(強い…!)
攻撃を防がれた瞬間、大一が確信したことであった。魔力の質や量、手数の多さ、空間術の実力、目の前のはぐれ悪魔は、大一が戦ってきた相手の中ではかなりの実力者なのは間違いなかった。
相性は悪くないものの、決して有利ではないこの状況で、一誠達を守りながら戦うのにはさすがに無理がある。そう判断した大一は、黒歌から視線をそらさずに後ろにいる手負いの一誠に呼びかけた。
「一誠、動けるか?」
「あ、ああ…なんとかな…!」
「じゃあ、リアスさんと小猫を連れて逃げろ。ここは俺が食い止める」
「でも…」
「いいから行け!」
錨を押し込みながら大一は叫ぶが、黒歌は魔法陣を解いた瞬間、身軽な宙返りをしながら後方に下がる。
「そう簡単に逃がすわけないじゃない」
黒歌が指を鳴らすと、再び異様な空気に周囲が包まれる。大一が強引に打ち破った空間術もあっという間に修復したのだ。
さらに再び分身を出し始める。眼前に広がる彼女の姿は7人、違いがまるで無いようにしか見えなかった。
「それじゃ、小手調べにゃ」
7人の黒歌から一斉に魔力の弾が撃ち込まれる。狙いは大一に絞られており、錨で防ごうとするも全弾命中していった。全身に魔力を行きわたらせて硬度を上げていたため、致命傷にはならなかったものの、焼け焦げた跡が彼の体に刻まれた。
「ぐっ…!威力は間違いないってことか…!」
「ありゃ、あんまりダメージを負っていない?赤龍帝よりは面白そうだにゃん」
「こっちは遊んでいる暇ねえんだよ」
そう言いながら大一は地面に落ちていた小石に魔力を込めると分身の1体に投げつける。まるで鋭い弾丸のように飛んでいく小石を黒歌は首を曲げてかわした。
「…やっぱり本物がわかっているわね。妖怪でも無いのに気が読めるっているの?」
「わざわざ敵に種明かしをするか」
大一は素早く黒歌に接近すると、連続で錨を振りつける。防御用魔法陣で黒歌は攻撃を防ぐも、腕力では大一の方に軍配が上がり徐々に後退していく。
黒歌の指摘は当たっていた。ディオーグと融合して生活しているうちに、大一は魔力とは違った力を感知できるようになっていた。それはすべての生き物に流れる普遍的な力であった。生命が持つ大元の力であるオーラやチャクラムを感じ取れる。ディオーグ曰く「生命力」を感知できるようになり、さらに常に気を張る必要があるサバイバル生活と併せた結果、大一は他の力との区別をつけながら力を感じ取れるようになった。これにより、離れすぎていなければ魔力を持たない相手を探すことも出来る上に、幻術などのかく乱も相手の生命力を辿ることで見抜くことが出来た。
だが黒歌もこのまま押されっぱなしとはいかない。空間を操り、別の場所に現れると魔力による攻撃を撃ちだした。しかし今度は大一を狙わず、攻撃は一誠に向かっていた。
「やらせるかって」
一誠に当たる直前に、黒歌の攻撃は空中で爆発する。直前に大一の口からは撃ち出された魔力の塊がその攻撃を防いだのであった。これまでの大一とは違う攻撃方法に、一誠は驚いて口から煙が出ている兄を見た。
「あ、兄貴…魔力撃てるようになったんだ」
「なぜか口からだけどな。まったく鍛えて悪魔離れしたってどういうことだか…ほらもう一発!」
大きく息を吐きだすように大一が口から撃ち出した魔力は、黒歌に向かっていく。彼女は冷たい表情でその攻撃を正面から防いだ。大一は間髪入れずに煙に紛れて接近戦を仕掛けるが、黒歌は軽い身のこなしで彼の錨や蹴りを避けていった。
大一が錨で大きく薙ぎ払ったところで、黒歌はジャンプして木の上へと飛び乗った。
「赤龍帝の兄ねえ…。ヴァ―リの話じゃ警戒するような相手ではなかったと聞いていたんだけど」
「ヴァ―リ?お前、あいつの仲間か」
