D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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感想で何度か言われてきたオリ主の過去です。一誠とはまた違った方向となっています。


第34話 悪魔の理由

 次の日、リアス達は再びはぐれ悪魔の捜索に出ていた。幸い前情報から、相手は夜の活動のみであったため日中の被害は抑えられるだろうが、それでもこれ以上の被害の拡大は望ましくなかった。これまでの経過からターゲットが襲う相手は無作為であったため、事件が大きくなる前に手を打っておきたかった。

 加えて、大一を探す必要もあった。スカウトする為ではなく、悪魔の件について記憶を消しさるためであった。リアスなりに彼への罪悪感は持っていた。昨日のスカウトは振り返ってみれば、身勝手なものだと彼女は思った。いくら自分の力を示すため、早く眷属をそろえるためとはいえ、あまりにも無茶なものだ。

 そしてこの日の夜、事件は再び起きた。はぐれ悪魔の居場所をリアス達は再び特定した。場所は前日と同じ橋下の川沿いであった。これにはリアス達も驚いた。そこは隠れる場所も少ない上に、昨日と一件があったため魔法陣のトラップを仕掛けて来たら反応するようになっていた。ましてや、彼女の味方にはルシファー眷属の炎駒がいる。それほどの実力者がいるにもかかわらず発見が遅れたのだ。自分たちの知らない能力があるのかもしれないと思いつつ、リアス達は現場に急行した。

 しかし現場に到着した時は全てが終わっていたことであった。橋下にはターゲットであるはぐれ悪魔の死体が横たわっていた。2メートル以上はある巨体であったが、その頭をカチ割られており、長い四肢は不自然な方向に折れ曲がって動かなかった。

 そしてこの事件で最も驚くべきことは、そのはぐれ悪魔の前で佇んでいたのが、前日に出会った少年…大一であったことだ。その手には大きな錨が握られており、先端にははぐれ悪魔の血が滴っていた。ただの人間であるはずの少年が、はぐれ悪魔を葬ったのだ。

 リアスはその時の彼の様子に衝撃を受けた。全身が傷だらけであったことでも、返り血を大量に浴びた不気味さでもない。大一の表情であった。自分のやったことに衝撃を受けているだけではない。もっと重く、それでいて激しい感情が渦巻いていることが窺えた。目を大きく見開き、瞳の中には奈落のように暗く深い影が見えたような気がした。

 リアスだけでなく、朱乃や炎駒もこの光景には驚きを隠せなかった。同時に信じられないその光景から、動きが止まってしまった。この状況でリアスは意を決してゆっくりと大一に近づいていく。

 

「これ…あなたが倒したの?」

「え?ああ…俺が…俺がやってしまったんですよね」

 

 リアスに声をかけられるまで、彼は彼女の存在に気づいていなかった。自分の行いをすぐには認識できない様子であった。

 

「死体は私達で片付ける。その血は洗い落とした方がいいわ。昨日みたいに来てちょうだい」

 

 大一は言われるがまま、リアスの指示に従う。この少年から気力というもの全てが抜け落ちたような印象であった。ただ「死体」という単語に、彼は一瞬だけ体を震わせるような反応をしたのをリアスは見逃さなかった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 闇のなかに月明かりが差し込むこの真夜中、リアスは縁側に座り考えていた。場所は再び朱乃が住む神社。彼女の隣には朱乃も座っていたが、その空気は静かでありながら穏やかではなかった。風呂場では大一が血を洗い流しており炎駒もそれを手伝っている。

 淹れられた日本茶を飲みながら、リアスは親友に問う。

 

「さっきのこと、どう思った?」

「本当に驚きましたわ。たしかに今回のはぐれ悪魔は力任せのタイプではありませんでしたが、まさか人間である彼がそれを倒すとは…。彼が持っていたのは神器かしら?」

「私が近づいた時の感覚はそうだったわ。どんな力があるのかは不明だけど、あれがはぐれ悪魔を倒すことに繋がったことに疑いようは無いわ」

「それほどの才能の持ち主ということですのね」

「才能か…」

 

 才能という言葉に、リアスは懐疑的であった。たしかに人間でありながら、はぐれ悪魔を討ったのは驚くべきことであろう。だが大一の本質がそこにあるとはどうも思えなかったのだ。

