第24話 魔王の来訪
「冗談じゃないわ」
ある日の部室、リアスが怒りを露わにする。なんでもここ最近、一誠に依頼が来る相手がなんと堕天使総督のアザゼルであった。素性を隠してまで会談前に接触してきた目的は不明だが、予想できそうなのは一誠のブーステッド・ギアだ。神器の中でも特別珍しい神滅具、神器に心血注いでいると名高いアザゼルからすれば興味深い対象だ。
「確かにアザゼルは神器に造詣が深いと聞くね。そして、有能な神器所有者を集めるとも聞く。でも大丈夫だよ。僕がイッセーくんを守るからね」
祐斗の反応に一誠は引きつった顔をする。先日の一件以来、祐斗の一誠に対しての好感度が上がっていた。親友としての信頼…のはずなのだが、傍から見ると恋愛的なものにも見えないこともない。おかげで校内で噂になっている2人のBL的な関係に拍車がかかっていた。
大一としては、これにより妙な連中が騒ぎ立ててまた自分の時間を奪うような結果に発展しないことを祈るばかりであった。
「しかし、どうしたものかしら…。あちらの動きが分からない以上、こちらも動きづらいわ。相手は堕天使の総督。下手に接することもできないわ」
「アザゼルは昔から、ああいう男だよ、リアス」
リアスのぼやきにひとりの男性が答える。部室に入ってきた男性は背が高く、リアスとそっくりの紅の髪をしていた。この男性の登場に、朱乃、祐斗、小猫、大一が一斉に跪いた。彼こそリアスの兄で現魔王のひとり、サーゼクス・ルシファーであった。
「くつろいでくれたまえ。今日はプライベートで来ている」
サーゼクスが今回来た目的は2つ。ひとつは妹であるリアスの授業参観であった。どうやら一緒に来たグレイフィアから日程を聞いたらしい。彼もリアスと同様にイベントごとに目が無く、それが愛しい妹に関係するのだから尚更であった。
もうひとつは例の3勢力の会談の会場の下見であった。なんとその会場が駒王学園に決まったのである。特殊な出自や能力者が多く集い、先日コカビエルとの戦いの場にもなったこの学園はあらゆる勢力から注目されていた。それが会場に決められた理由だろう。
突然の大物の来訪に全員が衝撃を受ける状況であったが、当のサーゼクスはあまり気にしない様子で、話しかけにも和やかに対応していた。大一にとって数度しか見てこなかった雲の上の存在だが、彼のフレンドリーな性格は現状の悪魔界には必要なのだろう。
間もなく退散しようとしたサーゼクスだったが、宿泊については考えていなかった。思案する彼に声をかけたのは、これまた話の渦中である一誠であった。
────────────────────────────────────────────
大一の横になっていた部屋はいつもよりも狭く感じた。さすがにひとり部屋に男3人が横になっていれば、そんな感覚を覚えるのは当然だろう。
この日の夜、サーゼクスは兵藤家に招かれた。宿泊施設を特に予約していなかったようだったので、一誠が招いたのだ。大一も特に反対する理由は無かった(リアスは猛反対であった)のでそのまま迎え入れられることになった。両親も快く迎え、夕食はとても騒がしいものであった。
そして就寝の際に、サーゼクスは一誠の部屋で寝ることとなった。一誠と話したかったらしく、リアスはグレイフィアに連れられて、アーシアは自分から今日は自室へと向かった。大一も彼女たちに倣って自室に行こうとしたが、サーゼクスの希望で一誠の部屋で布団を敷き横になっていた。
ベッドから一誠の寝息が聞こえる。魔王が横にいた上でよく眠れるものだと彼は思ったが、実際は直前の会話で妄想に勤しんでいたため、時計の針が2時を回るまで起きており、ようやく寝付いた頃であった。もっとも大一の場合は寝たとしてもまともに睡眠を取ることはできないのだが。
「すまない。無理を言って一緒の部屋に来てもらって」
突然のサーゼクスの言葉に、大一は思わず体を震わせる。てっきり彼も眠っているものだと思ったので、これには不意を突かれた。
「い、いえ…魔王様のご命令とあれば。しかし私がいても特に変わらなかったと思われます」
大一はびくびくしながら、言葉を紡ぐ。実際、寝る前にサーゼクスが話していたことは、一誠がアザゼルに接触したことやリアスのことであり、特別に大一が必要なものでは無かった。
「いや、私はキミとも話がしたかったんだよ。炎駒から話は聞いているからね。彼はキミのことを高く評価している」
「そう言ってくださると幸いです」
「眠れないというのは聞いていたが、本当のようだね。心当たりはあるのかい?」
「いえ何も…」
口を濁す大一だが、これは本当ではなかった。というのもここ最近になってでは疑惑が一つだけある。それは白龍皇が現れた時の頭痛、あの苦しみはどことなく悪夢を見た後に目が覚めた時と感覚が似ていた。つまり白龍皇がこの悪夢を解く手がかりになると思ったのだ。しかし頭痛という感覚的なものであり確証はなかった。
