二条城前に一誠がたどり着いた頃には、すでに他のメンバーが集まっていた。全員がここにたどり着くまでに刺客が送り込まれたようだが、難無く乗り越えたようであった。
仲間達の無事に安心する一誠であったが、どうしても目についた人物がいた。
「おげぇぇぇ…」
「この場ではあいつが『王』なんだ。文句を言うのは終わってからなんだ…」
近くの電柱で酔いのせいでもどしているヴァルキリー姿のロスヴァイセに、別の電柱では袖が破れたシャツを羽織る大一が耳を抑えながら独り言を連呼していた。年上2人のあまりにも緊張感のない状態に、他のメンバーは当惑を隠せなかった。
全員が揃って間もなく、巨大な門がそれに見合った鈍い音をたてながら開いていく。その門を見ながら祐斗は苦笑した。
「あちらもお待ちしていたようだよ。演出が行き届いているね」
「まったくだ。舐めてんな」
一誠達はそのまま敵陣へと足を踏み入れていった。
敷地内を進み、本丸御殿へと向かっていく。櫓門をくぐって、古い日本家屋が立ち並ぶ場所へ着くと、付近の庭園から曹操が待っていましたとばかりに姿を現した。同時に次々と英雄派の幹部も現れた。
「禁手使いの刺客を倒したか。俺達のなかで下位から中堅の使い手でも、禁手使いには変わりない。それでも倒してしまうキミたちはまさに驚異的だ」
余裕しゃくしゃくな態度で話す曹操の後ろには着物姿の美しい女性が佇んでいた。
「母上!」
狐の耳、複数の尻尾、九重の反応、彼女こそが九尾の狐である八坂であった。無表情でかつ生気を感じられないその瞳に、九重は曹操達を睨みつける。
「おのれ、貴様ら!母上に何をした!」
「言ったでしょう?少しばかり我々の実験に協力してもらうだけですよ、小さな姫君」
落ち着いた様子で話す曹操は槍の石突で地面を軽く叩く。その瞬間、八坂が苦しそうに呻き叫びだした。さらに体が光りだすと、そのまま膨れ上がり巨大な狐の怪物へと姿を変貌させた。金色の毛並みにスマートな麗しいフォルムと美しい姿であったが、同時にその魔力は畏怖を感じさせるものであった。
「曹操!こんな疑似京都まで作って、しかも九尾の御大将まで操って、何をしようとしている!?」
一誠の問いに曹操は態度を変えずに答える。京都にはあらゆる場所に魔力、妖力、霊力が富んでおり、この地自体が巨大な術式発生装置となっていた。この疑似空間は京都の気脈を利用するために絶妙な距離の次元の狭間に存在していた。おかげで京都の気脈のパワーをこの空間にも流れ込ませていた。さらに九尾の狐という最高クラスの妖怪を馴染み深い地を使うことで力を引き出させた。
これら全ての条件を満たして、彼らが狙うことは…
「───都市の力と九尾の狐を使い、この空間にグレートレッドを呼び寄せる。本来なら複数の龍王を使った方が呼び寄せやすいんだが、龍王を数匹拉致するのは神仏でも難儀するレベルだ。───都市と九尾の力で代用することにしたのさ」
「グレートレッド?あのでっかいドラゴンを呼んでどうするつもりだ?あいつ、次元の狭間を泳ぐのが好きで実害はないんだろう?」
「ああ、あれは基本的に無害なドラゴンだ。───だが俺達のボスにとっては邪魔な存在らしい。故郷に帰りたいのに困っているそうだ」
曹操はにべもない様子で答える。もっとも彼としてはグレートレッドを殺すよりかは、捕らえて様々な調査をしたいというのが本音のようであった。
「…よくわからねぇ。よくはわからねぇが、おまえらがあのデカいドラゴンを捕らえたら、ろくでもないことになりそうなのは確かだな。それに九尾の御大将も返してもらおう」
「イッセーの言う通りだ。貴様たちが何をしようとしているのかは底まで見えない。だが、貴様の思想は私達や私達の周囲に危険を及ぼす。───ここで屠るのが適切だ」
「意見としてはゼノヴィアに同意だね」
「同じく!」
「グレモリー眷属に関わると死線ばかりだな…ま、学園の皆とダチのためか───」
一誠の言葉に、ゼノヴィア、祐斗、イリナ、匙も続くように答える。どんな理由にせよ、テロリストをここで逃す道理は無かった。
戦闘準備をする中、さっそく動いたのはゼノヴィアであった。デュランダルとアスカロンを合わせたオーラは光の柱という形容すら生ぬるいほどの太さでそびえたっていた。十数メートルはあろう長いオーラを敵に向かって振り下ろすと、その見た目に恥じぬほどの威力で周囲を吹き飛ばす。本丸御殿はもちろん、その遥か前方の建物なども巻き込んだ強力な一撃であった。
