D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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読んでくださる皆さまがどう思っているのかはわかりませんが、こうなりました。


第69話 単純な関係

 大一は苛立っていた。その原因がくだらないものであることは分かっている。だがそれを気にするなという方が無理な話であった。

 ロキとの戦いの後、彼らは採掘場の整備を朝まで行った。いくら暴れられる場所とはいえ、翌日に一般人が見ればクレーターやらどでかい狼の死骸やらで大混乱になるのは間違いないからだ。疲労困憊の上に、ヴァ―リチームが消えたのは人手的な面でも苦労したのは間違いない。しかしこれが原因ではない。

 そして家に帰ると、学校は使い魔達に任せて倒れ込むようにみんな眠りについた。夜通し戦って朝まで作業をしていたのだから当然だろう。

 しかし大一は起きて、炎駒への報告もしなければいけなかった。オーディンの会談が上手くいったこと、ロキとの戦いのこと、ディオーグによるパワーアップ…話すことが多く、報告もついさっき終わったばかりだ。しかしこれも原因ではない。

 

(ぐおごごごごッ…!)

 

 大一の頭の中で、体が無いはずなのにデカい寝息を立てるドラゴンの声が響く。作業中、報告中、ずっとこの状態であった。休めない状態で、頭の中でずっと休んでいるドラゴンの寝息を聞くのはさすがに大一も苛立った。何度か強制的に人格を表に出して起こそうかとも思ったほどだ。

 大一は眠そうにあくびをする。いい加減に自分も休もうとすると、扉がノックされた。開けてみると、バラキエルがそこに立っていた。

 

「バ、バラキエル様!どうかしましたか?」

「少しキミと話したい。時間は取らせないから、いいかな?」

「…わかりました」

 

 意外な来訪者に大一の眠気は一気に吹っ飛び、少しどもりながら彼を部屋に入れる。回復を受けたとはいえフェンリルの一撃を喰らっておきながら、このように動けるのは堕天使の最高格のひとりだけあった。

 部屋のミニテーブルを挟んで、2人は向かい合うように座る。

 

「まずはキミに謝らなければならない」

「えっ?」

「先日、蔑ろな態度を取ってしまった。堕天使の幹部として、朱乃の父としてその非礼を詫びたい。申し訳なかった」

「や、止めてくださいよ。あれは俺が勝手に自己満足でやっていたものですから、謝らなければいけないのは俺の方です。申し訳ありません」

 

 バラキエルが頭を下げるのを見て、慌てた様子で大一も深々と頭を下げる。互いに頭を下げているなんとも不思議な光景であった。

 先にバラキエルが頭を上げると、複雑な表情で再び話し始める。

 

「正直なところ、私はキミを見たくなかったのだと思う。朱乃と親交を深め、彼女のために必死な様子は…朱璃を守れなかった自分がどうしてもちらついたんだ」

「本当に申し訳ありません。俺の勝手な行動でバラキエル様まで傷つけることになって…」

「私が勝手に思ったことだ。それにキミとキミの弟のおかげで朱乃と和解することもできた。もっと早く話すことができたら、と思ったよ」

 

 額を抑えてバラキエルは少し自嘲気味な笑みを浮かべる。同時にそこには安心が感じられた。話し合えば解決できた問題だったのかは、大一としては自信が持てなかった。朱乃が本当にバラキエルのことを憎んでいるわけじゃないと思ったことと、自分に出来ることが話し合いの場を設けることしか考えつかなかっただけで、今回の件はあの謎の神が現れたからこそと考えていた。自分が問題を解決したわけではない。

 しかしバラキエルは、彼が動いてくれたおかげで問題に向き合うことができたとも考えていたようであった。

 少し沈黙が流れた後に、再びバラキエルが話し出す。

 

「朱乃のことをどう思っている」

「俺は…」

 

 一瞬、言葉を切って息をのむ。舌は重く、口の中は乾いていたが出てくる言葉はハッキリしていた。

 

「とても大切で信頼できる仲間です。あの人に救われ、俺もあの人を支えたいと思いました」

「…惚れているんだな」

「否定しません」

 

 バラキエルと目が合った瞬間、大一は熱いものがこみ上げてきた。覚悟や決心のような複雑なものを抜きにして自然と言葉が出てきた自分に驚きつつも、朱乃への想いが本気であるのだと改めて感じた。

 バラキエルはわずかに表情が緩みかけたが、すぐにとりなすように厳格な表情に戻る。

 

