D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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別にみんなの前で告白したわけでもないから、関係性は聞かれないとバレませんよね。


第71話 愛の不安

 ある日の部室、珍しくそこにはリアスと朱乃しかいなかった。2年生は修学旅行の準備、大一と小猫はアザゼルによるギャスパー外出計画を実行中、教師陣はまだ仕事と軒並み人がいない状態であった。こんな状況では学園祭の準備などやろうとも思えなかった。

 2人で紅茶を飲みながら、その静かさをしみじみと味わっていた。

 

「なんか久しぶりよね、私達だけって」

「ずいぶん賑やかになりましたものね」

 

 考えてみれば、ここ数年で下僕をそろえた上に、天使や堕天使との繋がりまで出来た。リアスとしてもまさかここまで交流関係が広まるとは思っていなかったため、今の静かな環境は懐かしさを感じられた。

 

「でもまた少ししたら修学旅行ですから静かになりますわ。アザゼル先生やロスヴァイセさんも行きますから」

「そうよね…」

 

 朱乃の言葉に、リアスは目を逸らしながら紅茶を飲む。本音を悟られないために少しこわばる表情、特別な相手を思うからこそ出てくる寂し気な目、我が親友ながらなんとわかりやすい反応だと、朱乃は思った。

 

「イッセーくんと会えないのは寂しいわよね。それにアーシアちゃん達もいるから…いろいろと先を越されちゃう心配も」

「わかっているなら言わないでよ」

 

 軽く鼻を鳴らしながらリアスは不満を表す。先日、魔王達の試練なのかおふざけなのか分からないものを一誠と共に乗り切ったリアスであったが、いまいち関係の前進を感じられなかった。

 どうもここ最近、リアスとしても一誠との関係に悩むことが増えてきたのは否定できない。彼を眷属に引き入れ、さらに惚れるきっかけにもなったライザーとの件から数か月。彼女なりにアプローチはしてきたつもりだが、リアスとしては主従関係を抜け出せていない気がした。一誠はたしかに甘えてきたり、胸を触られたりもあるが、男女の関係とはまた違ったのは否定しようもない。

 リアスは親友にアピールするかの如く頬杖をついて指で自身の顔を何度もトントンと叩く。表情も相まって、効果は抜群であった。

 

「あらあら、そんな大人げない様子は見せるものじゃないと思うわ」

「朱乃以外、誰もいないからいいもん。というか、あなただっていい加減にあの龍の気を吸い出すの止めなさいよ」

「それは仕方ないところもあるでしょう。リアスは立場上どうしても無理な時はあるんだし。それに私も前よりは回数は減らしているわよ?」

「それはそうなんだけどー!」

 

 気持ちの整理がつかない様子でリアスは体を震わせる。一誠の腕を考えれば、龍の気を指から吸い出すのは仕方ないことだが、あの儀式自体が扇情的な雰囲気があったため、一誠が朱乃に目移りしているように見えてしまう。

 そもそも眷属の多くが彼に干渉しているような気がして仕方が無かった。女性陣はもちろんのこと、男性陣も含めてだ。それが無いのは仲間になったばかりのロスヴァイセぐらいのものだろう。

 すっかり意気消沈した様子でうなだれるリアスとは対照的に、朱乃は淡々と笑みを浮かべながら彼女の相手をしていた。

 

「自分で言うのもなんだけど、私だって頑張っているつもりよ…」

「それでも上手くいかないから難しいものね」

「まったくよ。元さやに戻ったあなたと大一はいいわよね」

 

 リアスは口をとがらせて、目先にいる笑顔の親友に言う。朱乃は表情をあまり変えなかったが、ほんのりと頬を染める姿は同性から見ても色気を感じられた。

 

「あら、気づかれていたのね」

「まあ、黒影の時の件や最近の様子を見ればね。あなたが大一に特別な感情を抱いているのはわかっているけど、だからってそれに一誠を巻き込むのは止めて欲しいわ」

「…リアス、ちょっとだけ情報が古いわね」

「また前みたいに話しているじゃない?」

 

 朱乃の少し面喰った様子に、リアスも不思議そうに返す。ロキとの戦いの後、バラキエルの一件が解決した彼女は以前のように明るさを取り戻していた。そんな中で大一とのやり取りも以前と同じように、軽口を叩きあうくらいのものになっていた。

 

「それはそうなんだけど、もう少し関係が進んだというか…」

「…えっ、ウソでしょ!?」

 

