フリードは素早く銃口を向けた。彼が無音で撃ち出した光の弾丸は大一を目掛けて数発飛んでいく。胸と頭、さらには避けても当たるように左右にも2、3発素早く撃ち込む。
「まずはこれを避けられますかってところ」
「避ける必要はないな」
大一は手に持っていた大きな武器を横に一振りする。何の変哲もない振り方であったが彼に向かってくる光の弾はあっさり防がれた。
その様子にフリードが目を細める。苛立ちを感じつつも、大一の持つ武器に注意を払っていた。
「反射神経が良いござんすねぇ…。槍か?斧か?」
「錨だ」
彼が右手に持っていたのは、長く重そうな錨であった。柄の部分は槍よりも太く、開いた傘のような形はまさに錨の形であった。黒く鈍い輝きがありつつも、小さな赤い宝玉が先端と柄の接続部分に埋め込まれていた。
「なるほど…あんたも神器持ちってことか」
「これを見てちょっとは大人しくなったか?できればそのまま静かにいて欲しいものだが」
「悪魔相手にそんなことするわけねえだろうが!脳みそ間抜けのクズ悪魔さんよぉ!」
フリードは叫びながら、一気に距離を詰める。手に持っていた柄からは光が刀身を形作り、剣として成り立っていた。光の剣を大きく振り下ろされるが、大一は眉一つ動かさずに柄で防ぐ。
「くそったれがぁ!!」
フリードは押し込むように剣を振り回すが、大一は一歩も動かない。神器もまったく傷つく様子はなく、頑として崩せない印象を抱かせた。
『生命の錨(アンク・アンカー)』は大一が持つ神器だ。悪魔になるきっかけを作ったのは、まさにこの神器のせいだった。この神器があるだけで、大一の魔力のコントロールや感知が格段に引き上げられた。魔力を表面化させることができない彼はこれを利用することで、自分の魔力を引き上げ、それを肉体へと還元させている。いわば一種の肉体強化であった。しかも肉体強化した体は神器同様に強固なものとなり、その硬さは防御にも攻撃にも使えた。
大一は連続で振られてくる剣を器用に神器で防ぐと、フリードの腹に思いっきり蹴りを入れた。フリードは後ろに吹っ飛ばされて、そのまま床へと叩きつけられる。みぞおちに入ったのか、苦しそうにせき込んでいるが、銃を乱射して大一を近づかせないようにした。しかし撃ちだしてくる銃弾は錨で払いながらどんどん距離を詰めてくる。そして錨の先端を倒れ込んでいるフリードの首元へと向けた。
「言っておくが、俺は甘くないぞ。これ以上苦しみたくなければ、さっさと降参しな」
「クッソがぁ…!なんで当たらねえ…」
「こっちは、遠距離が苦手なだけあって伊達にその対策のために特訓しているわけじゃないんだ。そろそろ捕まって…」
「まさかここまでとは…なわけねえだろ!クソ野郎がぁ!」
いつの間にか剣の代わりに持っていた球体を大一に放り投げる。腕で薙ぎ払ったが触れた瞬間に強烈な光が彼を襲った。悪魔に害あるような攻撃的なものではなく、ただの目くらましであったが隙を作るには充分であった。たった一瞬のうちに白髪の神父はどこかへ消えてしまった。
「こんな手に引っかかるとは!油断した!」
自分の失態に苛立ちながら、強めの口調で地団太を踏む。小手先のやり方に引っかかったのが腑に落ちなかったのだろう。
しかし収穫はあった。妙な神父の存在は明らかにこの地に何かしらが起こっている証拠と言えるだろう。大一は事の顛末を報告するためにオカルト研究部へと戻っていった。実際は弟の兵士不満をずっと聞いて、報告がだいぶ遅れることになるのだが。
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しかしまさか連日、その相手と顔を合わせることになるとは思わなかった。転移した先の部屋には例のはぐれ悪魔祓い、血まみれの死体、先日悪魔になった弟、場違いな雰囲気の金髪の少女だ。その現状に大一は小さくため息をつくのであった。
数時間前、特に悪魔の仕事もなく各々が勝手に過ごしていた。リアスと朱乃は地図を見ながら話し込み、祐斗と小猫はトランプに興じている。一誠だけは例によって自転車をこいで依頼のあった家へと向かっていた。
大一は無言で後輩2人のトランプ勝負を見ていた。心ここにあらず、といった眠気眼でぼんやりとしていたため、どっちが勝っているのかも分かっていなかった。
そのぼんやりとした頭の中で彼が考えていたのは、弟への心配であった。はぐれ悪魔との戦いを見て、その残酷性に絶望するものかと思ったが、そこは意外にもあっさりとしていた。そんな彼をどこか羨ましくも思った。自身は初めてその惨状に直面化した時は、何度も吐いていたのに。
眠気と心配で働かない頭であったが、リアスの呼び声に意識が戻された。
「大一、ちょっと来て」
「…んあ、なんです?」
「昨日、あなたが出会ったはぐれ悪魔祓いだけど、見つけたのはどのあたりかしら?」
「あーっと…この辺ですね」
