禍の団の襲撃により中止となったパーティの後、リアス達はグレモリー邸に戻ったが、すぐに休むことは無く待合室で大一を問い詰めていた。先ほどの戦いで彼が貢献したことは否定しようもない。しかし同時に、彼がこれまでと違った様子であったのも事実であった。
急激に力をつけるのは、悪魔の世界では珍しいことではない。だが大一の場合は、以前「犠牲の黒影」に取り付かれていた経歴があったため、疑いを向けられるのは仕方が無かった。
一方で、大一はどう説明すればいいかが、まるで見当がつかなかった。ディオーグの存在を証明できればいいのだろうが、頭の中でしか会話できない奴を存在するなどそれこそ不可能であったからだ。しかも当の本人は、食事が終わったとわかるや否や眠り込んでいた。
話をどのようにして切り出そうか迷っていると、アザゼルが落ち着きなく貧乏ゆすりをしながら話しかける。
「あんまりもったいぶるなよ。この後、俺はまたすぐにサーゼクス達に会って、今後のことを話さなくちゃならないんだからな」
「もしかして内容によっては、俺が今回出られないとかも…」
「もちろんあり得る。むしろこのまま隠し続ける方が、お前にとって不利益だと思うがな」
「…わかりました。あー…じゃあ…」
とにかく目に見える証拠と併せて、話すしかない。そう考えた大一は立ち上がると両翼を広げた。片方は悪魔の翼、もう片方は同じくらいのサイズの龍の翼が現れた。
先ほど見たリアスや一誠、小猫は目を細め、それ以外のメンバーは彼の体の変化に驚いた表情をしていた。中には息をのむ者もいたが、反応せずに大一は事の経緯を説明する。例の悪夢の詳細、ディオーグと出会った経緯、「生命(アンク)」の正体、そして自分の体とディオーグが融合したこと…。
話を進めるほど、全員の表情に心配と陰りが見える。仲間たちのそんな表情を見るのが心苦しいものであった。
話し終えたところで、さっそく追求してきたのはアザゼルであった。
「さて、その話だがどこまで本当なものか…」
「まあ、信用できないですよね」
「お前は前に乗っ取られているからな。正直、今話しているのが大一なのかっていうのも手放しに信じられるものじゃない」
アザゼルの指摘はもっともであった。残念ながら彼の体に別の存在がいるかなど、特別な感知能力でも無ければわからないし、大一が自分の意思で話しているのかなど傍から見ればもっとわからなかった。
「私が姉さまくらいの力があれば…」
「小猫、そういう話は今は無しだ。だいたいこの件については、俺が証明できないのが悪いんだから」
ぼそりと呟く小猫に大一は指摘する。彼女は少し口を曲げて、そのまま黙ってしまった。一方、アザゼルは特に反応せずに、大一にたたみかけていった。
「あとな、信用できない理由はそもそもディオーグなんて龍を聞いたことないんだ。龍のオーラも感じられないし、俺はこう見えてもかなりドラゴンを知っているつもりだが…」
アザゼルがちらりと一誠に目を向ける。すぐに彼も首を振った。おそらく彼の神器にいるドライグも知らないことを伝えたのだろう。
このまま話がどん詰まりになると思われた時、彼の頭の中に低い声が響いた。
(まだ話し終わっていなかったのか)
(お前はいつ起きていたんだよ…)
(ついさっきだ。バカ共が俺の名を知らないとか抜かすからな。おい、小僧。錨出して、俺の人格を引き上げて表に出せ。10秒程度ならできるだろ)
(…は?)
寝起きの苛立ちとはまったく違う面倒そうなディオーグの言葉に、大一は一瞬思考が停止する。取り付く島が無い状態の中、いきなり助け船が現れたのだから、無理もなかった。
(お前、それ早く言えよ!)
(やっても、すぐに戻るから意味無いだろ?まあ、使う機会が来たってことだな)
「兄貴、どうした?」
「…ちょっと待っていてくれ」
大一は手を上げて一誠を制すと、錨を出して自分の中にいるディオーグの生命力を探り当てる。間もなく強固で、重そうな感覚を見つけると、いつも魔力を引き上げるのと同じ要領で表に出した。
一瞬、吐きそうな感覚が襲うが、間もなく大一は奇妙な感覚に陥った。視界は変わっていないのに体をまったく動かせない。自由が効かないのに解放的な感覚と矛盾した要素に包まれていた。
さらに彼の口から、大一とは違った威圧的な声が発せられた。表情は勝ち誇っており、ぎらついた眼で仲間達を睨んでいる。
「いいか、ガキども!よく聞いておけ!俺こそが最強の龍、ディオーグだ!お前らのような───」
威厳たっぷりに宣言する大一の声は途中で途切れる。凶悪そのもののような顔があっという間に静まり、自分の口からとんでもないことが言われそうになったのに恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
リアス達は大一のあまりの変わりように目を丸くしていたが、間もなく緊張が途切れたように各々言葉を発する。
「ふぅ…とにかくあなたの言葉が正しいことがわかって安心したわ」
「兄貴も俺みたいにドラゴンがいるってことかよ…!」
「見た感じ頼もしい…とは違うみたいだけどね」
「うーん、木場の言うこともわかるな。私としてもあの傲慢さは気持ちのいいものではなかったぞ」
「わ、私も驚きました…!」
「怖いですよォォォッ!」
「ギャーくん、うるさい。…でもたしかに先輩とはまるで違いますね」
「あらあら、大一と息が合うようには思えませんわ」
「まあ、嘘じゃねえことがわかってよかったよ。サーゼクス達に報告しなくちゃな」
仲間たちの反応に、大一は胸を撫でおろす気持ちであった。少なくとも彼らを説得できたのを確信できたからだ。あとは後日のソーナ相手のレーティングゲームに参加できればいいのだが…。
(ガキどもが知らねえなどというのは納得できねえ!これから俺の名をよーく覚えておけ!)
