 しかし間もなく彼の口から漏れでた言葉は、その不安を払拭させていた。思いの強さだけで勝負は決まらない、そのことは相棒のおかげで何度も心身に刻んできたはずだ。

 身体の中の空気を入れ替えるように、大きく息を吐くと目の前の相手をハッキリと見据える。

 

『…魔力が消えれば、世界は混乱に陥る。「アザゼル杯」もあるんだ。そんな恐ろしい計画に協力するわけにいかない』

「しょせん、力を持つ者だけの大会だ。そんなものに意味は無いだろう」

『たしかにそうかもしれない。しかしそれを期待している多くの人がいるのも事実だ。それを邪魔しようとするのであれば…こちらに残ったルシファー眷属としてお前を止めさせてもらう』

 

 大一の静かな言葉に、サザージュの眉間にしわが寄っていく。彼がどのような単語に反応したかは容易に察せられる。

 

「お前がルシファー眷属だと…?しかしなるほど…それならば天界襲撃の際は別行動していたのにも頷ける。それにしても新旧ルシファーの関係者という共通点まであるとは、ますますシンパシーを感じてしまうな。しかしお前は俺の誘いを断ろうとしている」

『言葉を変えるつもりはない。俺にも冥界の悲しみを少しでも減らしたいという願いがある。だからお前がどれだけ強い想いで平和を願っているのか、戦っているのかは理解したつもりだ。しかしだからといって、そのためにこれほど多くの犠牲や悲しみを生みだすのは間違っている。もっと他の方法だってあったはずだ。もっと分かり合うことだって出来た…いや今からでも出来るはずなんだ。そのためにも俺はここでお前と戦って止めなければならない』

 

 龍魔状態の大一は脚をしっかりと踏みしめて、岩石のような拳をしっかりと握りしめる。

 その様子にサザージュはやれやれといった様子で首を横に振りながら嘆息した。

 

「残念だが、それがお前の答えなら致し方ない。先ほどの言葉は敬意を持って撤回しよう。そしてやはり決着をつけなければならない!」

 

 サザージュは再び鎧で顔を覆うと、複数の盾と属性攻撃による波状攻撃を行った。雪崩のように激しく向かってくる攻撃は、「倍加」の能力も相まって先ほどよりも強力な印象を抱いた。

 これに対して、大一は油断なく硬度と重さを引き上げて防いでいく。そして間もなく、この連撃があくまで注意を逸らすものであったことに気づいた。

 巻き起こる戦塵の中をさらに高速で移動していき、やがてサザージュは左側から飛び出してくる。そして右腕に展開したクローで、再び彼の巨体を捕えようとする。

 とはいえ、先ほどの一撃の威力を知っていたからこそ大一の対応も素早かった。右足を軸にして身体をひねり、サザージュの右腕から伸びるクローを避けると、左の拳を固めて痛烈なフックを放った。

 鈍重な一撃が、サザージュの半身に入り込む。腕力も見た目相応のものとなっていた龍魔の拳は、再び相手の鎧にひびを入れた。

 しかし殴り飛ばされながらも白龍皇のような翼をクッションにして岩壁の激突を防ぐと、そのまま両腕を内側に向けて横に大きく振る。クローからも属性による斬撃が発生し、ブーメランのように大きく回りながら向かってきた。

 

『さっきよりも威力があるが対応はできる!』

 

 向かってくる斬撃に対して、大一は口を開けて重力の球を撃ち出した。炎だろうが水だろうがあらゆる方向から働く重力は、多様な属性の斬撃をすりつぶしていった。

 これに対してサザージュは攻撃の規模を「半減」させて縮小させると、隙間を縫うように移動しながら再び接近していく。向かってくるサザージュをカウンターの要領で再び殴りつけようとしたが、それを読んでいた相手は「倍加」で素早さを上げつつ身をひるがえして攻撃を避ける。

 

「まだだァ!」

 

 猛獣のように荒々しい声を発しながら、サザージュは展開させたクローを、大一の右肩へと強引にひっかける。すぐに引き剥がそうとするが、強烈な握力は硬度を上げた龍の皮膚をしっかりと掴んでいた。間もなく胸の宝玉が光りだして、再び体の芯にまで響く衝撃が襲いかかる。先ほどと違い、体勢を崩した状態かつ右肩からの攻撃であったものの、体重を上げているその巨体をふらつかせるには充分であった。龍魔状態となり再生した右腕には骨が折れるような痛みを感じ、そこから連鎖するように全身へと衝撃が響いてくる。

 それでも歯を食いしばりながら、大一はサザージュの腹部へと拳を叩きこむ。さらにシャドウによって腕を伸ばすことで、クローを強引に引き剝がしながら洞窟の岩壁へと叩きつけた。

 攻撃を受けた右肩を抑えながら、大一は膝をつく。内臓にも影響を与えているのか、呼吸は荒れていき、それすらも痛みに変わっていくような感覚であった。手傷と流血はすさまじいが、それ以上に赤い双眸には強い炎が灯っていた。

 一方で吹き飛んだサザージュも満身創痍であった。鎧は再生しながらも隙間から血が滴っており、生命力、魔力ともに消耗していた。それでも鎧の中から発せられる声は力強い響きが見られた。

 

