D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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個人的にゼファードルの脱落はショックでした。ああいうチンピラキャラは嫌いじゃなかったので…。


第53話 唐突の来訪者

 ある日の部活の時間、集まったグレモリー眷属にアザゼルが見せたものは他の若手悪魔たちのレーティングゲームであった。他者の試合を見て学び、次に備える、当然のことではあるが、それをすぐに手配するアザゼルの本気がうかがえた。

 最初に映し出されたのは、若手悪魔ナンバー1であるサイラオーグと凶児ゼファードルの試合であった。その内容はあまりにも圧巻であった。互いに駒が死力を尽くして対決する中、王であるこの2人の一騎討ちとなるとサイラオーグの圧倒的な強さが光った。ゼファードルが撃ち出してくる魔力を体ひとつで薙ぎ払い、重く鋭い拳の一撃は相手の幾重にも張られた防御魔法陣を粉砕する。空気をも震わせるその破壊力のインパクトは映像でありながらも伝わるものであった。

 今回のメンバーにおいて、急遽の代理指名された身でありながらゼファードルの実力は決して低くない。特にパワーに関しては、リアス達もしのぐほどであったが、それほどの相手をサイラオーグは格闘だけで打ち倒したのだ。若手悪魔ナンバー1といわれているが、その実態は6人の中でも突出した実力を持つ。むしろその肩書の方が不足に見えるほどのものであった。

 

「やっぱ、天才なんスかね、このサイラオーグさんも」

「いや、サイラオーグはバアル家始まって以来の才能が無かった純血悪魔だ。バアル家に伝わる特色のひとつ、滅びの力を得られなかった。滅びの力を強く手に入れたのは従兄弟のグレモリー兄妹だったのさ」

 

 一誠の疑問に首を振ってアザゼルは答える。彼の言う通りサイラオーグにはバアル家特有の滅びの力を持っていない。一方でバアル家出身であるヴェネラナの血筋から、サーゼクスやリアスにはその力がハッキリと現れていた。だがサイラオーグは腐らずに、己の肉体を鍛え続け今の実力を手に入れた。嘲笑や期待されない状況に耐えてきた男の人生は、自分の想像をはるかに超えるものだろうと大一は思った。

 考えるだけで胸が熱くなるような想いを抱く中、ディオーグが呆れ交じりに声を発する。

 

(つまらねえ)

(お前のような奴にはわからないだろうな)

(わかりたくもねえよ。俺から言わせてもらえば、努力だ、才能だという方がくだらん。どんなに強くなっても、その時にすべてを発揮できるとは限らないし、不測の事態が起こることだってある。そんな概念のひとつ、ふたつが全てじゃねえんだよ。すべてをひっくるめての戦いなんだ)

(でもそれが勝負をわけることってあるんじゃないか?)

(じゃあ、さっき吹っ飛ばされた悪魔が、あの筋肉野郎と同じくらい鍛えていたら勝てたと断定できるか?お前らと戦った眼鏡の女達がそれに迫るほどの魔力や能力があれば、お前らは間違いなく負けていたか?そんなことは俺にもわからねえ。結局、強さにおいて他人の評価なんて当てにならない)

 

 ディオーグは吐き捨てるように言うと、低く唸りながらまた黙り込む。大一は喧嘩と名を上げたいだけの質の悪いチンピラみたいな言動しか見てこなかったため、ディオーグが強さや勝負ごとについて本人なりに考えや信念を持っていることには驚いた。もちろんこれに同意するかは別であったが、大一が初めてディオーグの考え方に感心を抱いた瞬間でもあった。

 そんな彼を現実に引き戻す言葉をアザゼルが発する。

 

「先に言っておくがおまえら、ディオドラと戦ったら、その次はサイラオーグだぞ」

 

 この衝撃の一言に、当然部室にいる全員が衝撃を受けた。なんでもゼファードルは今回の戦いで完全に心が折れてしまい、今後の試合に出られそうにないため繰り上げでリアス達がサイラオーグと戦うことが早まったようだ。

 とはいえ、それだけに気を取られるわけにもいかない。彼らが次に相手をするのはディオドラ・アスタロトなのだから。彼らも格上であるアガレス家を見事に打ち倒したらしい。おかげで若手悪魔の中で、リアス達を追い詰めたソーナ以上の評価を受けていた。