(もう戻っているよ)
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数日後、大一は心から安心して仲間たちと共に立っていた。今回のレーティングゲームに参加することが許されたのだ。まったく無名のドラゴンであること、大一が完全に人格をコントロールしている(と思われている)こと、そしてなによりもシトリー側が彼の参加を強く希望したことが幸いであった。試合後にまた検査することを条件に、お偉方からのお許しが出たというわけだ。
そんな彼が仲間と共に魔法陣でジャンプした対戦場所は、デパートにあるようなレストランであった。そんな中、今回の審判を務めるグレイフィアの声が響く。
『皆さま、この度はグレモリー家、シトリー家の「レーティングゲーム」の審判役を担うこととなりました、ルシファー眷属「女王」のグレイフィアでございます。
我が主、サーゼクス・ルシファーの名のもと、ご両家の戦いを見守らせていただきます。どうぞ、よろしくお願い致します。さっそくですが、今回のバトルフィールドはリアス様とソーナ様の通われる学舎「駒王学園」の近隣に存在するデパートをゲームのフィールドとして異空間にご用意致しました』
今回のフィールドは駒王学園の近くにあるデパートであった。リアス側の本陣は2階の東側、ソーナ側の本陣は1階の西側であり、フィールドを破壊しないことという制約が設けられていた。そのため広範囲に破壊力のある攻撃が主体の一誠や朱乃、ゼノヴィアには少々厳しいものとなっていた。さらにギャスパーの神器の使用もまだ暴走の危険性を考えられていたため、使用は禁止。リアス側には縛りの多い試合となっていた。そして今回は「フェニックスの涙」もひとつ互いに支給されている。これが勝負の鍵を握るといっても過言じゃないだろう。
ルールの説明が終わるとリアスと朱乃を中心に序盤の動きを確認、気が付けばゲームスタートまで残り15分となっていた。
一誠達はそれぞれ残りの時間を過ごす。大一も落ち着かない気持ちでウロウロと歩いていたが、それ以上に戦いと聞いて中のドラゴンが黙っていないことの方がより落ち着かなかった。
(とにかく全部潰せば…と言いたいが、お前の力じゃムリだな)
(それ以前に、今回はルールがあるんだ。戦いじゃなくて試合なんだよ。まったくその血の気の多さ、どうにかならないか?)
(もっと強さに貪欲になるべきだろうよ。強さこそが存在の証明だからな)
(お前だったら、この前の小猫の姉と仲良くなれそうだよ。まったく…)
(ハッ!)
