すっかり日が落ちた夜、そんな時間では風の音が聞こえる高層ビルの屋上はかなり冷えた。オーディンの会談はこのビルで行われることになっていた。すでに周りのビルの屋上にはシトリー眷属も控えており、ロキの登場を待つだけだ。
残念ながらアザゼルはオーディン仲介役のためこの場にはいなかったが、その穴を埋めるようにバラキエル、タンニーン、ロスヴァイセと強力な戦力がいる上に、今回はヴァ―リチームもいる。さらに戦うメンバーにフェニックスの涙が支給されており、回復面でも強化されていた。これほどのメンバーと準備でも盤石さを感じないのは、それほどロキという相手が強力であるからだろう。
「時間ね」
リアスが腕時計を確認して呟く。会談が始まる時間であった。そうなれば、ロキが現れるのも近いと思われるが…
「小細工なしか。恐れ入る」
苦笑い気味のヴァ―リの視線の先には空間がゆがみ、ロキとフェンリルが現れた。真正面からの登場に驚きがあるものの、バラキエルが耳につける小型通信機で全員に作戦の決行を伝える。
シトリー眷属による巨大な魔法陣が一帯に展開され、その光がロキを含めた全員を包んでいく。
(…ありゃ、気づいているな)
ディオーグが呟いた言葉に大一も納得した。光で転移される直前のロキの余裕たっぷりの笑み…彼がわざわざこの状況を受け入れていることに説得力があった。
転移された場所は古い採石場跡地であった。大きく広がる土地に無骨な岩肌しか目に入らない、暴れるのにはうってつけの場所であった。
「逃げないのね」
リアスの一言すらもあざけるように余裕たっぷりの笑みをロキは浮かべる。
「逃げる必要はない。どうせ抵抗してくるのだろうから、ここで始末してその上であのホテルに戻ればいいだけだ。遅いか早いかの違いでしかない。会談をしてもしなくてもオーディンには退場していただく」
「貴殿は危険な考えにとらわれているな」
「危険な考え方を持ったのはそちらが先だ。各神話の協力などと…。元はと言えば、聖書に記されている三大勢力が手を取り合ったことから、すべてが歪み出したのだ」
「話し合いは不毛か」
無駄だとわかり切っていた交渉の決裂が決定づけられると、バラキエルは雷光を手にまといさらに堕天使の翼を展開する。
一方、一誠とヴァ―リも同時に禁手を発動させ、強力な鎧に身を包んだ。
『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!』
『Vanishing Dragon Balance Breaker!!!!』
「これは素晴らしい!二天龍がこのロキを倒すべく共同するというのか!こんなに胸が高鳴る事はないぞッ!」
歓喜するロキを相手に、一誠とヴァ―リが仕掛ける。高速で動くヴァ―リを追尾する光の帯をロキは撃ち出し、それは一誠にも襲い掛かる。華麗に避けるヴァ―リに対して、強引に一誠は突貫していった。何度も倍加させて弾丸のように鋭い突撃で幾重にも張られた魔法陣を破ると、そのまま上からヴァ―リが魔力と覚えたての北欧の魔法を合わせた大規模な一撃を叩きこむ。巨大なクレーターをも作り出す一撃であったが、受けた本人は高らかに笑っていた。
「ふははは!」
ローブは多少破れているものの、まるでダメージを感じさせない様子には神という存在の兄弟さを見せつけられた気持ちであった。
そんな相手に、今度は一誠から仕掛ける。ロキ対策のために借りたレプリカのミョルニルを両腕で持って突きつけた。
その様子にロキは驚きと言葉に出来ないほどの苛立ちを表情に見せた。
「…ミョルニルか。レプリカか?それにしても危険な物を手にしている。オーディンめ、それほどまでに会談を成功させたいか…ッ!」
一誠は重そうに持ちながらも、背中のブーストを噴かせて狙いを定めてそのレプリカを振り下ろす。しかしロキには避けられて、それどころか特効となるミョルニル特有の雷も出てこなかった。
「残念だ。その槌は、力強く、そして純粋な心の持ち主にしか扱えない。貴殿には邪な心があるのだろう。だから雷が生まれないのだ。本来ならば、重さすらも無く、羽のように軽いと聞くぞ?」
ロキの指摘に大一は思わず額を叩く。ここまでぐうの音も出ないほど納得させられたのは久しぶりであった。
そして同時にロキの実力にも警戒が強まっていく。禁手状態の赤龍帝と白龍皇のコンビネーションをまるで苦にもしていないのだ。これでフェンリルが投入されると戦況がどう動くかが想像もつかなかった。
(わかっていたがまるで手を出せねえ…)
(お前らのくだらない作戦に従うのなら予定通りだろ。動くのはもっと先だろうしな。それとも今さら無力感を抱くのか?)