 いったいどんな内容の試合だったのか、皆が興味を示す中、映像を再生する前に部屋の片隅で転移用魔法陣が現れた。その紋様は見慣れていなかったが、悪魔の中では有名なアスタロト家のものであった。一瞬、強烈な閃光が放たれると、そこには笑顔を浮かべたひとりの男性…ディオドラ・アスタロトが立っていた。

 

「ごきげんよう、ディオドラ・アスタロトです。アーシアに会いにきました」

 

────────────────────────────────────────────

 

 テーブルをひとつ挟んでリアスとディオドラが向かい合って座る。アザゼルも事の次第を見守るように座っていた。

 状況としてはライザーの時と似ていたが、張り詰める空気はどことなく違うような気がした。相手がライザーとはまるで違うタイプで、あの時のような強引さを感じなかったからだろうか。

 

「リアスさん。単刀直入に言います。『僧侶』のトレードをお願いしたいのです。僕が望むリアスさんの眷属は───『僧侶』アーシア・アルジェント」

 

 ディオドラの狙いは眷属のトレードであった。「王」同士が合意すれば、自分の眷属を交換することは可能であったが、冥界から戻ってきた時のあいさつや連日の手紙やプレゼントの数々を考えれば、ディオドラの狙いがただの戦力増強が目的でないのは明らかであった。彼がトレードを持ちかけた瞬間、この展開を予想できなかった者がこの場にどれほどいるだろうか。

 ディオドラはカタログらしきものを取り出してパラパラとページをめくるが、リアスはそれを制止する。

 

「だと思ったわ。けれど、ゴメンなさい。その下僕カタログみたいなものを見る前に言っておいた方が良いと思ったから先に言うわ。私はトレードをする気は無いの。それはあなたの『僧侶』と釣り合わないとかそういうことではなくて、単純にアーシアを手放したくないから。───私の大事な眷属悪魔だもの」

 

 真正面から言い放つリアスはいつにも増して上級悪魔としての風格があるように、大一は思えた。情愛の深さは元より、己の直感と自信で眷属を選ぶ彼女がトレードに応じないのは火を見るよりも明らかだ。

 そんな彼女に、ディオドラは表情を変えずに淡々と聞いてくる。

 

「それは能力?それとも彼女自身が魅力だから?」

「両方よ。私は彼女を妹のように思っているわ」

「───部長さんっ!」

 

 リアスの言葉にアーシアは感動して、瞳を潤ませる。

 

「一緒に生活している仲だもの。情が深くなって、手放したくないって理由はダメなのかしら?私は十分だと思うのだけれど。それに求婚した女性をトレードで手に入れようとするというのもどうなのかしらね。そういうふうに私を介してアーシアを手に入れようとするのは解せないわ。ディオドラ、あなたは求婚の意味を理解しているのかしら?」

 

 リアスがかなり配慮した言い方なのは、長年付き合っていた大一もわかっていた。それでも言いすぎだと彼は思ってしまった。悪魔に倫理はあってないようなもの、どのような方法であろうがこれがディオドラのやり方ならば、そこをえぐるような言い方は上級悪魔でもあまり上手い言い方とは言えない。まだ相手が同格の若手であることなのが救いだろうか。

 とはいえ、リアスが怒るのも納得はできた。元より悪魔にしてはロマンチストな面がある彼女だ。トレードで想い人を得よう等という行為は言語道断なのだろう。それが恋のライバルであっても、自分の大切な妹分ともなれば納得だ。それに彼を諦めさせるには、ここでハッキリと釘をさす必要があるのも理解できる。

 どっちつかずの気持ちで大一は事の次第を見守っていると、ディオドラは立ち上がる。

 

「わかりました。今日はこれで帰ります。けれど、僕は諦めません」

 

 そう言うと、彼はアーシアの元に歩き跪いて手を取ろうとする。

 

「アーシア。僕はキミを愛しているよ。だいじょうぶ、運命は僕たちを裏切らない。この世のすべてが僕たちの間を否定しても僕はそれを乗り越えてみせるよ」

 

