D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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8巻の書き下ろしの回です。サタンレンジャーは出てきません。おそらくだけど、オリ主は魔王全員に苦手意識はあると思う…。


アクマのおしごと
第70話 師匠と弟子


「大変だわ」

 

 休日の早朝からリアスは落ちつかなかった。念入りに掃除をして、身だしなみを何度も確認、そして意味もなく行ったり来たりを繰り返していた。

 当然、彼女がここまで昂るのには理由がある。この日、兵藤家にグレイフィアが来ることになっていた。しかしいつもと違い今日はプライベートのため、サーゼクスの妻であり、リアスの義姉として来るのだ。リアスは義姉としてのグレイフィアが厳しさゆえに苦手意識を持っており、昨日来訪する連絡が来てからは落ち着きがなかった。

 朱乃と大一はすでにこのことを彼女から聞いていたが、特別手助けはしなかった。というよりも、リアスが2人の申し出を断った。彼女なりに義姉を迎えるのは自分でありたかったのだろう。

 同居する仲間達に見守られながら、リアスは忙しそうにやることを整理すると、一誠にも目を向ける。

 

「お、お茶の用意もしておかないといけないわ。イッセー、あなたもきちんとしていてちょうだい。きっと、あなたのこともチェックするでしょうから」

「お、俺もですか?えっと、どうしてですか…?」

「あなたは…ほ、ほら、と、特別だから…」

 

 一誠の問いにリアスは顔を赤らめながら答える。彼女の状態でその意味を分かっていなさそうなのは一誠だけであった。

 

「あそこまでなってわからないものかね」

「あらあら、大一に言われるなんてイッセーくんも相当ね」

「手厳しいな」

 

 リアスと一誠のやり取りを見ながら、大一と朱乃も互いにいつもの調子でやり取りする。この様子なので2人の関係が進展したのを仲間達は知る由もなかった。

 間もなく、玄関のチャイムが鳴る。リアスの様子から誰なのかはすぐに察しがついた。彼女は急いで玄関へと向かい、仲間たちも後を追うようについていった。

 玄関口が開かれると、そこにはいつもと雰囲気の違うグレイフィアが立っていた。ブランド物の落ち着いた服装に髪をアップにした姿は、いつものメイド姿の彼女とはまるで違いながらも美しさが確立されていた。

 

「ごきげんよう、皆さん。ごきげんよう、リアス」

「ごきげんよう、お義姉さま」

 

 気品ある笑顔であいさつするグレイフィアに、リアスもあいさつを返す。どう見ても緊張の色が現れていた。彼女の様子に半分呆れも感じた大一であったが、間もなくそんな感情を吹っ飛ばす相手が現れた。

 

「お久しゅうございますな、姫さま、大一殿」

 

 全身が赤い鱗に覆われ、鹿や馬に似たような胴体を持ち、顔は東洋の龍のような見た目…その姿は大一にとって見慣れていながらも衝撃的な相手であった。

 開いた口が塞がらない大一をよそにその生物は一誠にあいさつをする。

 

「これは赤龍帝殿。お初にお目にかかる。私はサーゼクス様にお仕えする『兵士』───炎駒と申す者です。以後、お見知りおきを」

「は、はあ、こちらこそよろしくお願いします」

 

 いきなりのあいさつに驚きながらも一誠は対応する。すると少し思い出すような表情をした後、兄へと視線を向けた。

 

「兄貴、もしかしてこの人が…?」

「あ、ああ。俺の師匠で麒麟っていう伝説の生物なんだけど…どうしたんですか、炎駒さん。来るなんて聞いていませんよ」

「いやなに、我らが偉大なる『女王』にして、主の奥方であるグレイフィア様が正式に訪問なさるのに護衛もなしではと思いましてな。もちろん私がいなくても問題がグレイフィア様を襲うなどと露ほども思いも致しませぬが。それにこのお屋敷に幸運を少しでも訪れさせることができれば幸いだと思い、馳せ参じたところもあります。姫様と若である赤龍帝のお顔を拝見できて良かった」

 

 炎駒の表情は嬉しそうであった。麒麟が来た家には良いことがあるという己の存在についても、よく理解した発言であった。

 

「しかし今日はグレイフィア様のご都合の日。私としては長居するわけにもいきません」

「あら、私は気にしませんよ」

「いえいえ、姫とのお話もあるでしょうし、サーゼクス様の眷属として私も仕事がありますため。ただ少し───」

 言葉を切った炎駒は大一へと視線を向ける。つい先日も報告で話したのに、その眼は期待に満ちていた。

 

