ということで、4巻の勝負まるまるカットでスタートです。
アザゼルが和平をここまで押していたのは、何も種族の生存だけではなかった。もともと戦いの歴史である三大勢力なのだから、平和を望めばそれに反する相手が現れるのは必然ともいえる。それがテロ組織「禍の団(カオス・ブリゲード)」であった。赤龍帝や白龍皇を超えるほどの強力な龍「無限の龍(ウロボロス・ドラゴン)」のオーフィスを旗頭に、破壊と混乱を招き続ける軍団だ。アザゼルが神器の所有者を集めていたのも、彼らに対抗するためであった。
当然、そんな組織が今回の会談を見逃すはずが無かった。彼らがまず起こした行動は、ギャスパーの利用。サーゼクス達を狙ったものであったが、結果は一部のグレモリー眷属にしか効かないものであった。続いて多くの魔法使いによる攻撃、さらに旧魔王の血を引く者達もこの組織に参加していた。さらに堕天使側であった白龍皇ヴァ―リも彼らに協力をする。彼の本名は「ヴァ―リ・ルシファー」、ルシファーの血を引く半純血の悪魔でもあり、そういう意味ではこの組織に協力したのは当然だったのかもしれない。彼の目的は純粋な戦い、だからこそこの組織に協力することとなった。
彼らはあわよくば一人でも敵の主戦力を討とうとしたが、上位陣の尽力と動けた一部のグレモリー眷属によりその企ては失敗に終わった。彼らを止める中心となったのは一誠とアザゼルであった。一誠の方はサポートを受けながらもギャスパーを救い、さらに禁手によりヴァ―リを撤退に追い込ませるほどの大金星であった。
そして戦いが終わった後、三大勢力のトップにより和平協定がなされた。この和平協定は舞台になった駒王学園から名を採って「駒王協定」と称される事になった。
これほど多くのことが起きていたのに、大一は時間を止められ動けなくなっており、何も出来なかった。
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「てなわけで、今日からこのオカルト研究部の顧問になる事になった。アザゼル先生と呼べ。もしくは総督でも良いぜ?」
後日、アザゼルが着崩したスーツを身にまとい、オカルト研究部の顧問として現れた。なんでもグレモリー眷属の悪魔が持つ未成熟な神器を正しく成長させることであった。今回の一件でリアス達がヴァ―リ率いる白龍皇のチームに対抗する戦力と見なされたのだ。レーティングゲームも合わせて、特訓を考えるアザゼルはまさに顧問の肩書に恥じない働きをするつもりであった。もっとも当人はそれ自体を楽しむ気でいるようで、先日の戦いで片腕を失い義手にまで変えたとは思えないほどの明るさであった。
そんな彼は次々と神器使いに目をつける。ギャスパー、祐斗、一誠と徹底的に強化するつもりであることを口にした。人工神器を作り、疑似的な禁手まで発動させた男の言葉は不思議なほど説得力があった。
「おまえは一から鍛え直す。白龍皇は禁手を一か月は保つぞ。それがお前との差だ」
アザゼルが一誠に強く言い放つと、次に彼が視線を向けたのは大一…ではなくその隣に立っていた朱乃であった。
「まだ俺らが──いや、バラキエルが憎いか?」
バラキエルとは旧知の仲である彼からすれば、彼の娘である彼女への心配はもっともであったが、それを朱乃が納得するものではなかった。
彼女は厳しい表情を崩さずに答える。
「許すつもりはありません。母はあの人のせいで死んだのですから」
「朱乃、お前が悪魔に降った時、あいつは何も言わなかったよ」
「当然でしょうね。あの人が私に何か言える立場であるはずがありません」
「そういう意味じゃねぇさ。いや、まあ俺がお前らの親子の間に入るのも野暮か」
朱乃の表情が不本意と嫌悪に満ちていく。一瞬、大一は声をかけそうになったが、先日の神社で冷たくあしらってしまったことを思うと、異常なほど舌が重く感じた。
そして朱乃はきっぱりと言い切る。
「あれを父だと思いません!」
「そうか。でもな、俺はお前がグレモリー眷属になったのは悪かないと思うぜ。それ以外だったら、バラキエルもどうだったかな」
複雑な表情の彼女を確認すると、アザゼルは再び一誠に目を向ける。
「おい、赤龍帝──イッセーでいいか?お前、ハーレムを作るのが夢らしいな?」
「ええ、そうっすけど…」
「俺がハーレムを教えてやろうか?これでも過去数百回ハーレムを形成した男だぜ?話を聞いておいて損はない」
「マ、マ、マジっスか!」
この誘いに一誠は興奮を隠せなかった。かつてグリゴリの幹部は人間の女性に魅了され、堕天使へとなった者ばかりであった。そういう意味では一誠と意気投合するのは必然であった。
アザゼル主導の下で童貞卒業ツアーが計画される中、それにリアス達が不満を漏らさないわけがなかった。
「ちょ、ちょっと、待ちなさい、アザゼル!イッセーに変なことを教え込まないでちょうだい!」
「いいんかねぇか。このぐらいの年頃なら女のひとつやふたつ知っておいた方が健全ってもんだ。それとも下僕が女を知るのに何か不都合でもあるのか?」
