D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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今回から5巻スタートです。まずは基盤固めから。


冥界合宿のヘルキャット
第38話 生活の変化


 大一は気づくと黒い世界に立っていた。締め付けられるような、重くのしかかるような苦しい感覚…3年も付き合っているこの悪夢は今もなお彼のことを悩ませていた。そんな彼に出来ることはただ耐えるだけ。覚悟を決めて身構えるも…

 

(今度こそ、俺と繋がったやつだな…)

 

 どこからともなく声が聞こえる。低く無骨な印象であったが、全身を圧倒するかのような凄みが感じられる不思議な声であった。こんなことは今まで無かった。この悪夢に別のなにかが入ってきたということだろうか。

 大一は声を出そうとするも体の自由が効かず、もがくだけであった。

 

(早く俺を見つけてくれ。ようやく出来た初めての…)

 

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「大一!大一、起きて!」

「うおっ!えっ!?なんだ?ここは!?」

「あなたの部屋よ。大丈夫だから」

 

 飛び起きた大一に、朱乃が慰めるように声をかける。薄い着物という珍しい寝間着姿で、その顔は心配に満ちていた。

 

「とてもうなされていたわ。悪夢がここまでひどかったなんて知らなかった…」

「いや、今回のは特別だ。いつものものとはまるで違う…誰かが俺を呼んでいたんだ」

「誰かって?」

「わからない…ただ声が聞こえたんだ…」

「お水、持ってくるわ」

 

 朱乃はせかせかと大一の部屋を出ていく。ひとり残った彼は布団を取り上げ、ベッドに座り込む。体から滝のように流れるイヤな汗、思考を邪魔する吐き気と頭痛、最悪なコンディションが彼を襲っていた。だがそんな状態でも、彼は考えを巡らせる。

 あの声…聞き覚えがあった。つい最近「犠牲の黒影」に乗っ取られ完全に意識を失う直前、遠くなりながらもあの威圧的な声が聞こえたのだ。

 不気味以外のなにものでもない。しかしこの声が彼にとって特別なものなのは疑いようもなかった。白龍皇以外の手がかりが見つかったのだ。どうにかしてこの声相手にコンタクトを取る必要性を感じた。

 大一は大きく息を吐く。頭の中に入り込む空気が彼の眼を冴えさせた。それにしてもあの場で、朱乃に起こしてもらったのは彼としても助かっていた。起きなければ冷静に考えることも出来なかったのだから。

 

「…ん?なんであの人が俺の部屋にいるんだ?」

 

 口からポロリと疑問が出る。終業式の日に、朱乃とゼノヴィアの2人までもが兵藤家に転がり込むことになったので、同じ家にいるのは分かる。しかし時刻は深夜の3時過ぎ、寝ているはずの彼女が自分の部屋にいるのはどう考えてもあり得ないことであった。

 そしてこの考えが出ることで落ち着きを取り戻し始めた大一は明らかに部屋の様子がおかしいことに気づき始める。部屋は倍以上に広いし、その部屋に見劣りしない巨大な本棚やテーブルが置かれている。どう見ても自分の部屋とはかけ離れていた。いよいよ自分の残っていた人間らしい生活の場にも、悪魔が入り込んできたことに気づいた大一は呆れたようにため息をつくのであった。

 

「いやー、リフォームしたんだよ。父さんも朝起きてビックリだ。寝ている間にリフォームできるんだな」

「リアスさんのお父様がね、建築関連のお仕事もされているそうで、モデルハウスの一環でここを無料でリフォームしてくれるっておっしゃったのよ」

 

 朝食時、両親が笑顔で事の経緯を説明するが、それに納得する大一と一誠ではなかった。悪魔の事情を知らないはずの2人がこんな無茶苦茶な話を喜んで引き受けたのには、さすがに彼らも懐疑的であった。悪魔の常識もおかしいが、自分らの両親も大概だと思ってしまう。

 6階に地下3階、あらゆる部屋とそれに見合った広さ、もはや大一の知る兵藤家はこの世にないことを彼は実感するのであった。

 

────────────────────────────────────────────

 

「冥界に帰る!?」

 