肩で息をしながらゼノヴィアは額の汗をぬぐう。これでも彼女としては手加減をしていたようだ。エクスカリバーを鞘の形でデュランダルに被せることで、その力をコントロールする上に同時に高め合うことでより破壊力を高め合うことになったようだ。これほどの破壊力を見ると、先ほどの刺客との戦いではいかにセーブしていたかを実感して、大一は感心した。
「───エクス・デュランダル。この聖剣をそう名付けよう。ま、初手で倒せるほどだったら苦労しないな」
建造物の跡地の土が盛り上がると、英雄派のメンバーが姿を現す。薄い霧を纏っており、土汚れこそついているものの傷は無かった。そしてその態度は明らかに楽しんでいた。予想以上の実力に期待を込めているのだろう。
「とりあえず実験をスタートしよう。九尾の狐にパワースポットの力を注ぎ、グレートレッドを呼び出す準備に取りかかる。───ゲオルク」
曹操の言葉に応じてローブを羽織った魔法使いのような青年…ゲオルクが手を突き出す。すると彼の周辺に各種様々な紋様の魔法陣が出現する。魔法陣は縦横無尽に飛び回り、それだけでも目が回りそうな勢いであった。
間もなく八坂の足元に巨大な魔法陣が展開されると、八坂が苦しそうな雄たけびを上げる。全身の毛が逆立ち、魔力も膨れ上がっていった。
「グレートレッドを呼ぶ魔法陣と贄の配置は良好。あとはグレードレッドがこの都市のパワーに惹かれるかどうかだ。龍王と天龍が1匹ずついるのは案外幸いかもしれない。曹操、悪いが自分はここを離れられない。その魔法陣を制御しなければならないんでね。これがまたキツくてねぇ」
「了解了解。さーて、どうしたものか。『魔獣創造』のレオナルドと他の構成員は外の連合軍とやりあっているし。彼らがどれだけ時間を稼げるかわからないところもある。外には堕天使の総督、魔王レヴィアタンがいるうえ、セラフのメンバーも来るという情報もあった。───ジャンヌ、ヘラクレス、クーフー」
「はいはい」
「おう!」
「御意」
曹操の呼びかけに3人の敵が前に出る。金髪の外国人女性、がっしりとした体格の巨漢、他のメンバーとは違った襟の長い服を着た厳格そうな顔つきの男性と様々であった。
「彼らは英雄ジャンヌ・ダルクとヘラクレス、クー・フーリンの意志───魂を引き継いだ者達だ。ジークフリート、お前はどれとやる?」
曹操の問いにジークフリートは無言で剣先を祐斗とゼノヴィアに向けた。その様子にジャンヌとヘラクレスが顔を笑ませる。
「じゃあ、私は天使ちゃんにしようかな。可愛い顔してるし」
「俺はそっちの銀髪の姉ちゃんだな。随分、気持ち悪そうだけどよ」
「某は龍の男を相手する。赤龍帝の兄と聞いているが興味深い」
「んで、俺は赤龍帝っと。そっちのヴリトラくんは?」
曹操は匙に視線を送ったが、すぐに一誠が彼に頼んだ。
「…匙、お前は九尾の御大将だ。なんとか、あそこから解放してやってくれ」
「俺は怪獣対決、か。…あいよ、兵藤、死ぬなよ」
「死ぬかよ、そっちも気張れ」
「これでもここに来る前、『女王』にプロモーションしてんだからさ。最初から気合いは充分だッ!───『龍王変化』ッ!」
匙の身体が黒い炎に包まれて、巨大なドラゴンへと姿を変えて九尾の御大将と対峙する。そして一誠達の前には怪物を超えた人間達が向かって来るのであった。
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「某の名はクーフー。かつての英雄クーフーリンの末裔である」
「丁寧な男だな。テロリストとは思えない物腰だ」
錨を取り出しながら、大一は目を細める。漆黒の髪にところどころ白髪のメッシュが入っており、西洋的な顔つきの男性が武士のような物腰で話すことは違和感を抱かせた。ましてや相手がテロリストなどという特異な存在であれば尚更だろう。
クーフーは肩をすくめながら答える。
「祖先が誇りを重んじる男であったのだ。戦いは好まず、女にも手をかけず…某はそれを模倣しているに過ぎない」
「女にも手をかけないような英雄に子孫がいる方がおかしいと思うがな」
「血を引くものなら兄弟姉妹もいただけだ。そして時を経て、某がその意志を継いだだけのこと」
「好まない戦いを助長させることがか?」
