D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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ある意味、今回の敵キャラの説明です。


第32話 犠牲の黒影

 廃工場のもっとも広い場所にリアスは立っていた。少し前まではかなりの魔物の数がいたが、彼女の滅びの魔力により多くの者が消え去り、途中で合流した朱乃とゼノヴィアの助力もあり早々に敵を殲滅することが出来た。最後の方に至っては、明らかに魔物の統制が乱れ始めていたため、この場にいない誰かが目的のはぐれ悪魔を倒した可能性も考えられる。

 静まり返ったこの場でリアスは考えを巡らせるが、そんな彼女にアザゼルが後ろから声をかける。

 

「拍子抜けだな。お前らの実力をもっと見られると思ったんだが」

「この程度の相手に手間取るほど私達も甘くないわ。ご期待に沿えず悪かったわね」

 

 あくび混じりのアザゼルに、リアスはピシャリと言い放つ。この男に対して、いまだに手放しで信頼を寄せることはできなかった。

 とはいえ、アザゼルの言い分はもっともであった。相手が大したことないのは承知であったが、それにしても多いだけで無駄に時間を取られたと思われても仕方なかった。

 自身の手際の悪さに苛立ちながらリアスは、朱乃に話しかける。

 

「相手が大したことないから通信装置を用意しなかったけど、これは持ってきた方が良かったかもね」

「互いの連絡が出来ませんものね。どうも通信用の魔法を遮断する魔力も渦巻いていますし…。まあ、魔物の動きも怪しかったですから、誰かが討ったと見ていいものだとは思いますわ」

「部長~!」

 

 会話の途中で一誠と小猫が戻ってくる。2人も目立った外傷は見られなかった。

 

「こっちの魔物は片付けました」

「…特に首謀者らしい相手はいませんでした」

「2人もお疲れ様。あとは大一と祐斗だけね」

 

 リアスが確認したところで、轟音とともに天井の一部が破壊される。落ちてくる瓦礫をリアスと朱乃が防御魔法陣で防いでいると、その穴からふたつの陰が飛び出す。ひとつは煙の中に隠れたが、もうひとつのリアス達の近くに降りたのは木場祐斗であった。油断のならない表情、その手には聖魔剣が握られている。ただならぬ彼の気配にリアスは呼びかけた。

 

「祐斗!何が起こったの!?」

「僕も知りたい限りですよ。とりあえず首謀者のはぐれ悪魔は倒されました。しかし…」

 

 祐斗は歯を食いしばりながら煙の先を見つめる。そこから現れた大一は錨を担ぐように持っており、口元に笑みを浮かべていた。陰湿で相手を小ばかにするような薄ら笑いにいつもと様子が違うと感じた一誠は問いかける。

 

「兄貴?」

『兄貴…ああ、てめえが赤龍帝か。まあ、僕は興味無いが力を試すにはちょうどよさそうだな』

「なあ木場。兄貴どうしてしまったんだよ?」

「僕も分からない。ただひとつ言えることは、今の大一さんは僕らと敵対しているということだよ」

『聡明だぜ、木場祐斗。聖魔剣なんて特別なもの持っているだけはあるな!』

 

 大一は一気に祐斗との距離を詰めると、彼に向かって錨を大きく振りつける。祐斗は聖魔剣でそれをいなしていくが、攻撃の重さと聖魔剣の影響がまったく見受けられない錨に押されていった。

 

「ギャスパー!」

「は、はいィィィィ!」

 

 リアスの掛け声とともに大一の横に回ったギャスパーは彼を視界にとらえる。その瞬間、大一の動きは止まり祐斗への攻撃も落ち着いた。

 

「なんとか抑えていてちょうだい!一体何が────」

『「停止世界の邪眼」とはまた面白いものを使ってくる。しかしこいつの魔力探知と僕が合わされば、こんなものの動きは読めるわ!』

 

 時間が止まっているはずなのに、大一の声があたりに響く。よく見るとギャスパーの足元にいつの間にか影が伸びており、そこから隆起した影の腕が彼の喉をわしづかみにする。

 

「うぐぐッ…!」

『このまま窒息か、首の骨を折るか、迷うところだな』

 

 突然の不意打ちに能力を解除させられたギャスパーに大一が近づいていく。歯をむき出しにしたその笑顔は狂気に満ちており、これまでの彼の様子と繋がるものがひとつとして見られないほどの恐ろしさがあった。

 すぐにゼノヴィアがギャスパーを掴む黒い影を斬り落とし救出するも、大一は彼女を狙うようにその錨を振り下ろす。その振り方は、間違いなく彼女の命を狙いにかかっていた。向かってくる連撃をゼノヴィアがデュランダルでいなしていく中、今度は一誠が抑え込むように大一の背中に飛びついた。

 

「おい、兄貴!なにやっているんだよ!」

『まだこいつを兄貴と思っているその甘さには呆れすら覚えるな!』

 