 朱乃の言おうとしていることに気がつくと、リアスは目を見開いて驚きを露わにする。正直なところ、まるで予想していなかったので親友の告白はあまりにも衝撃的であった。

 リアスの驚きように、朱乃も少し戸惑いながら答える。

 

「むしろ全然気づいていなかったのね。ここ最近、大一だって私のことを呼び捨てにすること増えたのに」

「いやだって、長年の付き合いだったから私の中では勝手にそう呼んでいるものだと…。そうだったのね…へえ…おめでとう」

「ありがとう。ファーストキスもしちゃったし、本当にこれからよ」

「まさか大一から!?」

「私の方から。でも告白は彼からだったわ」

 

 言いたくて仕方が無いように体を弾ませる朱乃の惚気に、リアスは喰いつく。親友の恋愛というだけでも大きな話題なのに、それが自分のよく知る仲間同士となれば気にもなるだろう。

 朱乃の方もこの話をどこかで話したかったようで、いつもの大人びた様子はすっかり鳴りを潜めて嬉しさと気恥ずかしさの入り混じったどこか甘さを感じるような少女の表情であった。

 

「むう…親友同士が上手くいくのは嬉しいけど、羨ましくも思うわ」

「うふふ、嫉妬を受けるのもいいものね」

「相変わらず、そういうところはSなのね。でも気をつけなさいよ」

「あら、大一は私のことを見ていてくれるから大丈夫よ」

「自惚れ過ぎは注意しなさいってことよ。付き合っていても、ぼやぼやしていたら奪われるかもよ」

「…大一がモテるイメージなんてないわ」

 

 朱乃は肩をすくめながら答える。彼女の中で、大一は悪魔になってからずっと気の置ける仲間であった。気軽に毒を吐いても対応してくれるし、共にリアスを支える身として不思議な親近感があった。そんな彼だからこそ、堕天使のことを受け入れてくれたことは嬉しかったし、それからも信頼関係が揺るがなかったことは心地よかった。意識したのはそれこそ自分に協力的にしてくれたことであったが、3年以上の時間で積み重ねた親愛が大きいのは否定できない。

 それゆえか、大一の本当の強みに気づいているのは自分だけという想いがどこかにあった。また彼自身が長年ストイックに振舞っていたのも、他の女子には目移りしないだろうという勝手な考えも抱いていた。

 そんな中で、リアスの指摘は朱乃を少し不安にさせる。考えてみれば、この自信が根拠のないものなのだ。

 

「例えばだけど、私はイッセーがおっぱいを好きなのを知っているわ」

「自信を持って言うことじゃないと思うのだけれど」

「でも好きな人の好みを知っておくことに越したことは無いじゃない?…自分で言っていてあれだけど、大一のそういう好みってわかる?」

「リアス…不安にさせるようなこと言わないでよ!」

 

 少し涙目気味で反論する朱乃に申し訳なさと、普段のSな彼女とは真逆の反応に不覚にも可愛さをリアスは感じるのであった。

 

────────────────────────────────────────────

 

「ったく、この人手が少ない時期にやらせなくてもいいだろうに」

「アザゼル先生の意図はわかりかねます」

「ごめんなさいィィィ!僕のことに付き合わせてしまってッ!」

 

 大一と小猫が目を細めて不満を漏らすのに対して、紙袋を被ったギャスパーがオドオドしながら謝る。身長差のあるこの3人は街中でもそれなりに目立つ組み合わせであった。

 

「いや、ギャスパーは悪くない。アザゼル先生が悪い」

「同意します。渡されたお金で買い物って完全にパシリじゃないですか。お釣りでなにか食べちゃいましょう」

 

 小猫は財布の中身を見ながら答える。このギャスパー外出計画だが、今回はアザゼルのお使いのついでに頼まれたのは事実であった。どうも最近、彼の方にも冥界への連絡に加え、会議の出席、さらに修学旅行も近いせいかどうも忙しかった。

 もっとも本当に忙しいなら、ここまで大一達もぼやきはしない。実際のところは意味の分からない研究など自分の趣味を優先させて、さらに定期的に厄介ごとを引き起こしているため、いくら忙しいと言われても腑に落ちないところがあったのだ。

 すでに買い物も終えていた彼らは歩きながら店を物色する。買い物内容も欲しがる理由が分からない市販の医薬品や徹夜の備えのための栄養ドリンクに加え、新作ゲーム(限定特典付き)なんてものまであるのだからよくわからなかった。

