授業参観の前日、大一は急に生島からの仕事の依頼のため、彼の店へと出向く。内容は酒のボトルの整理であった。貼ってあるシールの年数を確認して、残すかどうかを決めていく。整理し始めてみたら予想外に数が多かったため、彼が召喚された。
テーブルにずらりと並べられている形が違うそれぞれのボトルを確認しながら仕分けていく。地道な作業ではあったが、体格に似合わずこういったものは大一の性に向いていた。反対側の生島も慣れた手つきで確認を進めていく。
「キープ年数過ぎていたら、飲んでもいいからね」
「俺は未成年です」
「あー、もったいないわ!酔った大一ちゃんを介抱したかったのに!」
「勘弁してくださいよ…」
目の前で仕分ける生島の嘆きを聞いて、大一はびくりと背中が震える。彼の人柄は知っているためそういった感情が無いのもわかるのだが、それでもオネエ的なその言葉に悪寒が走るのであった。
そんな大一を気にせずに、生島は楽しそうに話を続ける。
「でもそういうのは好きな人にやってもらいたいわよね。…大一ちゃん、私が言いたいことわかるかしら?」
「…わかりますけど、したくない話題ですね」
「どうしてよ。リアスちゃんに、姫島ちゃんと可愛いお友達いっぱいいるじゃない?それとも彼女らとはただの友達なの?」
「ええ、そうですね。もっと言えば意中の相手もいると思うんですよ」
「うっそ、残念だわ~!私、ひそかにそこの三角関係期待していたのに~!」
「それを言ったら、ひそかじゃないですよ。しかも生島さん、2人には片手で数えられる程度しか会っていないでしょう?」
「女の友情に時間は関係ないのよ」
(あなた、生物学的には男でしょうよ)
力説する生島に大一は心の中でツッコみを入れる。さすがに口に出したら失礼なことは彼もわきまえていた。
しかし仕事を始めて30分過ぎたが、彼女の目的が雑談であるような気がした。心の隙間を埋めたくなって悪魔を呼ぶ人は少なくないが、彼がそういったタイプでは無いと思っていた大一としては、この呼び出しは意外な気持ちであった。
「あっそうだわ。ちょっと聞いたわよ、大一ちゃん。授業参観あるんですって?」
「なぜ生島さんがそのことを?」
「駒王学園ってイベントあると色んなところに漏れやすいのよ。それに私は商売上、大人の方からお話を聞くことも多いし」
うんうんと頷きながら生島は話す。彼の情報網はたしかに侮れない。周辺の情報をすっぱ抜くのはお手の物だし、本人の性格も合わさって多くの情報がこの店に集約しているらしいのだ。
「甥が入りたがっているから見学と言って、大一ちゃんを見に行っちゃおうかしら」
「勘弁してくださいよ。基本的に駒王学園は悪魔のことは伏せているんですから」
「もう、冗談よ。ところで大一ちゃんはお父様とお母様が来るの?学年の違う弟ちゃんもいるから大変じゃない?」
「いちおう時間ずらして来ると言っていました」
大一としては父母共にアーシアを見たいだろうから、自分のことは気にしないで欲しいと思っていた。しかし実際に両親にそのことを話したらきっぱり断られた。高校最後の参観日に息子の晴れ舞台は見ておきたいというのだ。結局代わる代わる見に行くということになった。
「…いい親御さん持ったわね。大一ちゃん、その想いに応えるためにも悪魔稼業無理せずにやらなくちゃね!」
「いや、親は自分が悪魔であることを知りませんから…」
「それでもよ!むしろ見えないところでこそ、意識していかないと!そして私の目はごまかせないわよ!あなたの目の下のクマがまた酷くなっていることを!」
指を突き立てて、生島は宣言する。彼の洞察力も情報が集まる理由なのだろう。
「なんてことないですって」
「私はそんな言葉を聞きたいんじゃないわ。任せなさい、この生島さんとは特に関係ない貰い物の乳酸飲料を上げるわ!睡眠の質が高まるはずよ!」
「あ、ありがとうございます」
生島が押し付ける乳酸飲料を受け取りながら、大一は戸惑った様子で答える。どうして彼の善意はこれほどまでに気押しされるような勢いがあるのだろうか。
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「授業参観の日まで呼ぶとは穏やかじゃないな」
大一は苛立ちを隠さずに、目の前の男子生徒たちに言う。
授業参観は滞りなく終わった。教室に紅の髪をした男性2人…リアスの父と兄が入ってきた時はさすがに教室がざわめいたが、それ以上大きな事件は起きなかった。もっともリアスの気恥ずかしさは天井知らずであったが。