「私は感謝こそしているが、キミを認めていない。朱乃のことはこれまで一緒にいられなかった分、私が支えるつもりだ。…しかしな、私にも立場がある。ずっと娘のそばにいてやることはできない。私がいない間、彼女を安心させてくれ。あいつはまだ弱いから…」

 

 そう言うと、バラキエルはゆっくりと立ち上がる。言いたいことを言いきった後の振る舞いはとても穏やかに見えた。

 しかし大一は扉に向かうバラキエルの後ろから声をかける。

 

「バラキエル様!お言葉ですが、朱乃さんは弱い人ではありません。たしかに弱さはありますが、それも含めて彼女は強いと俺は思っています」

「…私の知らない娘も見てきたんだな」

 

 振り返ったバラキエルの表情は今度こそ笑みが隠しきれていなかった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 数日後、部活動の時間で2年生は修学旅行の話で盛り上がっていた。大きな困難を乗り越えた後なのだから、当然のことだろう。ただアーシア、ゼノヴィア、イリナの話す内容が女性の下着関連という明らかになにか間違っている内容だったことに、大一は懐疑的であったが。

 そしてもうひとつ不思議であったのが…。

 

「もう、終わりだわ!うぅぅぅぅっ!酷い!オーディン様ったら、酷い!私を置いていくなんて!」

 

 部室の中央でロスヴァイセが涙ながらに叫んでいた。オーディンは会談後になぜか彼女を置いてそのまま北欧に帰ってしまった。本来なら連絡のひとつやふたつあってもおかしくないのに、それすらもなかった。

 

「リストラ!これ、リストラよね!私、あんなにオーディン様のために頑張ったのに日本に置いていかれるなんて!どうせ私は仕事が出来ない女よ!処女よ!彼氏いない歴=年齢ですよ!」

 

 完全にヤケになっている彼女に様子に気圧されて声すらかけられなかったが、ここでリアスが慰めるように彼女の肩に手を置く。

 

「もう、泣かないでロスヴァイセ。この学園で働けるようにしておいたから」

「…グスン。ほ、本当に?」

「ええ。希望通り、女性教諭ってことでいいのよね?女子生徒ではなくて?」

「もちろんです…。私、これでも飛び級で祖国の学舎を卒業しているもの。歳は若いけれど、教員として教えられます。けど、私、この国でやっていけるのかしら…?かといって国に戻っても『どのツラ下げてオーディン様の後から帰還したのか?』って怒られるでしょうし、挙句の果てに左遷されそうだし…っ!うぅっ…せっかく安定した生活が送れそうな職に就けたのに!」

「うふふ、そこでこのプラン」

 

 ずぶずぶと考えが泥沼化していくロスヴァイセに、リアスは畳みかけるように書類を取り出して見せる。彼女は悪魔になるとどれだけお得なことがあるかを説明していった。保険金、賃金、サービス、その他もろもろ…瞬く間にロスヴァイセの心は悪魔へと移っていった。とどめとばかりにリアスは悪魔の駒を取り出す。

 

「そんなわけで、冥界で一仕事するためにも私の眷属にならない?あなたのその魔術、『戦車』として得ることで動ける魔術砲台要員になれると思うの。ただ駒の消費がひとつで済めば良いのだけれど」

 

 リアスの申し出に全員が驚く。例の戦車の駒は、彼女にとって最後の駒であった。それほどロスヴァイセが欲しい人材であるということだろう。

 そして当の本人はすでに決意が決まっていた様子であった。

 

「…どこか運命を感じます。私の勝手な空想ですけど、それでも冥界の病院であなたたちに出会った時から、こうなるのが決まっていたかもしれませんね」

 

 そう言うと、ロスヴァイセは駒を受け取る。その瞬間、まばゆい紅い閃光が室内を覆い、光が落ち着くと悪魔の翼が生えたロスヴァイセが立っていた。

 

「皆さん、悪魔に転生しました。元ヴァルキリーのロスヴァイセです。何やら、冥界の年金や健康保険が祖国のよりも魅力的で、グレモリーさんの財政面も含め、将来の安心度も高いので悪魔になってみました。どうぞ、これからもよろしくお願い致します」

「というわけで、皆、私───リアス・グレモリーの最後の『戦車』は彼女、ロスヴァイセとなりました」

 

 新たに仲間となったロスヴァイセを皆が歓迎するが、大一としてはさっきからどうにもイヤな考えが飛び交ってしょうがなかった。

 