「ふむ…炎駒もそれには心を痛めていた。私がキミを初めて見かけた時よりも顔色が悪く、目の下のクマが酷くなっているような気もするしね」
「よく覚えていますね」
「妹の眷属で、私の眷属の弟子だからね」
サーゼクスの優しい声色が耳に入る。この人になら自分の胸のつっかかりを少しは話せるかもしれない、そう思った大一はサーゼクスに問いかける。
「…あの、サーゼクス様。ひとつお伺いしてもよろしいですか?」
「ひとつと言わず、いくらでも答えるさ」
「ありがとうございます。実はコカビエルと戦った時、彼が自分の神器に興味を持ったようなのです。それでこの神器についてなにか知っていないかと思って…」
「少し見せてもらってもいいかな?」
大一は体を起こすと手元に神器を出して、同じく体を起こすサーゼクスに渡す。彼はゆっくりと全体を触りながら魔力を通したりして確認していた。
「…申し訳ないが分からないな。私が神器に詳しくないのもあるが、他の神器と構造や性質は違わないように思う」
「そうですか、ありがとうございます」
神器を返してもらいながら大一は、出来るだけ落胆の感情を表さないようにした。もしこれに特別な力があるのならば、自分はリアスや仲間の役に立てると思っていた。いやそれすらも建前なのだろうか。一誠のように特別な力があると思い込みたかったのだろうか。もはや彼自身もどんな感情なのかは分からなくなっていた。
「ただ堕天使はアザゼルを筆頭に我々よりも神器への理解が進んでいる。そういう意味では、キミの力に興味を持ったのかもしれない」
「しかしコカビエルは神器に興味が無い様子でした」
「彼が興味を持つのは力だよ。なんにせよ、アザゼルに問うことがひとつ増えたかな。そうだ、大一くん。私もキミに聞きたいことがあるんだ?」
「何でしょうか?」
「よい兄の条件ってなんだと思う?」
大一がポカンとした表情をするのも気にせずに、サーゼクスは言葉を続ける。
「いやリアスに対して、どう接して良いかわからなくてね。私としては彼女にもっと…あー…好かれたいんだ。同じ兄として参考として聞いておきたくてね」
サーゼクスの目は間違いなく先ほどよりも輝いていた。彼がリアスを溺愛しているのは知っていたが、どうも一緒に寝ることを希望してきたのはこの話を振るためとしか大一には思えなかった。
「サーゼクス様、俺は別に一誠のことは好きではありません。良い兄というつもりもありません。出来ることなら干渉は避けたい方ですよ」
「そうなのかい?」
「兄としての責任感はありますがそれだけです。あいつのことを一から十まで心配するほど、人間として出来ていませんよ。いや悪魔としてか…」
「うーむ、つまりそれくらい距離を置いた方が上手くいくのだろうか。授業参観のためにやはりいくつか仕事を眷属に放り投げたのはマズかったかな」
(それはマズいでしょうよ)
ぼやくサーゼクスは納得したように首を振る。実際、彼が妹に向ける愛情が強烈であることは炎駒を通じて大一もいくつか知っていた。もっとも男兄弟と異性の兄妹という違いもあるのだろうが。
「いや大一くん、ありがとう。キミの立ち振る舞いは私も学ぶところがあったよ。ハッハッハ!」
「い、いえこのくらいでしたら…」
正直、褒められているような気がしないものの、魔王の勢いに大一はなんとも言えない気持ちとなっていた。ある意味、この傍若無人っぷりは妹のリアスを連想させるものでもあった。
「しかし男兄弟というのは意外と似ないものかもしれないね。フェニックス家もそこまで似ている印象は無いし」
「人それぞれだと思います。少なくとも自分は弟に似ていると思ったことは一度もありません」
「ふーむ、だからさっきのリアスの胸の話も喰いつかなかったわけだ」
一誠が寝る直前に、サーゼクスとの会話でブーステッド・ギアの倍加の力をリアスの胸に譲渡するという、本当に魔王で彼女の兄が提案したのかと思えるほどの話題が出てきた。あまりにもくだらないと思って大一は話に入ろうせずに閉口していたのだが、それ以上に一誠のエロいことについて魔王すらも把握していることの方が驚きであった。
「男ともなれば気になるものだと思ったが…」
「さっきの話からそこに持っていくのが凄いですよ…」
「大一くんはアーシアさんのような子が好みだったかな?」
「いやそういうことではなく…」
「おっと同居していたから、つい…つまり彼女もイッセーくんのハーレムというわけか!いやはやまだ悪魔になって間もないが、なかなかやるな。さすが赤龍帝ということか。大一くん、負けていられないぞ!キミも良い人を早く見つけるべきだ。私もグレイフィアとの出会いは───」
(いや人の話を聞けよ、魔王!)
大一の想いは当然届くことなく、部屋ではただ一誠の静かな寝息だけがサーゼクスの耳に入っていた。
オリ主の曇りとツッコミが止まらないんです。