そんな区切りの話には、このキャラとの会話は必要だと思いました。
試合が終わってから、大一はすぐに一誠達のいる医療ルームとは別の病院へと案内された。場所はつい先日も検査した馴染みの病院。理由は当然、ディオーグと融合した体の検査であった。到着するなりすぐに検査が行われたため、リアス達がどのように過ごしていたかを大一は知る由も無かった。
「それで?」
検査が終わった後に個別の待合室で、炎駒が大一に問う。数日前に彼の真実を聞いて、すっ飛んできたようだ。炎駒の強めの語気に大一はバツの悪い表情で目線を逸らす。師の表情は呆れ、怒り、安堵とこれでもかというほど様々な感情が混ざり合っていた。
「『犠牲の黒影』の一件があったにもかかわらず、貴殿はまた無謀なことをした。無名とはいえドラゴンを自身の体に取り込み、あまつさえそれを隠し続けていた。私にも、姫にも、仲間にも」
「その…皆に心配をかけたくなくて…」
「だとしても、皆はあなたにちゃんと説明して欲しかったはずだ。そうでしょう」
炎駒の言葉は強く、同時に静かであった。その空気の重さ、炎駒のどこか幻滅した表情、言い返しようのない正論、それら全てが申し訳ない気持ちを引き立てる。自分の勝手な判断が彼にこのような言葉を引き出させてしまったのだ。
検査の結果、大一の体は驚くほど変わっていなかった。魔力が以前よりも上がっている程度でそれ以外の変化は無かった。見た目の変化はあったのだから、遅かれ早かれバレることにはなっていただろうが。
この結果は炎駒を少しだけ安心させることになったが、今回の大一の行動に苦言を呈さないわけにはいかなかった。
「心配するこちらの身になっていただきたい。貴殿だけで全て背負い込む必要は無いのだから。今回の件は反省してくだされ」
「…本当に申し訳ありませんでした」
大一は炎駒に対して深く頭を下げる。
「まあ、大一殿がすぐに変わることは期待していなかったですが」
嘆息しながら炎駒は呟く。表情は幾分か柔らかく、同時に悲しみの色が見られた。
「…炎駒さん?」
「大一殿、姫が弟殿を眷属にしたという報告をした際に私が話したことを覚えていますか?」
「悪魔をやめさせたいというものでしたよね」
「この際だからはっきり言わせてもらいますが、私は今でもその意見は変わっていません。あの時、姫や貴殿を全力で止めるべきでした。貴殿は人一倍責任感が強い。だから悪魔として生きながら、もがき苦しんでいた。それを私は目の当たりにしながら、何度も空しい言葉で自分を納得させていたのです。大一殿が選んだことなのだから、悪魔として生かすためなのだから…」
炎駒は自分を戒めるように言葉を繋ぐ。ぎらついた歯を食いしばり、これまでのことを大きく後悔していたその表情は鬼気迫るものであった。
「私は…私は貴殿をこれ以上苦しませたくない」
ようやく絞り出した言葉に、大一は神妙な表情になる。目の前の男はどんな思いで過ごしてきたのだろうか。師として鍛えていたため、大一が苦心していた時をリアス達以上に見てきたのだ。いまだにそれを引きずり、大一への申し訳ない気持ちを抱えているのだ。その苦しみは自分以上だろう、大一はそう思わざるをえなかった。
大一は大きく息を吐いて、炎駒の眼を見る。ここまで辛そうな師匠にはどうしても自分の本心を伝えなければと思ったのだ。
「生島正…炎駒さんにはこの名前を話していませんでしたね。俺に巻き込まれた友達の名前です」
「私は…私は知っていました。記憶を消して回る際に知ったのです」
実際は父親である生島純からその名前は聞いていたのだが、炎駒はとっさに嘘をつく。大一は一瞬だけ目を細めるが、すぐに納得したように首を縦に振り、そのまま話し続けた。
「忘れたことありませんよ。でも名前を口にすることが、前まではどうしても出来なかったんです。悪魔として、自分が崩れそうな気がして…」
「しかし今は口に出せる。貴殿が罪の意識を振り払ったとは思えませんが…」
「もちろんです。あいつのことは一生背負って生きていくつもりですよ。だからこそなんでしょうね。悪魔になったことを後悔するときもあります。
お恥ずかしい話ですが、特に弟が赤龍帝の力を持つと知ってから、あいつに何度も嫉妬し、その度にそんな感情を抱く自分や、己の無力さを責めましたよ。
例の神器の一件があっても…ダメですね。それを知るほどにもっと強くなりたいと思いました」
「だからドラゴンを取り込んだと?」
「まあ、あれは脅されたのが大きいですが。でもその気持ちもまったく無かったわけじゃないです」
「だったら、あなたは大バカだ。自分を認めたと言いながら、それを実行に移せていない」
「そうだと思いますよ。でも自分を認められないわけじゃないです。だからといって自分のままで強くなる…それだけでも足りない。悪魔という立場である以上、どうやっても強くならなければいけませんから」
腑に落ちない炎駒に対して、大一は淡々としていた。言葉の内容や覚悟はかつての大一と何も変わっていないように、炎駒は思った。にもかかわらず、それは以前よりも強固でありながら、縛り付けるようなものではなく、希望に満ち溢れたものに感じた。
大一は炎駒を安心させるように言葉を続ける。