 その瞬間、一誠は吹き飛ばされた。背中から太い黒い影が拳となって飛び出しておりこれが彼を殴り飛ばしたのだ。

 その異形の攻撃に驚きながら、一誠は殴られた箇所を抑えて立ち上がる。視線の先にいる大一の背中からは影の腕が2本伸びており、化け物のごとく多椀に見えた。

 

「こ、これは…!」

『ひとつ、ふたつで驚いていたらきりがねえぞ、赤龍帝』

 

 そう言った大一の体から黒い影が触手のように形作り、いたるところから噴き出す。これまでの彼とは一線を画す異様性がそこにはあった。

 リアス達は大一と一定の距離を取る。祐斗の言う通り、今の大一はリアス達にとって敵対している。それどころかいつもの様子はまるで違い、何かが乗り移ったかのような雰囲気であった。疑問と衝撃が渦巻くそんな中、一歩前に出たのはアザゼルであった。

 

「久しぶりだな、てめえ」

『おーう、アザゼル!まさか悪魔の手先になっていたとは堕天使も落ち目なものだ』

「ぬかせ。変わろうともしないお前よりははるかにマシだ。何しに現れた?」

『駒王協定とやらの真意が気になってみたら、最高の逸材を見つけた。それだけの話さ』

 

 静かに睨み合う大一とアザゼルの間に、緊張が張り詰める。一触即発の雰囲気を感じさせたが、意外にもアザゼルは冷静に横にいるリアスに声をかけた。

 

「おい、リアス。あいつを救いたいか?」

「当たり前でしょ!私の眷属よ!」

「だったら、ここは退くぞ。俺が目くらましをするからその隙に魔法陣で拠点に戻る。今ここで取る行動はここであれを始末するか、一度退くかだ」

「でもアザゼル────」

 

 リアスが言いかけた言葉を抑え込むようにアザゼルは視線を向ける。有無を言わせぬ説得力がなぜか感じ取れた。アザゼルは全員を見回して、それぞれに合図を送る。ほとんどが腑に落ちないような表情をするも、リアスの様子を見て彼らが反論することは無かった。

 

「じゃあな!」

 

 アザゼルはどこからか取り出した煙玉を大一の足元に投げ当てる。瞬間、周辺に白い煙が立ち込めあっという間に彼の視界を遮った。大一は一歩も動かず正面に目を凝らしていたが、煙が晴れるとそこには移動用の魔法陣が消えていくのが見えた。そして先ほどまで彼の周りにいたグレモリー眷属も姿を消している。

 

『魔力探知をごまかすタイプの目くらましとは、古典的な方法だな。いいさ、まだ慣らしているところだ』

 

────────────────────────────────────────────

 

「アザゼル、何があったのか説明してちょうだい!」

 

 部室に戻るなりリアスはものすごい剣幕でアザゼルを問い詰める。その勢いはコカビエルに対して見せたい仮にも匹敵しているように思われるほどであった。

 

「あー、ちょっと落ち着け。俺も考えてんだからよ」

「落ち着けるわけないでしょ!あれはいったいなに?大一を乗っ取ったあれは?」

「説明するから、とにかく座れ。あの厄介性はお前ら、全員に伝えなければならないんだからよ」

 

 アザゼルの指示に苛立ちながらも彼女は座る。他のメンバーもソファや手近な椅子に座ったりと戸惑いや驚きが交差した状態であった。

 大一がおかしくなったことには一誠も驚きを隠せなかった。それは彼だけではない。隣に座っていたアーシアは不安そうにしながら彼の袖をつかみ、主であるリアスは怒りと焦燥感を隠せない様子、祐斗は悔しそうに頭を押さえている。ギャスパーはよほどショックだったのか顔に袋を被って部屋の隅で震えており、小猫も意気消沈していた。朱乃は顔をしかめてアザゼルに非難的な視線を向けている。唯一、ゼノヴィアは何かを思い出すように目を閉じていた。

 とりあえず全員が腰を落ち着けたことを確認すると、アザゼルは困ったように頭を掻きながら口を開く。

 

「まず大一がおかしくなった理由だが、操られている。そしてそれの正体なんだが『犠牲の黒影(スケープゴート・シャドウ)』という意思を持つ神器だ」

「意志を持つって俺のブーステッド・ギアのドライグみたいな感じってことっすか?」

「そういうのだったら、どれだけ俺らも楽だったろうな。神器に意思が宿っているんじゃない。神器自体が意思を持っているんだ」

 

 各々の反応を意に介さず、アザゼルは言葉を続ける。

 

「元々はいかなる状況でも黒い影を体から生みだし、それを手足のように扱うというものだ。神器の本質である感情の力が大きく左右するもので、魔力を使わなくても生みだせるというのが強みだった。

 ただこの神器には大きな欠陥があった。それは所有者の精神に大きく影響を与えることだ。あれの宿主になっただけで一般的な負の感情を増大させ、どれだけ感情を排除しようにも暗いものがつきまとう。その結果、宿主は精神を破壊されて意識を失い、神器自体が宿主を乗っ取るというわけだ。しかもその暗い感情こそがあの神器の能力をもっとも引き出す」