「…まさか、眷属に引き入れるためにわざと置いていくように仕向けたとかじゃないだろうな」

「部長からそういう話は聞いていませんでしたけど」

 

 いつの間にか隣にいた朱乃が、大一の独り言に返事をかえす。あまりにも唐突であったため一瞬体が震えるが、すぐに咳払いをして誤魔化した。

 

「いや…なんか段取りが良すぎると思ってさ」

「やりかねませんものね、あの人なら」

「しかも学生という選択肢があったってことは…あの人、俺らと年齢変わらない?」

「同い年かも。後で聞いてみようかしら」

 

 なんとなく懐かしいやり取りに感じた。部活だから互いに一歩引いているが、何度も経験してきたやり取りは心地よく、最近の重苦しく複雑なものと比べてスッキリとした感覚であった。

 そんな中、朱乃は弁当箱…といってもお重のようなものを取り出した。

 

「あっ、そうそう。大一、よかったらこれ食べてみない?」

「うーん…肉じゃが?」

「そう。作り過ぎちゃって、みんなにも食べてもらう前に味を確認してもらおうと思って」

「毒見かよ!…いや、もらうけど」

 

 大一は中に入っていた肉じゃがを指でつまんで口に入れる。程よい塩加減に、だしがよく効いていて彼にとって好みの味付けであった。

 

「美味いな。個人的にすごく好みだよ」

「本当にッ!」

「うおっ!急に声上げないでくれよ」

「あっ…ご、ごめんなさいね。みんなにも食べてもらってきますわ」

 

 先ほどの大一と同じように誤魔化すような反応を見せると、彼女は仲間達に自分の料理を振る舞った。その笑顔は、大一が渇望していた心からの笑顔であったのは疑いようもなかった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 その日の夜、大一はベッドに腰をかけながらディオーグと話していた。幸い、悪魔の仕事が入っていなかったことと先日の疲労感からこの日はトレーニングを休んでいた。

 

(もうちょっと食いたかったな)

(食い意地張っているな。あの肉じゃが、多分バラキエル様のためのものだぞ)

 

 ぼやくディオーグに大一が指摘する。バラキエルはこの日に帰ることになっていた。部活動にアザゼルがいなかったのも、彼だけで見送りに行ったからであった。そしてアザゼルがこっそりと朱乃から弁当を預かっていたのも大一は知っていた。

 

(あの状態になると腹減ると思うんだよ)

(お前が食いたいだけで適当な理由をでっちあげるなよ。だいたいお前と融合してから、俺は間違いなく食べる量増えたぞ)

(それで困ることは無いんだろ?)

(…まあ、ないけどよ)

 

 ディオーグとのやり取りもだいぶ穏やかにできるようになったと大一は思った。きっかけや出会いは歓迎できたものではなく、そのつながりから数年間辛い想いもしてきた。まだわからないことも多く、危険性を孕んでいるのも否定できない。

 しかし彼の強さやその信念は確固たるものであり、これからの自分には必要だと大一は確信した。もろ手を挙げて信じるまではいかないが、ディオーグに対して前向きな感情を抱けるようになったのは大きかった。

 すると部屋の扉がノックされ、朱乃の声が聞こえた。

 

「大一、まだ起きている?」

「起きているよ。ちょっと待っていて、開けるから」

(なんかこんなこと、この前の堕天使の時もあったよな)

(…お前、あの時起きていたのか)

 

 大一の問いにディオーグは答えずに引っ込んでいった。あの寝息がわざとであることを知ると、さっきまでの穏やかなやり取りも急に腹立たしいものになった。

 大一が扉を開けると、髪を下ろしており、薄い着物という寝間着姿の朱乃が小さいお盆を持って立っていた。お盆の上のマグカップの中にはココアが入っている。

 

「ちょっと話がしたくて…この間飲み損ねたココアでもどう?」

「あー…いいよ。入って」

 

 朱乃は大一の部屋に入ると、テーブルにお盆を置きココアを彼に渡す。大一はそのままテーブルの近くに座ろうとしたが、朱乃が彼のベッドに座り込み、隣に座るようにベッドをポンポンと叩く。

 少し迷いながらも、大一は彼女に従ってその隣に座った。しかし互いに相手に顔は向けず、すぐに話し始めないで、静かにココアを飲んでいた。ホッとする甘さが口に広がっているはずだが、大一は緊張して熱いものを飲んでいるような感覚しかなかった。

