D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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これからオリ主がやっていくうえで、避けて通れないものとなっております。


第37話 悪魔が認めるもの

 目を開ければ既視感のある天井が見える。体を起こせばこれまた見覚えのある和室に横たわっていたことに気づく。ここがどこかを考えようとしたが、酷い気怠さと吐き気で頭は回らなかった。

 長い夢を見ていたような感覚であった。どれくらいの時間が経ったのかも分からない。最後に覚えているのは、暗闇の中で一誠に何かを言ったこと。あれがどんなことだったのかも覚えていない。

 大一が思い出そうとした時、和室のふすまが開かれる。そこには朱乃が立っていた。髪は下ろしており、いつぞやの龍の気を散らす時のような白い服を着ている。そして彼女を見た瞬間、ここが朱乃の住む神社であることも理解した。

 

「目が覚めたのね」

「あ、ああ…。ところで俺はどうしてここに?」

 

 彼女の寂しそうな表情から、大一は何も読み取れなかった。考えてみれば、会談前の一件からしっかりと話していなかったので、彼女と面と向かうこと事態が久しぶりに感じた。

 朱乃はゆっくりと近づいて、彼の顔に触れる。

 

「ちゃんと説明するわ。でもまずは無事でよかった…!」

「お、おい、そこまで…!」

 

 目からボロボロと涙をこぼす彼女に、大一はあたふたと慌てる。事態の経過がわからない大一はただ唖然とするだけであった。

 間もなく、朱乃は落ち着いて目を拭う。いつもの大人びた雰囲気ではなく、年相応の少女に見えた。

 

「…そうね、落ち着かなきゃ。あのね、ここに来たのは…」

 

 朱乃の口から説明される経緯に、大一は血の気が引く想いであった。「犠牲の黒影」が自分を乗っ取ったこと、それにより仲間達を襲ったこと、自分の弱さが今回のような凶行を招いてしまったのだと、心底苦しい想いであった。今すぐにでも消えたい、自分を叩きのめしたい、そんな考えが渦巻いてくる。

 大一は務めて冷静な声で、朱乃に問う。

 

「他のみんなは?」

「それぞれ帰っているわ。場所が町はずれの廃工場だったから、こっちの方が近かったの。本格的に話し合うのは明日になるわ」

「…そうか。ごめん、俺のせいでみんなを傷つけた」

 

 悔しい、情けない、弱い…そんな想いが大一にのしかかる。あの時と同じだ。乗っ取られる前日にトレーニングしていた時の感情が、彼を再び悩ませる。この感情をあと何度味わうことになるのだろうか。それでも大一はざわつく感情を見せないように振舞っていた。

 そんな彼に、朱乃は嘆息する。

 

「ねえ、大一。ここにいるのは私達だけよ」

「…ん、そうだな。ここまで迷惑をかけてしまって…」

「迷惑じゃない…と言ってもあなたは自分を責めるのでしょう。だから…」

 

 朱乃は立ち上がり、大一の後ろに回ると体を密着させて抱きしめる。神社に呼ばれた時と同じ状況であったが、今度は彼女を振り払おうと素振りすら大一は見せなかった。そんな気力すらも無かったのかもしれない。

 

「大一はみんなには頼らせるのに、自分が頼ることは無いの?」

「後輩たちの前で弱い姿を見せるわけにいかないし、主であるリアスさんはなおさらだ」

「私は?」

「同じだよ。俺はあなたにはそういう姿を見せたくない。一番信頼する仲間だし、俺が悪魔になった経緯を知っているし…」

「つまりあなたの言う弱い姿を見ているのよ。どれだけ辛くて重い責任感を背負っていたかだってわかるわ」

 

 彼女の言葉が、大一には辛かった。同時に心に熱いものが湧いてくるのがわかる。これ以上、優しくされれば、理解を示されれば、自分の覚悟が揺らぐ。

 そして大一の耳に、朱乃の涙声が響く。

 

「我慢している姿を見るのは辛いから…大一が誰かを救えなくて苦しむのと同じように、私もあなたの押しつぶされそうな姿を見ているのが苦しいから…」

 