 その芝居がかったようなセリフに、大一は当惑を隠せなかった。どうも相手は相手で思い込みが激しいような気がした。

 そして彼の言動に大一以上に苛烈な感情を抱いた一誠は、彼がアーシアの手に口づけをしようとしたところを肩を掴んで制止した。腕に力が入っているのが傍から見てもわかった。

 

「放してくれないか?薄汚いドラゴンくんに触れられるのはちょっとね」

 

 笑顔を崩さずに言うディオドラの言葉に、一誠の表情はまた険しくなる。このままではライザーの時の二の舞になりかねないと思った大一であったが、バチッと何かを叩いたような音がその場の全員の動きを止めさせた。アーシアがディオドラの頬を平手ではたいたのだ。

 

「そんなことを言わないでください!」

 

 静かに怒りを見せるアーシアの表情に対して、ディオドラはビンタを受けて頬が赤なっているのにもかかわらず、変わらない笑顔を向けている。

 

「なるほど。わかったよ。───では、こうしようかな。次のゲーム、僕は赤龍帝の兵藤一誠を倒そう。そうしたら、アーシアは僕の愛に応えて欲し───」

「おまえに負けるわけねェだろッ」

 

 ディオドラの宣言に一誠は正面から言い放つ。互いに強く睨み合う2人に携帯電話に連絡が来たアザゼルは内容を確認すると、全員にそれを説明する。

 

「リアス、ディオドラ、ちょうどいい。ゲームの日取りが決まったぞ。───5日後だ」

 

────────────────────────────────────────────

 

(残り香?)

 

 ディオドラの来訪した日の深夜、悪魔の仕事(といっても彼はこの日は何もなかったのだが)を終えて帰ってきた大一は、自室でディオーグと話し込んでいた。しかも珍しくディオーグの方から興味深くなるような話題を振ってきたのだ。

 

(そうだ。この前のガキ悪魔に妙な匂いが残っていた。俺が出会ったドラゴンのもので間違いない)

(ディオドラ・アスタロトにドラゴンの匂いが残っていた…妙だな)

 

 大一はベッドに腰掛けながら困ったように頭を掻く。一誠に見せたディオドラの反応を考えれば、あまりドラゴンについて好意的な感情を持ち合わせていないだろう。にもかかわらず、ドラゴンの匂いが残っているということは何らかの形で接触したことが想像される。

 

(アスタロト家がドラゴンと関わりあるってのは聞いたことが無いんだよな。いちおう聞いておくけど、それってドライグやタンニーンじゃないんだよな?)

(あの匂いが誰のものかは覚えているんだ。俺があの場所に封印する前にやりあったドラゴンの匂いだからな。ただ相当薄いから、昔に出会ったのか、それとも匂いのついた誰かに接触したことがあるかがわからん)

(そんな因縁あるドラゴンなのに名前を憶えていないのかよ?)

(覚えてないんじゃなくて知らないんだよ。出会ってすぐにやりあったからな。決着はつかなかったが)

 

 ディオーグの話をどこまで信じていいかは、大一としても懐疑的であった。彼が他のドラゴンについて知識がないことは知っている。それなのに今さらドラゴンの話、しかも名前すら知らない存在というのは疑いしかなかった。

 同時に、ディオーグの探知能力は間違いないものである信頼もあった。本来の自分の身体でないにもかかわらず黒歌の結界を見破り、繋がりを持たせるために強力なドラゴンである二天龍を目印にすることが出来るのだ。もっと言えば、ここで嘘をつくことがディオーグにとってはメリットも無い。これまでの実績と性格を考えれば、ディオーグの言葉は本当だろう。

 無意識に立ち上がって、部屋の中をうろうろ回る。完全な答えの出ないもどかしさが行動に現れていた。ディオドラとの試合まで5日しかない。そんな中でこの話を聞けば、冷静でもいられなくなるだろう。とはいえ、いたずらに話して混乱させるような事態も避けたかった。

 大一が悩んでいると、彼の部屋にノックして小猫が顔をのぞかせた。

 

「先輩、暇ですか?」

「…まあ、暇だがどうした?」

「…ちょっと見て欲しくて、こういうの着てみました」

 

 部屋に入ってくる小猫は巫女のような服であった。ただ胸元や太ももの露出が激しく、なにかのコスプレ衣装であるのはすぐにわかった。

 猫耳を出したその姿は可愛らしかったが、それ以上にことの経緯について大一は懐疑的な気持ちであった。

 

