D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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ロキって本当に多くの媒体で登場しているなと思います。


第63話 悪神の登場

 オーディンが来日して数日たったある日の夜、大一は空を飛んでいた。伝説の軍馬スレイプニルが引く馬車にはオーディンやアザゼル、ロスヴァイセ、一誠達が乗っており、大一、祐斗、ゼノヴィア、イリナ、バラキエルが外の護衛を任されていた。

 オーディンはこの馬車に乗って連日各地を遊びまわっていた。当然、その度に護衛である彼らも連れまわされるのだからたまったものではない。大一も一誠から聞く愚痴がその大半を占めていたことはおかしくないと思っていた。

 

(まあ、時間の無駄だな。こんなことよりも特訓に時間を使った方が有効的だ)

(護衛なんだ。仕方がないよ)

(フンッ!)

 

 大一の無気力な言い方にディオーグは鼻を鳴らす。もはや折り合いの悪さにどうこう言おうと思わなかった。ただディオーグから話しかけることは少なくない。自分の胸の内を吐露しておきたいのだろうか、大一は訝しんだ。

 

「この前の特訓、先輩が来なかったの珍しかったです」

「何だよ、祐斗。ずいぶんと唐突だな」

「いえ、せっかくトレーニングできる広い場所があるのにと思って」

 

 少し後ろを飛ぶ祐斗は肩をすくめる。先日のディオドラの一件を解決した褒美としてグレモリー領の地下に大きなフィールドをいつでも使用できることになった。グレモリー眷属、特に男子たちは特性上広い方がよりしっかりと動くことが出来たため、この褒美は皆が喜んだ。敢えて、不満を感じるものがいたとすればディオーグだろう。ただ不満とは言っても怒りや苛立ちなどではなく、呆れたような反応であった。彼曰く、「こんな場所が無いと強くなれないのか」というものであった。

 もっとも先日の特訓に付き合わなかったのは、別にその場所だからというわけではない。その日は例の握手会とサイン会の後で、大一はアザゼルとディオーグの件で話した日でもあった。あの日は無駄だと思いつつ、ドラゴン関連の本を出来るだけ読み返しておきたり、朱乃の件で考え込んだりしていたので、彼らに付き合うのを止めておいただけであった。

 

「まあ、埋め合わせはやるよ。模擬戦とか付き合うさ」

「別にそういうつもりではないんですけど…期待しますよ。僕やイッセーくん、ギャスパーくんも相当強くなっていますからね」

「だろうな」

 

 表情を見なくても大一にはわかった。いかに祐斗が強くなっていることを自負しているのかが。どんどん強くなっていく後輩は頼もしく、間違いなく自分を追い抜かしていると感じた。

 その瞬間、急激に強力な魔力が前方に感じた。馬車も護衛も皆が動きを止め、その魔力へと注意を向ける。どこからともなく姿を現したのは黒を基調としたオーディンと似たようなローブを着た男性であった。隠しきれない嘲りが表情に出ていた奇妙な雰囲気であったが、その魔力の大きさに大一は驚愕した。オーディンと同等のものと見積もってもおかしくないほどであった。

 男性はマントを広げると、口端をつりあげて声高々に話し出した。

 

「はっじめまして諸君!我こそは北欧の悪神ロキだ!」

(なんだ、あの変な奴?)

(北欧の神のひとりだよ!そんな方がどうしてこんなところに…!)

 

 ディオーグが不思議そうにつぶやく一方で、大一は驚きながら錨を出す。北欧の神のひとりでオーディンとは義兄弟の関係でもある特異な男であったが、魔力の練り方から完全に敵対するために現れたとしか思えなかった。

 

「これはロキ殿。こんなところで奇遇ですな。何か用ですかな?この馬車には北欧の主神オーディン殿が乗られている。それを周知の上での行動だろうか?」

「いやなに、我らが主神殿が、我らが神話体系を抜け出て、我ら以外の神話体系に接触していくのが耐え難い苦痛でね。我慢出来ずに邪魔をしに来たのだ」

 

 アザゼルの冷静な問いかけに、悪びれないような態度で悪意を見せつけるロキの行動は完全に狙ったものであった。彼は今回の和平に納得しておらず、この襲撃はオーディンを含めた粛清であった。