「硬度に魔力、再生能力まで付与したこの鎧…俺の自信作をここまで破壊するとは…大したものだ。これほど強いのに…もったいない…!」

『その言葉、そのまま返してやるよ…。実力と技術、野望のために弛まない努力を続けられる心…お前だって…もっと別の形で…世界を変えられただろうに…!』

 

 互いに血を流しすぎて身体は異常に熱く、もはや痛みすらもよくわからない状態であった。しかし2人とも憎しみの感情は無く、目の前の男にどうやって勝つかという見えない奇妙な繋がりすら感じられた。

 そんな空気の中、サザージュは息を整えながら言葉を紡ぐ。

 

「悩み抜いた末での決心だ。俺だって伊達に歳を重ねてはいない。必死で生きていきながらも、どこかで世界は変わると信じていた。しかし表面上は変わっても、根幹はなにも変わらなかった。いつだって力ある者に更なる力と名声が集中し、弱い者は反する心すら失っていく。それでも一縷の望みを抱いてきたが、ノロの絶望した記憶を見て失望は確信に変わったんだ。ゆえに俺は戦うのだ」

『そうだろうな。お前ほど真面目な男なら、考えてきただろうよ。その野望にも一定の理はあるだろうさ。それでもこのような革命じみたことで、世界が混乱に陥るのを見過ごせない』

「世界はとっくの昔から混乱している。弱者に蓋をして見ようとしなかっただけさ。勝たせてもらうぞ、兵藤大一。ここで負けては、散っていった同志に顔向けできない。彼らも俺と同じように…いや俺以上に苦しんできた…。だから俺の手によって、今の世界を破壊して本当の平和と平等を創りあげる!」

 

 サザージュの想いに呼応するかのように、両腕からはクローが展開し、胸部の宝玉の輝きは増していく。同時に桁違いの魔力が、心を震わせるような生命力が彼の体を覆っていく。その迫力はこの洞窟をわずかに揺らすほどの勢いがあった。これほど手傷を受けていながらどこにこんな底力があるのだろうか。

 

「さあ、終わらせよう!命を懸けた俺の野望はどこまでも世界へと響いていくんだ!」

 

 全身が傷だらけになりながらも、サザージュは大きく叫ぶ。確固たる信念はもはや狂気に満ちていた。

 大一は静かに瞑目する。身体は血にまみれて熱い。右の拳は握りなおすにしても歪さがあり激痛が走る。それでもドクンドクンと心臓の鼓動が全身に感じられる。ひどい痛みが身体の感覚に残っている。それらが生きていることを実感し、同時に力が湧いてくるようであった。

 

『俺はディオーグから貰ったこの命を守る。俺を愛してくれる人たちのためにも生き抜く。その上でこの戦いに勝つ。シャドウ、最後まで付き合ってくれ』

『今更な相談だな。僕はキミと…キミらと一心同体だよ』

 

 両腕が黒影によって染まっていく。衝撃を受けた右腕も無理やり固定すると、腰を入れて構えなおした。

 互いに体力は限界を超えており、手傷と出血も並大抵のものではない。つまり次のぶつかり合いが、この戦いを決める最後のものであり、その瞬間はすぐに訪れた。

 大一とサザージュが同時に動き出す。大一はシャドウで支えた右腕で殴りつけようとするが、先ほどの衝撃による激痛が僅かに攻撃のセットアップを遅らせた。サザージュの左腕のクローは龍魔状態の巨体を捕らえ、さらに右腕のクローは大一の左の二の腕を完全に掴んでいた。

 

「この一撃で全てが終わる…いや俺の悲願の始まりとなるのだッ!」

 

 サザージュの決意と共に、神器のエネルギーと魔力の入り混じった衝撃が全身に響き渡る。完全に極めたクローを振りほどくことは出来ず、背中まで貫いていく衝撃を受けながらも後方に吹っ飛ばされることもなく、身体をのけぞらせながら最後まで相手の攻撃を受け切った。

 

「ぐぅ…どうだ…!」

 

 苦しそうに呻くような声を上げながら、サザージュはクローを解除する。この短時間で奥の手であるこの技を複数回も使用していたため、彼の腕は悲鳴を上げていた。がくがくと震える腕をだらんと垂らしながら、彼は目の間に仁王立ちでいる大一へと目を向けた。白目をむきながら呆然とした顔を上に向けており、牙の並んだ口からは血がダラダラと流れていた。

 

「ハアハア…」

 

 息を切らすサザージュはそのまま情けなさそうに、鎧越しに顔を抑えた。目には悔し涙がたまっており、無理やりひねり出したようなか細い声を上げる。

 

「俺はこの程度なのか…」

 

 彼のつぶやきと同時に、大一は苦しそうに呼吸しながらも意識を取り戻していた。全身の硬度を最大まで上げて、さらには内部にはシャドウを展開させて補強していた。防御を無視する一撃には気休めでしか無かったが、耐える可能性を1パーセントでも上げるための大一のあがきは無駄ではなかった。そして渾身の力を振り絞って両腕をバネのように縮めていく。拳には魔力によって発生させた重力の塊を纏っていた。

 

『…終わりにしよう、サザージュ』

 

 大一の撃ちだした砲撃のような両腕のパンチがサザージュに命中する。龍の硬度と剛腕、シャドウの柔軟性から撃ちだされた速度、あらゆる方向からかかる重力、それらによって敵の鎧は砕けていき、後方の岩壁へと叩きつけられるのであった。

 




いよいよ終わりも見えてきました。
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