「ほら、走れ。デイウォーカーなら日中でも走れるはずだよ」
「ヒィィッ!デュランダルを振り回しながら追いかけてこないでぇぇぇッ!大一お兄様、助けてぇぇッ!」
「俺も任された立場だ。悪いが今日はどうしてもって時以外は手を貸せない」
「お兄様が厳しいィィィッ!いつもと違うゥゥゥッ!」
夕方に差し掛かる頃、大一はギャスパーと走っている。後ろからはゼノヴィアがデュランダルを振り回し、強制的に走らせるというなかなかスパルタ的な特訓であった。この特訓はゼノヴィアの考案で、健全な精神は健全な肉体に宿ることを目的としている。大一としては、長く引き籠りであったギャスパーにはきついような気がしたが、意外にも走れていることに安心を感じた。
こうなった経緯にはもちろん理由がある。ギャスパーの持つ神器「停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)」は、視界に入った物の全ての動きを止める強力なものであった。リアスはこの強力な力を持つ彼を、「変異の駒(ミューテーション・ピース)」と呼ばれる特殊な「悪魔の駒(イーヴィル・ピース)」で対応していた。これにより消費する駒はたったのひとつで済む。
しかしギャスパーの力はあまりにも強力で、将来的には一誠や祐斗同様に「禁手」に至るほどのもの。下僕にした当初はその力と元来の類まれな才能から、リアスが扱うにはまだ早いということを上が決定した。最近、下僕である一誠と祐斗が禁手を発動したことにより、ようやくその存在を解禁することになった。
リアス、朱乃が会談の打ち合わせに向かい、祐斗も神器の件で呼ばれたため、残ったメンバーでギャスパーの教育という名の特訓となった。
「…ギャーくん、ニンニクを食べれば健康になれる」
「いやぁぁぁん!小猫ちゃんが僕をいじめるぅぅぅ!」
小猫が近づいてきて、ニンニクを持ってくる。ずれたやり方な気がするが、彼女にとっては効果的だと思ったのだろう。その追い回す様子で楽しんでいるだけのようにも見えるが。
そんな様子を一誠は見ていた。一緒に走らせることも考えたが、いきなり見知らぬ相手と走るのもギャスパーとしては厳しいだろう。
気づけば一誠は生徒会の匙と合流しており、間もなく見たこともない男性が近づいて来ていた。悪の雰囲気を与える20~30代くらいの背の高いワイルドなイケメン、見た目に反して浴衣を着ているのがどこか常人離れした感覚を印象付けられた。
そして一誠の言葉で、それが間違いでなかったことが判明する。
「アザゼル…ッ!」
「よー、赤龍帝。あの夜以来だ」
空気が一瞬で変わる。全員が警戒をして臨戦態勢となった。大一もギャスパーを後ろに隠れさせながら、錨を手元に取り出して構える。
だがアザゼルの方は面倒そうに、やる気の無さをアピールした。彼の言い分では散歩がてらに様子を見に来たそうだが、敵対勢力のトップの言葉をすんなり飲み込むほど甘くはない。同時に勝てる見込みがないことも事実であった。相手は堕天使総督、その実力はコカビエルも上回っていると考えてよいだろう。
そんな中、アザゼルは大一の後ろの隠れているギャスパーを指さしながら近づいていく。
「『停止世界の邪眼』の持ち主なんだろう?そいつは使いこなせないと害悪になる代物だ。そういや、悪魔は神器の研究が進んでいなかったな。五感から発動する神器は持ち主のキャパシティが足りないと自然に動き出して危険極まりない」
「お、おい、これ以上近づくな…!」
好奇心を目に宿らせながらどんどん近づくアザゼルに、大一は錨を向ける。しかし全く意に介さない様子に、彼は戸惑いを隠せなかった。
すると今度は一誠の隣にいた匙を指す。
「それ、『黒い龍脈(アブソーション・ライン)』か?練習をするなら、それを使ってみろ。このヴァンパイアに接続して神器の余分なパワーを吸い取りつつ発動すれば、暴走も少なく済むだろうさ」
アザゼルの説明に匙は複雑ながらも驚いた表情になる。なんでも彼の神器はパワーを取るものであったがその対象は生物にとどまらずあらゆるものの力を散らすことが出来た。伝説の五大龍王であるヴリトラの力らしい。
アザゼルはその真実を、神器の理解への甘さを憂いながら説明した。
「神器上達で一番てっとり早いのは、赤龍帝を宿した者の血を飲むことだ。ヴァンパイアには血でも飲ませておけば力がつくさ。ま、あとは自分達でやってみろ」
そう言うとアザゼルは一瞬、大一の「生命の錨」に視線を向けるが、すぐにその瞳からは興味を失っていった。
「なんだ、これか…」
彼はスタスタと歩いていくと、一誠に対して接触したことに少し追求して去っていった。