 

「ねえ、朱乃。これから私が何をしようとしているのかわかる?」

「…あなたの決断を止めようとは思いません。でも炎駒様が話していたことが全てだと思いますわ。あの時の彼の表情…怖いとか不気味とかではない。ひたすら可哀そうでした。そんな彼を引き入れるのは、私としても懐疑的ですわ」

「まあ、そうよね。私も昨日はやりすぎた。だから今回断られたら、さすがにきっぱり諦める」

 

 間もなく大一が上がってくる。彼の着ていた服も炎駒が綺麗にしており、体に傷がある程度で小綺麗な見た目となっていた。

 大一を広い部屋に通すと、リアスは彼と向かい合って座る。張り詰めた緊張の中であったが、最初に行動を起こしたのは大一であった。床の畳に両手をつき、大きく頭を下げる。土下座の状態で彼の口から出る言葉は、悲しみと苦しみに満ちていた。

 

「お願いします!俺を…俺を悪魔にしてください!」

 

 突然の告白に、リアスは目を丸くする。彼女自身が提案しようとしたことを、昨日断られた相手から申し出たのだ。

 

「…私としては願ってもないことだけど、急にどういう心変わりなの?」

「それは…」

「大一殿、風呂場で私に話してくれたことを無理にまた説明する必要はありません。私がしましょうぞ。席を外してくれても───」

「いえ、これは俺が言わなければならないことなんです。あの時…あの時襲われたのは俺だけじゃないんです!」

 

 大一は前日の夜の真実を話し始めた。

 あの時、襲われたのは大一だけでは無かった。彼ともうひとり、本当にただ居合わせただけの友人がいたのだ。大一よりも先に彼は食い殺され、大一はその後に逃げようとしたところを背中から攻撃を受けて気絶した。そこで止めを刺さなかったのは、リアス達の存在を感知したからだろう。

 そして先ほど大一がひとりであの場に向かったのは、食われたはずの友人が彼の前に現れたからだ。大一としては信じられないことだし、おそらく偽物であることも分かっていた。それでも目の前に友人がいるのを見た時、昨日のことを嘘だと思いたい、現実だったということを否定したい、そんな彼の気持ちが再び現場に向かわせた。

 その友人がはぐれ悪魔が変装していたものだった。間もなくはぐれ悪魔は顔だけその友人のままに大一を襲い始める。絶望に打ちひしがれた彼の心では、前日同様にただ逃げるだけしかできないと思っていた。

 しかし現実は突然、彼の手元に奇妙な錨が出てきて、しかもそれを持つと力が湧いてくる。殺されないために必死であった。無我夢中であった。向かってくる腕の攻撃を防ぎ、脚を払い、最終的に大一ははぐれ悪魔の顔をその錨でたたき割ったのだ。恐怖におびえ涙を流す友人の顔を…。

 息が荒い大一の話を聞き終えると、炎駒は付け加えるように話す。

 

「…今周辺の悪魔に手配して記憶の操作を行ってもらっています。一日経ったためかなり大掛かりなものでしたが、問題ないとの報告を受けております」

「俺は…俺は取り返しのつかないことをしてしまったんです!友達を…殺したんです!」

 

 リアスはなんと声をかければいいのか分からなかった。彼女にとってはぐれ悪魔は討伐するべき相手、命の重さは大きくなかった。しかし彼は違う。殺したことがあるのはせいぜいちょっとした虫程度だろう。そんな少年が初めて命を奪ったのは、友と同じ顔の相手だ。いや彼の言い分からすれば、友達を死に導いたのも自分の責任だと感じているのだろう。

 実際のところ、彼を苦しめたのは自分自身だとリアスは思った。失敗することも含めて彼女はこの責任感の重さを覚悟していた。しかし実際に目の当たりにすると、その重さは言葉を絶するものがあった。

 リアスは大きく息を吐くと、大一を見据えた。

 

「責任を取るために悪魔になろうということ?」

「俺のやったことは取り返しのつかないことです。その責任は必ず取ります。でもそれだけじゃない。あなたの言う通り、俺がなにか力を持っているのならば、また狙われてもおかしくない。その時、自分がまた同じようなことをやるのが怖いんです。友達を…家族を…」