「某には某の正義がある。貴殿らのような強者をこれ以上助長させるわけにはいかないのだ」
きっぱりと言い切るクーフーの表情は強さに満ちていた。己の正義に疑いを持たず、確固たる意志を感じさせた。
とはいえ、それに同調するわけにはいかない。相手の正義があるように、大一にも大切な仲間を守るという正義があるのだから。
大一の身体が隆起して、龍人状態へと変化する。対してクーフーは円形の盾を取り出した。無骨なデザインをしており、魔力を感じなければ普通の武器と見間違うだろう。
2人も睨み合っている中で最初に動いたのは大一の方であった。身体の硬度を上げた角を向けた突進は牡牛のごとく強烈なものであった。しかしクーフーは円形の盾で一歩も後退せずに、この突進を受けたのであった。
「神器『永続なる円盾(アエテルヌ・シールド)』。殺傷能力こそ無いものの、この盾には魔力を帯びた攻撃は無力だ」
『魔力に対して特効を持つ神器か…だが、俺の「金剛の魔生錨」は魔力を通さなくても充分に硬い!』
大一は角を盾から離すと、錨での攻撃に切り替える。相手に反撃の隙を与えないように腕力を強化して、相手に向かって右から左から上からと連続で錨を振っていった。
クーフーは表情を変えずにその攻撃を盾でいなす。相当な反射神経で振られる錨をしっかりと捌いていた。しかし魔力の通されていない錨の攻撃に、傷はついている様子であった。
「調子に乗らない方がいいぞ、悪魔よ。───禁手化!」
クーフーの持つ盾の雰囲気が変わる。盾の中央に緑色の宝玉が埋め込まれ、盾には魔法陣のような模様が刻まれた。
大一は錨で刺突しようとしたところで、クーフーが変化した盾で防ぐ。すると触れた瞬間に、大一は後方へと吹き飛ばされた。ダメージこそ無いものの、突然全身を強い力で押し出されたような感覚であった。
空中で回転しながら大一は着地するが、その眼は油断ならない様子でクーフーの盾に目を向けた。
「某の禁手『畏怖の絶対防循(アーガスティア・ガードナー)』は触れた物を受けた方向とは反対側に弾き飛ばす。貴殿との戦いにおいて、某は絶対防御を持つ」
『くっそ、お前も守り専門か…』
「守ってばかりで怪物に勝てるなどとは思わない。荒々しく攻める武器あってこそ勝利は掴めるのだ」
力強い言葉とともに、クーフーは強烈なジャンプを行う。よく見れば彼の脚には装飾のついたブーツのようなものがついていた。そのままかかと落としをしてくるが、大一は体の硬度と体重を上げてその一撃を防いだ。ぶつかった衝撃と重さでわずかに地に沈むような感覚を覚えるが、クーフーはそのまま大一に蹴りを入れてその反動で後ろに下がった。
傷こそ受けなかったものの、その機動力に大一は目を細める。
『…それも神器か?』
「左様。『踊る強脚(ステップ・パワー・フット)』は神器の中では珍しくもないもので、脚力の強化だ。魔力を使えば充分に出来る程度だが、某はこれを使いこなすことで戦場を駆け抜ける。それに手札はこれだけではない」
クーフーはどこからともなく槍を取り出した。剣と同じくらいという短さで、切っ先は十字になって真ん中にはひし形の宝石が埋め込まれていた。
その短槍を振ると、炎の斬撃が飛んでくる。大一はそれを錨で防ぐが、間もなく電撃を帯びた斬撃が向かってきた。口から吐き出した魔力の塊で相殺させるも、ぶつかったことで黒煙が広がる。
『…たしかに速いな!』
煙に紛れていつの間にか後ろについていたクーフーは槍で一突きしようとしたが、生命力の動きから感知した大一は攻撃を錨で防ぐ。武器の競り合いはせずに早々に後ろに下がるクーフーの表情は相手を打ち倒すことに燃えていた。
「かつて祖先はゲイ・ボルグと呼ばれる槍を使っていた。某にはそのようなものは無いが、この『他属性槍(エレメンタ・ハスター)』がある。武器を創造するタイプのような手数は無いが、常に持っているからこその扱いやすさがある」
『つまり神器を3つ持っているわけか…』
大一は渋い表情で答える。英雄派の神器の扱いについては、彼も重々わかっていた。だからこそ、その幹部クラスがこれほど多くの神器を使ってくるとなればその実力は計り知れなかった。
「勝利のために、武器や型にこだわる必要などない。使えるものは使い、某は自分の使命を全うする」
それっぽいネーミングを考えるのがめちゃめちゃ苦労しました、はい。