大きく声を響かせたディオーグに、大一はため息をつく。こんなやり取りを残りの長い悪魔人生で何度繰り返すことになるのだろうか。
大一のそんな様子を見て、朱乃がクスクスと笑いながら声をかける。
「中のドラゴンと折り合いがつかないのかしら?」
「正解。前よりも過ごしやすくなったのかどうか、わかったものじゃないな」
「あらあら、戦いの前にそんな様子じゃ不安だわ。それともいつもの強がり?」
「大丈夫…なんて言うつもりは無いが、まったく根拠がないわけじゃないんだ。自信はいつもよりあるな」
大一は自分の片手を見ながら答える。その言葉に嘘はなかった。ディオーグと融合したおかげで出来ることが増えた。魔力、生命力の感知、魔力の放出、以前よりも強固になった守り…実際、強く放っていた。
しかしそれ以上に以前のまとわりつくような苦しい責任感から解放され、自分自身を見つめ直せたことがもっとも大きな要因であった。己の在り方に強い理由を持った彼は、これまでの悪魔人生で一番自信を実感していた。
そんな彼の手に、朱乃がゆっくりと手を重ねる。その瞳には不安が映っていた。
「羨ましいわ。私は…覚悟を決めたつもりでもやっぱり怖い…」
「朱乃さん…」
「もちろん勝利のために、全力は出すわ。それでもこの力を使って、私自身が堕天使に染まる感覚は…あっ」
朱乃は言いかけた言葉を切る。大一が彼女の手の上にさらに手を重ねて、優しく握ったからだ。
「強い手だよ。俺と一緒に、そして俺よりもリアスさんを支えてきた、綺麗で、とても強い手だ。
そんな朱乃さんなら、どんな力にも負けないと思うよ。それでも怖かったら、俺がいる。朱乃さんがリアスさんや俺を支えてくれたように、俺があなたを支える」
大一は顔を赤らめながら、彼女に優しく、強く伝える。彼女の想いを自覚していくほどに気恥ずかしくなってくる。どんどん体が熱くなっていくのに、彼女に触れていたい、力になりたいという想いが膨れ上がっていた。
朱乃の方も、そんな大一の姿に不思議な感情を抱いた。いやその感情の正体にはわかっていたし、だからこそ彼にアピールをしてきたのだが、いざ自覚し始めると喜びと緊張に心が締め付けられるような感覚であった。
「…らしくないわ。大一の言葉に、こんなに喜んじゃうなんて前は思わなかった」
「正直、自分でもよくこんな歯の浮くような言葉が出てくるなと思うよ」
「あら、じゃあ本気じゃなかったの?」
「ま、まさか!俺は朱乃さんのことを…あー…大切な仲間だと思っているから…!」
本心を言い切れずに普遍的な言葉で濁す大一に、朱乃は少し残念そうに、同時にいたずらっぽく何かを思いついた笑みを浮かべた。
「期待したのに…意気地なし。だから代わりに」
手を離した朱乃は、腕を大きく開いて大一の前に立つ。恥ずかしさと期待の混じったその表情は、魅力的かつ妖艶にも感じられた彼女の美しさを引き立てるものであった。
「…抱きしめて」
「そ、そういうのは…まだ…えっと…」
「支えてもらいたいの。勇気を…ちょうだい」
切なく、甘えるような彼女の声に、大一の感情は溶かされる。彼は一歩進んで、自分から彼女の腰に手を回した。自分と対照的な柔らかい体、鼻をくすぐる誘惑的な香り、見慣れているはずの長い黒髪、すべてが魅力的に感じた。
胸が高鳴り苦しいのに、もっと近づきたくなる不思議な感覚であった。
「…そういうのもっと人目のつかないところでやってください」
突然の小猫の言葉に、2人は雷に打たれたかのように驚く。気まずそうな表情の2人を、小猫は呆れたように目を細めて見ていた。
「うおっ!小猫、いつからいたんだ!?」
「手のくだりからです」
「あ、あらあら、ちょっと恥ずかしいところ見られちゃいましたわね」
「…本気でそう思っているなら、まず離れるべきじゃないですか」
表情を変えない小猫の指摘で初めて気づいたかのように、大一も朱乃も両手を上げて離れる。気まずさと名残惜しさが傍から見てもわかるほど、顕著に感じられた。
「えっと…じゃあ、大一!お互い頑張りましょう!」
「えっ!?ああ、うん!そうだな!」
あまりの気まずさから朱乃はパタパタとリアスの元へと逃げるように走っていった。残された大一は、小猫に見られながら居心地の悪く、羞恥心にまみれていた。
「いよいよイッセー先輩に文句言えなくなってきましたね」
「不本意だが…そうだな」
「先輩は女の子に興味ないのかと思っていました」
「そんなひねくれた性格してないよ。今まで余裕が無かっただけだし…」
「…ふーん」
小猫から向けられる視線に、大一は目を背ける。彼女の眼は冷ややか…というよりも、疑いとどこか期待を抱いているような奇妙なものであった。
「先輩は朱乃さんのためなら、頑張れるんですね?」
「…仲間のためってことにしてくれないか?」
「…でしたら、私の手も握って欲しいです。私のことも支えて欲しい…」
小猫は大一から顔を逸らすと、ぶっきらぼうにグイっと手を向ける。彼はちょっと意外そうな表情を見せるが、間もなく手を伸ばして握り返した。比べるとかなり小さい手なのに、そこには芯の通った強さが感じられた。
「この前の一件でお前にシンパシーは感じちゃったな。強くなれたと思うか?」
「あります。でもそれ以上に、迷いを断ち切れたのが大きいです」
「その言葉だけで安心したよ」
小猫が握った手に優しく力を入れると、大一もそれに沿うように握り返す。このやり取りだけで、互いの強さを実感できるような気がした。
時間が近づいてくるのを確認した大一は、小猫と手を離し励ますように肩を叩くと皆の元へ向かう。
「よし、行くか」
「わかりました。あ、あの…前に話したおごってくれる約束もお願いしますね」
「一誠がドレスブレイクした時のあれか…。そうだな、冥界から戻ったら一緒に行こう」
「…ありがとうございます。お、お兄ちゃん…」
「ん?」
「…なんでもありません」
次回はシトリー戦になります。オリ主ひとり入った程度で大きく変わる気はしませんが…。