「似合っていますか?」

「可愛らしいと思うが…珍しいことやっているな。お前がそういうことするとは思わなかったよ」

「朱乃さんが、イッセー先輩から借りた本を参考にしたと言っていました」

「発端はあの人か。まったく何を…うん?待てよ。朱乃さんもコスプレか?」

「アーシア先輩やゼノヴィア先輩もあわせてやっています。おそらく今はイッセー先輩の部屋で部長と───」

 

 小猫の聞き終える前に、彼はグイグイと一誠の部屋があるひとつ下の階へと向かっていった。なぜか気持ちはざわめいており、それを感じ取ったのかディオーグも話しかけてこなかった。

 一誠の部屋に入ってみると、部屋の主である一誠がだらしない表情をしているのと、小猫と同じようにコスプレをしていたリアス、朱乃、アーシア、ゼノヴィアの姿が確認できた。特にリアスと朱乃は部屋の真ん中で睨み合って…いやリアスの方が一方的に睨んでいた。

 

「今度はなんだ…」

「大一、朱乃がまたイッセーを誘惑していたのよ!」

「駄々っ子みたいに言わないでください。その言葉だけでだいたい分かりましたから。それで朱乃さんは?」

「ちょっとリアスをからかっただけですわ」

 

 あまり悪びれる様子もなく、朱乃は肩をすくめる。ただし大一とはあまり目を合わせようとはしなかった。

 

「…おい、一誠。ちょっと話をつけるから、俺の部屋で待ってろ。小猫もいると思うから」

「ええええ!でも、兄貴!この状況でそれをされるのは生殺しだぜ!」

「あとでいくらでも頼めばいいだろ。悪いが、アーシアとゼノヴィアもちょっと席を外してくれ」

「わ、わかりました…」

「なんかよくわからないが、あまり揉めないでくれよ。あのディオドラとの試合まで5日しかないんだから」

「その服装で言われても説得力ないけど…そこら辺は先輩である俺らを信用してくれ」

 

 一誠達が部屋から去ったのを確認してから、大一は事のいきさつを2人から確認した。一誠とリアスが帰ってきてから、コスプレした朱乃がそれを出迎えて一誠を誘惑したというものであった。

 すべてを聞いてから大一は困った様子で朱乃の方を見る。

 

「リアスさんをからかうためとはいえ、やりすぎじゃないか?」

「朱乃、私はあなたのことは信頼しているけど最近ちょっとおかしいわよ。そのコスプレだってイッセーから借りた本とかを参考にしたらしいじゃない。やっぱりあなたも…」

「それは違うわ。だって私は…」

 

 朱乃は何かを訴えようとするがすぐに口をつぐむ。いつも大人びた彼女であったが、頬を膨らませるその様子は年相応な雰囲気が見られた。実際、彼女のやり口はわからないからこその手探りではあった。想い人がなかなか振り向いてくれない上に、先日は後輩と出かけたということも耳に入っていた。だから扇情的な格好をして、さらには嫉妬心を煽るように彼の弟を誘惑するような行動を取っていた。

 そんな彼女を見た大一は感情を隠すような無表情であったが、それでもどこか不安のようなものがにじみ出ていた。彼女の気持ちが一誠へと向いているのが不安であった。もし本当にそうならば自分が口を出すのはお門違いであったが、3勢力の会談前の嫉妬とは似て非なる羨ましさが弟に沸き上がっていた。

 そしてそんな2人を見るリアスは嘆息しながら手を鳴らすと、全てを納得したように話し始めた。

 

「今のあなた達の微妙な関係はわかった。だから今回の件は無かったことにしてあげる。でもどこかで2人で話し合いなさい。これは主としての命令であって、親友としての頼みでもあるわ。特に大一、あなたも朱乃のことをわかっているのならそれ相応の態度を取りなさいよ」

 

 リアスは疲れたように話す。自分の信頼する両翼がこんな状態では今後も思いやられるのと同時に、自分と違って互いに好意を向けているのだから早く決めればいいのにという想いがあった。

 この日は彼女の手腕でひとまず丸く収まったのであった。

 




誰が悪いかといえば、どっちつかずの態度を取るオリ主だと思います。
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