(そういうわけじゃないだ。不安はあるけどな。俺が気になるのはここで一誠とヴァ―リを消耗させるのが不安なんだ。ロキといえば、その知能は各界でも有名だ。先日圧倒したとはいえ、その時と同じ戦力で来るとは思えないんだ。つまりまだ隠し玉を持っているはず…)
大一はディオーグとの会話を切り、全身に魔力を集中させ、さらに「騎士」へとプロモーションを果たす。フェンリルがゆっくりだが動き始めたのだ。
「───神を殺す牙。それを持つ我が僕フェンリル!一度でも噛まれればたちまち滅びをもたらすぞ!おまえたちがこの獣に勝てるというのならばかかってくるがいいッ!」
だがそれこそが狙いであった。リアスの合図と同時に黒歌が自分の周囲に魔法陣を展開させた。魔法陣からは魔法の鎖…グレイプニルが出てきて、手の空いている全員でフェンリルに向かって投げつける。ロキとしてはこの鎖の対策はとうの昔に取っていたようだが、ダークエルフによって強化されたその鎖はあっという間にフェンリルに絡みつき自由を奪っていった。
「───フェンリル、捕縛完了だ」
すっかり捕らえられたフェンリルを見て、バラキエルがピシャリと言い放つ。予定通りかつスムーズに決まった。もっとも厄介であったフェンリルを封じたのは、この戦いにおいて大きなアドバンテージであった。
だが油断はできない。相手は悪神の名を冠するロキともあれば、これだけで手札が切れたとは思えなかった。
そして間もなく大一は自分の予想が当たっていたことを知るのであった。
「スペックは落ちるが───スコルッ!ハティ!」
ロキの両隣の空間がゆがむとそこから別のフェンリルが2匹も現れた。なんでもフェンリルの子どもに当たるようで、身体能力などは劣るものの厄介な神殺しの牙は健在であった。
「さあ、スコルとハティよ!父を捕らえたのはあの者達だ!その牙と爪で食らい千切るがいいっ!」
ロキの指示のもとに2匹の狼が一斉に動き出す。片やグレモリー眷属に、片やヴァ―リチームに向かっていき、その口から禍々しい牙をのぞかせていた。
タンニーンが牽制とは思えないほど強力な炎を吐き出すが、スコルとハティはまるで気にせずにその炎の中を駆けてきた。
(あの炎が効かない…だったら狙うとしたら顔の部分か)
(牙が近いから噛み殺されるかもな。どっちにしろお前じゃ、決定打に欠ける)
(つまり囮になればいいってことだろ!)
大一は最大まで魔力を溜めて吐き出す。威力は相変わらず低いものの範囲はそれなりであったため、顔に命中した。もちろんダメージは見られない。
祐斗やゼノヴィア、イリナが続くように斬撃を飛ばして牽制する。なんとか近づけさせないように距離を保ちつつ、彼らはリアスや朱乃、タンニーンの強力な遠距離攻撃で沈めたかった。しかし距離こそ稼げるものの、一向に敵は足を止めない。攻撃をよけ続け、わざと作った隙にものってこない。フェンリルの周辺をグルグルと動いているだけだ。
「埒が明かないな…!」
「大一さん、行きましょう」
「仕方ない。俺が前で注意を引く」
大一、祐斗、ゼノヴィアの3人で突撃していく。口から吐き出す魔力を連射して上に飛び、敵の視界に自分が入るように動いていく。しかし一瞬だけ視線を動かすと再び頭を下に向けた。
その視線は祐斗もゼノヴィアも見ていない。
「まさかッ!」
リアスの驚いた声が聞こえる。相手をしていたグレモリー眷属全員が気づいたのだ。敵の狙いがフェンリルを捕らえる鎖であることに。
