D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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修行前の息抜き回です。
ただ言うほど、息抜きになるかは分かりません。


第41話 温泉の一幕

「旅ぃ~ゆけば~♪」

 

 温泉ではアザゼルの歌声が響いていた。若手悪魔の会合が終わったこの日、グレモリー眷属は名湯に浸かり疲れを癒していた。シトリー眷属との戦いまで約20日、明日からの修行に向けて英気を養う意味合いもあったのだろう。今でこそのんきに歌っているアザゼルだが、彼の頭の中ではすでに修行内容を考えているらしい。もっとも他の眷属も各勢力や有権者からのバックアップが見込まれているらしいが。

 大一も温泉につかりながら、ぼんやりと外を見上げている。眠れないことが多い彼にとって、風呂は数少ないリラックスでもあった。

 

「イッセーくん、背中を流そうか?」

「頬を染めながら言うなよ!」

「お前ら、またやって…いや、うん。ちょっと違うのかも」

 

 祐斗と一誠のやり取りを見ながら、大一は言葉を濁す。真面目に最近、祐斗が一誠に対して色目を使っているのでは、と思うことが多い気がした。聖剣の一件からそれを疑わせるような言動はあったが、今回は生々しく感じる。別に否定するつもりは無かったが、やはり困惑はしてしまう。

 

「…そういや、ギャー助はどこだ?兄貴、知らない?」

「お前、ギャスパーのことそう呼んでいたのかよ。あいつなら、ほら入り口のところに」

 

 大一が指さす先にギャスパーは立っていた。タオルを胸の位置で体に巻き付け、もじもじと体を動かしていた。彼の正体を知らなければ十中八九、女の子だと思われるのは間違いないだろう。

 そんな彼を一誠が引っ張り出そうとする中、アザゼルが大一に声をかける。いつの間にかその手には酒の入ったおちょこまで持っていた。

 

「おい、大一。そういや、今日は検査だったよな。結果はどうだ?」

「いつも通りです。心身、魔力とも特に変化はなし。正確な数値はまとめたものを後日、グレモリー家に送ってもらうことになっています」

「なんとか修行前に欲しかったんだがなぁ…まあ、やることは変わらねえからいいか」

「いやぁぁぁぁん!あっついよぉぉぉ!溶けちゃうよぉぉぉ!イッセー先輩のエッチィィィッ!」

 

 大一とアザゼルの声をはるかに上回る叫び声が轟く。どうやら一誠がギャスパーを温泉に放り投げたらしい。耳を突き破るような悲鳴、一誠のツッコミとこれだけでこの日の温泉が休まる時間になるとは思えなかった。

 大一は立ち上がると、ギャスパーを抱え湯船を上がる。

 

「た、助かりましたぁ…!」

「無理だと思ったなら断るとか、せめてさっさと湯船近くまで行くとか、いくらでも手はあっただろう」

「ご、ごめんなさいぃ…!」

「まあ、一誠もいきなりやったのは悪いと思うがな」

 

 大一はギャスパーを降ろして、涙目の彼に話す。たしかに近くで見ると、彼の女の子らしさは一段と際立っているような印象を受けた。湯で体が濡れているせいかそのしっとりした印象は強烈だ。

 もっとも彼を女の子と思うような付き合いはとうに過ぎていたため、大一はそのまま洗い場に向かおうとすると、ギャスパーが付いて来て小声で話しかけてくる。

 

「大一お兄様。も、申し訳ないお願いがあるんですが、ひとりだと背中が…」

「いいよ。洗ってやるから後ろ向いてな」

 

 安心した様子でギャスパーは座り込む。自分と比べるとその体の小ささは印象的であった。

ちらりと一誠に視線を向けると、アザゼルと話し込んでいた。表情からして自分が混ざりたいようなものであることは明らかだったので、離れられたのは幸いだったのかもしれない。

 