平和だと思っていた大一であったが、昼休みに数人の男子生徒に呼び出され、あまり人気のない廊下に誘い出される。全員、大一が一誠に関する噂について先日説明した生徒たちであった。同じメンバーに呼ばれることには当然面倒ごとを予感させた。
「俺たちだって事を荒立てるつもりは無い。しかし事の重大さを考えて、お前に接触する必要性を感じたのだ」
「なんでお前らは物事を壮大に話すんだよ…」
「それに匹敵する内容だからだ。頼む、大一…お前の弟が作ったグレモリーさんの紙粘土細工を売ってくれ!」
「この前と話のレベルが大差ないじゃねえか!」
一斉に頭を下げてくる同級生に、大一が大きく吠える。聞けば紙粘土を使って作品を作るというなぜか小学生みたいな内容の授業中に、一誠がリアスの裸体を作り上げたらしい。その完成度にクラスがオークション会場状態になったが、一誠は誰にも売らなかった。そこで兄である大一ならば、どうにか手に入れられるのではないかと思ったのだ。
「兄という権限を存分に活かしてくれ!」
「そんなくだらないことにやるか!」
「先生!僕は姫島さんがいいです!」
「なに、リクエスト出しているんだ、お前は!」
「僕はアーシアちゃんと小猫ちゃん!」
「てめえ、2人はズルいだろ!俺だって最近転校してきたゼノヴィアちゃんや麗しきソーナ会長と迷っていたのに!」
「まとめてハッ倒すぞ、お前ら!」
止まらなくなる同級生相手に、大一は片っ端から捌いていく。それでも目の前のリーダー格の男は食い下がり、ゆっくりと大一の肩に手を置いて厳かな声で語りかけた。
「いいか、大一。お前の潔白さは我々が認めるところだ。しかし友のためにその想いを曲げる時はあるんじゃないのか?」
「だったら、俺は親友のリアスさん達を守るわ!」
終わりの見えないこの状況に、打開策など当然無かった。大一はこのまま昼休み終わりまで全員を相手にすることも覚悟していた。
しかしその空気を意外な存在が打ち破る。
「待ってよ、ソーたぁぁぁん!」
「ついてこないでくださいッ!」
猛スピードで廊下を走っていたのは、生徒会長のソーナと彼女を追いかける魔法少女の格好をした女性であった。明らかにコスプレ的な見た目の美少女に、男たちは思わず視線を向けるが、大一は別の意味で彼女の登場に驚いた。
大一を確認したソーナはさっと彼の背中に隠れるように盾にする。
「大一くん、ちょっと盾になってください!」
「そこまで直球に言われるとは思いませんでしたよ」
「ちょっとソーナちゃん、そこまで…ってあれ?大一くんじゃない。お久しぶり~☆」
「お、お久しぶりです。レヴィアタン様。お変わりない様子で…」
「でもソーナちゃんが変わってしまったわ!私に構ってくれないの!もっと百合百合した展開を求めていたのに!」
「元々です!」
目の前の魔法少女はうるうるとした瞳で答える。黒い髪をツインテールにして、少し小柄ながらも色気のある体つき、それでいて可愛さ満点の女性は、魔王の一角でソーナの姉、セラフォルー・レヴィアタンであった。大一も彼女とは顔見知りで、顔を覚えられるほどの関係性であった。もっともその関係性はグレモリー眷属やルシファー眷属の弟子というだけでなく、初めて会った時に機嫌を損なわないようにとその恰好を褒めちぎったことが大きいのだが。
突然、現れた美女とのやり取りに、同級生がブーイングを放つ。
「大一、貴様!その潔白さは見せかけだったのか!」
「ただの知り合いだ!とにかく今度時間取ってお前らの話全部聞いてやるから、さっさと戻れよ!」
「えーい、ないがしろに…!だが良いだろう。お前へのわずかな信頼を持つ我々に感謝するんだな!」
それだけ言い残すと、同級生たちは去っていく。誰かがこっそりと中指を立てるジェスチャーをしたことには気づいたが、それにいちいち怒るよりも新たに現れた彼女の相手をする方が何倍も面倒で疲れることだと分かっていた。
セラフォルーとソーナは大一を隔たって、お互いに自分の想いをぶつけ合う。
「ねえ、ソーナちゃん出てきてよォ!お姉ちゃん、もっとソーナちゃんと愛を深めたいんだよォ!」
「私はするつもりはありません!ましてやこの学園でなど言語道断です!」
「なんでえ!お姉ちゃんはソーナちゃんのこと大好きなんだよ!ちょっと大一くんからも言ってよ。私がどれだけソーナちゃんを愛しているのかってこと。同じ兄弟姉妹では上で、魔法少女仲間ならわかるわよね☆」