近くにいた大一、祐斗、ゼノヴィアで一斉に得物を振りつけるが、相手は攻撃が当たる直前に大きく体を回転させて3人を薙ぎ払った。吹き飛ばされた3人は近くの地面に叩きつけられるが、ダメージはそこまででもない。むしろ危険なのは解き放たれたフェンリルの存在だ。
(あーあ、だから甘いんだよお前らは)
ディオーグの呆れた声が聞こえる。間もなく捕らえられているフェンリルの姿が消えてヴァ―リの鎧を噛み砕いた。
「ふはははっ!まずは白龍皇を嚙み砕いたぞ!」
哄笑するロキを無視して一誠はヴァ―リの救援にフェンリル目掛けてミョルニルを振り下ろす。しかしフェンリルの前足の薙ぎ払いに一誠の鎧は切り裂かれた。神殺しの牙だけではない。その爪の破壊力も間違いないものであった。
「ぬぅ!そやつらはやらせはせんっ!」
2人の援護にタンニーンが動く。先ほどの牽制の炎とは格の違う強力な火炎球がフェンリルを襲うが、逃げる素振りも見せずにそれどころか持ち前のスピードでタンニーンの身体を爪で引き裂いた。
幸い、奥歯に仕込んでいたフェニックスの涙を使うことで傷は癒えていく。窮地は脱出したが、五大龍王すらものともしない実力には舌を巻く想いであった。しかも敵は手を止めるつもりはなかった。
「ついでだ。こいつらの相手もしてもらおうか」
ロキの足元に影が広がると、蛇のようにしなやかな身体のドラゴンが5匹も現れた。かの五大龍王の一匹であるミドガルズオルムの複製までロキは手にしていたのだ。5匹が一気に火を噴くが、対するタンニーンも強力な炎で応戦する。
「こなくそ!」
「防御にまわったら負けよ!攻めて!」
グレモリー眷属とヴァ―リチームも子フェンリル2匹を相手に戦う。とはいえ、相手もフェンリルの血を引くだけあって強敵であった。バラキエルの雷光を受けてもものともせず、祐斗が聖魔剣を頭部に振るってようやく傷らしい傷をつけられた。
「ギャスパー!やつの視界を奪って!小猫はその瞬間に仙術の打撃をどこでもいいから入れてちょうだい!大一は牽制を続けて!」
リアスの指示に、3人が動く。ギャスパーは大量のコウモリとなって目くらましをして、その瞬間に小猫が足に入れた仙術の打撃で相手の内部から崩そうとする。大一は小猫たちに注意が向かないように、魔力を何度も撃ち出していった。
(くっそ…!息が続かねえ…!)
(まったくお前の攻撃は羽虫が止まった程度だろうに…)
(それでも気をそぞろにするくらいできる…!)
そうは言うものの、大一は胸を抑えながら息を荒くしていた。こんな戦い方をやってこなかった上に、何度も咳をしているようなものだから喉や胸が苦しくなっていく。
しかし気の散った子どもフェンリル相手にゼノヴィアの2つの聖剣による強力な波動や、祐斗の聖魔剣で脚部をズタズタに切り裂くことで、間違いなく押し込んでいる実感はあった。
量産されたミドガルズオルムはタンニーンとロスヴァイセのコンビで追い詰め、もう一匹の子フェンリルもヴァ―リチームが圧倒的な戦闘力で体の一部を次々と無力化していった。リーダーであるヴァ―リが窮地に陥っても自分たちの任務を遂行する、リアス達とはまるで違う信頼関係と盤石な強さが垣間見られる。さらに…
『Juggernaut Drive!!!!!!』
突如、採掘場全体を照らすほどまばゆい光が発生する。感じられる魔力の質は赤龍帝と似て異なるが、二天龍としての絶対性と危険性が合わさったような感覚…これこそヴァ―リが使いこなした覇龍の力であると大一は実感した。
(よそ見したな)
(えっ?)
