今回は4巻分の終盤、シャドウから解放されて間もない頃のつもりです。やっとシリアス以外に手を出せた…。
番外1話 接客
「接客ですか?」
「そうなのよ。他の子もお休み取っているのよね~」
時刻は夜も近くなってきた頃、いつもならば部活動を終えて下校する時間に大一は生島に呼び出されていた。なんでも従業員のひとりが熱を出してしまい寝込んでしまったため、人手が必要となり彼を呼んだのであった。
「しかしこういう場での接客って難しいでしょう」
「まあ、否定はしないわね。お客様とのコミュニケーションは売りでもあるから」
「俺に務まりますかね…」
「少なくとも私は大丈夫だと思うわ。大一ちゃんの凄さはよくわかっているもの。まあ、私の手が空いていない時に、なにか飲みながら相手してくれればいいから」
「急に適当になりましたね」
目を細める大一に、生島はケタケタと笑う。つい先日まで絶望に苦しんでいた彼としては、馴染みの笑顔というだけで安心を抱くのであった。
「でも飲み屋で未成年はマズいような…」
「私の甥っ子ってことにすれば大丈夫よ。立地的に駒王学園の関係者は来ないだろうし、いざという時はリアスちゃん達にも連絡するわ。それじゃ、お願いね♪」
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客①
「飲みすぎじゃないですか?」
「飲ませてくれよ…大人はそうしたいんだよ…」
眼鏡をかけた痩せ型の男性がグラスを傾けて酒をあおる。森沢はたまに来る客であった。彼は昼間公務員として働いているのだが、どうもこの1週間ほど失敗続きで意気消沈していたようで、気晴らしに飲みに来ていた。
「なんであんなミスをしちゃったかな…、自分が情けないよ…」
「誰にだってミスはありますよ。森沢さんが公務員として頑張っているおかげで、自分たちも安心して生活できるんですから」
上手くいかないことについては大一自身も身に覚えがある。それを思えば、彼の気持ちを受け止めて話を聞くことが現状では最適解なのだろう。
大一の話をどこまで聞こえていたのかは分からないが、顔を真っ赤にして酔っ払う森沢はガシガシと頭を掻く。
「あー…人肌が恋しい…」
「ご友人は?」
「友人というか…ちょっと変わった知り合いはいるけどさ…ドラグ・ソボールの話とかで盛り上がって…あっ、漫画とかって読む?」
「まあ、人並には…ただドラグ・ソボールは弟の方が詳しいですね」
「そっかー…いや、僕なんかは直撃世代だからね。学生時代はみんなでドラゴン波の練習をしたものさ」
「今でも人気ありますからね」
「僕だってたまに読み返すもの。昔はみんなで戦いごっこしたな…いや、少し前に彼とやったな…」
思い出すかのように森沢は呟く。大一からすればその年齢でごっこ遊びに付き合ってくれるような友人がいるのは羨ましく思えた。もっとも悪魔として戦っている身なので、自分はごっこ遊びでも戦いの類はやりたくないが。
「まあ、友人も大切だけどさ。やっぱりこんなふうに気持ち的に弱っている時は、彼女とかいたらいいよね…」
「相手はいないので?」
「この見た目で!僕に!恋人が!いると思うのかい!」
「別に見た目だけで決まる世の中じゃないでしょうに…」
「あー!もっとイケメンだったらー!」
今度は完全にくだをまく酔っ払いになった森沢は怒っているのか、泣いているのか分からない様子で声を荒げる。そしておつまみのポテトと一緒にグラスの中身を一気に流し込んだ。
ペースの早さが気になった大一は水の入ったグラスを差し出されると、森沢は軽く礼を言ってちびちびと飲んでいく。
「はあ、彼女がいたら人生変わるかな…」
「どうでしょうね。ちなみにどのような子がタイプなんですか?」
「そうだな…優しくて、頼りがいがある子かな。あと貧乳だと嬉しい」
「最後の情報いります?」
「こだわりは大事だろう?そういうキミは?」
「自分はお客様に話すほどじゃありませんよ」
