一誠たちがフリードと戦っている間の裏側という感じでお読みください。
(まあ、こんなことになるとは思ったよ)
たったひとりで大一はとある森林付近に待機ながら、頭の中でつぶやく。辺りはすっかり静まり返っており、まだ春先ということもあってか夜風が体を冷やす。熱い飲み物が欲しい気温であった。こんな人気もないところでひとり待機しているのは、堕天使の監視であった。
リアスは堕天使を正式に敵対認定して討伐にかかることにしていた。どうもこの一件は堕天使全体の作戦ではない可能性が提示されたからだ。そうなればこの土地を任されている彼女からすれば、敵組織をみすみす見逃すわけにもいかないだろう。増してや眷属に対して、情愛を持つ彼女からすれば昨日の一誠が傷つけられた一件も含めて動くのは可笑しいことではない。
そこで学校が終わってすぐに大一は堕天使の監視を買って出た。監視にあたっては魔力感知と実力を自負していたからだ。実際、先ほど離れたところから一定の距離を保ち見張っていた堕天使の動きを感知しており、つい先ほどリアス達に連絡していた。もっともリアスと朱乃で結界をの罠をいくつか用意していたため、大一は起動して逃さない状況を作っただけなのだが。
しかし今はその行動に少し後悔していた。というのも、この日に一誠が再び襲われたというのを先ほど連絡した際に耳に挟んだからだ。なんでも例のシスター…アーシアにばったり出会ってそのまま一緒に遊んでいたのだが、夕方に一誠を殺したレイナーレが現れて、再び殺されかけたのだ。自分が注意を怠ったことと、弟が前日にシスターと関わるなと釘を刺されていたのに破ったことにやきもきしつつ、大一は連絡した相手を待っていた。
「お疲れ様、大一」
間もなく、リアスと朱乃が大一の元に現れる。2人とも余裕の表情は崩していないが、警戒は怠っていない様子で魔力を感じた。
「堕天使の数は?」
「昨日の人数と変わらず。せいぜい3人ですね。その内のひとりは、先日出会ったドーナシークと見て間違いないでしょう。他の2人も同じくらいです」
「そう…なら、私ひとりでも問題ないかしら?」
「さすがに部長ひとりに任せる真似は出来ないでしょうよ。こっちは3人いるんですし」
「私と大一だけでも充分だと思いますわ」
3人は歩きながら、目的の場所へと近づく。
「さてイッセー達はもう入り込んだかしら」
リアスが出し抜けに呟く。彼女はアーシアを救いたいという一誠の想いを尊重して、遠回しではあるが助けに行くことを許した。すでに彼は祐斗、小猫と共にアーシアを助けるために教会に出向いていた。さらに言えば、この一件は彼を悪魔として成長させるためのひとつの壁として考えている節があった。
当然、それを理解している大一からすれば主にも一言添えたいものがある。
「言っておきますけど…」
「弟を危険な目に会わせるのはやめて欲しいかしら?」
「いや、悪魔になった以上、どこかでそういうのは超えないといけないと思っています。グレモリー眷属である以上、俺はそこら辺は割り切っていますよ。それに勝算があるから行かせたんでしょうし。ただもうちょっとやり方があったのでは、と言いたかっただけです」
「今後は善処するわ。しかし羨ましいわね、イッセーは。あなたのような理解してくれる兄がいて」
「あら、サーゼクス様だって素晴らしいではありませんか。私は大一よりもいいお兄様だと思いますわ」
「朱乃さんは俺をナチュラルにディスるのを止めてくれよ…」
「うふふ、私は大一のお兄さん的な面を知らないもの」
「この素晴らしい夜につまらない喧嘩とは、悪魔は無粋だな」
リアス、朱乃、大一の会話にひとりの男が割り込んでくる。スーツを着ており帽子を深くかぶった姿…堕天使のドーナシークであった。その横には金髪に生意気そうな笑みを浮かべる少女と青い長髪に露出の多い服を着た女性が立っている。
「久しぶりね、堕天使ドーナシーク。またお目にかかって光栄よ」
「その口ぶり、私の忠告は身に入らなかったようだな」
「お互いさまにね」
周辺に魔力と緊張が張り詰める。傍から見ても、今にも状況が大きく変わりそうな雰囲気であった。
「ふうん、噂の悪魔ってどんな感じかと思ったら、こんな小娘達っすか。ウチらも舐められたものっす」
「レイナーレ様の邪魔になるほどかは甚だ疑問だな」
「ミッテルト、カラワーナ、言ってやるな。所詮は悪魔だ」
「あらあら、自信満々な堕天使ですわね」
堕天使の態度に笑顔を向ける朱乃の姿はいつの間にか巫女服へと変わっていた。大一も神器を取り出し、いつでも戦いへと移行できるように身構える。
「はっはー!こっちはあんたらとは格が違うんだよ、悪魔ども!冥途の土産に教えてやるっす!レイナーレ様が、あのシスターの神器を手に入れたら堕天使達は更なる高みに行けるっすよ!」