ディオーグの呆れ声と共に、大一は吹き飛ばされた。子フェンリルの前足による薙ぎ払うような一撃が彼を襲ったのだ。一瞬、体が引き裂かれたと思った。想像以上の腕力、魔力で硬化させていた体をあっさりと切り裂く鋭い爪、まともに受けて自分の見積もりが甘かったことを知った。
そのまま大一はぼんやりと意識が薄れていった。
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「黒歌!俺とフェンリルを予定のポイントに転送しろッ!」
ヴァ―リが黒歌に指示をすると、彼女はニンマリと笑い、鎖をヴァ―リへと集約させる。さらに帯状の魔力が幾重にもヴァ―リとフェンリルを包んでいくと、そのまま景色に同化するように彼らの姿は消えていった。彼が場所を移動させてひとりでフェンリルを相手に蹴りをつけようとしたのは疑いの余地もない。
そんな中、大一を吹き飛ばした子フェンリルが次に狙ったのは朱乃であった。その恐ろしい牙は彼女へと狙いをつけて噛み砕こうとしている。一誠や他の仲間達がカバーに向かうが、彼女をかばったのはバラキエルであった。
「ごふっ!」
「…どうして?」
「…お前まで失くすわけにはいかない」
すぐに一誠が子フェンリルの横顔を殴りつけてバラキエルを解放したが、彼の背中からは血が噴き出していた。間もなくアーシアが回復のオーラを飛ばして傷をいやすものの、戦線の復帰は絶望的だ。
そして朱乃の方も複雑な表情であった。憎いはずの男に命を救われた彼女は酷く狼狽していた。
「…私は…私はっ!」
「…しっかりしろ、朱乃。まだ戦いは終わっていないのだぞ」
子フェンリルの引き留めるようにグレモリー眷属が戦う。しかし朱乃は動けなかった。バラキエルの行動に当惑し、苦しみ、今まさに父の想いを目の当たりにした彼女の心は引き裂かれそうなほど混乱していた。
そんな彼女を見る一誠も腑に落ちない想いを抱えていた。過去をリアスやグレイフィアに聞いたからこそ、朱乃の胸の中にある真意が気になった。そこで真意を探るために、こっそりと「乳語翻訳」を発動させるが…。
『私は姫島朱乃のおっぱいではありません。私は───おっぱいの精霊です』
とんでもない相手からの声が聞こえてきた。
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「お兄様、無事でよかったですぅぅ!!」
目が覚めた大一にギャスパーが涙目で安心を口にする。腹部を触ってみると、爪で引き裂かれたはずの傷が治っている。ギャスパーの手には空の小瓶があったので、フェニックスの涙で回復したのだろう。
「安心しましたぁ!ちょうどヴァ―リさんが覇龍を発揮した際に大一お兄様が吹っ飛ばされたみたいだから、皆さん気づくのが遅れてしまって…」
「でもお前のおかげで俺はなんとか生き残ったわけだ。ありがとな。…それで戦いはどうなった?」
「ヴァ―リさんがフェンリルと一緒に消えました。それと朱乃お姉様をかばってバラキエルさんが攻撃を受けましたが、アーシア先輩のおかげで回復はしています。ただイッセー先輩が…」
「一誠がどうかしたか?」
体を起こして一誠を見ると、一誠は明らかにうろたえておりリアス、タンニーン、ドライグは涙ながらに悲惨な声を上げている。
「なんか乳神というのから声が聞こえたと言って…」
「あいつ、まさか朱乃さんにまで『乳語翻訳』やったのか!?しかも乳神って…」
(その神とやらはいるぞ)
突然のディオーグの言葉に大一はさらに驚愕する。
(お前もわかるのかよ!?)
(声が聞こえるだけだがな。今、その変人がお前の弟と黒髪女とその父親に記憶を見せているぞ)
突然、一誠が乳神という存在をほのめかしたと思えば、今度は一瞬だけ温かい光を感じ、気づけば朱乃がバラキエルに対してとめどない涙を流しながら手を取っている。
「母さま…ッ!私は…ッ!父さまともっと会いたかった!父さまにもっと頭を撫でてもらいたかった!父さまともっと遊びたかった!父さまと…父さまと母さまと…3人でもっと暮らしたかった…ッ!」
「朱璃のことを…お前のことを…一日たりとも、忘れたことなどないよ」
「…父さま」
傍から見れば、何が何だかわからない状況なのは否定できない。ただ彼女たち親子の和解を見れば、一誠とその乳神が朱乃の心を救ったのは疑いようもなかった。それを証明するように、一誠の鎧に埋め込まれているすべての宝玉が光りだし、同時にミョルニルも光り始めた。
その突然の不思議な現象に、大一は眉を上げる。
(奇跡みたいなものだと思うか?)
(奇跡ってのは気に食わんな。勝負の運と言えるが、それにしては納得できないほど理不尽なものに聞こえる)
(でも俺と違って一誠はそれを引き起こしたんだ。本当に…特別なんだろうな)
(今度は「助けられなかった―」とか言って、またうだうだと悩むか?)
茶化すような言い方のディオーグであったが、そこにある軽蔑と苛立ちの感情は隠しきれていなかった。いつものごとく、大一の煮え切らない態度を予見したのだろう。早朝に強さについて理解を示すような発言があったのに、そんな態度を取られては苛立ちは尚のことであった。
しかしディオーグの予想に反して、大一の言葉は驚くほど静かで同時にどこかディオーグ同様の重たい印象があった。
(…ディオーグ。お前にとって俺は口だけで、いつまでも決心がつかない弱い男だろう。でもな、俺にとってはそれが強さなんだ)
(気でも狂ったか?)
