D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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正しいかわからないが、必死に行動するタイプの主人公は好きです。


第65話 決めた覚悟

 翌日、大一達は学校に行かず地下の大広間に集まっていた。ロキとの対策が必要なため、学校には代わりに使い魔が変化して登校している。兵藤兄弟は使い魔がいないため、他のメンバーの使い魔が代わりに向かっていた。大一は自分に使い魔ができない理由について、根本的に懐いてもらえない性質との指摘を受けたが、今にして思えばディオーグの異様さを本能的に察しているのかもしれない。

 全員が落ち着いたところで、アザゼルが咳払いをして話し始める。

 

「あー、作戦の確認だ。まず、会談の会場で奴が来るのを待ち、そこからシトリー眷属の力でお前たちをロキとフェンリルごと違う場所に転移させる。転移先はある採掘場跡地だ。広く頑丈なので存分に暴れろ。ロキの対策の主軸はイッセーとヴァ―リ。二天龍で相対する。フェンリルの相手は他のメンバー───グレモリー眷属とヴァ―リのチームで鎖を使い、捕縛。そのあと撃破してもらう。絶対にフェンリルをオーディンのもとに行かせるわけにはいかない。あの狼の牙は神を砕く。主神オーディンといえど、あの牙に噛まれれば死ぬ。なんとしても未然に防ぐ」

 

 アザゼルの確認に皆が気を引き締める。相手は神…その実力は予想もつかなかった。そのためにも対策はきっちり打ってある。ミドガルズオルムからの助言から知ったロキ対策のための武器として北欧の神であるトールの持つ武器「ミョルニル」のレプリカを一誠が装備し、さらに鎖はダークエルフ製と道具においては万全を期していた。

 さらにアザゼルは今回の戦いで匙も当てにしており、彼に一誠とヴァ―リのサポートを任せようとした。五大龍王のヴリトラの力が必要らしい。ということで、彼は強引にグリゴリの研究機関へと連れていかれた。

 

「匙、先生のしごきは地獄だぞ。俺も冥界で死にかけたし。しかも研究施設だ。おまえ、死んだな」

「はっはっはー。じゃあ、行くぞ匙」

「マジかよ!?た、助けてぇぇぇぇっ!兵藤ぉぉぉぉっ!会長ぉぉぉぉっ!」

 

 泣き叫ぶ匙の声が大広間に響いていった。

 だがこれにいちいち反応する暇は、大一には無かった。彼はちらりと朱乃とバラキエルに視線を向ける。これからやることに不安と後悔がつきまとうのは予想できたが、それでも彼は実行する決心があった。

 そんな彼とは対照的に、ディオーグは珍しくゲラゲラと笑っていた。

 

(因縁のライバルが侮辱されて泣いていやがるよ!アホらしい!)

(…お前、そういうので笑うんだな)

 

 ドライグとアルビオンの会話で爆笑していることと彼らの会話が聞こえていることに驚きつつ、大一はこれからやることに気持ちを引き締めるのであった。

 

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 作戦確認を終えて解散した後、大一はバラキエルがひとりになったところを狙って彼に接触していた。

 

「バラキエル様、お願いします。朱乃さんと話してほしいんです」

 

 誰もいない廊下で、大一はバラキエルに頭を下げる。その様子にバラキエルは疑いの目を向けていた。不信と失望、彼の目の前の頭を下げる少年に抱いた感情であった。

 

「もとより私はそうしたいと思っている。しかし朱乃はそうもいかないだろう」

「俺が説得します。なんとかお二人で話す場を作ります」

「余計なことはしなくていい」

 

 バラキエルは大一に対してきっぱりと言い切った。目の前の男は何様のつもりであろうか。そんな想いがバラキエルの中で膨らんでいく。アザゼルから聞いた話では、娘の朱乃と共に数年間リアス・グレモリーを支えてきたようだ。ルシファー眷属である炎駒の弟子であることも知っている。もっと言えば、朱乃が彼とデートをしている場面に鉢合わせした上に、先日の態度から見ると彼女が並々ならぬ信頼を置いている人物であることもわかる。

 だがバラキエルにとっては、決して肯定したい男ではなかった。真面目ではあるかもしれないが、保守的で不安定な印象がある。実力は突出したものはなく、むしろ赤龍帝や聖魔剣使いなど将来が有望な人材が多い中ではどうしても見劣りする。朱乃との付き合いも長いとはいえせいぜい数年であり、百年、千年単位では誤差程度の範囲だ。