「いいじゃないか。こういう男トークできるの嬉しいんだよ。それにこういう話、なんか生島さんとは話しづらくてさ」
「そのお気持ちはわかります。しかしタイプですか…」
森沢から興味に満ちた視線を受けながら、大一は考え込むように顎に手を当てる。この数年の悪魔生活は彼にとって充実と同時に過酷さも間違いなくあった。おかげで恋愛を意識する余裕など彼には無かった。
「うーん…」
「そこまで悩むほどかい?」
「お恥ずかしい話、そこまで意識してなかったので…」
「だからって、好みのひとつやふたつはあるだろう?」
促されるまま、大一は考え続けていく。間もなく脳裏にはひとりの女性の顔がよぎった。悪魔になった頃からの付き合いで一緒に親友を守ってきた大切な仲間、気づけば彼の口からは言葉が零れ落ちていった。
「そうですね…穏やかな雰囲気で…強さも弱さもあって…一緒にいたくなるような…」
「…急にボロボロ出てくるね。誰かを思い浮かべているの?」
「えっ!?いやいや別にそういうわけじゃ…」
「もしかしてすでに彼女がいたのか!くっ…そっち側だったのか…!」
「いや自分は彼女がいたことは無いですよ」
「いいなー!帰ったら、お帰りなさいあなたとかって言ってくれるんだろうな!」
「話を聞いてくださいよ!?」
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客②
森沢が帰った後、奥で生島がお酒の準備をしている間、大一はあるカップルを相手に話していた。ただし出来ることなら店の掃除の方に徹したかった。それくらい目の前に並んで鎮座する2人の男女からは覇気のようなものを感じられた。
「えっと…おふたりは付き合って長いのでしょうか?」
「いえ、まだ半年も経っていません。でも私は前から彼のことを気にしていて…」
「そして数か月前に僕は手紙をもらいまして、それをきっかけに付き合うことになったんです」
「そ、そうなんですね…」
別に会話としては何もおかしくない。にもかかわらず、これほどミスマッチ性を抱くのは、やはりその見た目だろう。
片方は戦国武者の鎧、もう片方は西洋の甲冑を身に着けており、これから激闘が始まると言っても違和感のない見た目であった。最初は店に入ってきた瞬間、通報しようかと思ったほどだ。
鎧武者の方はスーザン、甲冑の西洋騎士の方は堀井といい、2人とも大学生であった。どちらも顔を隠しているため、どちらが男女かわからなくなりそうであった。
「あの手紙は思い出すだけで胸が高鳴るよ」
「もう堀井くんったら!」
「その手紙は矢文だったのでしょうか…」
「すごい!よくわかりましたね!どうしても私はこの方法しか思いつかなくて、でも協力してくれた人には激しいツッコミを受けましたね」
「合っていたんだ…」
「僕はあの見事な矢文には射抜かれたけどね。まさか僕ともあろう者が、完全な一撃を脳天に受けることになるとは」
「いや、脳天はダメでしょうよ!」
お互いに恥ずかしそうに褒め合いながら(見た目はむしろ不気味さの方が勝っていたのだが) 、身体を寄せ合う。鎧が擦れぶつかる金属音が小さく鳴るのは、スナックの一場面としてはあまりにも不適応であった。
それにしてもこの2人に協力した人物がいることにも驚きを感じた。これほど特異な人に手を貸すなど、よほど友情に熱かったのか、それとも特殊な事情があったのだろうか。
もっとも今のように相手をしている大一も人のことは言えないだろう。生島も彼女たちが来た瞬間、特に驚いた様子も無く普通に接していたことは印象的であった。扉近くの傘立てのところに刀と円柱のランスが差し込まれているのが証明として存在していた。
「お待たせ~、二人とも!生島さんのスペシャルカクテルよ!」
「「ありがとうございます」」
生島が運んできたカクテルを2人は鎧の口元だけを開けて飲む。ここまで来ると素顔も気になるが、これほど本気の格好ができるようなカップルがおいそれと人前で素顔は晒さないだろうという奇妙な信頼感もあった。