 この状況で、口火を切ったのは朱乃の方からであった。

 

「部活の時の肉じゃが、気に入ってくれた?」

「ああ、うん。すごく美味しかったよ。バラキエル様も喜んでいるだろうさ」

「気づいていたの?」

「いや、実際は偶然見ただけだったんだけど…。しかしあの肉じゃが、作りすぎたって言っていたけど、最初からみんなにごちそうするつもりだっただろ」

「食べてもらいたかった人がいたもの」

 

 朱乃は視線を合わせずに、肩をすくめて答える。誤魔化しているようにも見えたその姿に、大一はココアを一気に飲み干してテーブルへと置きに行く。やはり自分は彼女の隣には座れない、そんな想いがよぎってしまった。迷惑をかけた自分よりも相応しい相手がいるだろう。

 

「あのさ、朱乃さん。俺はさ…あなたが誰を好きになっても親友として応援するから」

 

 振り返って大一は朱乃に伝える。正直な気持ちを言葉にはしない。それで彼女に引きずらせることはしたくない。バラキエルに言われたように支えになるだけでいい。今日の部活のように信頼ありきの仲間としての関係が心地よかったのだから。

 そんな彼の言葉を聞いて、朱乃も立ち上がり中身がまだ残っているココアを盆の上に置いた。そして再びベッドの上に座ると、大一の顔をハッキリと見た。

 

「イッセーくんにはとても感謝しているわ。父さまと仲直りできたのは彼のおかげだもの。でもイッセーくんだけじゃない。あなたが私のために頑張ってくれたおかげでもあるの」

「俺は…なにもしていないよ」

「私が堕天使のハーフであると神社で話した時も同じような反応していたわ。その時も私はその言葉を否定した。今回も同じ気持ちよ。大一がいるだけで私は…」

 

 朱乃は一度そこで言葉を切ると、自分を落ち着かせるように深く呼吸する。心が締め付けられるような感情を抱いたが、彼女に苦しみはなかった。

 

「私ね、今日みたいに大一と話せるのがとても楽しいの」

「俺もそうだよ。安心するんだ」

「おそらくだけど、それって関係が複雑すぎないからできたと思うの」

「…それはあるかもしれない」

「あなたが親友として私を応援してくれるのはとても嬉しいわ。でも…でも私はもっと───」

「ごめん、朱乃さん!ちょっと待って!」

 

 朱乃が続けようとした言葉を大一は制すると、彼も大きく深呼吸する。頭の中では先日のリアスから言われたアドバイスが響いていた。

 大一は意を決して彼女の隣に再び座った。

 

「ごめん、俺やっぱり自分勝手だ。朱乃さんに背負わせたくないから、想いを伝えようとしなかったけど…このまま言わないのはやっぱり辛い。それにこういうのは男の方から言うべきだろうし…。

 あー…朱乃さん、俺はあなたが好きだ。一緒にいると楽しいし、その笑顔が好きなんだ。出来ることなら…あなたを支えたいし、支えて欲しいとも思っている。だから親友としてではなく…その…付き合いたい…です…はい…」

 

 尻すぼみ気味に想いを伝えた大一の顔は主の真紅の髪のように赤くなっていた。だがそれに勝るとも劣らないほど、朱乃の方も赤くなり同時に目に涙をためていた。

 朱乃はそのままベッドに大一を押し倒すと、顔を近づけて体を預けた。

 

「やっと神社での想いを受け止めてくれた…。これでスッキリした関係になるわね」

「俺でいいの?」

「あなたを知っているからよ。私がずっと好きでいられるような男性でいて欲しいわ」

「…悪魔になってから一番幸せかもしれない」

「これからもっとそんな想いをしましょう。私もそうしたいし…まずは…」

 

 朱乃は静かに顔を近づけると、互いの唇を触れさせる。それだけなのに2人とも全身の血が沸騰するかのような暑さを感じてしまった。

 

「私は我慢しない方よ」

「…朱乃さん、節度は守りながらにしよう」

「呼び方は?」

「そうだった…朱乃、これからもよろしく」

「こちらこそ、大一」

 




別に問題を解決したかどうかで変わる必要は無いと思うんですよ。ということで7巻分は終わりです。
それで9巻に行きたいのですが、ちょっと友人に貸していて現在手元にありません。なのでしばらく別の内容を考えます。アンケートとかも視野に入れています。
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