「我が弟子と話はしたいですな。少し歩きませんかな?姫、借りても構いませんか?」

「私はいいけど…」

「俺も問題ないですよ」

「それでは…」

 

 炎駒は床を軽く踏み鳴らすと、魔法陣が現れて彼を覆う。さっきまでと打って変わり、スーツ姿に身を包んだひげを蓄えた初老の男性へと姿を変えていた。大一も見たことのない変装だった。

 

「参りましょう」

 

────────────────────────────────────────────

 

「この町を歩くのは久しぶりですな…今でもトレーニングは例の広場で?」

「朝の走り込みとか、錨の素振りはそこですね。トレーニングルームとか、ディオドラ戦を終えて使用許可を頂いたフィールドもあるので、行く機会は減りましたが」

「利用できるものは使うに越したことありませんからな」

 

 町中を歩く大一と炎駒に目的地は特になかった。ただぶらぶらと散歩しており、話の内容も昔を懐かしむようなもので、いつもの報告とはまったく違った雰囲気であった。

 炎駒とは報告のたびに何度も話してきた。夏休みに冥界でも会った。それでもかつて師事を受けてきた人間界でこのような形で会うのは身が引き締まる思いと同時に、相反するような穏やかな感情も沸き上がっていた。

 

「いやはや、この地で私が見守ってきた者達が成長していると思うと感慨深いものです。ましてや姫は想い人まで見つけて…」

「一誠のことでしたら脈はあると思いますが、どうも煮え切らない感じはありますね。まあ、リアスさんの立場でしたら外堀から埋めるのは間違ってはいないと思いますよ。ただ相当お膳立てしないと厳しい気もしますが」

「ふむ、そのあたりはグレイフィア様も危惧しておられましたな。悪魔の出生率も下がっていますし、上手くいかないものです」

 

 悪魔界全体での問題ともなれば、名家も無関係とはいかない。ましてやライザーの一件があったのだから尚更であった。

 

「大一殿にもそろそろ…」

「炎駒さん、俺のことまで気にしていたんですか!?」

「当然です。あなたがむやみに責任を負うようなことをしていたから口出してきませんでしたが、悪魔の未来や大一殿の幸せを考えれば師として気になるものです」

 

 炎駒の発言に大一は努めて驚いた様子だけを見せる。彼に本当のことを言おうか迷ったが、せっかく少しゆっくりとした場面で朱乃との関係性を打ち明けるのは抵抗があった。なによりも大一自身がまだどこか気恥ずかしさを感じるのが最大の理由であったが。

 

「今回は姫にグレモリー家の遺跡の通過儀礼についてグレイフィア様は話すつもりようでした」

「初耳ですね。なんですか、それ?」

「いや実は私も詳しくは無いのですが、なんでもある年齢を境に挑むのだとか。サーゼクス様も関係しているようです」

 

 炎駒は肩をすくめながら答える。なぜかグレモリー家特有の謎のものであるのと同時に、サーゼクス絡みであると聞くとろくでもないことな気がした。大一の中ではサーゼクスは信用こそできるものの、おふざけに対しても全力なので公的な場でないといまいち反応に困る相手であった。

 そう思うと、急にその魔王の眷属である炎駒の仕事にまで不安を感じてしまった。それこそ以前、いくつかサーゼクスが仕事を投げ出したと大一に言っていたように。

 

「お仕事は大丈夫ですか?」

「もう少しこの辺りを歩いたら戻ります。といっても、私は空いた休憩時間を利用してグレイフィア様を送ったにすぎませんので、夜には時間が空きますため。まあ、観光したい気持ちは無いと言えば嘘になりますが、それよりかは…」

 

 炎駒はあごを撫でながらもったいぶるように言葉を切る。余裕ある彼の態度は、大一としてもあまり見たことが無かったため印象的であった。彼なりに大一のことで悩みが軽減されたことが原因であることまでは看破できなかったようだが。

 

「大一殿と久しぶりに手合わせくらいはしたいですな」

「…本気で言ってます?」

「私はいつでも本気のつもりですぞ」

 

