D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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オリ主が龍人状態になると人格が2つ表に出ているので、ひとり会話を延々とやっているようなところがあります。


第77話 霧の中の戦い

 人型の魔物が向かってくる。押し寄せてくる魔物はまるで波のようであった。だがその状況にも大一にひるむことなく、呼吸を整える。

 

『ここを通すと思うなよ』

 

 大一は眼光鋭く正面を見据える。錨を翼の付け根から伸びる尾で持つと、獣のように両手足を地につけて姿勢を低くする。土下座よりも四つん這いに近い体勢であった。さらに角を含めた頭部の硬度を上げると、脚をバネのように縮めた。

 

『硬度や重さを調節するだけでない。龍人状態なら筋力も桁違いだ』

『この角の一撃はそれなりだぞ、ひよっこ共ォ!』

 

 大一とディオーグの声が合わさり、魔力が増大する。脚を伸ばした大一は猛烈な速度で突進していく。弾丸のごとき速さで突き進んだ道にいた魔物は全員はるか先へと吹き飛ばされていた。

 すぐに錨を手に持つと、全身を重くして回転して一気に周囲の魔物の首を薙ぎ払う。魔物のうめき声が耳に届くが、それにいちいち反応している暇はない。手近にいた魔物の腕をつかむと力任せに他の魔物へと投げつけた。

 

『こんな時、リアスさんや朱乃のような攻撃ができればここまで動く必要は無いんだが』

『関係ねえッ!押しつぶすぞ、小僧!』

『わかっているよ』

 

 大一は飛び上がると体重を上げて魔物を押しつぶす。倒した魔物は黒い霧となって消えていく。死体が残らないおかげで足場を無くして、動きが鈍ることは無かった。

 

「ぐぎゃああッ!!」

『くっそ!』

 

 頭を狙ってかぶりつこうとする魔物の牙を腕で防ぐ。硬度を上げたことで折れたのは相手の牙の方であった。大一の龍の鱗が混じったような皮膚には、傷ひとつついていない。

 

『噛みつきってのは相手を砕く勢いでやるんだよ!』

『やりたくないけど仕方ない』

 

 ディオーグの指示のもと、大一は大きく口を開けると、魔物の肩にかぶりつく。血が出ないどころか気持ちの悪い肉質を実感した。大一はそのまま噛みつきながら、体を回転させて魔物を投げ飛ばす。いよいよ怪物じみた戦い方に我ながら呆れるが、自分の実力を把握しているからこそ四の五の言っていられないものだと理解していた。

 

『…肉の切れる感覚が短い。血も吹き出ない。やっぱりこいつらはただの生き物じゃねえな。おい、小僧。こいつらおそらくいくらでも湧いて出てくるぞ』

『だろうな。持久戦を強いられても負ける気はしないが、このままでは状況は好転しない』

 

 正面から向かってきた魔物の腕による薙ぎ払いをジャンプしてかわすと、そのまま魔物の顔を踏みつけて宙返りしながら店の前へと着地する。魔物たちは大一にすっかり気を取られていたため、ロスヴァイセや紅葉を襲うために店内には入り込まなかったようだ。

 大一は大きく息を吸って魔力を吐き出す。規模は大きく、正面にいる魔物全体に当たった。しかし魔物たちはまるで効いた様子は見られなかった。

 

『ウソだろ、全然効いていない!?』

『お前のその攻撃は範囲を広くすれば魔力が分散するんだよッ!ただでさえ威力がしょぼいのにもっと弱めてどうするんだッ!』

 

 ディオーグの苛立ちの感情が伝わってくる。大一自身、ここまで魔力を撃ち出すのに威力が無いとは思わなかった。集束させて撃てば魔物の一人くらいは倒せるだろうが、まだ何匹もいる相手にその方法は現実的ではない。

 

『だったら、引きつけて何体か投げ飛ばすか…』

「ちょ、ちょっとロスヴァイセさん!?危ないですよ!」

 

 店の中で紅葉の慌てた声が聞こえると同時に、ふらついた状態でロスヴァイセが出てきた。起きてはいたものの目が据わっており、不機嫌さを前面に押し出している。後を追うように飛び出した紅葉は出てくるなり魔物を見てびくびくしていた。

 

『ロスヴァイセさん、大丈夫ですか?』

「…うるさいれす。人が寝ているのにギャーギャー…あー!うるさいんれすよ!」

 