てっきりこのまま主張のぶつかり合いが続くと思っていただけに、急に話を振られたのには彼も困惑した。サーゼクスの時といい、なぜ周りの兄弟は自分らとはまるで価値観が違うのだろうか。悪魔的価値観のせい…だけではないだろう。
「何度も言いますが別に俺は魔法少女目指しているわけではなくて、レヴィアタン様にその恰好が似合っていると言っただけです。それに俺は別に兄だからって弟を溺愛しているわけじゃないですから」
「分かりましたか、お姉様!こういう兄弟が普通なんです!」
「そんなことないわ!サーゼクスちゃんだってリアスちゃん大好きだもの!大一くんも弟の赤龍帝くんを心の底から愛しているはず!」
「いやですから…」
その後10分間、生徒会のメンバーが来るまでこの論争は続いた。そしてこの日の放課後、兵藤家とグレモリー家の酒盛りで人生最大レベルで肩身の狭さを経験した彼は、授業参観に対して悪意しか持てなかったのであった。
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次の日の放課後、オカルト研究部は旧校舎の「開かずの教室」とされていた部屋の前に立っていた。ここには新入りには正体を秘密にされていたグレモリー眷属の「僧侶」がいるのだが、フェニックス家とコカビエルの一件により今なら扱えるだろうとのお許しが出たのだ。
リアスと朱乃が2人で部屋に入っていくと、間もなく耳に響く強烈な叫び声が聞こえてきた。
『イヤァァァァァァァアアアアアッ!!』
中でリアスと朱乃が説得するのに対して、部屋の主は外からでも聞こえる怯える声色でいた。
『やですぅぅぅぅぅぅ!ここがいいですぅぅぅぅぅぅ!外に行きたくない!人に会いたくないぃぃぃぃっ!』
「相変わらずうるさいな…。入るぞ、みんな」
大一を先頭に、他の部員たちも部屋へと入っていく。事情を知る祐斗や小猫は苦笑や呆れの表情であったが、事情を知らない一誠達は不思議そうな様子であった。
部屋には赤い目と金髪が特徴的な美少女がびくびくしながら座っていた。その姿にいち早く反応したのは、やはり一誠であった。
「おお!女の子!しかも外国の!」
「見た目、女の子だけど、この子は紛れもない男の子よ」
「いやいやいや、どう見ても女の子ですよ、部長!…え?マジで?」
「女装趣味があるのですよ」
「え…え…あ、兄貴!?」
「ウソ言う理由が無いだろ。こいつは紛れもなく男だよ」
上級生3人からのお墨付きを聞いたところで、一誠の叫びがこだまする。あまりにも可愛らしい目の前の存在が男…その事実だけで彼が地に膝をつくのには十分な理由であった。
そんな一誠の反応にさらに怯えながら、少年はリアスに問う。
「と、と、と、ところで、この方たちは誰ですか?」
「あなたがここにいる間に増えた眷属よ。『兵士』の兵藤一誠、『騎士』のゼノヴィア、あなたと同じ『僧侶』のアーシア」
自己紹介にあいさつをするも相も変わらず、少年は怯える。リアスの声掛けにも怯えるばかりで、外に出るのを頑なに拒むだけであった。
その態度に一誠はだんだん苛立ち始め、とうとう彼の腕を引っ張ろうとする。
「ほら、部長が外に出ろって───」
「バカ待て!そいつの力は───」
大一の静止が終わる前に奇妙なことが起こった。一誠は間違いなく少年の腕をつかんだはずであった。しかし彼はいつの間にか部屋の隅にいて体を震わせていた。まったく逃げた様子などが見えず、そこにいたのだ。
一誠、アーシア、ゼノヴィアが不思議がる中、少年は必死な様子で叫ぶ。
「怒らないで!怒らないで!ぶたないでくださぁぁぁい!」
「大丈夫だ、大丈夫。誰も怒らないし、お前を傷つけるやつはここにいないから。まず話を聞こうな」
「その子は興奮すると視界に映したすべての物体の時間を一定の間停止することができる神器を持っているのです。彼は神器を制御できないため、大公及びサーゼクス様の命でここに封じられていたのです」
少年の肩を大一が落ち着かせるように撫でる中、朱乃が新入りメンバーに詳細を説明する。先ほどの奇妙な現象は彼の神器が由来するものであった。
リアスは少年を後ろから優しく抱きしめると、一誠達に紹介する。
「この子はギャスパー・ヴラディ。私の眷属『僧侶』。一応、駒王学園の一年生なの。───そして、転生前は人間と吸血鬼のハーフよ」
セラフォルーもギャスパーも口調が難しいイメージがあります。