 穏やかに笑う炎駒に、大一は困ったように頭を掻く。彼の言う手合わせは、大一にとって一度もまともに相手ができた覚えはなかった。徹底的にどう動くか、どこを見るか、どう立ち回るか、あらゆる面で実践的な動き方を叩きこむものであり、炎駒がリアスの補佐を終える最後までも振り回されてばかりであった。

 そんな思い出しかないからこそ、彼の「手合わせ」という言葉には無意識に身構えてしまう。

 大一が内心緊張しているのを見透かすように、炎駒はくっくっと笑いをこぼす。

 

「お気持ちはわかります。しかし私も久しぶりに師らしいことをしたくありまして…」

「なにかきっかけがあったんですか?」

「まあ、我が主の影響と言っておきましょう。今日の夜、先ほど話していた例のフィールドでどうですかな?」

「悪魔の仕事はありませんが…」

「それはけっこう」

 

 ゆっくり歩いて再び家の前につくと、炎駒はなにやらメモ用紙に走り書きをして大一に渡す。

 

「緊急で無理になったらこれに連絡を。それでは今日の夜、待っています」

 

 それだけ言い残すと、炎駒は赤い霧となってその場から消えていった。すでに引き受けたことを少し後悔しつつも、相手の胸を借りるつもりで大一は気持ちを引き締めるのであった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 場所は冥界グレモリー領のとある地下に作られたバトルフィールド。ディオドラ戦の活躍で、リアス達に褒美として与えられた広い練習場であった。大一はあまり利用したことが無かったが、他のメンバーと模擬戦をやる際などは活用している。

 約束の時間、大一はそこで炎駒を待っていたのだが…。

 

「だからってなんでみんな来るんだよ…」

 

 後ろのメンバーに大一はつぶやく。リアスを筆頭にグレモリー眷属全員が来ていた。それどころかイリナやアザゼルまでいる。誰にも話していないはずなのに、どこから話が漏れたのかは甚だ疑問であった。もっとも反応は多種多様であったが。

 

「いやあ、大一さんと炎駒さんの手合わせってだけで学ぶことは多いですよ」

「トップクラスの眷属の戦いは私も知りたいしな」

 

 祐斗やゼノヴィアのように今後に活かすために来た者もいれば…。

 

「先輩、頑張ってください」

「お、応援してます!」

「怪我の時は私がいますので!」

 

 見学&応援として来ている小猫、ギャスパー、アーシアの後輩組はわりと普通の理由であった。

 

「あのルシファー眷属かぁ!どんな戦いするのかしら?」

「ここで悪魔について少しでも学ばないと…」

 

 イリナとロスヴァイセは異文化を少しでも知っておきたいのに対して…。

 

「さて、ロキ戦に参加できなかった分、大一の能力…どういうものか見定めさせてもらうぜ」

 

 悪だくみをするような笑顔のアザゼルには明らかに別の目的が見られる。

 

「ああ…儀式が不安だわ」

「部長、大丈夫ですって」

 

 不安そうにしているリアスと彼女を励ます一誠に関しては、この場にいる理由すらもはや謎であった。あまり知った仲間に見られながら手合わせというのも、平常心ではいられない。

 

「大一、頑張ってね」

 

 もっとも朱乃の応援がポジティブな方向に彼の平常心を失わせていたが。それに気づいたディオーグは呆れ半分、昂り半分で声をかける。

 

(ちょろい奴…だがこれはチャンスだ。あの奇妙な生き物の喉元食いちぎってやるよ!)

(殺し合いするんじゃねえんだぞ。あの人は俺の師匠なんだから)

(やるからには相手を叩きのめすくらいの覚悟は持つべきなんだよ。そら、来やがった)

「いやはや、少々遅れて申し訳ありません」

 

 赤い霧が目の前に集まっていくと、そこから炎駒が現れる。いつもの麒麟の姿であり、仕事終わりだというのに微塵も疲れを感じさせない立ち振る舞いであった。

 

「おや、姫たちまで…」

「すいません。どこかで気づかれまして」

「なに、気にすることではありません。私はただ…あなたの成長が見たいのですから」

 

 言葉を終えると同時に炎駒は口から魔力によって作り出した火球を撃ちだす。突然の強襲に後ろのメンバーは驚いた様子であったが、大一はすぐに錨を出してその火球を真っ二つに割った。

 

「突然の強襲にも対応できる反射神経…見事」

「あなたに鍛えてもらったからですよ。胸を借りるつもりで全力で行かせてもらいます」

「元よりそのつもり」

 

