D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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感知能力のおかげで他よりも危険性に気づきやすくなるオリ主です。止められるかどうかはまだ別ですが。


第58話 赤龍の暴走

「神滅具で創りしもの、神滅具の攻撃で散る、か。霧使いめ、手を抜いたな。計画の再構築が必要だ」

 

 聞き覚えの無い声が耳に入る。声の主は宙に浮いており、ライトアーマーにマントも羽織っている。突如現れた正体不明の男性に、リアスが問う。

 

「…誰?」

「お初にお目にかかる、忌々しき魔王の妹よ。私の名前はシャルバ・ベルゼブブ。偉大なる真の魔王ベルゼブブの血を引く、先ほどの偽りの血族とは違う。ディオドラ・アスタロト、この私が力を貸したというのにこのザマとは。先日のアガレスとの試合でも無断でオーフィスの蛇を使い、計画を敵に予見させた。貴公はあまりに愚行が過ぎる」

 

 旧魔王派でこの事件の首謀者の登場にグレモリー眷属が警戒を強める一方で、ディオドラは震える声で懇願する。

 

「シャルバ!助けておくれ!キミと一緒なら、赤龍帝を殺せる!旧魔王派と現魔王が力を合わせれば───」

 

 声はそこで途切れた。シャルバの攻撃がディオドラの存在を一瞬で消し去ったからだ。彼にとってもうディオドラはどうでもいい存在であった。リアスに向ける目も憎悪に満ちており、現魔王への関係者への恨みつらみは計り知れないものであった。

 

「直接現魔王に決闘も申し込まずにその血族から殺すだなんて卑劣だわ!」

「それでいい。まずは現魔王の家族から殺す。絶望を与えなければ意味がない」

「───外道っ!何よりもアーシアを殺した罪!絶対に許さないわッ!」

 

 シャルバに匹敵するほどの怒りの形相でリアスは魔力を溜め始める。仲間たちも次々に戦闘態勢を取るが、大一は構えた瞬間に背筋が凍るような禍々しい魔力を感じた。目先にいるシャルバからではない。強力ながらも覚えのある…いやよく知っている魔力に近い性質、魔力の主は弟の一誠であった。

 

「…一誠?」

「アーシア?どこに行ったんだよ?ほら、帰るぞ?家に帰るんだ。父さんも母さんも待ってる。もう、誰もアーシアをいじめる奴はいないんだ。いたって、俺がぶん殴るさ!ほら、帰ろう。アーシア、体育祭で一緒に二人三脚するんだから…」

 

 意識がどこかに行ったかのように何度も呼びかける一誠をリアスが抱きしめる。他の仲間達もいつもらしくない彼に目を背けるような状態であった。だが大一は弟の目を背けたくなるような苦しさとは別に、どす黒い魔力と生命力の方が気になってしまった。

 

「なにが起ころうと…いや、とにかくこれはマズい!」

 

 大一は頭を振るうと、抱きしめられている一誠の目を見る。うつろで生気の無い目からは今にも涙が溢れそうであった。

 

「おい、一誠!俺を見ろ!俺の話を聞くんだ!」

「兄貴…!アーシアがッ…!どこにも…!」

「まずはここを離れよう!話の続きはそれからだ!」

「いないんだ…!どこにもいないんだよ…!」

「頼む、一誠!話を聞いてくれ!今のお前を放っておくことなど出来な───」

 

 言いかけたところで大一の身体が吹き飛ばされる。地面に叩きつけられた彼は、冷血に笑うシャルバの顔とその手のひらが大一に向けられていたことが目に入った。ダメージはほとんど無かったが、今の彼にとっては弟の様子の方に気が取られているだけでもあった。

 

「下劣なる転生悪魔と汚物同然のドラゴン。まったくもって、グレモリーの姫君は趣味が悪い。そこの赤い汚物。あの娘は次元の彼方に消えていった。すでにその身を消失しているだろう。───死んだ、ということだ」

 

 憎む相手をとことん絶望させる、シャルバはただ戦うのではなく、そういったやり方にシフトしたようであった。

 シャルバの言葉に一誠は無表情で彼を見つめる。その異様さはいつもの弟とかけ離れており、気味が悪く感じた。

 するとドライグが彼らにも聞こえる声で発する。

 

『リアス・グレモリー、今すぐこの場を離れろ。死にたくなければすぐに退去した方がいい』

 

 そのままドライグの声はシャルバへと向けられる。ほとんど同時に一誠もリアスを振り払い、相手へとゆっくりと向かっていった。

 

『───おまえは選択を間違えた』

 

 神殿が大きく揺れ、一誠から溢れ出る血の如き赤い色のオーラで内部全体を照らしていく。さらに彼の口からは老若男女入り混じった声が発せられ、呪文を唱えていく。

 