 勝手にヒートアップした彼女は、怒りながら魔法陣を展開させると強力な魔法を一気に撃ち出す。あらゆる属性を使用したその攻撃は目の前に広がる魔物を瞬く間に一掃した。あまりの猛攻に大一と紅葉はあんぐりと口を開けて見守っているしかなかった。

 

『情けねえな、小僧』

『…返す言葉もないよ』

「すっごいですね、この人…!」

 

 攻撃を終えたロスヴァイセはふらりと体勢を崩したため、大一はすぐに支える。酔いも残っていたためか、再び眠り込んでしまったようだ。

 しかしあれほどの攻撃を受けたのに、霧の向こうからは魔物が再び姿を現していた。

 

『やっぱり埒が明かないな。紅葉、逃げるぞ。背中に掴まれ』

「わかりました」

 

 支えたロスヴァイセを両腕で抱え、背中に飛び乗った紅葉を尾で固定すると、大一は大きく飛び上がる。霧のせいで魔力を探るのは難航したが、生命力ですぐにアザゼル達の場所を感知することができた。

 

「大一殿、重くないのですか?」

『これくらい大したことはない。それよりも気を抜いて落ちるなよ。…なんだあれ?』

 

 しばらく飛ぶと、視線の先に10メートルはある巨大な岩の人形が見えた。魔力の大きさはもちろんのこと、放った雄たけびも耳をつんざくような大きさであった。そして巨大な拳を足元目掛けて振り下ろす。バキバキと橋が砕かれる音が耳に入った。

 紅葉が怯えて叫ぶ中、ディオーグは敵意をみなぎらせる。

 

『うるせえな!あのデカぶつ、叩き割ってやろうかァ!』

『ちょっと待て。どうもおかしいぞ』

 

 巨大な岩人形の足元から一誠達の魔力を感じる。あの岩人形の攻撃が一誠達を狙ったものではないのであれば、互いに敵対していない様子であった。

 一誠達と向かい合っているのは4人の男たちだ。長い槍を持つ男はアザゼルと、背中から腕を出して複数の剣を持つ男は祐斗、ゼノヴィア、イリナの剣士トリオが相手をしている。他の2人は影から魔物を出したり、霧を出したりと搦め手で戦っていた。特に霧を出している相手は『絶霧』の使い手であることが予想される。

 このまま突撃して援護に入ろうか、不意打ちを狙うか迷っている中、大一の腕の中で眠っていたロスヴァイセが再び目を開ける。相変わらず目が据わっていた。

 

「だからうるさいっていっへるんれすよッ!今度はられれすかッ!」

「大一殿!」

『これはマズい!降りるぞッ!』

 

 急降下で大一は降りると、ロスヴァイセと紅葉を地面に下ろす。半龍悪魔と豆腐小僧、酔っ払ったヴァルキリーが突然降りてきたことに槍を持った男性が呟く。

 

「また珍客が来たな」

『誰だ、お前は?』

「兄貴、気をつけろ!コイツが首謀者の曹操なんだッ!」

『英雄派か…』

『関係ねえェ!頭を噛みちぎって、体はすりつぶしてやるぜッ!』

「威勢がいいな。赤龍帝の兄ということは、オーフィスの話していた面倒な龍を身体に宿す者か。その姿はデータに無いが…この槍をどこまで捌けるかな」

 

 曹操の姿が消えたと思った瞬間、真横から振られてきた槍を大一は錨を縦にして持ち手で防ぐ。姿勢が崩れかけるものの、軸にした脚の重さを増加させて踏みとどまった。押し切れない状態に曹操は眉を上げるが、すぐに槍を持ち換えて連続の刺突に切り替える。攻撃の軌道はある程度予測できるものの、その速度から錨で防ぐよりも魔力で体を固めた方が効率が良いと思えた。しかし…

 

『…なんだこれは』

 

 大一は攻撃を無視して曹操へと錨を振るが、素早いステップであっという間に距離を取られる。残された大一の身体には槍で受けた切り傷から血がにじんでおり、特に左の太ももからは銃弾を撃たれたかのように刺突による傷が深く、流血していた。

 魔力で体を硬化させたはずなのに、あっさりと手傷を負わされたことに大一は衝撃を受けていた。曹操のパワーはそこまででも無いのは一撃目で理解していた。だからこそここまでダメージを負わされたことに驚いていた。