「…良かったです。お兄様とこんなふうに一緒で…」

「…おい、ギャスパー。お前、そっちの趣味があるわけじゃないよな?」

「うえぇぇぇ!違いますよ!大一お兄様があの神器に乗っ取られなくて、一緒にまたグレモリー眷属としていられることですぅ!」

「ああ、うん。悪かった。そして安心した」

 

 大一はタオルで彼の背中を洗いながら、ほっと息をつく。ちょっとでも疑った自分を殴りたくなる想いであった。

 

「それを言ったら、僕も同じ気持ちですよ」

 

 隣で頭を洗っていた祐斗が会話に入ってくる。横顔ながらその整った顔は印象的であった。

 

「大一さんから僕はもっといろんなこと学びたいし、強くしてもらいたいんです。それにやっぱり、同性の先輩って心強いですし」

「えへへ、祐斗先輩も同じなのは嬉しいです」

「…俺も嬉しいよ。みんなと一緒に肩を並べられることがさ」

 

 驚くほど穏やかな声で大一は答える。自分が必要とされている、そのことを素直に伝えられるだけで心が感動に満たされる想いであった。影に取り込まれることなく、また仲間たちと共に日の当たる場所に立てている、その現実が涙をも誘いそうになった。

 そんな仲間の期待を裏切ることはできない。気負いや使命感とは違った、前向きな覚悟が今の彼には燃えていた。

 

「それじゃ、なおさら負けられないな。今度のゲームは」

「ぼ、僕、頑張りますぅ!」

「イッセーくんも合わせて、グレモリー眷属の男子の力を───」

「おわあああああああっ!」

 

 締めの祐斗の言葉を遮るように湯船の方で叫び声が聞こえる。直後に向こう側から、大きなものが着水したような音…大一達が振り向けば、アザゼルだけが立っていた。一誠の姿が見えないこと、ちょっと前の彼らの表情を考えれば、アザゼルの行動がすぐにでも予想できた。

 ざぶざぶと湯をかき分けながら大一はアザゼルへと近づき、その後ろを祐斗とギャスパーがついていく。

 

「あんた、なにをやっているんだ!」

「あん?なにってお前の弟を一流のスケベに仕立ててやったところだ」

「一誠を女湯の方に投げたということか!?」

「わかっているなら、聞くんじゃねえよ。面倒なやつだな」

「あなたに言われたくないわ!だいたいここは混浴じゃないんだし、もっと節度を…!」

 

 大一が怒りをぶちまける中、アザゼルは抱え込むように3人に手を回す。その表情はよからぬたくらみを思いついた子どもを思わせた。

 

「うるせえな。男ならこういう経験は必要だぞ。それはお前らにも言えることだ。ということで行ってこい!」

「ぬおっ!」「うわっ!」「ひゃあぁぁぁ!」

 

 アザゼルの言葉と共に、大一達は空中に放り投げられる。3人とも弧を描くように宙を舞いながら、塀を超えて隣の風呂へと落ちていった。

 ザブン、ザブン、ガンというそれぞれの鈍い音が聞こえる。大一は温泉に着水したが、顔面を思いっきり打ってしまったのと、多少水を飲んでしまい、もがきながら立ち上がった。ひりつく顔面を抑えながらものぞかせるその眼は恨みがましく、塀の先にいるであろうアザゼルに目を向けていた。

 

「あんの野郎…!あとで絶対に殴る!あいつらは無事か?」

 

 荒い息で大一は周囲を見回そうとするが、すぐに先に投げ込まれた一誠が裸体のリアスとアーシアの取り合いの様子が視界に入る。その光景だけで彼の頭からどんどん冷静という単語が引き下がっていくような気がした。

 

(落ち着け!まず落ち着け!)