「あのアーシアってシスターの神器が特別ってことか」
「その通り。レイナーレ様が見つけた『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』はいかなる存在も癒し、回復させられる神器。これがあればレイナーレ様はアザゼル様達の腹心となり、我々も他の堕天使より上位の存在となりえるわけだ」
ミッテルトとカラワーナの発言を聞いたリアスは口元に笑みを浮かべる。
「つまりこれはあなた達独自の作戦ということね。その裏どりさえ出来れば充分。後は相手の戦力を削ぐことに力を入れさせてもらいましょうか」
「ほざけ、悪魔ごときが!」
ドーナシークの声と共に3人の堕天使が空中に飛び、リアス達を取り囲むと、一斉に槍を投げる。それが光の力によって精製されたのは明白であった。
「一人一殺。私はドーナシークをやるわ」
「でしたら、あの小さな子を頂きますわね」
「じゃあ、俺は余った青髪で」
リアスは滅びの魔力を、朱乃は魔法陣による障壁を、大一は神器を使って、それぞれ光の槍による攻撃を防いだ。そして3人はそれぞれ自分の受け持った相手へと翼を広げて向かっていく。
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「それでは先日の因縁を終わりにしてもらおうか」
「あら、あなた程度に因縁を感じるほど私は堕ちていないわ」
余裕の笑みをこぼさず、リアスは人差し指を立てる。
「一撃、これで決めてあげる」
「舐めるなよ、小娘が!」
ドーナシークが憤怒の表情で光の槍を構えて接近する。悪魔に舐めた態度を取られたことがよほど屈辱的だったのだろう。
しかしその怒りが彼女に届くことはなかった。リアスが手のひらから撃ち出した滅びの魔力は、先ほど攻撃を防いだ時とは比べ物にならないほど強力でドーナシークの散り際の言葉も発させないままその身体を滅ぼした。
「この程度の相手にここまでやるとは、私もまだまだね」
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「さてお相手してあげますわ」
「そういう態度が気に食わないんすよ、悪魔は!」
ミッテルトは光の槍を作り出し、朱乃に向かってひたすら投げつける。弾丸のように素早い猛攻ではあったが、朱乃は何事もないかのようにひらりひらりと身をひるがえして避けていく。
「あらあら、攻撃も見た目の様に可愛らしいですわね」
「んぐぎぎぎ“!ちょっとデカいもの持っているからって、バカにしやがってえ!マジで許さん!」
ミッテルトは投げる光の槍はさらに増えていき、朱乃も魔法陣による障壁で防御へと回った。もはやミッテルトは彼女をめった刺しにすることしか頭に無かった。
「死ね!死ね!死ね!」
「ところで足を止めていては、危ないですわよ」
「あん!?」
ミッテルトが上を向いた時はすでに遅かった。上には小さな黒雲が出来ており、そこから発生した落雷はあっという間にミッテルトの全身を焦がしたのであった。
「だから忠告しましたのに」
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「そんな…ドーナシークとミッテルトが…!」
「悪いが、ここまでなった以上はあんたも逃すつもりはない。その命奪わせてもらうぞ」
「こんなところで…死ぬものか!」
カラワーナは槍を大一に向かって振り下ろすが、大一はそれを生命の錨で防ぐ。冷静さを欠いた彼女は押し込むように何度も振り下ろすも、彼は一向に下がらなかった。
「運が悪いな。俺は部長や朱乃さんの様に、一瞬で勝負を決めることはできないぞ」
「だったら、諦めてさっさとくたばれ!」
カラワーナが不意を突くように、大一の横腹に蹴りを入れる。もはや槍での力勝負では敵わないと判断したのだろう。しかし…
「があっ!」
苦しみの声を上げたのはカラワーナの方であった。全身に魔力を行きわたらせた大一の体はすでに石に匹敵するほどの硬さを備えていた。予想外の硬さにカラワーナは態勢を崩し、大一がそれを見逃すわけもなかった。すぐに彼女の頭を掴み、力を籠める。
「さて終わらせよう」
「ふ、ふざけるな!私が悪魔なんかに!」
そう言ったカラワーナは最後の抵抗に光の槍を振る。その刃先がわずかに大一の頬をかすった。しかし全身を強化していた彼には、それが致命傷になるはずもなかった。
そのまま大一は急降下すると、力づくに彼女の頭を下の道へと叩きつける。一瞬、声を上げるもそのまま堕天使が動くことはなかった。
「ちょっと痛かったが…まあ終わった」
次回あたりで1巻分が終わると思います。
これ、レイナーレの出番無いかも…。