「だったら、なおさらあなたを入れられないわ。それほど苦しむのなら、あなたが今後やっていけるかが───」

「それ以上に、同じことになった時に俺が何も出来ないことがもっと怖いんです!友達を殺して…救えたかもしれないのに…!だから、俺を悪魔にしてください!迷惑をかけないように強くなります!覚えるべきことは全て学びます!だから…だから…!」

 

 涙声で懇願する目の前の少年はただ哀れであった。小さく、少しでもつつけば全てが瓦解しそうな脆さを感じさせた。彼を救いたい、ただの自己満足だとしてもいい、彼の心を救うためにリアスが出来ることは…。

 彼女は懐から小さな駒をひとつ取りだし、大一に近づいて見せる。

 

「それは…?」

「これは『悪魔の駒』と呼ばれるもの。これにより転生悪魔になることになるのよ。あなたの覚悟はよく分かったわ。ならば、私は悪魔としてこの町を管理する者としてその想いに応えなければならないことを。

 兵藤大一、悪魔として私に仕えなさい」

「…ありがとうございます」

 

 震える声で答える大一はこの瞬間、悪魔となった。

 

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 話を聞き終えたアザゼルは腑に落ちない状況であった。いくらでも聞き慣れたという表情で、同時にこの手の話題があまり得意でないこともわかるものであった。

 

「やっぱり納得できねえな。そんな奴、この世にごまんといる。お前や大一だけが特別じゃねえよ」

 

 アザゼルの発言に、リアスと朱乃は反応する。

 

「ええ、そんなことは理解できるわ。でも彼のその後の様子をあなたは知らないでしょう」

「大一は炎駒様の代わりになるように徹底的に戦い方を学び、悪魔としての知識や価値観を学び、リアスの評判を落とさないために必死に自分を磨いてきました。今もなおそのスタンスは変わりません。仲間を気にかけて、自分の弱さは絶対に見せずに…」

「彼の才能は目に見える能力なんかじゃない。己を捨てて、悪魔として生きる道を選んだその純粋さよ。そんな彼だからこそ…私は救いたいの」

 

 悪魔になってからの大一の苦労は間違いないものであった。一般的な人間としての存在から、悪魔としてのあらゆるものを叩きこんでいるのだから当然であろう。本人は一度もそれを投げ出すことは無かった。かつて友を殺した罪悪感と無力さを忘れていなかったからだろう。それを目の当たりにしてきたリアスと朱乃だからこそ、あの男の抱えるものを少しでもおろしてあげたかった。彼を本当の意味で救いたかった。

 アザゼルは少し頭を掻きながら首を縦に小さく振り、グッと身を乗り出した。

 

「まあ、お前らの言い分は理解した。どっちにしろ、あいつがやってきたことまで否定するつもりはねえよ。それだけの男なら、明日はしっかりやりな。ただしどんな結果になっても、その事実から目をそらすなよ」

 

 彼の言葉にリアスと朱乃は頷く。アザゼルの言葉は大一を救えなかったことだけではない。彼を救い出しても、その負の感情を抱え込み続けることを指しているのだろう。だが彼女らはたとえ彼が誰を恨もうとしても、それを受け入れるつもりであった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 窓からこぼれた月明かりが廃工場の中をうっすらと照らす。そこには巨大なスライムのようにうごめく黒い影がひとりの男を包み込んでいた。

 「犠牲の黒影」はあれから動くことなく、時間をかけて大一の乗っ取りに勤しんでいた。

 

『ああ、この憎しみの感覚…僕の望んでいたものだ。憎いよなあ、殺したいよなあ…安心しろ、お前の望みは叶うよ。そして僕の望みもな…!』

 

 黒影の声に、大一は反応することは無かった。しかし映っていないはずの彼の瞳は暗く、それでいて哀しみに満ち溢れていた。それこそかつて自分の友達に錨を振り下ろしたときのように…。

 




積もりに積もったこれまでの負の感情。どこまで大一を救うことが出来るのでしょうか。
正直、もうちょっと淡白にすればよかったと後悔までしています…。
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