神殿を進んでいくと、広い空間に出る。大きな広間がずっと続いているようで、建物を支える巨大な柱以外に目立ったものは無かった。ここを出ると、さらにまた神殿が現れて、また抜けると神殿が現れるの繰り返しであったが、とある神殿に入った際に前方から10人フードを被った人影が現れた。同時に、神殿内にディオドラの声が響く。
『やー、リアス・グレモリーとその眷属の皆。僕はこのずっと先の神殿でキミたちを待っている。遊ぼう。中止になったレーティングゲームの代わりだ』
笑いながらディオドラはルールを説明する。内容はいたってシンプルなもので互いのメンバー同士で戦うもので、1度戦ったらその後は出られないというもの。最初の相手は8人の「兵士」と2人の「戦車」だが、「兵士」の方は全員「女王」へとプロモーションをしているのだという。
舐めきった態度を取るディオドラに対して、リアスは啖呵を切ってこの提案を飲んだ。
「いいわ。あなたの戯れ事に付き合ってあげる。私の眷属がどれほどのものか、刻み込んであげるわ」
「相手の提案を呑んでいいんですか?」
「応じておいた方がいいわ。あちらは…アーシアを人質に取っているんですもの。
こちらはイッセー、小猫、ゼノヴィア、ギャスパーを出すわ。いま呼ばれたメンバー、ちょっと来てちょうだい」
リアスが出すメンバーを集めて作戦を伝える中で、大一は妙な気持ちの高鳴りを感じた。戦い前の緊張や惚れた相手に触れた時のものとは違い、もっと苛烈で荒々しい感覚であった。推測の域でしかないが、ディオーグの感情なのかもしれない。ただ彼の性格からすれば、ディオドラが提案した試合の内容にここまで高鳴るとは思えなかった。
『じゃあ、始めようか』
作戦の打ち合わせが終わったのを確認したディオドラの声と共に、相手の眷属が一斉に構えだす。
一誠は祐斗に魔剣で指を切ってもらい、その血をギャスパーに与えていた。赤龍帝の血を飲めばパワーアップするということは以前の会談でも使った方法であった。
だがそれよりも大一が気になったのは、一誠の表情であった。完全に勝利を確信した表情をしていた。だがこれに近い表情は何度か見ていた。ライザーとの試合前での山での特訓、先日のソーナとの試合…さらに相手を見れば眷属は全員が女性だ。これらをすり合わせれば、彼の確信の理由が理解でき、同時にこれからあらゆる意味で凄惨な光景が繰り広げられるのは想像に難くなかった。
ゼノヴィアの方はデュランダルを解放すると、アスカロンとあわせて相手の「戦車」へと歩みだす。
「アーシアを返してもらう。…友と呼べる者を私は持っていなかった。そんなものが無くても生きていけると思っていたからだ。神の愛さえあれば生きていける、と」
かなりの速度で距離を詰めていく相手に、ゼノヴィアの独白は止まらない。しかし彼女の鋭い眼光は間違いなく相手の動きを追っていた。
「そんな私にも分け隔て無く接してくれる者達ができた。特にアーシアはいつも私に微笑んでくれていた。この私と『友達』だと言ってくれたんだ。…私は最初に出会った時、アーシアに酷い事を言った。魔女だと。異端だと。でも、アーシアは何事もなかったように私に話しかけてくれた。それでも『友達』だと言ってくれたんだ!だから助ける!私の親友を!アーシアを!私は助けるんだ!」
彼女の力強い言葉に呼応するかのようにデュランダルの力が強まっていく。発する波動は相手を吹き飛ばし、その聖なる力には底知れないものがあった。
デュランダルを抑えて制御するのではなく、その破壊力と斬れ味を増大させてより強めることに特化させた彼女の選択。アスカロンも併せることでその聖なるオーラは幾重にも膨れ上がり、広場を大きく照らしていった。
「さあ、いこう!デュランダル!アスカロン!私の親友を助けるために!私の想いに応えてくれぇぇぇぇぇっ!」
振り下ろした二振りの剣の刃からは、強力な聖なる波動が大波のように相手を飲み込んでいく。神殿が大きく揺れるほどの威力は、防御自慢の「戦車」を完全に消滅させた。
ゼノヴィアの本気を見たディオーグはようやくこの戦いに気を向けた。だが声に覇気がなく、先ほどの昂った感情とは真逆の印象であった。