「イッセーの貞操は私が管理します!イッセー、人の貞操を守っておいて、あなたが他のところで貞操を散らすってどういうことなのかしら!?」
「イッセーさん、私を置いて遠いところに行ってしまうのですか…?」
「あらあら、イッセーくん、ツアーに参加したら寂しいですわ」
「…イッセー先輩、最低です」
「部長が管理しているのなら、子作りも容易にできないな…むぅ」
「モテモテです、イッセー先輩!ひ、引きこもりの僕は憧れるばかりですぅぅ!」
「いやー、だんだん僕のことを悪く言えなくなってきているよね」
数日後に終業式を控えたこの日、オカルト研究部の騒がしさはいっそうに増すこととなった。この騒ぎの渦中にいる一誠に唯一口を出さなかったのは、腕を組みながら立っている彼の兄だけであった。
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その日の夜、大一はトレーニングをする。本来は朝にやるのだが、悪魔の仕事もなく例によって悪夢で目が覚めたため、いつもの場所でひとり体を動かしていた。
走り込み、柔軟体操で体をほぐし、片腕で腕立て伏せをして、逆立ちをしながら魔力のコントロールをして、といつものようにトレーニングをこなしていく。体を堅牢かつ柔軟に鍛え、どんな時でも落ち着いて魔力を操る、それを意識して炎駒から仕込まれたものだ。
続いて、錨を取り出し剣道の竹刀のように素振りをする。これも武器を手になじませておく目的であった。一瞬でもこの感覚を忘れないために、毎日必ず1回は握りしめた。
いつものトレーニングであった。毎日こなし、休まず、時には更なる負荷もかけるような大きな変化のない内容…そのはずなのに、今の彼には体が異常なほど重く感じた。そして頭の中にも、それに勝るとも劣らないほどの自問自答がのしかかる。
(一誠はギャスパーに自信をつけた。あいつだけじゃない。リアスさんはライザーの一件がある。祐斗も聖剣の破壊で救われたと話していた。アーシアは命を救われたし、今回の会談でゼノヴィアと共に祈りを捧げることを許してもらった。朱乃さんだって堕天使の事実を彼に受け入れられたことを喜び、小猫もあいつを慕う。
きっとみんながあいつに救われ、慕うことだろう。当然だ。あいつはそれほどのことをやったのだから。特訓や話に付き合っていただけで何もできない自分とはまるで違う。
それに今回の戦いで俺は力になれなかった。時間を止められ、目が覚めればほとんど終わっているような現実…俺がまだまだ力が足りないせいだ。もっと強くならなければ。
アザゼルは俺の神器に興味が無い。仕方のないことだ。俺は特別じゃない。だからこそ必死に特訓して食らいついていかなければならないんだ。
その道に終わりが見えないのは承知している。だって…)
呼吸が荒くなる。動きが雑になっていく。様子がおかしくなっているのを自覚できた。自分がどれだけ醜い感情を抱いているのかも…。
大一は大きく錨を地面へと振り下ろす。魔力も入れていないため、地面には浅い傷しかつかなかった。自分の無力さを表しているかのようにすら見えてしまった。
左手を錨から放し、ゆっくりと自分の顔の前に持っていく。年齢の割にごつごつとしたものであった。擦り切れた皮膚に潰れた血豆、見慣れているはずの手なのにそれを確認した途端、さらに心が締め付けられる思いが湧いてきた。彼の口から無意識に声が漏れる。
「…重い」
それに気づいた瞬間、すぐにがっしりと歯を食いしばる。必死で流れ落ちそうになる涙を、口からこれ以上に吐き出しそうになる弱音をこらえる。何人たりとも、それを見せるわけにも聞かせるわけにもいかなかった。
頭の中では自分が期待されていないことなど理解している。自分のこの想いが間違いであることも気づいている。しかし後に引けない。自分は悪魔で、その修羅の道を選んだのだから。それが自分の運命なのだから。
彼の燃えるような苦しみの心情に対するかのように、辺りは異常なほど静まり返っていた。
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大一がトレーニングする同時刻、町の廃ビルの屋上にひとりの小柄な老人が座り込んでいた。場所に合わせたようなボロボロの布切れを纏っており、傍から見たら浮浪者にしか思えないだろう。
男は目を凝らし、町全体を見渡す。これから起こるであろう出来事にその存在は心を震わせていた。
『興味がてら見に来たが、この感覚…これほどの相手を見つけられるとは!もしかしたら僕の望みもかなうかもしれない!アザゼルがいるのが厄介だが…まあ、なんとかなるだろう。明日にでも早速準備にかからねば!』
見た目のわりには甲高く、それでいて負の感情に満ちたその声の主は、一瞬でその場から姿を消したのであった。
これで4巻は区切りが付きましたが、5巻に行く前にちょっとオリジナルの展開を書きます。