D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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自分の頭の中をどれくらい書けているのかが不安になるこの頃です。


第35話 兄の救出

 大一が神器に乗っ取られてから一夜が経った。アザゼルの部下やリアス達の使い魔が交代で例の廃工場を見張っているが、動きは見られないらしい。アザゼルとしてはこれは予想通りのことだという。基本的に「犠牲の黒影」は力を慣らす必要があるため、いくら相性が良くても数日はかかるのだとか。

 しかし時間が経つほど、その適応が進んでいくため早く決着をつけることに越したことは無い。つまり今夜のみがチャンスであった。

 

「ダメね、私。大一を救うための決心を、彼が本当に危険になってからつくなんて…」

 

 翌日の授業の合間、屋上でリアスはため息交じりに朱乃に話す。悪魔になった時から大一が責任を感じやすいのは分かっていた。分かっていたのに、彼を気にかけてこなかったのだ。炎駒の代わりにたしかな働きをしていた彼だからこそ、気づけば信頼しすぎてその強さにしか注目していなかった。

 己の甘さに心を痛めるリアスに、朱乃は冷静に答える。

 

「今になって話す事ではありませんわ。まずは大一の救出に全力を尽くすべきです。それに大一があっさりと私達を頼ってくれるとは思いません」

「そうなんだろうけど、主としてもっと出来ることがあったと思ったの」

「リアス、あなたの気持ちは痛いほどわかりますわ。でも大一は、あなたに恥をかかせないように必死でやっていましたの。あなたまで罪悪感に押しつぶされては、それこそ大一がまた悩むだけですわ」

 

 朱乃の言い分はその通りであろう。大一が苦労したのは悪魔になった時だけではない。むしろその後が本番とも言えた。それもひとえにリアスを支えるためであるのだ。一瞬、そこまでしてもらっている自分の不甲斐なさを認識しかけたが、これ以上考えることは間違いなく堂々巡りになるだけだ。その姿は大一が望むものではない。

 リアスは雑念を払うかのように頭を振ると、再び親友を見る。

 

「ありがとう、朱乃。私よりも大一のこと、理解しているんじゃないの?」

「一緒にあなたを支えてきた仲ですもの。リアスとはまた違う信頼関係は築きますわ。それでも私の力も彼は借りてくれないでしょうけど…」

「…ねえ、大一となにかあった?」

「へっ!?」

 

 リアスの指摘に朱乃は驚くように声を上げる。いつもの余裕あるものや、意固地になった時のものとは違い、年相応の可愛らしさを感じさせる声色であった。

 

「べ、別に何もありませんわ。リアスったら変な勘繰りして」

「…あのね、これは私から見ての話なんだけど、最近あなた達の仲がよく分からないのよ。もともと軽口を言い合えるくらいの関係性なのは知っているけど、プール開きの際にオイル塗りの話が出たかと思えば、会談少し前辺りからはあんまり話さなかったり。この事件無かったら、とっくに言及しているわ」

「イッセーくん達が入ってから、いろいろあったでしょう?それでお互いに話す事がいつもより増えただけですわ」

 

 あたふたと答える朱乃の姿はどこかリアスにとって既視感があった。顔の赤らめ方、目の泳ぎ方、言葉の濁し方、なぜか直接見たわけではないはずなのに間違いなく知っているような気がしたのだ。ただそれがどこで見ているのかまでは彼女も思いつかなかった。

 

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 同じ頃、一誠は頬杖をつきながらぼんやりとしていた。特にどこかを見るわけではなく、ただ心がどこか別のところに行っている気がしたのだ。

 

「イッセー、生きてるか?」

「うーん…えっ?」

「お前、明らかにおかしいぞ」

 

 松田と元浜の呼びかけにも、一誠は応対できなかった。その原因は本人も分かっていたが、彼らに説明するわけにもいかない。

 

「ったく、せっかく俺が最近調べあげた他校の素晴らしい女子たちベスト30の講義をしてやろうと思ったのに!」

「ああ、悪い。考えごとしていた」

「おいおい、その反応はやっぱりおかしいぜ。もしかして大一先輩の風邪ってそんなにひどいのか?」

 

 この日、駒王学園に大一の姿は当然無かった。彼はこの日、風邪で休んでいることになっている。併せて前日両親にはリアスが魔力で若干の記憶を操作したりと、今さらながら人間から悪魔になったことの苦労がつきまとう気がした。兄はこの心労に3年もよく耐えていたものだと、一誠は思ってしまった。

 兄を救うと決心した。それは確固たるもので皆がいる前で覚悟も決めたはずなのに、なぜか心に穴が開いている気がしたのだ。

 

「いやそうでもないよ」

「だったら、良いんだけどよ。先輩のおかげで俺らはなんとか生き残っているところはあるからな」

「まあ、なんだかんだで気にかけてくれるしな。あとは俺らの趣味をもっと理解してくれたら言うこと無しなんだが…!」

 