 そんな大一の周りを囲むように魔物が向かってくる。この魔物もそれなりの相手なようで一誠達も手間取っている印象を受けた。覚悟を決めて錨を握るも、そんな彼の横を千鳥足のロスヴァイセが通り過ぎる。

 

「なんれすか?やるんれすか?いいれすよ。元オーディンのクソジジイの護衛ヴァルキリーの実力、見せてやろうじゃないれすかっ!」

『またさっきのやる気ですか!?』

「全属性、全精霊、全神霊を用いた私の北欧式フルバースト魔法をくらえぇぇぇぇえええッ!」

 

 ロスヴァイセは再び魔法陣を大量に展開すると先ほどの匹敵する、いやそれを凌駕するほどのあらゆる種類の魔法が雨のように振って敵を襲っていく。ローブを羽織った青年が霧を使って防ぐものの、周辺にいた魔物や疑似フィールドの物体はその魔法で消滅していった。

 霧がさらに濃くなっていくと、曹操の声が響く。

 

「少々、乱入が多すぎたか。───が、祭りの始まりとしては上々だ。アザゼル総督!我々は今夜この京都という特異な力場と九尾の御大将を使い、二条城でひとつ大きな実験をする!ぜひとも制止するために我らの祭りに参加してくれ!」

 

 敵の姿が見えなくなり、霧がどんどん濃くなっていく。身体も霧に包まれていき、もはや視界にはその霧しか映らないほどの濃さであった。そんな中でアザゼルの声が耳に響く。

 

「おまえら、空間がもとに戻るぞ!攻撃を解除しておけ!」

「大一殿、私の手を握ってくださいッ!」

 

 慌てた様子の紅葉の声と生命力の感知を頼りに、大一は言われるがまま彼の手を握った。

 間もなく霧が晴れると、そこは観光客で賑わう渡月橋周辺であった。どうやら「絶霧」で創りだした空間から戻ってきたらしい。大一は未だに龍人の状態であったが、紅葉が寸前のところで術をかけたことで一般人からは姿が見えないようになっていた。

 人に当たらないように避けながら元の状態に戻る最中に、彼の視線に泣き崩れる九重の姿が映る。

 

「…母上。母上は何もしていないのに…どうして…」

「大一殿、行きましょう。ここでは落ち着いて治療することも出来ません」

 

 紅葉が腕を引っ張って先導していく。頼もしくもあったのだが、九重から目を背けるようにしていた彼の姿は妙に印象的であった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 夜、ホテルの一誠の部屋に現状いるグレモリー眷属とイリナ、アザゼル、シトリー眷属、レヴィアタンが集まっていた。目的は日中に曹操が宣戦布告したことをくい止めるための作戦確認であった。

 作戦はグレモリー眷属とイリナ、さらに匙が敵のいる二条城に攻め入り、八坂を救い出すことであった。敵の戦力は未知数であるが、アザゼルはすでに強力な援軍を要請しているようであった。残ったシトリー眷属は京都駅付近で待機し、最悪の事態にならないように周辺に結界を張りつつ、防衛を行う予定だ。今回の作戦では回復の要ともなりえる「フェニックスの涙」は3つしか支給されていない。グレモリー眷属側に2つ、シトリー眷属側に1つそれぞれ支給されるが、心もとないのは否定できなかった。アーシアと同じ神器「聖母の微笑」を探しているほど、現状では回復要員の需要が高まっていた。

 大一はちらりと自分の手のひらを見る。先ほどの戦いで受けた傷はすっかり治っており、手のひらにはトレーニングで出来たタコや擦り傷しかなかった。彼に傷をつけた曹操が使っていたあの槍は、神滅具の中でもトップと言っても過言ではない「黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)」であった。それを知った時、いかに自分が無謀な戦い方をしようとしていたのかを思い知らされた。さらに曹操と一緒にいた影から魔物を生みだす少年は、あらゆる魔物を生みだす神滅具「魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)」、祐斗たちと戦っていた男は伝説の剣を複数持つ元教会の戦士ジークフリートと実力者ぞろいであった。

 大一は改めて自分の実力の甘さを思い知った。ディオーグの力を少し引き出せたことで、無意識ながらも油断していたのかもしれない。次の戦いに気を引き締めるのと同時に、アーシアの回復と紅葉の手当てに感謝していた。

 紅葉はこの場にはいなかった。零に対して報告しに行ったのもあるが、ただの案内役である彼が戦う必要も無いのだから当然だろう。

 煙のようにモヤモヤとした感情を抱く中、ディオーグの声が頭に響く。

 

(…あの妖怪どものことを考えているのか?)