そしてもっとも許せないのは数か月前に「犠牲の黒影」という神器に憑りつかれて仲間を危険にさらしたことであった。この神器がどういうものかはバラキエルもよく知るところであったが、あわや全滅寸前まで仲間を、娘を追い詰めたのは看過できない。加えて、現在は正体不明の龍と同化しているというのだから、失敗から何も学んでいない印象すら受ける。そんな男にいきなり朱乃のことで、話をされても前向きにとらえることが出来ないのは当然であった。

 

「私はキミを信用していない。朱乃のことを任せたいと微塵も思わない。だからこの件は終わりだ」

 

 それだけ言い残すと、バラキエルは踵をかえす。

 だが大一もこれで引き下がるつもりは無かった。アザゼルの話を聞いた時から、苦しみを抱えているのが彼女だけではないことを知ったからだ。

 

「俺はバラキエル様にも救われてほしいんです」

「思い上がるな!キミに理解してもらおうとは思わない!」

 

 バラキエルは大一を脅すように睨みつけた後に、再び歩を進める。彼自身も想像以上に声が荒くなってしまったのがわかる。朱乃が大一に信頼を置いているのを認めたくない、その感情を直接的に出してしまったことを後悔した。同時にあの必死さがかつての自分に重なるようにも見えてしまったことに深く自己嫌悪するのであった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 大一は去っていくバラキエルを追おうとはしなかった。自分の立場をわかっているため、この反応も予想していた。

 それでも彼を説得するには正面から話すしかないと思った。小細工云々が通用する相手とは思えなかったし、この働きかけで少しでも彼が朱乃に対して話しに行こうと考えれば御の字であった。

 どの道、朱乃を説得する必要があると思った大一は彼女の部屋の階層へと向かう。リアスが狙ったのかはわからないが、自分の部屋と同じ階層であった。だが彼女は自分の部屋にはおらず、大一の部屋の扉の前の壁に寄りかかっていた。

 

「どうかした?」

「あなたを待っていたの。その…一緒にいたいの」

 

 答えるなり彼女は体を預けるように大一に抱きつく。いきなりの行動に面食らいながらも、動かずに彼女を支えた。

 

「朱乃さん、誰か来たらマズいって…」

「私がこうしたいの。お願い」

 

 声が震えていた。ソーナとの試合前に見せた甘い声はもちろん、神社で大一の心の扉を開けた時のような悲哀に満ちた声とも違う。自分の感情に折り合いがつけられずにもがき苦しんでいる印象を受けた。

 いつまでもこうしていられれば彼女は救われるのだろうか。アザゼルの言う通り、一緒にいるだけで彼女は再び笑うだろうか。しかし…。

 意を決して、大一は朱乃をゆっくりと引き剥がすと彼女に目を合わせる。

 

「朱乃さん、バラキエル様と話そう。俺も一緒にいるから」

 

 バラキエルの名前を出した瞬間に、朱乃の表情が曇る。視線もどことなくバラキエルを彷彿させるようなものであり、その表情だけで胸が締め付けられる思いだが、大一は言葉を続ける。

 

「朱乃さんとバラキエル様の間にあったことは聞いた。どれほど難しい関係なのかも…でもだからこそしっかり話す事が必要だと思う。だから───」

「やめて、そういうの…。私はあの人に憎しみしかない。だってあの人のせいで私は…母様は…!」

「でもバラキエル様は朱乃さんのことを───」

「あの人の肩を持つの!?私は大一となら…もういい」

 

 突き放すように大一から距離を取ると、朱乃は自分の部屋に戻っていった。最後に向けられた視線は鋭く突き刺さるような批判的なもので、残された大一は大きくため息をつく。

 

「ハァ…やってしまった…」

 

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 朱乃は扉を閉めると、そのまま崩れ落ちるように座り込む。すっかりうなだれており、ぐっと唇をかむ。

 出来ることなら大一にはバラキエルのことを触れて欲しくなかった。彼への信頼や気持ちは嘘ではない。一緒にいてくれるだけで安心したし、抱きしめてくれるだけでその苦しさを忘れていくような想いであった。

 そう、忘れたかったのだ。母を失った悲しみを、苦しみを、もっと言えば父への憎しみすらも…。バラキエルに対しての感情は自分でもわからなかった。ただ彼と話せばわかるはずなのに、その一歩が踏み出せない。これからもその一歩を踏み出せるとも思えない。大一が一緒にいたところで変わるとは…。

 「犠牲の黒影」の事件の後やソーナの試合の前が思い出される。共にリアスのために戦ってきた信頼と最近意識し始めたその感情…互いに苦しみを一緒に抱えてきた男が、自分を傷つけようとしていたわけがないことなど分かっていた。だからこそあの感情的な態度を取ってしまったことを後悔していた。