「私としては白音を引き取ってさっさと退散したかったんだけど、お姉ちゃんの言うことを聞いてくれないからねえ~」
大一の問いを無視しながら黒歌は話を続ける。明らかに時間稼ぎを狙ったような態度であったが、今の彼にはどうすることもできないため次の攻撃に備えて一誠達のそばへと下がった。
「そりゃ、よかった。お前みたいな姉に、大切な仲間を連れていかれるのも癪だからな」
「お姉ちゃんならちゃーんと力を理解してあげられる…そう思っているんだけど、どうも白音やそのお仲間たちは納得してくれないみたいにゃ」
「経緯を知る以上、納得しろってのが無理な話だ」
「力や才能を理解してあげることこそ最高じゃない?まあ、白音の力は未熟だけど」
「小猫にとっては、お前が一緒にいてやることの方が必要だったと思うがな。あるがままの優しい彼女を認めるべきだな」
大一の指摘に一瞬だけ、黒歌の眉が動く。しかしすぐに煽るように言葉を発した。どこか苛立ちと呆れが感じられた。
「つまらないわね。そういう詭弁は好きじゃないにゃ」
「詭弁でけっこう。力や才能だけが人を認める理由じゃない。俺が最近になって学んだことだ」
「なに?あんた白音の王子様でいるつもり?」
「そういうのはもっと英雄的な肩書きを持っている奴に言うものだな。弟のようにな。俺はただ小猫が安心していられるために、受け止めてやるだけだ。それが兄貴分として出来ることなんだよ」
そう答える大一は大きく息を吸うと、再び魔力を撃ち出す。黒歌は木から降りて攻撃を避けると、再び魔力を連続で撃ち出してくる。大一は翼を大きく広げると、魔力を通して硬くし仲間の前で壁になって攻撃を防いでいく。以前よりも魔力を通して堅牢な守りが出来るようになったため、ダメージはそこまででも無かったが、このまま耐えても突破口が開けない。毒が先にリアスや小猫の命を奪うのは疑いようもなく、遠距離攻撃も手段だけで威力はそこまででも無かった。つまり最悪のジリ貧状態であった。
彼の翼を見たリアスと小猫が驚いて息をのむ中、一誠は何か思い当たったように頭を振る。
「兄貴、わかったぜ。俺も力だけじゃない。自分らしく強くなって見せる!だから少しだけ任せてもいいか?」
「勝算あるんだな。攻撃は通さねえよ」
「ありがとな。…部長、お話があります。俺が禁手に至るにはおそらく部長の力が必要です」
「…わかったわ!私でよければ力を貸すわよ!それで何をすればいいのかしら?」
「───おっぱいをつつかせてください」
一誠の言葉に、最悪の静かな空気が流れる。あまりにも唐突で、上で戦っているタンニーンと美猴の勝負音がとてつもなく遠くに感じた。
たしかに自分らしくと言ったが、それで弟が取ろうとする行動があまりにも欲望に忠実なのは大一も首をひねる想いだ。
だがこれに対して、リアスの回答もさらに大一を困惑させた。
「…わかったわ。それであなたの想いが成就できるのなら…」
(いいのか、それで!?)
(お前の仲間、狂ってんな)
(い、言い返せねえ…!)
ディオーグにすら何も言い返せない中、後ろで布がこすれたような音がする。リアスが上を脱いで胸をさらしたことは想像に難くなかったが、自分が攻撃を受けている中で最低の状況が後ろで繰り広げられているのに、泣きたくなってしまった。こんな状況に居合わせることになった小猫やタンニーンにすら申し訳なさを感じる。敵である黒歌、美猴もすっかり困惑していた。
「ねえ、美猴!あれは何か作戦かしら?リアス・グレモリーが乳房をさらけ出して、赤龍帝と何かをするつもりだわ」
「俺っちに訊くな!赤龍帝の思考回路は俺っち達とは別次元のところにあるんだってばよ!」
(実力なら俺こそが別次元だ!)
(そこで張り合わないでくれ…死にたくなる…!)