(正気さ。お前の言う通り何度も悩んできた。いつだって手探りの状態だ。不安だから必死に鍛えるし、わからないから正しいと思っても大切な人の気持ちをないがしろにした行動を取ってしまう。そうやって回り道でもいろんなことをしてきたからこそ、今の俺がいるんだ)
かつては自分の全てを否定していた。行ってきたことに結果が伴わず、その度に自責感に苛まれてきた。しかし今は仲間たちが受け入れてくれる、それによって大一自身もこれまでの行動を肯定できる。失敗があっても、無力であっても全てひっくるめて彼の誇りなのだ。
(それに俺は結局、自分の考える通りになればそれでいい、なんて思ってしまう自己中な性格だよ。だから朱乃さんを救うのは俺じゃなくていい。あの人が心から救われて幸せならば、彼女の隣にいるのは俺じゃなくてもいいんだ。まあ、嫉妬くらいはあるけどよ)
(…やっぱり呆れたもんだよ、この口だけ多い小僧が。でも、ひとつ腑に落ちたことがある。お前って俺と同じ頑固な身勝手野郎だな)
不思議とディオーグの態度は言葉ほど残念そうな様子はなかった。むしろなにかを期待していた。完全に自分と同じ考え方じゃない。しかし大一自身が自分の思う強さを語ってくれたことに嬉しそうな様子であった。
(それで戦いはまだ続いているが…お前はどうする?)
(ひとつ考えていたことがある。今の俺はあらゆるものを持っている。経験も知識も才能も…)
(才能?そんなのあったか?)
(気に食わない性格だし、全てを信じられるわけじゃないが、実力に置いて間違いない強さのドラゴンがいるからな。まあ、俺のじゃなくて他人の才能だが。恥も外聞も捨ててでも強くなるためには必要なことだ)
(…言っておくが、お前に力を分け与えることなんて芸当はできないぞ。欲しけりゃ奪い取って見せろ)
(そこだ。そもそも俺の魔力の引き出しはお前からいくらか貰っているんだと思う。お前との繋がりであるこの『金剛の魔生錨(アダマント・アンク)』だからこそ出来る芸当だ)
大一は黒歌の言葉を思い出す。彼女は間違いなく「生命力が別にある」と話していた。そして何度かディオーグの人格を表に出す際に彼の生命力を引き上げていることも。もし魔力とうまく合わせていつもの方法で全身にいきわたらせれば…。
(お前の力を使うことが出来る)
(裁量を間違えれば体は吹き飛ぶし、緻密なコントロールが必要だぞ)
(それでもやって見せる。むしろ…出来る気がする)
この方法は早朝にヴァ―リへの反論の最中にふと思いついたことだ。そのため失敗する可能性もある。しかし何度も修行や実戦で経験してきた大一には決して不可能な方法ではないと思えた。
大一は錨を支えにして起き上がる。すぐにギャスパーが肩を貸そうとするが、彼はそれを制した。
「ギャスパー、離れていろ」
「な、なにをする気ですか…?」
「俺にやれることだ」
戦いはまだ終わっていない。一誠が特別な力を得たとしてもそれが必ず勝利に繋がるとは限らない。大一は弟ほど手札も多くない。だからこそ手に入れたものを最大限に活かす必要があるのだ。
ディオーグの生命力を見つけると、魔力と合わせさらにいつもの方法で全身に行きわたらせるために引き上げようとする。その瞬間、大一は衝撃を受けた。まともにディオーグの生命力に向き合ってみると、その大きさと重さは計り知れなかった。山全体を覆うほど根っこが地に入り込んでいるような大木の印象を持ったが、それでも大一はコントロールできる限りの生命力を引き上げていく。
(…ここだ)
徐々に全身が熱を帯びていく。かつての悪夢で経験した押しつぶされそうな感覚に、体の内側からはじけ飛びそうな苦しさが襲ってくる。体が膨らむような感覚は彼に上着を脱がせ、靴なども苦しく感じさせた。
やがて、その苦しみも治まると大一は静かに目を開ける。見える景色は変わらないはずなのに、全身を駆け巡る力は自分が経験したことも無いほど強大であることが感じられた。
『さて、行くか』
そろそろオリ主にも頑張ってもらいましょう。