スーザンが嬉しそうに息をつくと、生島へと視線を向ける。
「本当にこの店に出会えてよかったです。他の店だと受け入れてもらえないことも多かったので」
「酷いわよね~。こんなに面白いカップルを受け入れない理由なんて無いわ」
「宮本武蔵の二天一流とか、戦における槍の有用性とかの話をしていただけなんですけど、やっぱりこういう話は敬遠されるんですかね。それとも武器の置き所でしょうか」
十中八九、見た目が原因であるのは間違いないのだが、今の大一にはそれすら指摘する気力も無かった。どうも次元の違う相手をしているような気分で、悪魔になってから間もない頃のリアス達と会話しているような気分であった。
「まあ、好き嫌いは分かれるでしょうね。でも私としてはこれほどお似合いのカップルは存在だけで目の保養になるわ!付き合うきっかけをくれた人達に感謝しないとね!」
「本当にそうなんです。私、とても幸せで…あの人達にはなんとお礼を言ったらいいのか…」
「僕も同じ気持ちだよ。スーザン、これからも…」
「堀井くん…」
見た目とは合い入れないような甘い空気が流れる中、生島はにっこりと微笑み大一の肩に腕を回す。
「この空気を邪魔するのは悪いわね。それじゃ、ごゆっくり~」
そのまま大一を連れて、生島はその場を離れていく。大一の方も小さく息を吐くと、疲れたように目に手を当てた。
「大一ちゃんもああいう感じで良い人を見つけるのよ」
「いや、あれは無理ですって…」
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客③
あの後もスーザンと堀井の鎧カップルとは注文を取るために何度か話し、その独特の空気感に当てられた大一は疲労を感じていた。これほどの客を相手に当たり前のように対応できる生島には、一種の尊敬すら感じる。
現在、店内に客は誰もおらず、少しずつ終わりの時間が近づいていることに安堵を感じていると、チリンチリンと扉の開いたベルの音が鳴る。すぐに気持ちを整えて、大一は入ってきた人物に声をかける。
「いらっしゃいま…せ…」
入ってきた人物を見た瞬間、大一は二の句が継げなかった。それも当然だろう。入ってきた人物は巨木のような剛腕、力強さを象徴するような胸板、それらに見合った巨体に魔法少女のようなフリフリの衣装を身にまとった人物が店に入ってきたのだ。手には魔法ステッキのようなものを持っており、インパクトは先ほどの鎧カップルを遥かに超えるものがあった。
「生島さんはいるにょ?」
「え、えっと、奥にいますので呼んできますね」
「大丈夫にょ。戻ってくるまで待つにょ」
独特な語尾と野太い声は、見た目の凹凸並みに違和感しか抱かなかった。そしてこの人物と2人きりになる状況に、思考はすっかり抜き取られたような気分であった。
とりあえず何かをしていないと気持ちが収まらず、水とおしぼりを手早く準備する。その間にも手は無意識に震えていたのだが。
カウンター席に座る謎の巨漢は水とおしぼりを受け取ると、大一の顔を見つめる。
「初めて見たにょ。新人さんなのかにょ?」
「い、いえ。生島さんの甥でして…えーっと…」
「ミルたんにょ。魔法少女になるのが夢だにょ」
ミルたん…その独特な自己紹介から出てきた名前ですぐに思い当たった。一誠が悪魔になって間もない頃、契約に至ったという魔法少女を夢見る巨漢であった。その際は夜通し、魔法少女のアニメを一緒に見ていたのだという。名前と風体だけは一誠から耳にしていたが、実際の姿はその何倍も破壊力があった。これを親友の松田と元浜に紹介をしたのは、あまりにも酷に感じられた。
とりあえず会話を続けようとする大一は半ば踏ん張るような思いで声を発する。
「あー…ミルたんさんは魔法少女が好きなんですね」
「そうにょ。常にステッキも持って、気持ちの面でも完璧にょ」
「ミルキーとかでしたっけ?」
セラフォルーから長々と説明を受けたこともあってか、ミルたんの持っていたステッキが「魔法少女ミルキー」のものであることは気づいていた。しかしわざわざタイトル名を出したのは悪手であった。