 少し無念そうに松田と元浜は拳を握りしめる。彼らなりに大一には愛着があったのかもしれない。思えば、この学園での大一の評判は不思議なものであった。変態3人組にここまで関わっている割に、妙に人望があり頼られていた。ただ厄介ごとを押し付けられているようにも見えたが。

 そんなことをぼんやりと考える一誠に、アーシアが話しかける。後ろにはゼノヴィアも腕組みをしながら立っていた。

 

「イッセーさん、ちょっとだけいいですか?」

「ん?わかった」

「「また秘密の逢引きか、チクショーッ!」」

 

 後ろで声を上げる親友には反応せず、一誠は2人ともに教室を出ていく。驚いたことに出てすぐのところで、祐斗と小猫、袋を被ったギャスパーまでもが待ち構えていたかのように立っていた。

 一誠が現れたのを確認した祐斗は、さっそく話を切り出す。

 

「大丈夫…なわけがないよね。大一さんの件があるもの」

「あのな、木場。いきなりそういう話は…」

「僕は単刀直入に聞くよ。助けられるか不安なんでしょ?」

「あったりまえだ。仲間ってだけじゃねえんだよ。兄貴は…兄貴は俺にとって家族なんだ。父さんや母さんとも違う…昨日はああ言ったけど、そう割り切れるものじゃねえよ」

 

 一誠は胸に突っかかっていた思いを吐露する。一誠にとって兄は不思議な人物であった。自分の趣味には理解を示さず、互いに文句を言い合うことも多い。それでいながらいざという時は頼れる、どこか精神的な支えとして存在する相手であった。

 昨日の時点でかなり不安を抱いていた。それでも自分を奮い起こすために覚悟を言葉にした。だが家に帰り、兄のいない一夜を実感すると、それが永遠に続くかもしれないことに不安を感じたのだ。そういう意味では、一誠の不安は他の仲間達よりも重いかもしれない。

 

「僕もキミに知っておいて欲しいことがある。僕はイッセーくんほど大一さんのことを知っているわけではないけど、悪魔としての付き合いは長い。あの人の強さはキミよりも知っているつもりだ」

「…私も同じです。いっぱい相談しましたし、何度も特訓に付き合ってもらいました」

「ぼ、僕も何度も気にかけてもらいました。それこそまだ部屋からの外出が許されていない頃からもですぅ」

「私はまだお兄さんとの付き合いは長くありません。それでも普段の生活から、お兄さんの頑張りは分かります。たまに迷惑かけているような気持ちになりますが…」

「うーん、それだったら私の方がまだ付き合いは浅いな。でも以前、先輩と模擬戦をした時はすごかったよ。あの人の戦い方は私でも見習うことは多かったな」

 

 次々に大一への考えを聞く一誠は不思議と誇らしい気持ちになった。自分が知らないところでも兄は同じように慕われているのを目の当たりにしたからだろうか。

 

「つまり僕らが言いたいのは、大一さんを助けるにあたって不安なのはキミだけじゃないってことだよ。イッセーくんにとって特別であるように、僕たちにとっても特別なんだから」

 

 締めの祐斗の言葉に、一誠は静かに息を吐く。自分の情けなさに呆れてしまった。本気で兄を救うのなら、失敗した時のことをどうして考えるのだろうか。前日に自分を奮い起こすために宣言したことが全てではないか。

 全ての力を持って兄を助ける、それが今の彼に出来ることであった。

 

「悪い。兄貴を助けなきゃいけないのに、俺がこんなんじゃダメだよな」

 

 ようやく振り切った彼の決意を持って、グレモリー眷属全員が本当の意味で覚悟を決めた瞬間であった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 リアス達は前日の廃工場に向かう。当然、狙いは大一を捕らえている「犠牲の黒影」の存在であった。鎮座している場所は昨日と変わっていなかったが、その姿は大きく違っていた。大きな上半身からは腕が複数伸びており頭部には巨大な目玉をギョロつかせている。下半身は蜘蛛のような姿で脚だけでなく棘のようなものまでついていた。大一はその巨体の中に取り込まれているような状態であった。

 黒影はその眼で正面から入ってきたリアス達を確認する。

 

『正面から来るとは…と本気で思うか?こいつの魔力感知ならキミら以外にいることは分かっている』

 

 その言葉通り、正面から入ってきたオカルト研究部のメンバーはリアス、小猫、祐斗、ギャスパー、アザゼルと全員では無かった。一誠、朱乃、アーシア、ゼノヴィアは裏から回り、大一救出のための準備をしていた。

 黒影は目の前のリアス達には目もくれず、別方向を見ていた。視線には映らないものの、魔力を感知してすでに別動隊の場所は把握している様子であった。

 

『さて何が狙いなんだか…』

「わからねえな。お前は異様なまでに用心深い。これまで姿を見せてきたのも、ほとんどが大きな混乱に乗じてのものだ。そんなお前がここで正面切って姿を見せるのは違和感しかないな」

『アザゼル、貴様の考えは間違っていないよ。僕自身そのスタンスは変わっていない。しかし今回はこの男の感情にひどく魅入られたのさ。そして確信した。コイツさえいれば、僕の望みは間違いなく果たされる!』