 

「可愛くない…」

 

 ぼそりと呟くと、朱乃は静かに涙をこぼす。その姿は心を支えてくれる男が見ることは無かった。

 

────────────────────────────────────────────

 

(お前、バカだろ。あの堕天使小僧の言うことを聞いてた方がよかったんだよ。こんなことで貴重な時間を無駄にしやがって)

 

 その日の夜、部屋に戻った大一はディオーグ相手にうだうだと文句を言われていた。結局、この日はなんとかして朱乃やバラキエルと話そうとしたが、2人とも取りあおうとはしなかった。バラキエルの方はまだ言葉を交わすものの、朱乃に関しては完全に無視されていた。

 

(だいたいあの女は、自分で言っていたじゃねえか。父親のことだって本当に嫌っているんだろ)

(そうかもしれないけど、そうじゃないかもしれないだろ)

(不確定でこんな行動を起こすのなら、バカの極みだな。赤髪女の言うことを真に受けているんじゃねえよ)

(俺はリアスさんに頼まれたからそうしたわけじゃない)

(じゃあ、なおさら干渉する必要がねえだろ。あいつにお前が何をしたっていうんだ。血縁も無いようなただの女だぞ)

(惚れたんだから、仕方ないだろ!)

 

 ディオーグに対して、苛立つように胸の内を吐露する。胸が苦しく、体が熱くなっていくのがわかった。

 

(お前は知らないけどな、俺はあの人に救われたんだよ。あの人のおかげで初めて自分の背負っていたものを下ろせたんだよ。あの時…まるで先が見えない暗い道で、ようやく光が見えたんだ)

 

 頭を抑えながら、大一はディオーグに言う。今でもあの頃の感情は忘れられない。不安、嫉妬、嫌悪などの悲観的な考え方は彼の中に根付いていると言っても過言ではなかった。しかし「犠牲の黒影」に憑りつかれたあの事件で、朱乃が彼に理解を示し、心の扉をこじ開けてくれたことで、ようやく前に進むことが出来るようになったのだ。

 だからこそ朱乃のことはただ安心させるだけでなく、背負ったものを払拭し心の底から笑って欲しかった。同時にこの件で同じように悩むバラキエルやアザゼルも救われてほしかった。これを大一は優しさだと思っていない。所詮は自分が勝手に期待しているだけの、自分本位な想いであるからだ。

 

(それでお前が嫌われてもか?)

(あの人が心から笑えるなら、俺はいくらでも嫌われていい。俺は自分が笑うよりも、あの人に笑って欲しいんだよ)

 

 大一の固めた決意を聞くと、ディオーグは苛立ったように言葉を放つ。

 

(だからくだらねえんだよ。愛だの情熱だの、感情に左右されているから弱いんだよ)

(お前はどうしてそこまで心の力を否定するんだ?たしかに戦いにおいて直接的なものは無いかもしれないが、それが支えになることだって───)

(それがわかっていねえんだよ!お前も、お前の仲間や戦ってきた奴も!負けた奴は心が弱いから負けたのか?そうとは限らないだろ!戦いの場に立つ以上はな、誰でも最低限の覚悟を持っているんだ!その前提条件を満たして、初めて「戦い」と言えるんだ!それなのにお前らは気持ちが強いから勝っただ、命がけだからこそ強いだ…たったひとつの要因程度で騒ぎやがって!以前も言ったが、すべてをひっくるめての戦いなんだ!だからこそ戦いで勝つことってのは、これ以上なく高尚かつ力を持つことの証明なんだよ!)

 

 ディオーグの声は今まででもっとも荒々しかった。彼の言う強さのこだわりは揺るぎなく、同時に強烈な衝撃を与えたかのように大一の心を震わせた。

 

(それなのにてめえはうじうじと…!お前の修行量が誰よりも多く、経験値も高いことは融合してわかった。それなのにどうしてお前は覚悟を決められねえ!他の奴がどんどん強くなっているからって、どうして自分の持つ力を信じられねえ!)

 

 言いたいことを言うと、ディオーグは引っ込んだ。朱乃のこと、バラキエルのこと、そしてディオーグのこと…自分が真摯に話に向き合っていたら、早く解決できただろうか。いや土台無理な話であろう。無理な話だからこそ、ディオーグの言葉を聞いた今の大一には自分がどうするべきかを改めて考えるのであった。

 




ヒロインとの好感度を数値化したらダダ下がりしていそうだと思いました。
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