 

「ぼ、僕はもう帰りたいですぅぅぅ!」

「まあまあ、ちょっとくらいゆっくりしていこう。それにリアスさん達だけの時間を作ってあげるのもありじゃないか」

「…先輩、ギャーくん、あそこにしましょう」

 

 小猫が指さしたのは、いつぞや彼女から祐斗の件で相談を受けた喫茶店であった。幸い、そこまで混んでいる様子はなく、3人でそこに入っていく。

 表情には出さないながらも嬉しそうにメニューを取る小猫に、案内された席が人目のつきにくい壁側であったことに安心するギャスパー、荷物を置いて一息つく大一と少なくとも3人ともこの茶店に入ったことは正解であると思った。

 3人はそれぞれ注文すると、再び話し始めた。

 

「正直、ギャスパーは一誠の特撮番組にがっつり出させてもらえたら自信でもつくんじゃねえの?」

「むむむむ無理ですよォォォォ!」

「先輩は出ないんですか?一緒にやりましょう」

「そういえば、小猫は祐斗と一緒になんかの役やっているんだってな」

 

 「おっぱいドラゴン」で出演しているのは一誠だけではなかった。リアス、祐斗、小猫と他の眷属たちも参加している。彼女の役は「ヘルキャットちゃん」というもので、一誠の味方役であった。

 

「いや、なろうと思ってなれるものじゃないだろ」

「で、でもお兄様の龍人(ドラゴン・マン)状態なら悪役とか一発で受かりそうですよ」

「ギャスパー、あの形態はなにもそういう目的で…なんだ、その龍人って?」

「え?アザゼル先生が大一お兄様と一緒にあの形態の名前を決めたって言っていましたけど…」

「あの人は俺のことも引っ掻き回す!」

 

 アザゼルの名づけに大一は頭を抑える。今に始まったことではないが、アザゼルの勝手な決定を受けるのは気分の良いものではなかった。

 そんな大一に、小猫は励ますように話しかける。

 

「…なんか先輩ってアザゼル先生と絶妙に馬が合いませんよね」

「あの人のことは信じてはいるよ。ただそれはそれとして一発殴らないと気が済まないと思うようなことは多い。まあ、今回の件はまだマシではあるが…」

「バラキエルさんの方が気が合いそうでしたよね」

 

 ギャスパーが納得するかのようにうんうんと頷く。実際、その真面目な気質は大一とは合っていたのかもしれない。今となってはそこを言及するよりも複雑な関係になっているだろうが。

 

「朱乃のお父さんってだけで緊張するよ…」

「お兄様も緊張することあるんですね」

「お前は俺を過大評価しすぎだ」

「お、お兄様は自分を過小評価しすぎですぅ!部長や朱乃お姉様に並ぶんですから!」

「過小評価というよりも油断しないに越したことないと思っているんだけだ。そもそも俺はリアスさんや朱乃には食らいついているだけで、みんなどんどん強くなっているから並ぶってのも違う感じがするな」

「…先輩、いつから朱乃さんのこと呼び捨てにするようになったんですか」

 

 大一とギャスパーのやり取りに、小猫が疑問を持って介入する。じつのところ、彼女にとってここ最近の疑問であった。呼び方だけではなく大一と朱乃のやり取りが以前よりもどことなく仲良さげに見えていた。どうも2人の仲が進展しているように感じた。

 

「いつから…この前のデートの時に指摘はされたな」

「ぼ、僕は気になりませんでした…」

「ギャーくん、気づかなかったの?」

「気づいてはいたけど、大一お兄様と朱乃お姉様の付き合いの長さを考えれば、今までが不自然だった気もするし…」

「まあ、名前だけずっと『さん』づけだったものな」

「私が訊きたいのは…」

 

 小猫は迷うに体をもじもじと動かしながらためらった様子を見せる。大一は兄貴分で頼れる先輩というだけで特別な感情は抱いていないと彼女は思っている。思っているはずなのだが、この質問をすること自体が喉の奥を鋭く突きさすかのように彼女の不安を煽った。それでも疑問をうやむやにしたくはなかった。

 

「…先輩って朱乃さんと付き合っているんですか?」

「あー…まあ、そうだな」

「ええっ!?そ、そうだったんですか!」

 