 

「どちらにしても主神オーディン自らが極東の神々と和議をするのが問題だ。これでは我らが迎えるべき『神々の黄昏(ラグナロク)』が成就できないではないか。───ユグドラシルの情報と交換条件で得たいものは何なのだ」

「ひとつ訊く!お前のこの行動は『禍の団』と繋がっているのか?って、それを律儀に答える悪神さまでもないか」

「愚者たるテロリストと我が想いを一緒にされるとは不快極まりないところだ。───己の意志でここに参上している。そこにオーフィスの意志はない」

 

 幸いと取るべきか、厄介と取るべきか、少なくともこの一件に禍の団は関与していなかった。同時にオーディンの話していた厄介な問題というのがどういうものなのかが察せられた。どうも北欧も一枚岩とはいかないらしい。

 オーディンは現れた同じ神話の神に微妙な表情をする。魔法陣を足元に展開すると、ロスヴァイセを伴ってそのまま馬車から降りて空中を移動した。ロスヴァイセの方もいつの間にかスーツから鎧をまとった姿になっており、戦闘に備えている。

 

「ふむ。どうにもの、頭の固い者がまだいるのが現状じゃ。こういう風に自ら出向く阿呆まで登場するのでな」

「ロキさま!これは越権行為です!主神に牙をむくなどと!許されることではありません!しかるべき公正な場で異を唱えるべきです!」

「一介の戦乙女ごときが我が邪魔をしないでくれたまえ、オーディンに訊いているのだ。まだこのような北欧神話を超えた行いを続けるおつもりなのか?」

 

 呆れ、失望、嘆き…様々な感情が混ざり合ったロキの声に対して、オーディンは平然と答える。

 

「そうじゃよ。少なくともお主よりもサーゼクスやアザゼルと話していた方が万倍も楽しいわい。日本の神道を知りたくての。あちらもこちらのユグドラシルに興味を持っていたようでな。和議を果たしたらお互い大使を招いて、異文化交流しようと思っただけじゃよ」

「…認識した。なんと愚かなことか。───ここで黄昏をおこなおうではないか」

 

 大一は全身にプレッシャーを感じた。ロキの魔力がさらに増大していく。そこには敵意しか感じられず、それはオーディンに対して強く向けられていた。

 

(くるぞ、小僧)

(言われなくてもわかっている。しかし相手は神様だ。下手に動いても…)

 

 全身に魔力を行きわたらせながら大一が答えていると、突如強力な波動がロキへと襲い掛かる。どうやらゼノヴィアが聖剣から撃ち出したものであったが、ロキは特に視線を向けずに受けたが、そこにダメージは感じられなかった。

 

「先手必勝だと思ったのだが、どうやら効かないようだ。さすがは北欧の神か」

「聖剣か。いい威力だが、神を相手にするにはまだまだだ。そよ風に等しい」

 

 そう言うと、ロキは左手に魔力を集中させる。攻撃的な感覚、合わせてなにかの効果を与えるものだと思われるが、撃ち出されたら厄介なのは疑いようもない。規模にもよるが撃たれても防げるように大一は前に出ようとすると、馬車から飛び出した鎧をまとった一誠がロキに一気に接近して打撃を入れようとする。

 一瞬、物珍しそうな表情をしたロキだが、一誠のパンチを軽やかに避けた。

 

「っと。そうだったそうだった。ここには赤龍帝がいたんだった。良い調子にパワーを身につけているじゃないか。───だが神を相手にするにはまだ早い!」

 

 ロキが放った波動に対抗するように一誠は何倍にも増幅させたドラゴンの魔力の波動を撃つ。彼の本気の一撃であったが、これすらもロキには通用しなかった。とはいえ、まったく通じなかったわけではなく、ロキの手からはわずかに赤い煙が出ていた。

 

「…特別手を抜いたわけではないのだがな。これはまた面白い限りだ。嬉しくなるぞ。とりあえず笑っておこう。ふははははっ!」

 

 高笑いするロキに対峙するように次々と馬車から護衛が出てくる。

 