「俺はもっと強くなります。強くなって死んだ友や今の仲間達に胸を張れるように」
「そこまで…そこまで背負う必要が…」
「そこなんですよ。責任として背負うことじゃないんです。俺は強くなりたい、それは俺の願いであり、それを支えてくれる炎駒さんには感謝しかないんですよ」
「その言葉を私に信じろと…さんざん強がってきた貴殿を知る私に…」
「ええ、そうです。ある意味、あの神器が話していたことは間違っていなかったですね。俺って自分本位なんですよ」
最後の言葉で炎駒は理解した。大一はたしかに変わっていた。自分の弱さを恨むのではなく、強みも理解したうえで、さらなる高みを自発的に目指す。その姿を目の当たりにした炎駒は複雑であった。ただの転生悪魔である大一にそのような考えを持たせることになったことに苦い思いを感じつつ、未熟ながらも、間違いなく成長している弟子の姿に安心するという矛盾した感情であった。
「…どれほど強くなるつもりで?」
「一誠を追い越し、あいつの前にいつも壁としていられるようなところまで」
「赤龍帝である弟殿はこれから優遇されるでしょう。それほど二天龍というのは特別な存在なのです。それに他にも期待されるような者達は多い。いくらグレモリー眷属でもあなただけが特別扱いされることは決して多くありません。」
「それは3勢力の会談の時に目の当たりにしましたよ。まるであいつが特殊な存在の代表として扱われているような気がしました。同時に思ったんです。多くの人があいつを赤龍帝としか見ていない。だったら、身内の俺くらいは弟の一誠として認めてもいいでしょうよ。あいつがどれだけ力を得ようとも関係ない。俺は兄として弟より強くなるだけです」
「どうやら私がこれ以上言葉にするのは野暮ですな」
炎駒は再びため息をつく。浅く、少し呆れが混ざったものであったが、大一に向ける視線はずっと穏やかなものであった。
「しかし大一殿、今回の件は褒められたことではないのは心に留めるべきです。あなたがどれだけ情けない姿をさらしたくないとはいえ、他の仲間達はあなたに頼って欲しいのですから」
「それについては申し訳ありません…」
「それで例のドラゴンは?」
「先ほどの試合が終わるなり、眠ってしまいました。どうも退屈だったようで」
(起きてるがな)
(うおっ!いつの間に…!)
(くそつまんねえ勝負から、面白い動物がお前と合流して戦うのかと期待したら、またつまんねえ話の連続だ。黙り込むわ)
ディオーグの言葉に、大きな反応はせずに大一は炎駒に話す。
「話している時から起きていたみたいです。すいません、気づかなくて」
「いや貴殿が謝ることではない。では…」
炎駒は軽く咳払いをすると、鋭い視線で大一を…いや彼の奥を見透かすかのように睨みつける。声もいつも以上に厳かで、敬語でなかった。
「ディオーグ、貴殿が何者かは知らん。しかし私の弟子を危険な目にあわせて見ろ。あらゆる手段を用いて、そこから追い出して叩きのめす」
(上等だ…小僧、変われ)
(え―…わかったよ…)
大一は錨を出すと、ディオーグの人格を表に出す。あまり気持ちのいいものではなく、悪夢と同じように何度やっても慣れないような気がした。
「言ってくれるな、珍獣が。せいぜいこの小僧が死なない程度に鍛え上げるこった!」
すぐにディオーグの人格は引っ込むが、残された空気は気まずかった。大一は再び炎駒に大きく頭を下げ、申し訳なさそうに謝罪する。
「…本当にごめんなさい」
「気になさるな。まあ、あまり気持ちのいいものではありませんが…。ああ、そうだ。大一殿、もうひとつどうしても伝えなければならないことがありました」
「なんでしょうか?」
「先ほどの戦い、お疲れさまでした。反省点はあるにせよ、お見事でしたぞ」
炎駒の言葉は、大一にとって心に熱いものをこみ上げさせてくれる喜びの言葉以外の何物でも無かった。
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夏休みも終わりが近い8月後半、帰りの列車の中で一誠はげんなりとしながらも宿題に取り組んでいた。グレモリー家のレッスンにドラゴンとの修行となかなか宿題を取り組む時間がなかった彼にとって、夏休み最後の伏兵がここにきて襲ってきたのである。
一方で、彼の後ろの方の席では奇妙な光景が広がっていた。
「にゃーん☆」
「うぐ…やめてくれ…キムチは…苦手なんだ…」
猫耳を出した小猫が大一に体を寄せて甘えていながら、当の本人は奇妙な寝言を言いながらぐっすりと眠り込んでいた。
人目もはばからずに甘える小猫と、列車に乗っている間起きることなく眠り込む大一という初めて見る両者の雰囲気に、全員が気になって覗き込んでいた。ようやく2人とも吹っ切ったように安心を得られたと思った一誠は、その光景に驚きつつも再び宿題へと取り掛かる。リアスは面白そうに写メを取り、朱乃は不満が混在する笑顔という矛盾の表情を取っていた。
各々が新たに乗り越えるもの、新しく目標を決めること、成長を踏まえながら、2学期が始まろうとしていた。
体調崩して、ダウンしたりと思う通りに書けなかった時もありましたが、これにて5巻分は終了です。
次回から6巻分の始まりです。