 

 自分が女湯に落ちたことを理解した大一は、必死で言い聞かせる。だがそんな彼が冷静になるはずもなく、同時にさらにヒートアップするようなことが起こった。

 

「大一?」

 

 朱乃が覗き込むように、大一の前に立っていた。彼の視界には、彼女の白い肌と綺麗に整った裸体が入り込んだ。その美しさに見惚れそうになるも、すぐに手で目を覆い後ろを向いた。

 

「いやゴメン!こういうことをするつもりじゃなかったんだ!アザゼルに投げられてッ!いや言い訳の前に出る!すぐ出る!」

「…あらあら、イッセーくんみたいに大胆になったのかと思いましたわ」

 

 大一が歩き出そうとする前に、朱乃が後ろから体を密着させて抱きしめる。神社で何度か経験したはずの態勢なのに、この日の緊張はそれまでの比ではなかった。それどころか、さっさと振り払うべきという気持ちと、しばらくこのままでいたいという気持ちがせめぎ合っていた。

 

「あ、朱乃さん…頼むから離れて…!」

「やーですわ。大一ったらいつもそうやって離れて。この前みたいに受け入れて欲しいですわ」

「あれは後輩もいなかったし…とにかく俺の気持ちが持たない…!」

 

 必死で声を振り絞る大一に、朱乃は彼の耳元に顔を近づけるためにさらに体を押し付ける。より柔らかい感触が背中に当たった大一は、全身が温泉とは違う意味で熱くなっていくのを感じた。

 

「私は一緒にいたいの。それとも大一は…イヤ?」

「イヤじゃない!それは絶対に無い!」

 

 皆には聞こえないくらい小さく、それでいて甘くとろけるような朱乃の言葉に、大一は小刻みに首を振りながら強く否定する。神器の一件以来、大一が朱乃に対して抱く感情は深いものになっていた。元々の仲間としての強い信頼だけでなく、堕天使での一件と例の神器の一件を経て、女性として強く意識することが多くなった。だからこそ今の彼女の行動は、以前とは別の意味で受け入れづらく、己の理性を試されているような気持ちになった。

 だが朱乃は手を緩めない。ただこういったチャンスを逃したくない想いがあるのは事実であった。

 

「じゃあ、このままでいたいわ。私は大一と体を触れ合っていると…その…安心するの」

「そんな言われ方したら、うぬぼれてしまうよ…」

「だったら、うぬぼれて。私もあなたと───」

「お、お兄様ぁぁぁ!た、助けてぇぇぇ!」

 

 少し横でごぼごぼと苦しそうな声が聞こえる。見てみれば、ギャスパーが涙目で風呂に溺れかけていた。足はつくはずだが、どうやら突然のことに驚いてパニック状態のようだ。

 大一は朱乃の腕を優しく(同時に名残惜しそうに)引き剥がすと、ギャスパーを抱えた。ゲホゲホとせき込むギャスパーを見る大一に、今度はゼノヴィアが声をかけてくる。

 

「先輩、手を貸してくれ」

 

 見れば、彼女は祐斗に肩を貸していた。力が無いようにだらりとした祐斗だが、頭部に大きなこぶが出来ている。

 

「祐斗ぉぉぉ!どうした、お前は!?」

「うーん、どうやら着水できずに頭からそこの石段に当たったようなんだ」

 

 ゼノヴィアの話に、大一はアザゼルのことをいつか本気で殴ってやることを決意しつつ、風呂から上がって手を貸す。片手にぐったりと力が無さそうにうなだれていたギャスパーがいたので誰かに任せようとしたが、一誠は鼻血を出しながら幸せそうな表情で気絶しかけのため無し、リアスとアーシアは取り合いの状況のため無し、朱乃は単純にこれ以上向き合うと今度は自分が気絶すると思ったのでやはり無し。そんな彼の眼に止まったのは小猫であった。

 

「小猫、悪いけどギャスパーを…」

 

 だが大一の言葉は小猫に届いた様子は無かった。見るからに元気がなく、うなだれた様子の彼女はぼんやりとしながら温泉をあとにした。

 その様子に、混乱だらけの大一もさすがに疑問を感じるのであった。

 




心に余裕出来ても、なかなか主人公が変われません。
そしてどうせならヒロインも出来るだけ可愛らしく書きたい…。しかしその力量が無い…。
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