「紅い髪。グレモリー家…だったか?現魔王の血筋だったな。堕天使幹部が2人、天使が1匹、悪魔がたくさん、赤龍帝も付属。オーディン、ただの護衛にしては厳重だ」

「お主のような大馬鹿者が来たんじゃ。結果的に正解だったわい」

「よろしい。ならば呼ぼう。出てこいッ!我が愛しき息子よッッ!」

 

 声高にロキが叫ぶと、空間にゆがみが生じた。そこから現れたのは全長10メートルはあろう巨大な狼であった。口から覗かせる牙は特に鋭く、その存在感はロキにも劣らぬ恐怖を大一達に与えた。その狼の正体を察した大一はすぐに一誠の近くに向かうと肩を掴んで後ろへと下がった。

 

「なんだよ、兄貴ッ!」

「とにかく距離を取れ!あれはおそらくフェンリルだ!」

「大一の言う通りだ!あれは神をも殺す牙を持つ最悪最大の魔物の一匹だ!神を確実に殺せる牙を持っている!そいつに噛まれたら、いくらその鎧でも保たないぞ!」

 

 アザゼルが皆に警告する。表情は珍しく緊張に包まれており、声もわずかに震えていた。相手の反応に満足そうなロキはフェンリルを撫でながら言う。

 

「そうそう。気をつけたまえ。こいつは我が開発した魔物の中でトップクラスに最悪の部類だ。何せ、こいつの牙はどの神でも殺せるって代物なのでね。試したことは無いが、他の神話体系の神仏でも有効だろう。上級悪魔や伝説のドラゴンでも余裕で致命傷を与えられる」

 

 ロキの言葉に、大一はイヤな汗が噴き出してくるのがわかる。ハッタリではない自信が、間違いない恐怖として感じられたのだ。

 ロキはゆっくりと腕を上げるとリアスを指さす。

 

「本来、北欧の者以外に我がフェンリルの牙を使いたくはないのだが…。まあ、この子に北欧の者以外の血を覚えさせるのも良い経験となるかもしれない。───魔王の血筋。その血を舐めるのもフェンリルの糧となるだろう。───やれ」

 

 全身の毛が逆立つような咆哮を上げるとフェンリルはリアス目掛けて突っ込んでいく。大一はフェンリルの注意を引こうと口に魔力を溜めるが、撃ち出す前に掴んでいた一誠が手を振り払って猛スピードでフェンリルへと突っ込んでいった。

 

「触るんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 一誠はフェンリルの顔を正面から殴り飛ばした。打撃音が耳に届くくらい強烈な一撃であったが、受けたフェンリルは平気そうな様子であった。それでもリアスを守れたことに一誠は安堵する。しかし…

 

「ごぶっ」

 

 なにかを吐き出したような音が一誠の鎧越しから聞こえる。見てみれば彼の腹部には大きな傷が出来ており、その血はフェンリルの前腕の爪に続いていた。殴り飛ばす際にカウンターを喰らったらしい。

 意識が朦朧とする一誠はそのまま落ちていく。すぐに近くにいたリアス、朱乃、祐斗が彼を支えるが、フェンリルは相も変わらず彼女らを睨んでいた。

 

「ゼノヴィア、イリナ、手を貸せ!」

「わかった!」

「任せてよ!」

 

 近くにいたゼノヴィアとイリナに声をかけると、大一は口に溜めた魔力を2発ほど撃ち出してフェンリルへと突っ込んでいった。手負いとなった弟たちへと注意を向けないためには、自分が囮となるしかなかった。

 撃ち出した魔力の威力はまったく足りておらず、まるでダメージを受けた様子を感じさせなかったが、いきなり攻撃が来た方向から向かってくる相手が見えるとフェンリルは大きく口を開けて牙を見せつける。

 噛みつこうとしてきたようだが、すぐに大一は下へと方向を切り返し、さらにゼノヴィアとイリナが聖なる力を斬撃として飛ばし注意を逸らした。そのまま大一は魔力を上げた腕力でフェンリルの右腕に向かって錨を横に振るうが、腕を切り落とすどころか掠り傷ひとつできなかった。

 

(硬い…!)