さっさと終わらせて欲しい気持ちとこれで禁手に至ると思えない気持ちが混ざり合わさる中で、一誠は叫ぶ。
「兄貴!おっさん!大変だ!右のおっぱいと左のおっぱい!どっちをつついたらいい!?」
「知るかァァァッ!さっきから戦っているこっちの身にもなれェェェッ!」
「バカ野郎ォォォォォッ!!右も左も同じだ!!さっさと乳をつついて禁手に至れェェェェッ!!」
「ふざけんなッ!!右と左が同じわけねぇだろォォォォッ!!大切なんだよ!俺のファーストブザーなんだぞ!人生かかってんだ!真面目に答えろォォォッ!!!!」
地獄みたいな言い争いが繰り広げられる中、これに終止符を打ったのは胸を触られるリアスの一言であった。
「もう!バカッ!それなら同時につつけばいいでしょ!?」
革新的な提案に一誠は衝撃を受け、大一とタンニーンはとにかく気を抜かないようにしながらその時が来るのを静かに待つ。間もなく、リアスの艶めかしい喘ぎ声が耳に入ると、大一の後ろでとてつもない魔力の上昇を感じた。
『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!』
「禁手、『赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)』ッ!!主のおっぱいをつついて、ここに降臨ッ!」
一誠は赤い鎧を身にまといながら高らかに宣言すると、大一の横について、手のひらから魔力を撃ち出す。黒歌の横を過ぎた魔力であったが、その威力は間違いなく、とてつもない爆風で一気に毒霧を霧散させた。
「兄貴、下がっていてくれ。ここからは俺がやる」
「言われなくても攻撃を受けすぎて、俺もちょっとヤバいんだ…。頼むよ…」
「ハッ!面白いじゃないの!なら、妖術仙術ミックスの一発お見舞いしようかしら!」
黒歌は高らかに笑うと両手にそれぞれ別の力を溜め始める。毒霧でのすりつぶしが効かないとわかった今、戦法を変えてきたようだ。しかしそれすらも今の一誠には通用しなかった。
撃ち出された波動を両腕でガードすると一気に距離を詰めていく。黒歌が何度も波動を撃ち込むも、一誠はそれを弾いていき彼女の眼前で拳を止めた。
「次に小猫ちゃんを狙ったら、この一撃を止めない。あんたが女だろうが、小猫ちゃんのお姉さんだろうが、俺の敵だッ!」
「…クソガキがっ!」
怒りと怯えが入り混じった眼で一誠を見る黒歌に対し、美猴はまだまだ戦うつもりの様子で如意棒を回す。大一も疲れた様子でありながら、脚に力を入れて気合いを入れ成すが、頭の中でディオーグが嘆息しながら声を発する。
(まーた別の奴が来やがったな)
その言葉通り、突如目の前に空間の裂け目が現れるとそこから背広を着た眼鏡の男性が出てきた。手には巨大な聖剣が握られていた。
「そこまでです、美猴、黒歌。悪魔が気づきましたよ」
「全員そいつに近づくな!手に持っている物が厄介だぞ!」
男の登場に、タンニーンが警戒を促す。彼の持つ聖剣は「聖王剣コールブランド」と呼ばれ、地上最強の聖剣と名高い一振りであった。さらに腰には最近発見された7本目のエクスカリバーまで備えており、それを扱っているだけでも男の実力を物語っていた。
「さて、逃げ帰りましょう。さようなら、赤龍帝」
それだけ言い残すと、男は仲間を引き連れて空間の中へと去っていった。
ようやく戦いが終わったことがわかると、大一は疲れたようにその場に座り込んだ。さすがにディオーグと融合して初めての実戦であったため、自分でも気づかないうちに力が入っていたようだ。
そんな彼に小猫は恥ずかしそうに話しかける。
「…先輩、ありがとうございました」
「俺だけじゃないって。とにかくみんな無事でよかったよな」
「…はいッ!」
少し涙ぐみながら笑顔を見せる小猫に、大一も安心する。その彼女の様子だけでも尽力した甲斐があった。
一方で、リアスは少し心配した表情をしながら大一に言葉をかける。
「大一、話は後で聞かせてもらうわよ」
「わかっています。ちゃんと真実は話しますよ」
間もなく、騒ぎを聞きつけた悪魔が彼らを保護する。その状態で大一は頭の中でどのようにディオーグのことを説明しようかと考えていた。
強化されてもオリ主がやること変わっていないのに書いてから気づきました。