朝食後、オカルト研究部の全員が一誠の部屋に集まっている中、彼の素っ頓狂な声が聞こえる。部屋がすっかり広くなっていたため、響くほどではなかったが。

 

「夏休みだし、故郷へ帰るの。毎年の事なのよ。どうしたの、イッセー。涙目よ?」

「うぅ、部長が冥界に帰ると突然言い出したから、俺を置いて帰っちゃうのかと思いましたよぉ…」

「まったく、そんなことあるわけじゃないでしょう?あなたと私はこれから百年、千年単位で付き合うのだから、安心しなさい。あなたを置いてなんかいかないわ」

 

 涙を流す一誠に、リアスが頬を優しくなでるのを見ながら、大一はため息をつく。ついこの間まで、こんな弟に嫉妬したり、比べて自分を否定していたと思うと、あんなに悩んでいた自分がくだらなく思えてしまうのだ。

 今回のリアスの帰省は特別なことではない。眷属を連れての帰省は毎年の恒例であった。アーシアやゼノヴィアが初めての冥界に緊張ながらも心を躍らせる中、一誠は大一の方を不思議そうに見る。

 

「え!?じゃあ、兄貴も冥界に行っていたのか!?」

「まあな。わざわざ記憶操作をしてもらっていたから、お前が気づかないのも無理はない」

「うっわ、なんかショックだぜ。兄貴が俺の知らないことを知っているのが」

「…お前も俺に辛辣なこと多いからな」

「あー、でも、俺、夏休みやりたいことあったんですけどねぇ」

 

 大一の言葉をスルーしながら、一誠は自分の想いを口にする。なんでも今年の夏こそ、彼女を作ってエロい妄想を現実のものとしたかったらしい。それにあたり、プールや海に行くことを計画していた。

 しかしリアスが冥界に大きな湖、さらに彼女の自宅にプールや温泉があると聞くと、一転してやる気を見せていた。

 

「じゃあ、イッセー。冥界で私とデートしましょう。デートするだけの時間があればいいのだけれど…」

「部長ォォォォッ!行きます!全力でついていきます!」

「バカだ。俺の弟はバカの極みだ…」

「あらあら、イッセーくんったら張り切っちゃって。私達はどうしましょうかしら。同じようにデートでもしてみる?」

「俺に聞くなよ。どうせ俺は例によって病院で検査だし…。まあ、時間あったら付き合う」

 

 朱乃がからかうように隣に座っていた大一に聞くと、彼は気恥ずかしそうに顔を背けながら答える。あまりにも意外な行動に朱乃どころか、部屋にいる全員が大一に注目した。むしろ彼自身も、自分の行動にひどく驚いていた。先日の一件から、大一が朱乃に抱く感情はこれまでとは異なったものになっていたのは間違いなかった。同時にその感情をあっさりと表に出しかけた自分自身に、どこか隙を感じてしまう。

 

「ウソでしょ、あなた達…!いつの間にそこまで…!」

「いや、そんな関係じゃないですよ!誘われたからってだけですって!」

「ぬああああ!兄貴が朱乃さんととか死にたくなるゥゥゥ!」

「よく本人の前でそんなこと言えたな、バカ弟!だからそういう関係じゃねえよ!」

「お、お兄さん!私、胸がいっぱいで…!」

「やめろ、アーシア!泣くな!祈るな!」

「俺も冥界に行くぜ」

「あんたは空気を読まないな、おい!っていつの間に来た、アザゼル!?」

 

 いきなり気配もなく登場したアザゼルに全員が気を取られる。おかげで妙なリアクションにツッコミを入れる必要は無くなった。そんな彼らのことを意に介さず、アザゼルは懐からメモ帳を取り出す。

 

「冥界でのスケジュールは…リアスの里帰りと、現当主に眷属悪魔の紹介。あと新鋭若手悪魔達の会合、それとあっちでお前らの修業だ。俺は主に修業に付き合う訳だがな。お前らがグレモリー家にいる間、俺はサーゼクス達と会合か、ったく、面倒くさいもんだ」

 

 スケジュールを確認したアザゼルは嘆息する。こんな男でも堕天使達からの尊敬と信頼はとてつもなく、指導者としてもその手腕は間違いないのだから大一としては反応に困った。

