しかしオリ主の心労はまだ続きます。
全員がグレモリー家の所有する列車に乗り込むと、冥界に向けて出発した。冥界までは約1時間、主であるリアスのみ前の車両へと移り眷属は各々座席へと座る。これが正規の入国であり、初めての場合はこのルートを使わなければならなかった。一誠はすでに魔法陣で一度入国しているが、そこは魔王の権力。裏魔法陣を使っていたため、特例ということで許されたようだ。
大一は基本的に車内では寝ている(実際は20分程度で起きてしまうことがほとんど)が、この日に限っては対面に座る一誠やアーシアの質問の連続で、それすらもかなわなかった。やはり初めて冥界に行くとなれば、気になることも多いのだろう。
「冥界か…どうもイメージが湧かないな」
「お前の反応はある意味正解だと思うよ」
「うふふ、良いところですわ。ましてやグレモリー家となれば、冥界きっての名家ですもの。待遇は間違いありません」
「そのぶん責任も伴う。前にライザー様が言っていたが、俺らの振る舞いがより求められることになるんだ」
大一の言葉に、一誠やアーシアは緊張した表情を見せる。グレモリー眷属での彼の努力を見れば、この言葉は2人にプレッシャーをかけるだろう。大一もそこまで負担をかけようとは思っていなかったが、同時に多少の覚悟は必要だと思っていた。この辺りの認識の違いは、悪魔になった長さの違いだろうか。
「…行く前にプレッシャーかけないでくれよ」
「し、心配になってきました」
「あらあら、大一ったら怖がらせちゃって。大丈夫ですわ、その辺りはおいおい覚えていけば」
「悪い、そこまで負担にさせるつもりは…。まあ、いざとなったら俺らもサポートするから」
大一は安心させるように一誠の腕を軽く叩く。ごく自然に、かつ心に余裕を持って振舞えているのが自分でも分かった。
「初めて見ましたわ、大一のお兄さんらしいところ」
「今まではそんなこと無かったって言いたげだな」
「あら、そんなことありませんわ。大一は頼りがいあって、責任感ありますもの」
「…すごい皮肉っぽい言い方だな」
「どうかしら?」
茶々を入れられた大一は反論するが、朱乃は気にせずにいたずらっぽい余裕の笑みを見せる。このやり取りにどこか懐かしさを感じる彼であったが、対面に座る2人の後輩はまた違った表情であった。一誠は訝しんでいるようなもので、アーシアはどこかワクワクしていた。
先輩2人のやり取りに、アーシアが口を出す。
「あの朱乃さんとお兄さんの関係って、いつからそうなったんですか?」
「私達、どこか変わっているかしら?」
「とても仲が良いというか、親友なんだけどそれ以上にお互いに信頼しているというか…」
「言っても、朱乃さんの方が俺よりも悪魔としてはるかに先輩だぞ。信頼だったら俺よりもリアスさんの方が上だ」
「そうじゃないんです!私が言いたいのは!ああ!言葉に出来ません!」
体と腕を揺らしながら、アーシアはもどかしそうに言う。彼女なりに頭の中で思い描いているものがあるのだろうが、それを正確に言い表せずにやきもきしていた。表情は活き活きとしているのだが。
そんなアーシアの様子を見て、大一はなんとなく彼女の言いたいことを察した。2人の関係性に憧れのようなものを見出したのだろう。同じような立場で、互いに気兼ねなく接する、友情と愛情が混在した心の隙を見せあえる関係だ。
とはいえ、アーシアは夢見がちじゃないかとも彼は思った。最初に悪魔になった時は毛嫌いとまではいかなかったが、大一は朱乃との距離感をまったく掴めなかった。いまだに同じことを思う時があったり、彼女を呼び捨てにしないのは、最初の頃に根付いた感情が起因している。要するに、アーシアが期待するような男女の関係では無いのだ。もっとも大一としては先日の一件もあってか、朱乃に対しての好意が膨れ上がっておりそれを本人も自覚していたのだが。
そして朱乃はそんなアーシアを見て目の奥を光らせる。優しさとからかいを兼ね備えた彼女らしい反応であった。
「あらあら、アーシアちゃんったら。大丈夫よ、いっぱい教えてあげますわ。男の人の扱い方についてもね」
「誤解されるぞ、その言い方…」
「お、お願いします!」
朱乃がアーシアに耳打ちをする一方で、一誠は頭を掻きながら本音を漏らす。
「…やっぱり腑に堕ちねえ!兄貴がそんなタイプなのが!」
「お前にだけは言われたくないわ!」
弟の言葉に大一も反論する。彼からすれば、毎日のようにリアスとアーシアから好意を向けられている姿や、弟が煮え切らない態度を見せつけられていたため、一誠の言葉はただの嫌みにしか捉えられなかった。
女性陣は秘密話、男兄弟は口喧嘩と対照的な盛り上がりの中で、リアスが目を丸くさせたように顔をのぞかせる。後ろには車掌姿の初老の男性が立っていた。
「ずいぶんと盛り上がっているけど、一度やめてもらってもいいかしら」
「初めまして、姫の新たな眷属の皆さん。私はこのグレモリー専用列車の車掌をしているレイナルドと申します。以後、お見知りおきを」
レイナルドの自己紹介に併せて、一誠、アーシア、ゼノヴィアもそれぞれ自己紹介をする。そして本人かどうかを照らし合わせるための機械を持って、正式な入国手続きを終わらせていった。