 大一は口に魔力を溜めると数発、炎駒に向かって撃ち出す。範囲はそれなりなものの、威力の低さを看破した炎駒は再び火球で応戦した。互いの魔力がフィールド中央でぶつかり黒煙が辺りを覆っていく。

 当然、煙にまみれて突撃してくるものだと炎駒は考えていたが、予想に反してすぐに大一が向かってくることは無かった。代わりに魔力がぶつかり合った先で強力な力を感じる。

 

『わざわざ時間を取ってくるなんて、俺のこの力が気になったからでしょう?』

「おや、バレましたか。しかし大一殿の力を見たいと思ったのは事実ですよ」

『だったら、ちょうどよかったですね。この能力…俺があなたから学んだ戦い、技術を活かせるものなんですよ』

 

 そう言った大一の姿は半人半龍ともいうべき姿になっていた。この状態になるにあたりディオーグの生命力を引き上げるためにわずかな時間を要する。本当に一瞬の隙ではあるものの、炎駒ならそのタイミングを狙ってくると思われたため牽制を行っていた。

 姿を変えた大一は炎駒の遠距離攻撃の狙いを定めさせないようにジグザグに走る。接近戦に持ち込むことが自分の本気を最も引き出せるものであった。

 しかし炎駒も当然それはわかっている。前方に大きめの竜巻を発生させると、それを利用して大一を一気に上へと吹き飛ばした。さらに上空に上がったのを確認すると、狙い撃つように自身の口から火球、さらに大一の上からは雷を落とすという挟み込みの攻撃を行った。

 さすがに避けられないと踏んだ大一は全身に魔力を行きわたらせて体の硬度を上げる。さらに重さも上げて錨を上空から地に向かって振り下ろしていった。火球も雷も受けるもののそれを耐えきった大一の目はギラギラと輝いていた。この一瞬でわかった。炎駒の期待、喜び、弟子として師の想いを感じたのだ。

 大一の振り下ろしの攻撃を防御魔法陣で防ごうとするが、直前になって素早く後退して攻撃をかわす。

 だがそこで攻撃の手は緩めずに、規模の小さい竜巻を周辺に発生させて独楽のように動きながら大一へと向かわせた。四方八方から向かってくる攻撃にも体を重くさせて吹き飛ばされないようにすると、錨と背に生えた尻尾で器用に処理していった。

 その隙を見て、先ほどの数倍はある火球を炎駒が撃ち出す。見た目以上に濃い魔力は、最初の不意打ちとは遥かに違う威力であることを物語っていた。しかしこの一撃すらも最初と同じように真正面から錨で割った。

 短い時間でありながらも、大一にとってまったく油断できない猛攻であった。火球は彼も知っていたが、竜巻や雷までは彼も初めての攻撃であった。そして防ぐたびにその威力の高さに衝撃を感じるのであった。

 攻撃がひと段落つくと、炎駒は言葉をかみしめるように静かに話す。

 

「…成長しましたな、大一殿。あなたが冥界で話した決意が本物であることが身に沁みました」

『俺なんて、まだまだですよ。炎駒さんが本気を出していないのわかりますもの』

「気づけることが素晴らしいのです。それに正直なところ、私の最後の一撃は実戦級でもあります。あなたは間違いなく強くなっている。それは今後も胸にとどめてください」

『…ありがとうございます』

 

 短い手合わせであった。当然、勝てたわけでもない。しかし、実力の面で炎駒から認められたことは、長い間どこかで常に抱いていた無力感が払しょくされるほど嬉しいことであった。

 目に少し涙を溜めながら、大一は炎駒に笑顔を向ける。化け物のごとき恐ろしい笑顔でありながらも、弟子の屈託のない笑顔は炎駒の心にも安心と光を感じるものであった。こうして久しぶりの師弟の交流は幕を閉じたのであった。

 




9巻が返ってくる見通しがまだ立たないので、アンケートをやってみようと思います。もっと内容的に詳しいリクエストがあれば、活動報告やメッセージの方にお願いします。やり方がまだよくわかっていないので、おかしければ指摘していただけると助かります。

現状で誰とのやり取りが読みたいですか?

  • 一誠、祐斗などの男組
  • リアス、朱乃の同級生
  • アーシアなどの2年生後輩
  • 小猫などの1年生後輩
  • アザゼルなどの年上組
  • 生徒会メンバー
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