 少しむすっとした表情の小猫と驚愕の表情のギャスパー相手では、大一としては祝われているような感じはしなかった。仲間内で恋愛関係を持つのに対して反対しているのかとすら思ってしまう。だがすぐにそれが誤解だということがわかった。

 すぐに小猫は緊張が解けたように大きく息を漏らした。何となく腑に落ちたような気持ちであった。彼の人柄と人間関係を考えれば、拗れたままの関係性を疑う方があまりにも疲れてしまうからだろう。それに大一が一誠と同じように女性に興味があることがハッキリとわかったのも安心を感じてしまったのだ。

 ギャスパーの方も目を輝かせて、その報告に興味深そうにしていた。

 

「先輩、おめでとうございます。これはここでお祝いですね」

「わあ、朱乃お姉様と大一お兄様が…僕なんか嬉しいですぅ」

「ああ…後輩の優しさが胸にしみる…ありがとな、2人とも」

 

 大一は安心と純粋な祝いに胸を押さえる。どうも一部のメンバー相手では絶対にこんな祝われ方をしなかったであろうと思ってしまったのだ。

 間もなく注文していたメニューが運ばれてくる。ただの休憩があっという間に身内のお祝いに変わり、3人とも甘いものに舌鼓をうつのであった。

 

「…私もいつかは…」

「小猫ちゃん、どうかしたの?」

「ううん、なんでもない」

 

 胸のつっかえが取れた小猫は運ばれてきたケーキを幸せそうに、同時に何かを決意したかのように頬張った。

 

────────────────────────────────────────────

 

 その日の夜、大一は口をあんぐりと開けていた。朱乃から後で部屋に来て欲しいと呼ばれたから、入浴後に彼女の部屋に行くと不思議な格好の彼女に迎えられたからだ。

 

「ど、どうかしら…?」

 

 黒い色のウサギの耳に、胸元や太ももの露出が激しい同色の服、脚を誘惑的に見せる網タイツといわゆるバニーガールの姿となった朱乃は恥ずかしそうに大一に訊く。

 大一は軽く深呼吸すると表情を落ち着かせていった。

 

「ちょっと待ってろ。体温計を持ってくる」

「熱はありません!」

「じゃあ、一誠かアザゼルの野郎をぶん殴って来る」

「別に無理やり着せられたわけでもありません!」

「いやだって、そんな姿をする理由が俺には思いつかなくて…」

「だ、大一に気に入って欲しいからって理由じゃダメなの!?」

 

 恥ずかしさをかき消すためだけに出したような大声で朱乃は答える。身体を押さえながらところどころ隠すように立つ彼女は表情と相まって、非情に誘惑的であった。だがその姿以上に、彼女の言葉の方が大一にとっては心に響いたのであった。

 

「考えてみれば、けっこう一緒にいるのに大一がどういうの好きなのか知らないし…私だっていろいろ考えているんだから…」

 

 この日の部活にリアスに指摘されたことが不安になった朱乃はどうにかしてこの不安を解消したかった。そのため、以前コスプレをして嫉妬心を引き出そうとしたように、再び情を煽るような格好をして今度は想い人相手に直接的にアピールして彼からの愛情を引き出したかった。

 大一はそんな彼女に対して、努めて優しく声をかける。

 

「俺にはそう思ってくれるのが嬉しすぎるよ。それとごめん。不安にさせてしまったな」

「…大一の愛情が欲しいというのはワガママ?」

「まさか。でもさすがに家では他にも人がいるから…うーん…ちょっとごめん」

 

 大一は朱乃のことを静かに抱きしめる。力こそ強くなかったが、想い人に抱かれその温もりを感じるだけでも彼女の心は満たされていった。

 

「抱きしめるだけ?」

「欲しがるなぁ」

「だってこの前のキスは私からだったわ」

「…それを言われたら、何も言えないよ。ほら顔上げて」

「うん」

 

 2人の唇が重なる。先日のと決定的に違ったのは、ねだられたとはいえ大一の方からしたことだろう。今度こそはもっと彼女をリードしようと思う大一に対して、朱乃は満足そうにその行為に笑みを浮かべるのであった。

 

「…ところでその衣装はどこから?」

「この前のコスプレ衣装よ」

「そんなに買ったの?」

「まだまだあるわ。また見せてあげる」

「嬉しいけど…反応に困るな」

 




9巻がこの休日に戻ってくることになったので、そしたらプロットを練りたいと思います。アンケートは一度締めきりますので、ご容赦ください。
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