 

 思わず頭の中で大一はつぶやく。かなり魔力を腕部に集中させていたが、腕がまったく振り切れないことに驚きを隠せなかった。フェンリルは腕を振り上げて大一を狙うが、「騎士」へとプロモーションをしてその巨体を縫うように飛んで避けていった。幸い、相手の巨体故に小回りは利かず、その周囲を「騎士」のスピードでちょこまかと動けばなんとか攻撃は避けられるが、まるで決定打を与えられる様子はなかった。

 ロキの方もアザゼル、バラキエル、ロスヴァイセで攻撃を仕掛け続けるが、まるで気に留めた様子も無く攻撃を防いでいく。神の名は伊達ではなかった。

 

(くそっ!このままじゃジリ貧だ!)

(お前らだけならな。それよりも下がった方がいい。白い小僧に巻き込まれるぞ)

 

 ディオーグの言葉に疑問を感じつつ、フェンリルが振るってきた尻尾による殴打を大きく下がって回避した瞬間、どこかで聞いたことのある声が響いた。

 

『Half Dimension!』

 

 フェンリルを中心に空間が大きく歪み、その身は歪みに捕らわれて魔獣は動きを封じられた。さらに一誠の付近にヴァ―リと美猴が現れる。フェンリルを封じたのが彼らであることは疑いようもなかった。

 

「なんだってあいつらがいきなり…?」

「こっちにも用事があるのよ」

 

 いつの間にか、大一の横に胸元の露出が激しい和装の女性が飛んでいた。その声、その姿、大一が不信感を持つのには十分な相手であった。

 

「小猫の姉…なんのようだ?」

「お久しぶりね、赤龍帝のお兄ちゃん。言葉通りの意味だにゃん」

 

 警戒する大一に対して、この前の一件をまるで気にしないかのように黒歌は肩をすくめて答える。見てみれば、ゼノヴィアとイリナの近くには背広姿の聖剣使い…アーサーが飛んでおり、ヴァ―リのチームがこの場に来ていた。

 この介入にロキはむしろ歓迎するかのように、驚いていた。

 

「───ッ!おっとっと、白龍皇か!」

「初めまして、悪の神ロキ殿。俺は白龍皇ヴァーリ。───貴殿を屠りに来た」

「二天龍が見られて満足した。今日は一旦引き下がろう!だが、この国の神々との会談の日!またお邪魔させてもらう!オーディン!次こそ我と我が子フェンリルが、主神の喉笛を噛み切ってみせよう!」

 

 マントを翻して再び空間をゆがませたロキはフェンリルと共に去っていった。オーディンに宣戦布告を残して…。

 

────────────────────────────────────────────

 

 駒王学園近くの公園、そこに馬車は降りていた。突然の襲撃に、突然の乱入者、ただの護衛の時間が、この短い内にとても濃いものになっていた。一難去りながらも油断できない状況が続くのはどうにも気持ちが悪い。ヴァ―リ達のおかげでそんな状況が出来上がっていた。

 しかしアーシアの回復と小猫の仙術のおかげで一誠が回復したとわかると、額の汗をぬぐうくらいの余裕が大一にも生まれた。どうにも生きた心地のしない時間の連続であった。

 ヴァ―リは全員を見渡すと、遠慮なしに言い始める。

 

「オーディンの会談を成功させるにはロキを撃退しなければいけないのだろう?このメンバーと赤龍帝だけではロキとフェンリルを凌げないだろうな。しかも英雄派の活動のせいで冥界も天界もヴァルハラも大騒ぎだ。こちらにこれ以上人材を割く訳にもいかない」

 

 ヴァ―リの言い分には誰も言い返せなかった。少なくとも同じ禍の団である以上、英雄派の動向も彼にはわかっているからこその言葉であろう。

 治療の終わった一誠がヴァ―リに問いかける。

 

「お前があいつを倒すとでもいうのかよ?」

「残念ながら、今の俺でもロキとフェンリルを同時には相手に出来ない。だが───二天龍が手を組めば話は別だ」

 

 ヴァ―リの言葉に、彼の仲間を除いたその場にいる全員が驚愕する。そんな彼らの反応を意に介さず、ヴァ―リは言葉を続けた。

 

「今回の一戦、俺は兵藤一誠と共に戦ってもいいと言っている」

 




原作を読み返していると、ヴァ―リって結構無茶苦茶やる印象があります。
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