ミルたんの瞳の奥にはギラリと強い光が走り、嬉しそうに言葉を紡ぐ。
「甥っこさんも魔法少女には詳しいにょ」
「い、いや知っているだけで…」
「これは一緒に魔法少女を目指す必要があるにょ。今度一緒に勉強するにょ。いや、今からでも行くにょ」
椅子から立ち上がるとミルたんはカウンター越しに、大一の両肩を大きな手で掴む。期待に満ちた目の輝きも怯むには充分であったが、それ以上に両肩に伸し掛かる鉛のように重い力強さが強烈であった。悪魔となって身体能力は向上している上に、常日頃から鍛えていた。一方で目の前の人物はただの人間のはずであった。それにもかかわらず、この腕力には自分と大差なく感じさせるほどのものであった。
その時、店の奥から満足げにホクホクした顔の生島が姿を現した。
「いやー、終わった終わった。あんな良いものを貰ってそのまま置いておくわけにも───」
ミルたんを確認した生島は打って変わって鋭い表情へと変化する。一方でミルたんの方も大一の肩から手を放し、生島を睨む。2人の間には見えないながらも激しい閃光がぶつかり合っているように見えた。
間もなく2人はテーブル席へと歩いていき、それぞれ片手を出すと力強く握り合い、肘をテーブルについた。激しい闘気がぶつかり合い、店に見えない熱気を立ち込めていく。
「いつもの勝負ね」
「今日こそは勝たせてもらうにょ」
「「よーい…ドン!」」
生島とミルたんは互いに腕に力を込めて、相手の腕を倒そうとする。店自体が揺れているのではないかと思うほどの錯覚を抱かせる激しい腕相撲対決は、互角であった。まるで引く様子も無く、しかし腕の震えようから見ればその壮絶さは察するに余りある。
それでも戦いである以上、動きはみられていく。徐々に生島が押していき、ミルたんの手の甲をテーブルへと近づけていった。
「この勝負、貰ったわ!」
「負けないにょ!魔法少女は最後まで諦めないにょ!ミルキィィィィ・フラッシュゥゥゥ・パワァァァッッ!!!」
「ぬああああああッ!!!」
掛け声と同時にミルたんの腕が一気に形勢を逆転し、そのまま生島の手の甲をテーブルに叩きつけた。
2人ともまったく息を切らした様子は無く、立ち上がると固い握手を交わす。手を掴んだ音が聞こえてきそうな勢いであった。
「勝利おめでとう。また強くなったわね、ミルたん」
「生島さんもさすがだにょ。それでも3連敗は避けたかった…その想いが勝利になったんだにょ」
「さすがは癒しと希望を忘れない魔法少女ね。今日は飲んでいく?」
「今日はこの幸せを噛み締めたまま帰るにょ。いつものをお持ち帰りだけするにょ」
「わかったわ。少し待っていて」
握手を解いた生島は持ち帰り用のコップ(かなり大きい)に、コーヒーとミルクを入れるとどこからともなく取り出したクリームやフルーツをトッピングしていく。間もなく華やかに完成した飲み物をミルたんへと渡した。
「はい、生島スペシャルミルキー風よ。勝利のお祝いにトッピングは多めにしておいたわ」
「最高にょ…生島さん、また来るにょ。甥っ子さんもまたにょ」
お代を払ったミルたんは生島と大一に手を振って店を出ていく。時間で言えば15分程度であったが、大一の悪魔生活でも、いや人生の中でもずば抜けて衝撃的な出来事であった。下手したら悪魔になった日に並ぶかもしれない。
「あの子は魔法少女になれる。あれほど愛を持っているんだもの」
憂うようにつぶやく生島であったが、そんな人物と本気で腕相撲をしていた彼も何者なのかと問いただしたくなる想いであった。
1巻と8巻に出ていた例の人たちです。
しばらくは原作やオリジナルの小ネタを書く、話の添削を行うことにしています。
それとアンケートも設置しましたので、よろしければお願いします。
どの話が読みたいでしょうか?
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