(心の力ってのはそんなに強いものかね)
(強いだろ。今のゼノヴィアの攻撃は彼女の実力だけじゃない。アーシアを助けたいって気持ちも大きかった。それに一誠や祐斗のような神器持ちなんかは特に思いの強さが影響する)
(それで強くなれるのか…ハア)
最後に軽くため息をつくと、ディオーグは再び黙り込んだ。落胆や嘆きでなく、純粋な呆れが感じられたなんとも奇妙な様子であった。もっともそこでぶれた様子を感じさせないのは、「犠牲の黒影」ですら跳ねのけたメンタルゆえだろうか。
戦いの方も、ゼノヴィアの攻撃により士気が上がった他の3人が動く。しかし予想通りともいうべき地獄絵図が始まろうとしていた。
まず一誠が「女王」に昇格すると、ソーナとの試合で見せた「乳語翻訳」で敵の動きを読む。それをギャスパーに伝え、次々と相手の動きを止めていくと、今度は動きの止まった相手に「洋服破壊」をする二重のセクハラコンボで相手を無力化していった。
「先生、俺、いつかおっぱいを支配できるんじゃないかって思えてきましたよ。さーて、残りのお姉さんたちをどうしてくれるかなー!」
「…早く倒しましょう、どスケベ先輩」
一誠の凶行に、小猫が顔面パンチでツッコミを入れる一方で、外野である祐斗が大一を羽交い絞めにしながら騒いでいた。
「祐斗、放せッ!あいつを止めるか、代わりに俺がこの勝負に参加して一気に終わらせる!」
「落ち着いてください!アーシアさんを助けるためですから、今は我慢して!」
「だったら、俺が腹を切ってお詫びを!」
「目的を見失わないでください!部長の指示ですから!しょうがないことですから!」
「リアス…やりすぎじゃないかしら?」
「正直、ちょっと後悔しているわ…」
あっという間に3人が敵を倒す一方で、外野は盛り上がっていた。
────────────────────────────────────────────
終わってみれば、難なく潜り抜けた一戦に意気揚々の一誠に対して、大一の方は目が据わっていた。歩きながらずっと頭の中で「アーシアのため」と言い聞かせている姿は、なんともいびつな印象を与える。
次の神殿に進むと待ち構えていたのは3人。ディオドラの「女王」と「僧侶」2人であった。魔力ならアーシアやギャスパーを凌駕する「僧侶」に、アガレス家の副官と一騎打ちして打ち勝つ「女王」と油断ならない相手なのは間違いない。そんな相手に対抗するのは…。
「あらあら、では、私が出ましょうか」
いつもの笑顔で朱乃が一歩前に出る。すでに魔力を全身にまとっており、戦闘準備は万全であった。そんな彼女の隣に、リアスも立つ。
「あとの『騎士』2人は祐斗と大一がいれば十分ね。私も出るわ」
「あら、部長。私だけでも十分ですわ」
「何を言っているの。いくら雷光を覚えたからって、無茶は禁物よ?ここでダメージをもらうよりは堅実にいって最小限の事で抑えるべきだわ」
リアスの指摘に朱乃は少し考えたような表情をするも、誰に言うでもなくポツリと呟く。
「まあ…怪我をして今度のデートに差し支えるのも問題ありますものね」
「そうよ、デートのためにも…ちょっと待って。えっ、誰と?」
「大一とですわ。この試合が終わった後に約束しましたの」
「「「「「「えっ!?」」」」」」
朱乃の言葉にリアスと勝負に参加しない眷属たちが一斉に声を上げる。唯一、声を出さなかった大一はなぜこのタイミングで言ったのかという言葉を飲み込み、額に手を当てた。
そんな周囲の様子を気にせずに、朱乃は言葉を続ける。ほんのりと頬を染めて語る彼女はいつもと違う色気があった。
「リアスにはお礼を言わなくちゃ。この前のことで話し合いなさいって言われたものですから。そのまま2人で───」
「ちょ、ちょっと待ちなさい。話し合えとは言ったけど、そこまでは…!せ、節度は守りなさいよ!」
「どうしてそこまでうろたえて…あー、そういうこと」
朱乃の視線が意地悪く光る。この状態だと彼女がリアスに取る対応が手に取るようにわかった。
「もしかして私や大一にいろいろと先を越されるのが不安ってことかしら?」