そして約40分後、彼らはついに冥界へと到着するのであった。
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『リアスお嬢様、お帰りなさいませっ!』
サーゼクスに会うためにそのまま列車に乗っていたアザゼルを除いたメンバーが列車を降りると、多くの人物がリアスの帰りを祝った。花火が上がり、兵隊たちは銃を空に向けて放ち、楽隊が壮大に音を奏でる。なにも知らない者から見れば、国王陛下でも現れたのかと思うだろう。
そんな中、グレイフィアもリアス達を出迎える。
「お嬢様、お帰りなさいませ。お早いお着きでしたね。道中、ご無事で何よりです。さあ、眷属の皆さまも馬車へお乗りください。本邸までこれで移動しますので」
一行は馬車に乗ると、目的地の城へと向かった。豪華絢爛なとてつもない大きさの城はグレモリー家の本邸とのことであったが、他にもあるとのことだ。
一行が到着して城の門が開かれると、いの一番にリアスを歓迎したのが小さな男の子であった。
「リアス姉さま!おかえりなさい!」
「ミリキャス!ただいま。大きくなったわね」
「あ、あの、部長。この子は?」
「この子はミリキャス・グレモリー。お兄様…サーゼクス・ルシファー様の子どもなの。私の甥ということになるわね」
ミリキャスの出迎えの次に現れたのは、リアスの母親であった。これまた彼女の姉と言われても通用するような容姿で、その美貌から一誠もデレデレであった。そんな弟の姿に列車の中での言葉がどこまで身に入っているのかが、不安になる大一であったが、リアスがツッコミがてら頬を引っ張っていたのを見て、溜飲が下がる気分であった。
「初めまして、私はリアスの母、ヴェネラナ・グレモリーですわ。よろしくね、兵藤一誠くん」
数時間後、ダイニングルームで夕食会が開かれた。ごちそうの数々、それらがすべて収まるほどの大きなテーブル、そんなテーブルに見劣りしないきらびやかな部屋の内装とグレモリー家がいかに名家なのかを納得させられるものの連続だ。
フォークとナイフを丁寧に扱いながら、大一はちらりと一誠やアーシア、ゼノヴィアに視線を向ける。現実とかけ離れた豪華さの連続、彼らにフォローするべきかを考えていた。実際のところ、教会2人組はそれなりに形になった行動が取れている。そうなれば問題は弟か…などと大一が考えを巡らせていると、リアスの父であるジオティクス・グレモリーが兵藤兄弟に話しかける。
「ところで大一くん、一誠くん、ご両親はお変わりないかな?」
「ええ、2人とも元気に過ごしていますよ」
「は、はい!リアス様の故郷に行くと言ったらお土産を期待するほどです!あ、あんなに立派な家にリフォームしていただいた上でそんなこと言ってくるなんて、本当、わがままな親で…アハハ」
一誠の言葉に、大一は素早く警告の視線を向ける。上級悪魔の常識を相手に不用意な発言がとんでもない結果を招きかねないことを、彼はこの数年でしっかり学んでいたからだ。
しかしすでにジオティクスは執事相手に、土産として城ひとつを手配しようとしていた。
「ちょ、ちょっと待ってください!そ、そこまでのお土産はちょ、ちょっとスケール違いというか!」
「ジオティクス様、我々の文明では城はお土産とはまた違うものでして…」
「あなた、日本は領土が狭いのですから、平民が城を持つなんて不可能ですわ」
一誠が慌て、大一が言葉を選んでいる中、ヴェネラナの静止によりなんとかジオティクスを思いとどまらせることが出来た。まだ悪魔として学ぶことが多い弟に対して、大一は口パクで黙っているように指示をしたが、彼の祈りとは裏腹にジオティクスは一誠に話を続ける。
「兵藤一誠くん。今日から、私のことをお義父さんと呼んでもかまわない」
「あなた、性急ですわ。まずは順序というものがあるでしょう?」
「う、うむ。しかしだな、紅と赤なのだ。めでたいではないか」
「あなた、浮かれるのはまだ早い、ということですわ」
グレモリー夫婦の言葉に、大一は気まずい気持ちで水を飲む。もはや隠すつもりは無いのだろう。グレモリー家はリアスと一誠を婚約させるつもりだ。しかもその後も続く会話からして、リアスの気持ちをわかった上で外堀を埋めている。やはり先日のライザーとの婚約の解消が大きく響いているようだ。伝説のドラゴンを使って解消させた、という噂まで広がっているとのことだが、ほとんど間違っていないのが何とも大一には何とも言えない気持ちにさせた。
家でさんざん弟がリアスから好意を向けられていたり、両親がそのことを全面的に肯定しているのを目の当たりにしてきた大一でも、目の前で繰り広げられるグレモリー家の会話にはあまり耳に入れたくないような感情を抱かせた。
しかしそれ以上に彼が辟易したのは、ここまで匂わせてハッキリと明言までされているような状況でありながら、当の本人である一誠がポカンとした理解できていない表情をしていることであった。
実際、身内でこんな状況を何度も目の当たりにしていたら、イライラが凄そうなイメージです。