 なんとなくだが、彼女の家に招かれた理由が大一にはわかった。自分の狭量なプライドを少しでも崩せるとしたら、信頼があり、悪魔になった時の必死な姿を知り、その後の努力を知る朱乃しかいないだろう。そして大一は知らなかったが、朱乃自身もそういった信頼があったからこそ、自分から彼をこの神社に招いたのであった。

 その目論みは当たっていた。信頼する仲間に涙ながらの言葉は、大一の暗く静かな部屋の扉をわずかに開いたのだから。

 

「ここにいるのはあなたと私だけ。そして今の私からは顔は見えないわ」

「…涙は流さないぞ」

「それでもいいの。しばらくはこうしているね」

「…はぁ…辛えな…」

 

 ようやく漏れ出た彼の言葉は、いつもひとりで背負い込んでいた自負と暗い感情が表に現れたものであった。小さな一言であったが、朱乃はようやく仲間から素直な弱音を聞けたことに安心するのであった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 翌日の昼休み、オカルト研究部の部室で大一は皆に向かって頭を下げる。顧問であるアザゼル含めて全員が集まっており、その行く末を見守っていた。

 

「今回のことは俺の過失です。いかなる処分も受けます」

 

 言い訳などするつもりは無い。間違いなく自分の落ち度だ。どんな非難も浴びるし、己の弱さをさらそうとも受け入れるつもりであった。

 しかしリアスは静かに、優しい声で大一に話しかける。

 

「大一、顔を上げて。今回の一件で私はあなたに責任を追及するつもりは無いわ。そもそも不慮の事故のようなものなんだから」

「それでも俺が仲間に手を上げたのは事実です。俺の弱さがこの事態を招いたんですから」

「ねえ、教えて。あなたは自分をどう思っているの?」

 

 一瞬、言葉が詰まりかけたが、大一の口から言葉が紡がれる。

 

「俺は決して強くありません。特別なものはなにひとつ持っていない。修行もまだ甘いし、仲間の力になることが出来ていない。そのくせ、醜くも嫉妬すらしてしまう…情けない男です」

 

 それが彼自身の評価であった。どれだけ鍛えても、どれだけ学んでも、自分は甘いのだろう。結果を出せず、無力な自分を何度も呪った。とっくに自分を信じられなくなっていた。少し前なら仲間たちの前でこんなことを話すのもあり得なかっただろうが。

 彼の言葉に一誠、アーシア、ギャスパーはなにか言いたげに体を動かすし、祐斗は何かを考えるかのように目を閉じる。小猫とゼノヴィアは腑に落ちないように目を細めるし、朱乃は何かを訴えかけるかのようにリアスを見た。

 そのリアスは表情を変えなかった。悲哀が映るその顔を向けると、彼女はよく響く声でハッキリと言葉にする。

 

「大一、よく聞いてちょうだい。私にとって、あなたは頼れる眷属、信頼できる仲間よ。だからこそ私はあなたに伝えるわ。

 あなたの価値をあなたが勝手に決めないで欲しいの。どれだけあなたが自分を認められなくても、私は知っている。みんなのために尽くそうとしてきたその努力を」

「…しかし俺は何も出来ない。結果を残せない。そんな俺だから…」

「そんなあなただから、私達は信頼している。その強みは目に見えるものじゃない。あなた自身の生き様よ」

「俺は…俺には…」

 

 大一は必死に声を振り絞る。悪魔になってから3年以上、責任を持ち続けることに苦悩していた。そして彼自身もどこかでは気づいていた。これがいつまでも持つはずがない、間違ったやり方であることなど、とっくの前から気づいていたはずなのだ。しかし己が培ってきてしまった意地と、元来の自信の無さが引き戻せなくなっていた。

 リアスも彼がそれほど苦労してきたのは知っていた。それでも自分を認められない彼を救うには、大一自身が己を肯定し、許すことだと考えていた。そして彼女に出来ることは、その難題を正面から少しでも背負い込むのを手伝うことだけだと。

 