『我、目覚めるは…』

〈始まったよ〉〈始まったね〉

『覇の理を奪いし二天龍なり…』

〈いつだって、そうでした〉〈そうじゃな、いつだってそうだった〉

『無限を嗤い、夢幻を憂う…』

〈世界が求めるのは〉〈世界が否定するのは〉

『我、赤き龍の覇王と成りて───』

〈いつだって、力でした〉〈いつだって、愛だった〉

《何度でもお前達は滅びを選択するのだな!!》

 

 一誠の鎧が鋭利に、禍々しく変化していく。もはやドラゴンそのものといったような鎧へと変化していくだけでなく、至る所にはめられている宝玉から再び声が発せられた。

 

「「「「「「「汝を紅蓮の煉獄に沈めよう───」」」」」」」

『Juggernaut Drive!!!!!!』

 

 鎧が完成すると同時にそこから放たれる強力な赤いオーラによって周囲が破壊されていく。さらに理性もない獣のような叫び声と共に一誠は四つん這いの体勢になって、シャルバへと狙いをつけていた。

 刹那、一誠はシャルバの肩部にかぶりつく。あまりの速度に全員がまったく目で追えなかった。シャルバも抵抗しようと腕に魔力を集中させるも、その腕を刃で斬り落とし反撃を阻止する。

 

「ふざけるなっ!」

 

 やられっぱなしともいかないシャルバが反撃を試みるも、今度は鎧から出ている翼が光り輝く。あっという間にシャルバの撃ちだした魔力は弱まり、下級悪魔以下の威力になっていた。これに似た光景は大一も見たことがある。白龍皇がコカビエルに対してやったことだ。彼は一誠が白龍皇の力を奪っていたという事実を目の当たりにした。

 シャルバが撃ち出す攻撃が次々と無力化されていく中、鎧の胸元と腹部が開き発射口が出てくる。そこに集まっていく魔力はこれまでの魔力を幾重にも凝縮させており、不気味な赤い光が辺り一帯に広がっていった。

 あれが撃ち出されたらマズい、それを感じづいたシャルバが転移用魔法陣を描こうとするも、鎧の眼が赤くきらめくとその動きを封じた。ギャスパーの神器と同じ能力だ。

 

『Longinus Smasher(ロンギヌス・スマッシャー)!!!!』

 

何度も能力を発動して倍加された赤いオーラがついに発射される。その規模は間違いなく大一達も巻き込むほどの規模であった。

 

「部長、一時退却しましょう!この神殿から出るべきです!」

「イッセー…私は…」

「祐斗、リアスさんを抱えていけ!俺がしんがりで行く!」

「わかりました!失礼します!」

 

 祐斗がリアスを抱え、他のメンバーも後を追うように神殿から退却する。大一は最後尾で一誠とシャルバの戦いの最後をわずかに見た。

 

「バ、バカな…ッ!真なる魔王の血筋である私が!ヴァ―リに一泡も吹かせていないのだぞ!?ベルゼブブはルシファーよりも偉大なのだ!おのれ!ドラゴンごときが!赤い龍め!白い龍めぇぇぇ!」

(小僧。早く行かねえと死ぬぞ)

(…わかっている)

 

 間もなく神殿全てが赤いオーラで覆われていった。

 

────────────────────────────────────────────

 

「全員、無事か?」

「ええ、なんとか」

 

 大一の問いかけに祐斗が力なく答える。彼が創った魔剣を幾重にも重ねたシェルターに大一が翼を広げて覆うように守りを固めたもので事なきを得た。

 

「大一さんはダメージは?」

「少しだけ背中にかすったが、ちょっと熱かったくらいだ。それよりも…」

 

 崩れた神殿へと大一と祐斗は目を向ける。鎧を身につけたままの一誠が悲しみに満ちたように咆哮を上げる。アザゼルから聞いていた「覇龍」と呼ばれる力の片鱗は、自分の想像をはるかに超えるものであった。同時にアーシアを失ったことの悲しみに暮れている姿には弱々しいものにも思えた。

 この状況にディオーグは興味なさそうに呟く。

 

(あれは酷いな。まるで力を制御できていない。まるで雑魚だ)

(魔力はぐちゃぐちゃだ。でもそれ以上に生命力が失われていくような…)

(そりゃ、身の丈に合っていない力をコントロールできずにいるんだ。おそらく暴走するだけしてそのまま死ぬな)

 

 ディオーグの言葉に大一は生唾を飲み込む。認めたくなかったが、薄々気づいていたことではあった。魔力の質、失われていく生命力、それがどんな結果を引き起こすのかも。

 

(…どうにかして止められないか?)