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次の日の夜、大一と祐斗は階段付近に座り込んでいた。下からは一誠がギャスパーに対して話しているのが聞こえる。扉越しのためかなり大きな声であり、大一達はそれをこっそりと聞いているような状況であった。
この日、ギャスパーは一誠と一緒に悪魔の仕事に連れていかれたが、相手方の勢いに驚いてまたしても神器を発動させてしまったのだ。戻ってきてからはすぐに部屋に閉じこもってしまったのだ。
リアスが会談の打ち合わせもある中で、一誠が自分から彼の説得に当たっていた。大一達はそれが気になって様子をうかがっていたのだ。
ギャスパーが一誠の呼びかけにも答えるようになってきたところで、大一は祐斗に小声で話しかける。
「祐斗、一誠って何が凄いんだろうな?」
「なんですか、藪から棒に?」
「ほら、俺ってあいつの兄貴だけどさ、家族ってだけであいつの良いところに気づけないもんなんだよ。駒王学園に入ってからも追いかけっこや代わりの謝罪ばっかりだし。でも悪魔になってからは、あいつが色んな人から好かれているのを見て気になったんだ」
「察しました。そうですね…誰かのために懸命になれるところじゃないでしょうか。僕としては聖剣の件で助けてくれたのが、とても嬉しかったんです」
満足するような笑顔で祐斗は答える。その笑顔だけで彼がどれだけ救われたのかを察することはできた。同時に大一の心がチクリと痛む。彼を救えなかった自分の弱さに直面した気がするのだ。
そんな大一の心情を知る由もない祐斗は、彼に対して言葉を投げかける。
「そういえば、僕も気になったんですけど大一さんってイッセーくんのことを普通に呼びますよね」
「どういうことだ?」
「いやイッセーくんってだいたい皆に『イッセー』って呼ばせるじゃないですか。部長から聞いたんですけど、親御さんもそう呼んでいるのに大一さんはずっと『一誠』だなって」
「あんまり気にしたこと無かったな。まあ、強いて理由を挙げるのならば…あいつと親しくなりたくなかったんだと思う」
「自分の弟なのにですか!?」
「自分の弟で、俺があいつの兄だからだ」
大一にとって、それは兄の矜持であった。周りが弟と親しむ中、一定の距離を保つことで兄として、人生の先輩として、手本として、家族として、存在できるような気がしていた。小さい頃から両親が弟の方を心配していたのも合わせて尚更であった。
実際のところは、弟の方が特別な力を持っており龍のオーラも合わさり、優秀で愛される存在になっていたのだが…。
「俺のやってきたことは全部甘かったのかな…」
「えっ?」
「いやなんでもない。しかし声が小さくなったな。ちょっと見に行くか」
あまりにもか細い声であったのが大一にとって幸いであった。漏れてしまった心の声を悟られないように、彼は祐斗と共に1階に降りていく。ギャスパーの扉はわずかに開いており、2人でそこを覗き込んだ。
「さすがイッセーくん。ギャスパーくんとすぐに談笑できるなんてね」
「俺なんて1か月はかかったぞ…」
「おっちょうどいい。兄貴、木場、話がある。俺達は男だ。そこで俺はグレモリー眷属の男子チームでおこなえる連携を考えた」
「それは…興味がそそられるね。どういうのかな?」
祐斗は喰いついたが、大一は一誠が「男」を強調した時点で嫌な予感しかなかった。そしてこういった場合はかなりの確率で的中する。
「まず、俺がパワーを溜める。そして、それをギャスパーに譲渡して周囲の時を停める。その間に、俺は停止した女子を触り放題だ」
「…またエッチな妄想をしていたんだね。それはそうと、それだけなら僕の役目はないんじゃないの?」
「いや、ある。お前は禁手化して、俺を守れ。もしかしたら、エッチなことをしている間に敵が襲来してくるかもしれない。お前の力と兄貴の防御力なら出来るはずだ」
「祐斗、こいつを抑えてくれ。ちょっと本気で一発入れないと気が済まない。こいつの身勝手さは、兄として目を覚まさせないといけないからな」
「大一さん、落ち着いて…。とにかくイッセーくん、今後のことを真剣に話そうよ。力の使い方がエッチすぎて、ドライグ泣くよ?」
『木場は良い奴だなぁ』
一誠の言葉に怒りの表情で拳を握る大一、そんな彼を止める祐斗、そして涙声のドライグとあっという間にギャスパーの部屋は騒がしくなる。
その日はグレモリー眷属男性陣の猥談という形で夜通し親交を深めた。ギャスパーが弟に対して一歩踏み出したことに安心しつつも、目の前で繰り広げられる3人とは大きな隔たりも感じたのであった。
別に兄弟、姉妹好きなキャラである必要は無いと思うんです…。