「あのさ、兄貴!俺は少なくとも兄貴はスゴい奴だって知っているぜ!だからそんなこと言わないでくれよ!」

「イッセーくん、少なくともは酷いな。僕だって先輩を尊敬しているし、大一さんの強さは分かっているよ」

「…なんならイッセー先輩よりも知っています」

「私はその強さを学びたいな。先輩、また模擬戦をやろう。頼りにしているぞ」

「私はお兄さんから色んなことを教えて欲しいです。イッセーさんのことだけじゃなく、悪魔としてのことや大切な心構えとか」

「ぼ、僕はもっと先輩とお話したいです…まだ先輩の知らないこといっぱいありますし…」

「あらあら、大一ったら人気者ですわ。それくらいのこと、やってきましたもの。ね、部長?」

「そういうこと。つまりあなたの価値を本当に理解しているのよ、ここにいる仲間たちは」

 

 どうしてここまで自分を認めてくれるのだろうか。どうして傷つけたのに受け入れてくれるのか、どうして…どうして…。心の中に熱いものがこみ上げてくる。とても苦しく、同時に自分がもっとも望んでいた感情でもあった。

 

「すみません、ちょっとだけ席を外します」

「あ、兄貴…」

 

 呼吸も荒く、顔を抑えるように大一は部室から出ていく。それを一誠は追おうとしたが、それを阻止するようにアザゼルに肩を掴まれた。

 

「行かせてやれ。自分が変わっても見せたくないものなんざ、男にはいくらでもあるんだ。まあ、大丈夫だろうよ」

 

 その言葉通り、人目のつかない階段の影で大一は声も上げずに静かに涙を流していた。とめどなく溢れてくるその涙に苦しみは無く、彼の胸の中は熱くさせるもので満たされていた。この時、大一は初めて自分を認めることが出来たのであった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 生島はテーブルを拭きながら、大きくあくびをする。店を閉まってまだ30分しか経っていないが、とてつもない眠気であった。さっさと終わらせて休もうと考えていると、電話音が鳴る。この眠気で、この夜中、それなりに温厚な彼も苛立ってしまった。しかし店の固定電話でもなく、自身の携帯電話でもない。まさか、と思い立った彼は私物が入っている戸棚から小さな紙を引っ張り出す。そこには魔法陣が記されており、生島が触れるとそこからは半透明の生物の半身が映し出された。

 

「お久しぶりです、生島殿。急な連絡、申し訳ありません」

「炎駒さん、ご連絡なら事前に大一ちゃんに知らせるなりして教えてくださいな。なにかあったのかしら?」

「大一殿の件で、お耳に入れたいことが」

 

 炎駒はリアスから聞いた2日間で起こった事件の詳細を説明した。生島の表情は浮かなかったが、結末まで聞き終えるとゆっくりとタバコに火をふかし始めた。

 

「とにかく大一ちゃんは無事なんですね。それだけわかれば十分」

「まことに申し訳ありません。私も先ほど教えてもらったことでして。ただ姫様のお話だと、ようやく自分の荷を下ろすことが出来たようです」

「だったら、まずは彼を大切にしてあげてください。大一ちゃんはもっと救われても良いはずです」

 

 生島の強い声に、炎駒は目を丸くする。彼の言動に心から感心しているのがわかった。

 

「…本当に強いお方だ。自分の息子が殺されているのに、一緒にいた少年を悪魔になったら契約相手にするなど」

「あら、だって大一ちゃんを恨むのはお門違いですよ。悪いのはそのはぐれ悪魔なんだから」

「まだバレていませんかな?」

「一緒に襲われた子どもの父親が私であることを?あの子は私のこと、徹底的に隠していたから苗字が同じだけで知らないと思いますよ。

…私ね、嬉しかったんですよ。私のような父親を持ったからいろいろ悩んでいた息子が友達と呼べる人がいたことを。あの子が死んだ息子のことを本当に友達だと思ってくれていたことを。妻も息子も亡くした身としては、彼が幸せに生きることだけが望みですね」

「…やはりあなたは強い」

「男と女の両方を知っているもの。そりゃ、強いですよ」

「今後とも私の弟子をお願いします」

「お互いさまに」

 

 15分も経たない会話であった。生島はタバコの煙をしっかりと味わう。もはや人間では自分しか覚えていない息子と、悪魔として生きる息子分を思うと、不思議とタバコの味が美味く感じた。

 




オリ主の過去と秘密に触れましたし、暫定的ではありますがヒロインも決めました。一皮むけたオリ主の頑張りにご期待ください。
ということで、次回から5巻のスタートです。
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