「そうはいかないわ。大一は私たちの大切な仲間、あなたごときにやすやすと奪われてたまらないわ!」

『だったら、取り返して見せろ!』

 

 黒影は両腕から自身の影で手斧を生成する。計4本、全てを目の前のリアス達に向かって振り下ろした。大一の魔力による体の硬質化もあいまって、その威力はたやすくコンクリートの床を砕くほどであったが、全員がそれぞれに回避する。

 避けた矢先に仕掛けたのはアザゼルだ。指を鳴らすと複数の光の槍が彼の周りに現れ、一斉に黒影目掛けて襲い掛かる。堕天使総督の攻撃の威力は間違いないはずだが、手斧を使って正確にその攻撃を落とされていった。

 

「思った以上に浸食が早いな…。だったら、短期決戦で行かせてもらうぜ」

『やれるものならやってみろ、堕天使がァ!』

「よそ見は禁物だよ!『魔剣創造(ソード・バース)』!」

 

 祐斗の掛け声とともに、大量の魔剣が黒影の足元を襲う。アザゼルに気を取られていたためか完全に不意を突いた一撃であり、大量の魔剣が彼の下半身を貫通していた。

 

「乗っ取った相手の能力も使えるのがその神器の強み。大一さんの魔力によって体を固める能力は変幻自在のその体とは相性がいいだろうね。しかし一度刺されば、下手に体を固めるのはむしろ抜けづらくなる」

『この程度はダメージにもならねえさ』

「やっぱり油断だらけです」

 

 今度は祐斗に向けて振り降ろそうとした斧を持つ手がギャスパーによって止められる。そちらに気を取られた瞬間に、反対側から小猫の強烈な打撃により腕が一本引きちぎられた。

 

「いいぞ、攻撃の手を止めるな!」

 

 アザゼルの声が響く。「犠牲の黒影」の最大の武器はその手数であった。変幻自在かつ、いくらでも再生が可能なその特性はまともに相手にするには分が悪い。しかし完全に侵食する前であったら、馴染んでいないせいか再生する場所にも多大な意識を向ける必要があった。

 つまり各方面からの攻撃を絶やさないことで、その特性をある程度封じることが可能であった。

 黒影は失った腕を再生させるが、今度はリアスが脚部と反対側の腕2本に滅びの魔力を撃ち込み、態勢を崩させる。

 

『お、おのれ…!この程度で…』

「いまだ!」

 

 アザゼルの掛け声とともに巨大な魔法陣が黒影の下に展開される。展開させたのは朱乃で、彼女が別に動いていたのはなるべく黒影に邪魔されないためであった。

 

『堕天使が神器を抜き取る際に使うやつか。準備に時間がかかる上に、長い時間をかけないと取ることも不可能。正式な儀式の場でも無いのだから、これで僕が抜かれる道理は…』

「こっちには赤龍帝がついているんだぜ?やりな、イッセー!」

「了解!いきます、ブーステッド・ギア!」

 

 呼応するように一誠は朱乃に倍加の力を譲渡する。魔法陣の光はさらに強くなり、黒影も体は再生しながらも明らかにふらついた様子を見せていた。背中から杭のように尖った触手が朱乃を狙うが、それをゼノヴィアが守る様に一気に斬り伏せていく。

 圧倒的に押されている状況にも黒影は態度を変える様子は無かった。

 

『この程度でやられるほど僕は…』

「甘くないだろ。それはあくまでお前を弱らせる取っ掛かりに過ぎないのさ。俺がお前相手に長年何もしてこなかったと思うか?」

 

 アザゼルの笑いと共に、黒影はあることに気づく。いつの間にか一誠が彼の懐に飛び込んでいたのだ。その手には杭のような物を握りしめており、彼はそれを力いっぱい大一が取り込まれている付近に突き刺した。

 

『ぬぐおぉぉぉ!な、なんだ、この感覚は!?』

 

 これこそがアザゼルの話していた準備をするものであった。この神器が負の感情により強化されることを知ったアザゼルは、長年の研究で「犠牲の黒影」に特効を持つ武器を作り上げていた。その効果は癒しの力によって負の感情を浄化させ、黒影の力を限りなく弱らせるものであった。

 直前までアーシアが持ち癒しの力を流し込み続け、一誠がその力を倍加させることによりその効果は抜群であった。

 力強く押し込まれるほどに、黒影の中にある大一までの道のりは近づいていく。妨害しようと触手を出すも、リアスの滅びの魔力に打ち消され、祐斗やゼノヴィアに斬り落とされ、壊れた手すりの棒を小猫に突き刺され、ギャスパーに時間を止められてと、全員の妨害により狙うこともままならなかった。

 

「イッセー、押し込んで!大一を…大一をお願い!」

「もちろんです、部長!兄貴!帰ってきてくれ!」

『や、やめろぉ!!』

 

 黒影の瞳が恐怖におびえるのをよそに一誠は杭を押し込みぬいた。廃工場内を強力な魔力と絶望に満ちた声が響いていくのであった。

 




そろそろこの展開にもケリをつけようと思います。
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