 グレモリー眷属にアザゼルも加えたメンバーが冥界に行くことに決まった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 出発の日、彼らは最寄りの駅にいた。そこからリアスと朱乃、そしてここ数か月で悪魔になった一誠、アーシア、ゼノヴィアが先にエレベーターで降りていく。このエレベーターが冥界行きのための駅に繋がっていた。実際、人間の世界には目に見えないほど多くの冥界への入り口があるらしい。

 一誠達が先に降りて行ったのを確認すると、アザゼルが大一に耳打ちする。

 

「今ならリアスや朱乃の邪魔も入らねえな。よし、大一。お前の病院の検査結果と錨をあとで見せてくれ」

「なんです、藪から棒に?だいたいあなたが興味あるのは神器でしょう」

 

 不信感を隠そうともせずに、大一はアザゼルを見る。自分の力が神器じゃないことを、大一はリアスから聞いていた。アザゼルの説明だけでは、さらに自分の能力に特別性が見いだせなくなっていたため、当の本人からこんな言葉を聞いてもいい気分ではなかった。

 間もなくエレベーターに乗り込んだ彼らだが、アザゼルは話を続ける。

 

「お前が『犠牲の黒影』から解放されたあの時…どうも俺は腑に落ちないんだ。あの神器の研究が足りなかったのは事実だが、より強化されたはずのあいつの支配から抜けたお前の命があったばかりか、なんの後遺症も残っていないように見えるのは驚きだ。俺として、お前が助かったのは黒影自身がお前を吐き出したからだと思うんだ」

「あれは俺を乗っ取ろうとしたのに、どうして吐き出すんです?」

「それがわからねえんだ。あいつに打ち勝つには奴に勝るほどの正の感情を持つか、または乗っ取りも効かないような鋼のメンタルや力で打ち破るかのどちらかしかない。かと言って、お前はどっちも持っているように見えねえしな」

「本当に歯に衣着せないな、あなた…」

「才能無い奴に、嘘でも言う方が残酷だろうよ。特にお前みたいな奴には。いや、そんなことはどうでもいい。つまり俺はそのアンクに見落としたものがある気がするんだよ」

 

 エレベーターは止まり、眼前にはだだっ広い空間が広がる。その広さはいつも利用している最寄り駅とは比べ物にならなかった。それでもアザゼルは話を止めない。

 

「出来ることならコカビエルの研究が手に入れば良かったんだがな…」

「総督なのに管理していなかったんですか?」

「俺が持っているのは1度だけあいつと一緒に研究した時のものだ。その後も何度かあいつは見つけて調べていたらしいが、あいつにしては珍しくひとりで事を進めていたんだよな。とにかく今の俺は持っていない。だから───」

「お話はもっと早くやめた方が良かったと思いますよ」

 

 アザゼルの言葉を遮るように祐斗が口を挟む。視線は向けず、先の方を見ていた。

 

「おいおい、木場。これは重要な話だぜ?」

「もちろんわかっています。だからこそ、邪魔が入らないようなタイミングを狙ったんでしょうけど、もう着きましたよ。つまり…」

「アザゼル先生、何をしていらっしゃるのかしら?」

 

 威圧するような笑顔で、アザゼルに話しかける。アザゼルへの不満が露骨に表れていた。

 

「いやいや、男同士の会話ってやつだ。気にするな」

「彼への無理強いは看過しません。大一、行きましょう」

「ああ、うん…」

 

 大一の手を取ると朱乃はグイグイと前に行き、前方の一誠達に合流する。残ったアザゼルは頭を掻きながら、親友の娘の後ろ姿に視線を向けていた。

 

「やっぱりあいつ、俺に当たりが強いぜ」

「堕天使の件だけでなく、神器に乗っ取られた時に大一さんごとどうのこうのって言っていたのも引きずっているんでしょうね」

 

 それぞれが思う中、グレモリー家所有の列車に一行は乗り込み、いざ冥界へと向かうのであった。

 




ヒロイン決めたことでそっちの描写も考えなくちゃ、とか思いつつ書くのを進めていきます。
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