(無理だな。今のお前が行ったところで死ぬだけで、止めることすらできないという無意味な行動になるだけだ)

 

 バッサリと切り捨てるディオーグの言い方は至極どうでもよさげな様子であった。いつもなら強い力に対して少なからず興味を抱くのに、今回の一誠に対しては呆れとどこか嘲りも見え隠れするような印象であった。

 そんな彼と反対に、大一の心は落ち着かなかった。自分を頼ってくれたアーシアへの喪失感、暴走する一誠への悲哀、そして弟が悪魔になったと聞いた日のことが頭をちらついて仕方が無かった。

 

「困っているようだな?」

 

 突如、空間に裂け目が生まれると、そこからヴァ―リが現れる。彼の後ろからは美猴と、以前現れたエクスカリバーを持った背広の男性が現れる。現れた敵に皆が警戒するが、ヴァ―リは面倒そうな声で対応する。

 

「やるつもりはない。見に来ただけだ。───赤龍帝の『覇龍』を。と言っても、あの姿を見るに中途半端に『覇龍』と化したようだ。『覇龍』の現象がこの強固な作りのバトルフィールドで起こったのは幸いだったな。人間界でこれになっていたら、都市部とその周辺が丸ごと消える騒ぎになっていたかもしれない」

 

 咆哮を上げる一誠を興味深そうに見つめるヴァ―リにリアスが問う。

 

「…この状態、戻るの?」

「完全な『覇龍』ではないから戻る場合もあれば、このまま元に戻れず命を削り続けて死に至る場合もある。どちらにしてもこの状態が長く続くのは兵藤一誠の生命を危険にさらすことになるな」

 

 ヴァ―リの冷静な分析に、大一は唇をかむ。ディオーグの正しさが証明されると、自分に出来ることがないという事実が顕著になった気がした。

 一方で、美猴は祐斗に近づくと抱きかかえていた少女を彼に渡した。

 

「ほらよ、お前らの眷属だろ、この癒しの姉ちゃん」

 

 彼が渡した少女はアーシアであった。気絶こそしていたが、息をしている。ヴァ―リたちが、次元の狭間に飛んできたのを見かけてそのまま連れてきたようだ。

 全員が彼女の生存に一安心をしたところで、視線は再び一誠に向けられる。あとは彼を止めることが出来れば万事解決であった。

 

「アーシアの無事を伝えればあの状態を解除できるかしら」

「危険だ。死ぬぞ。ま、俺は止めはしないが」

「…ヴァ―リ、頼みがある。一誠を救う手だてがあるなら教えて欲しい」

 

 土下座をして頼み込む大一を見るヴァ―リの目はどことなく厳しい印象を受けた。彼の姿に失望しているようであった。

 

「…呆れたな、兵藤大一。黒歌から聞いたぞ。お前が俺や赤龍帝と同じように龍の力を手に入れたと。無名とはいえその力を得た男が取る行動とは期待外れだな」

「仲間を…弟を救いたいというのがおかしいことか」

「誇りがないと思っただけだ。学校で会った時と違って少しは変わったと思っていたが」

「俺の誇りを捨てるだけで救える命があるならいくらでも捨ててやる。それに不本意だが…俺には家族を救える力を持っていない。代わりに差し出せるものがこの安いプライドしかないんだ…!」

「…やはり、俺を楽しませてくれそうなのは赤龍帝か。そうだな、何か深層心理を大きく揺さぶる現象が起こればいいのだが…」

 

 ヴァ―リがあごに手をあてながら考える。

 

「おっぱいでも見せればいいんじゃね?」

「あの状態ではな。ドラゴンを鎮めるのはいつだって歌声だったが…そのようなものはないし、赤龍帝と白龍皇の歌なんてものはない」

「あるわよぉぉぉ!」

 

 ヴァ―リの言葉を遮って現れたのは、イリナであった。手には立体映像機器を持っており、場に合わないテンションの高さがあった。

 

「はー、着いたー。あれがいまのイッセーくん!?ミカエル様やアザゼル様に聞いてはいたけど、すごいことになっているわね!」

 

 彼女が話すには、一誠が危険な状態になったことは他の上層部にも把握されていた。そこでサーゼクスとアザゼルが秘密兵器を彼女に持たせて、オーディンがこの場に転送したようであった。

 一刻も早く止めるため映像機器を受け取ったリアスはボタンを押して再生する。空中に映し出された映像には禁手した鎧姿の一誠が映っていた。

 

『おっぱいドラゴン!はっじっまっるよー!』

 

 その言葉を聞いた瞬間、大一は自分の表情が無になっていくのを感じた。

 




ヴァ―リとのやり取り久しぶりだなと思いましたが、4巻のラストバトルをばっさり省いてたからですかね。
次回あたりで6巻も終わると思います。
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