「この道だと特別何かある…ということはなさそうね」
「悪魔祓いの方も、はぐれ悪魔がいてラッキーと思った程度だったのかもしれませんわ」
「しかし悪魔の領域にたった一人の悪魔祓いだったから…」
「はぐれの可能性が高いってことね」
リアスが顎に手を当てながら答える。その表情から事の面倒さが垣間見られた。
悪魔のルールから外れた“はぐれ”がいるように、悪魔祓いにも同じ存在がいた。正式に神の祝福を受けて悪魔と戦う存在とへ別に、己の快楽のためだけに悪魔を殺す存在は“はぐれ悪魔祓い”と認定される。大方は追放した教会に始末されるが、生き残った者は堕天使の元へ逃げることがほとんどだ。
先日、出会ったフリードがはぐれ悪魔祓いだと確信した大一はそれを報告し、リアスはより警戒を強めていた。
「さて、どう来るか。ただ大一ひとりで圧倒できるほどの相手ならば…」
「一部の堕天使が勝手に動いているだけの可能性は高いですわ」
「…やっぱり俺、見廻りに行きますよ」
「その必要は無いわ。あなたにも来てもらわなきゃ。朱乃、準備を。祐斗、小猫、トランプは置いたままで良いから行くわよ」
リアスは急にきびきびと眷属に指示を出す。扉に向かおうとしていた大一がリアスの方を向くと、いつの間にか彼女の使い魔がその方に止まっていた。
「例の悪魔祓い、見つけたわよ」
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そして転移した今に至る。どうやら一誠が向かった依頼主をフリードが殺し、そこに鉢合わせしたらしい。リアスが使い魔で一誠を監視させていたおかげで見つけることができた。
「兵藤くん、助けに来たよ」
「あらあら。これは大変ですわね」
「…神父」
「またお前か」
いきなり現れたグレモリー眷属を見て、フリードは猟奇的な笑みを浮かべたまま剣を振りかぶる。
「まさかの悪魔の団体さん!しかも昨日のクソうぜえ奴まで一緒とはな!どっちにしろさっそく一撃かましてあげますよ!」
「悪いね。彼は僕らの仲間でさ!こんなところでやられてもらうわけにもいかないんだ!」
フリードの剣による一撃は、祐斗が同じように剣で受け止めた。刃がぶつかり合う金属音が部屋に響く。
「おーおー!悪魔のくせに仲間意識バリバリバリューですか?いいねぇ。熱いねぇ。萌えちゃ…おっと!」
「チッ、避けたか」
祐斗とフリードのつばぜり合いに割って入る様に、大一がフリードの頭を狙って蹴りを入れる。すぐに気づいたフリードは素早く下がる。ケタケタと笑いながら、口から蛇のように見せる舌がいかにも挑発的であった。
「またてめえか、クソ悪魔さん?邪魔しないでいただきたいね。今は俺と彼とのドキドキするフォーリンラブの時間ですよ。興奮する殺しのお時間なの」
「昨日、あっさりやられた割にはデカい口を叩けるな。その口もう一度黙らせてやってもいいんだぞ?」
「永遠に黙らせるわ」
威圧的な声とリアスが一歩前に出る。自身の眷属を家族のように大切に思う彼女にとっては、仲間を傷つけられることが何よりも許せないことであった。つまり現在、目の前にいるはぐれ悪魔祓いは彼女にとって怒りの対象であるわけだ。
リアスは手から魔力を球体にして撃ち出す。その強力な力はフリードの後ろの家具を一瞬にして消し飛ばした。威圧にしてもその破壊力は、目を見張るものであった。
「私は、私の下僕を傷つける輩を絶対に許さないことにしているの。特にあなたのような下品極まりない者に所有物を傷つけられることは本当に我慢できないわ」
リアスの怒りが沸々と湧き、その魔力にも影響している。部屋中に異様な雰囲気が充満していった。
だがそれは彼女だけによるものでは無かった。悪魔とは本質的に違う力の感覚、堕天使特有の魔力がこの場所へ近づいてくるのを大一と朱乃は感知した。
「堕天使…けっこうな数が近づいてくるな」
「部長、堕天使らしき者たちが複数近づいていますわ。このままでは、こちらが不利になります」
「…朱乃、イッセーを回収次第、本拠地へ帰還するわ。ジャンプの用意を」
リアスの指示に、朱乃はすぐに部室に戻るために再び魔法陣の起動の準備をする。その間、祐斗がフリードを抑え、大一と小猫は臨戦態勢で警戒していた。
そんな中、一誠は金髪の少女に視線を向けた。
「部長!あの子も一緒に!」
「無理よ。魔法陣を移動できるのは悪魔だけ。しかもこの魔法陣は私の眷属しかジャンプできないわ」
「そんな…アーシア!」
「イッセーさん。また、また会いましょう」
間もなく魔法陣が光りだし、彼らは拠点である部室へと戻る。傷を負いながらも自身の弱さに悔しがる一誠を見ながら、兄である大一も再び不安を抱える。弟が悪魔として生きていくことが出来るのか、ということだ。
オリジナル神器は「引き上げる」ことに着目してから、錨になりました。
読んでもらうと分かりますが、主人公の能力は別に凄いものではありません。