 

 この奇天烈かつ質の悪い神器の特性を聞くと、リアスが質問する。

 

「そんな神器、初めて聞いたわ。これまで対策が打たれなかったの?」

「やろうとはしてきたさ。しかし相手もなかなか狡猾でな。混乱に乗じてだったりとか、身分を隠して潜んでいたりとかして身を隠す。ただ歴史の節目に現れてはその場を混乱させるんだよ。冥界や天界だけでなく、北欧や教会や…挙げだしたらキリがねえな。俺が把握していないのもあるだろうし」

「特性についてはわかったわ。つまり大一はそれに捕まったわけね。それで本題だけど、どうやって彼を助ければいいのかしら?」

 

 まさに一誠が知りたかったことであった。さすがにこのまま兄が神器に乗っ取られたままというわけにもいかない。一刻も早く救出したいところだが、あの場ではアザゼルの言葉に乗って撤退したのだから、当然手だてはあるはずであった。

 しかし彼らの期待とは裏腹にアザゼルの表情は渋かった。

 

「救う手だてはある。だが確実じゃないんだ。成功する確率はかなり低い。何よりも今日まであの神器から無事に解放された所有者は、俺の知る限りいない。魔力を全部取られて死ぬか、精神が完全にイカレて廃人になるかのどちらかだ」

 

 アザゼルの言葉にその場の空気が凍り付く。一瞬、彼の言葉が飲み込めなかったが間もなくどうしようもないほど腑に落ちない感情が湧いてくる。これではまるで文字通り、大一が犠牲になってしまったようなものだ。

 その想いを代表するように、リアスはアザゼルに食って掛かる。

 

「どうして!?撤退するときにあなたが言ったことじゃない!」

「助ける手だてがあるのは事実だ。しかし準備が必要だから、あの場ではその望みすらも無かった。だが元々成功する確率はかなり低いものだということだ。

 それに考えてもみろ。あの神器はその悪魔の負の感情を増大させる。俺の研究では、あいつがもっとも力を発揮するのは憎しみの感情だ。つまり助けたところで、大一が強烈に誰かを恨んでいるのが明白になるんだ。お前ら、そんな奴と今後も付き合っていけるのか?」

「私に眷属を切り捨てろって言うの…!?」

「あくまで最悪の事態を想定しろってだけだ。お前らが思う以上にあの神器は厄介なんだぜ?」

 

 彼の鋭い言葉に、リアスは押し黙った。彼の言う通り、最悪の事態は想定するべきなのだろう。しかもこの場で例の神器に精通しているのはアザゼルだ。その男が言うのだから、むしろ大一を救いきれない可能性の方が高いとすら思えてしまう。

 しかしそれで一誠が納得するはず無かった。弟である彼にとって、兄である大一を見捨てることなど当然できようもない。常に憎まれ口を叩きながらも、自分のために助言したり、特訓に付き合ってくれたことを忘れるわけがなかった。

 それに加えて彼の高潔さを知っているからこそ、その感情にも打ち勝てるという淡い期待すら感じてしまうのだ。大一なら…兄ならこの状況すらもどうにかするのではないかと。

 

「俺は何があっても兄貴を助けますよ!それに兄貴は…俺よりもすごいところいっぱいありますから!」

 

 皆が鎮まる中、一誠の言葉はよく響いた。弟である一誠の信頼を目の当たりにした仲間たちは息を吹き返すように同意する。

 

「そうだね。大一さんを救う、まずはそれからだ」

「…先輩はいい人です。必ず助け出します」

「お兄さんを助けましょう」

「うむ、私もまだまだ学びたいことがあるからな」

「ぼ、僕も頑張りますゥ…!」

「…ええ、そうね。少しでも可能性があるならかけるべきだわ」

「イッセーくんの言う通りですわ」

 

 皆が口々に仲間である大一救出の決意を口にする。しかしリアスと朱乃だけは同意するもどこかぎこちない表情であった。アザゼルは2人のその表情に気が付いたようだが、特に何も言わずに言葉を繋ぐ。

 

「わかった。だったら、今日のところはまず解散だ。俺の方で準備しておいて、明日の昼休みにここで作戦を説明する。お前らはしっかり休んでおけ。いざという時に動けないのは困るからな。それとリアス、朱乃。お前らはちょっと残ってくれ。明日のための打ち合わせだ」

 

 アザゼルの言葉と共にこの日は解散する。一誠の中に不安は間違いなくあった。しかし今は仲間と兄を信じること、これこそが最善の策だと思った。むしろそう思わないと、自分の方が気持ちに押しつぶされそうになっていたのだから。

 




一番悩んだのは、神器の名前でした。特性を平たく言えば、めっちゃ暗い感情に支配されて体を乗っ取られるよ、というものです。
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