(まあ、そうだな…。協力してくれないことに最初はがっかりしたよ。でも考えてみれば、あの人たちはただ静かに暮らしているだけなんだ。協力してくれるのが当たり前なんて思うのは傲慢だった。禍の団のやったことは許せないが、俺らがいることで被害を受けた人たちもいるはずなのに…)

 

 紅葉の怯えよう、九重の涙、どれも禍の団が原因だが自分達がまったくの無関係とも思えなかった。自分の実力が足りないことだけではない。結果的に巻き込んでしまったことで、悪魔としての自分の在り方に不安定さを抱いてしまったのだ。

 悪魔として余裕ができたためだろうか、今になって多くのことに直面させられた気がした。

 

(これだから組織ってのは面倒なんだよ。そういうこと考えるのは、性に合わん。だから俺はひとりで強さを証明したんだよ。まずは今度こそあの槍持ちとその仲間達を叩きのめす事だけを考えろ。迷いがあっては勝負にも勝てやしねえ)

(…ごめん)

 

 大一は目を覚ますように頬を叩く。ディオーグの言う通りであった。まずは目の前のことを全力で取り組むことだ。悩むことがあっても、それこそが自分の強さなのだから。

 

────────────────────────────────────────────

 

 時を同じくして場所は零の屋敷。屋敷の主は自室で、部下の紅葉から事の経緯をちょうど聞き終えたところであった。テーブルにはお茶と好物の串団子が置かれているが手は付けられておらず、表情を変えずに話を聞いていた。

 

「以上が今回の一件となります。やはり禍の団が動いていました。今夜、二条城方面でなにかを起こすつもりなようです」

「そうか…。ご苦労様、紅葉。あなたは休んでいな、と言いたいところだが、なにかあったかい?」

 

 対面に座る紅葉はその指摘にびくりと体を震わせる。常に笑顔で、大きく感情が揺れた時でしか表情を変えない彼であったが、長年の付き合いのため零には察することがあったようだ。

 

「…大一殿は良い方でした。一緒に調査をしていた際、とても楽しかったです。しかし戦いで傷ついていた時、私は力を…」

「使ってこなかったものをすぐに使うことなど難しいものだ。致し方ないことだよ。それに彼らには案内役だけでいいのさ。無理に関わる必要はない」

「零様…私は戦うあの人たちを見て、不思議な気持ちになったのです。自分にもできることをしたいと思ったのです」

 

 紅葉の言葉に、零は目を丸くする。彼自身も初めて見るような主の表情であった。当惑か、驚きか、怒りか…どれでもないのかもしれないその不思議な表情は、紅葉をうろたえさせた。

 

「…ワガママでしょうか?」

「いや、そういった考えを持つのは大切なことだ。しかし私はその感情が3大勢力の同盟に向けられるのが納得しないがな」

「零様が彼らに良くない感情を持っているのは知っています。私も表面的な付き合いは出来ても、あまり納得していません。ただ力を出せたなら、八坂様の娘さんは涙を流さずに、大一殿は傷をもっと早く癒せました。同盟のためじゃない。あの人達の力になりたいんです」

 

 紅葉らしからぬ強い意志を目の当たりにした零は考える時間を稼ぐようにお茶をすする。その時、部屋の隅にあった火鉢から煙が巻き起こり、声を上げる。

 

「零様、伝令です」

「煙々羅、後にしてくれ」

「しかし緊急で近くにいるようなのです。しかも相手が…」

 

 どことなく言いづらそうな煙の妖怪の様子に、零は八の字に眉を曲げる。この伝令方法を知っている者が限られている上に、緊急という言葉が引っ掛かった。

 零は立ち上がると、火鉢の中を覗きこむ。積もっている灰が赤くなり、文字を刻んでいく。その名前を確認した時、零の表情はさらに渋くなった。

 

「チッ…炎駒に引き続き、なんのつもりなんだか。案内しろ」

 




基本的に原作読んでいる前提で書いているため、省くところは省きます。
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