「べべべ別に私はそんな考えはないわよ!眷属の幸せを願うのは主として当然の役目よ!」
「あらあら、図星かしら。そんな見栄ばかり張っているからイッセーくんとも関係が進まないのでは?」
「そ、そんなことないわ!私なんてイッセーに胸を揉まれたし、キスもしたし、もう数か月一緒に住んでいるのよ!後輩に先を越されかけているあなたよりは遥かに関係は進んでいるわ!」
リアスの応酬の言葉に、朱乃の雰囲気が明らかに変わる。触れてはいけないスイッチを押してしまったようだ。
「気にしているところを言われるのは我慢なりませんわ。それに後輩に先を越されそうなのはあなたの方じゃない?イッセーくんが別の人を好きになることもあるでしょうしね」
「朱乃、あなたも冗談で言って良いことと悪いことがあるのは自覚する必要があるわね」
気づけばあっという間に2人の魔力が先ほどとは比べ物にならないほど強大なものになっていた。だがその睨み合う矛先は味方同士という、勝負ごとであるまじき光景であった。このいがみ合いは以前のプール開きを思い出させるものとなっていた。
さすがに目の前で行われるまったく関係ない喧嘩に相手の「女王」も苦言を呈する。
「あなた方!いい加減にしなさい!私達を無視して───」
「「うるさいっ!」」
一瞬であった。2人は見向きもせずに、滅びの魔力と雷光の意図しない強力な合わせ技で相手の3人をあっという間にダウンさせた。その破壊力は先ほどのゼノヴィアの攻撃に勝るとも劣らないほど目を見張るものであり、彼女らの本気の底知れなさが垣間見られる。焼け焦げて倒れる相手は無残なものであったが、それすらも今の彼女たちにはどうでもいいことであり、そのまま口喧嘩を続行していた。
「リアスよりも関係は深いわ!大一とは悪魔になってからずっと一緒にいたもの!抱きしめてもくれたもの!」
「意識したのはそれこそ最近じゃないの!それに時間だけが全てじゃないわ!私とイッセーの関係を全部知らないで適当なこと言わないで欲しいものね!」
自分の方が想い人に愛されているアピールをしながらヒートアップしていく2人を見る小猫とゼノヴィアの視線は冷静であった。そしてこの状況を止められそうなのが、ひとりいるのもわかっていた。
2人は大一の両脇に立ちながら、追い立てる。
「お互いに付き合ってもいないのによくあそこまで言えますね。…先輩の責任ですよ。止めてきてください」
「いやこれは見当違いだろうよ…!」
「どうだろうなぁ?私も小猫の意見に賛成かな。というか、あれを私達で止められる気がしない」
「火に油を注ぐことになりそうだけど…」
「お目付け役を任されているんですよ。先輩が止めなくて誰が止めるんですか。アーシア先輩のこともあるんですから、さっさと行ってきてください」
「まあ、こんなところで時間を食うわけにもいかないし…そうだな」
大一はリアスと朱乃に近づいていく。それだけでも下がりたくなるようなひりつくような空気であったが、時間が惜しい現状で四の五の言ってはいられない。
「あー…2人とも、とりあえず喧嘩は後にしません?」
「大一、あなたが朱乃にはっきりしない態度を取っているのも原因の一端であることを理解しているのかしら?」
「リアスの言う通りよ。私だって考えなしにやっているわけじゃないのに」
「なんで俺に言う時は意見を合わせるんだよ…。とにかくアーシアの救出があるから行きましょう。話はその後からでもいいでしょう?」
「…そうね。まずはアーシアの件が先決だわ」
「私にとっても妹のような存在ですもの。わかっていますわ」
幸い、大きく発展することなくやり取りは落ち着いた。大一が胸を撫でおろす一方で、一誠の方は膝をつきながら床を叩いて自分の胸の内を吐露していた。
「ぬあああ…やっぱり俺のお姉様が兄貴に取られるってのはイヤだぁ…!木場、この想いはどうしたらいいんだよ…!」
「とりあえず直接話したらややこしくなるから口を閉じるのが一番だと思うよ、イッセーくん」
兵藤兄弟の面倒くささに一番被害を受けていた祐斗の言葉は一誠の耳にしか入らなかった。
木場のストレスがマッハな状況ができました。