『この程度でやられるかッ!』
向かってくる銃弾のような形をした炎の魔力に対して、同じように口から噴き出した魔力をぶつけて対抗する。黒煙に紛れて大一はクーフーへと向かっていくが、相手も予想していたように猛スピードで迂回するように動いた。生命力を感知した大一は足を止めて後ろから来るクーフーを待ち構える。煙が晴れると同時に向かってきたクーフーに頭突きを入れようとしたが、盾を構えていたことに気づくと素早く首の動きを止めて、逆に盾を蹴り上げるように足を上げた。しかしクーフーも素早い反射神経で後ろに下がると、槍で突くような動作をしながら魔力を飛ばして大一と距離を取った。
戦い始めてから30分近く経っているが、2人も決め手に欠けるような戦いが続いていた。
肩で息をしながら、大一は目の前の男へと視線を向ける。コカビエルと対峙した時の圧倒的な実力差は感じない。フェンリルを相手にした時のような恐ろしさも感じない。しかし大一がこれまで戦ってきた相手の中でもずば抜けて厄介であった。
近接戦が主である大一にとっては、硬さ重さ関係なく弾き飛ばす相手の神器では手傷を負わせられない。スピードで翻弄しようにも相手は神器で勝るとも劣らないスピードで動くため、意味をなさない。クーフー自身も英雄派の幹部だけあってずば抜けた身体能力と反射神経で大一を攻め立てるのであった。一瞬で勝負がつくとは思っていなかったが、ここまで持久戦を強いられるとも思っていなかった。
しかし戦いづらさを感じているのは、クーフーも同じであった。基本的な戦い方が高速移動からの槍や盾でのヒット&アウェイを繰り返すものであった彼にとって、いくら攻撃してもかすり傷程度しか負わない大一を打ち倒せなかった。
苛立ちを感じながらクーフーは再び動き出す。槍で炎、水、電気と様々な属性の魔力が込められた斬撃を飛ばすが、大一は身体を硬化させて防いだ。
『この程度の斬撃…!』
動き回って四方八方から飛んでくるとはいえ、大一の防御力ならば受けても大したダメージにはならなかった。さらに腕や翼で体を包むような防御姿勢を取るが…。
「隙を見せたなッ!」
『あっ?』
大一が防御姿勢を取ったところで、クーフーが横から突っ込んでくると、翼の隙間から槍をねじ込むように突き刺した。当然のように、硬度を上げた大一の皮膚に刃は通らなかったが、クーフーは素早く盾を槍の石突へと押し当てた。
『まさか…!』
「吹き飛べ、化け物がッ!」
ダメ押しとばかりに盾を強化した蹴りで槍ごと大一に押し込む。すると銃弾のように槍は飛んでいき、切っ先にいた大一もそのまま押し込まれていった。槍ごと飛ばされていく大一は最終的に他の戦闘の余波で崩れていた瓦礫へと叩きつけられた。
自分の手元に戻ってきた槍をクーフーは見る。切っ先には鮮血がついていたが、その表情は油断ならなかった。
「…今のも受けきるか」
『抜かすなよ。さすがに効いたさ』
瓦礫をどけてわき腹を抑えながら大一は立ち上がる。攻撃を受けたわき腹からは血がにじんでいたが、ギラギラとした眼は闘志に燃えており、手傷を負ったとは思えないほどの力強さを見せていた。
「某としては、今の攻撃すら受けきられると手詰まりに感じる。何度も同じやり方が通じるとは思わぬのでな」
『えらく物をハッキリ言うな。だがそれを素直に信じるわけがないだろ』
肩で息をしながら大一は答える。神器を3つも持っているような男が、手札を出しきったとは思えなかった。もっともその場合はここまで引っ張る意味も無いような気はするが。
後方で曹操と戦っている一誠の生命力を感じる。そちらも旗色は良くない様子で、それがまた大一の気持ちを焦らせた。
互いに次の出方を伺うような睨み合いが続く中で、大一は自分に向かって何かが迫っていることに気づく。強力な魔力で、当たればマズいことがすぐにわかった。クーフーからは目を離さずに、大きく飛び上がってその攻撃をかわす。地面に当たったそのなにかは大きな爆発をした。
「おいおい、まだ終わっていなかったのかよ」
「そう言う貴殿は終わったのか?」
「曹操以外は終わったぜ」
「あら?こちらはまだやってるんだ?」
「ま、赤龍帝だからさ。彼らよりはやるんじゃないの?そっちの方も防御特化だし、クーフーだと火力が足りないさ」
「はっはー、お前は神器の数ばかりで禁手はその盾だけだものな」
「爆発だけが取り柄の貴殿には言われたくない」
戦っている間にジークフリート、ジャンヌ、ヘラクレスが合流していた。彼らは各々の対戦相手を足元へと投げ捨てる。祐斗、ゼノヴィア、イリナ、ロスヴァイセ、4人とも血にまみれており、気絶している様子であった。さらに巨大な黒龍となった匙も九尾の狐の尾に捕らえられてうめき声を上げている。この数十分で彼らは英雄派に追い詰められていた。
『小僧、このままだと死ぬぞ』
『そんなことわかっているッ!』
落ち着いた様子のディオーグに対して、大一の言い方は荒かった。実力においてはかなりの自負があったはずの仲間達がなすすべなく敗北したのを目の当たりにしては冷静でいられなかった。それでも彼の頭の中では次の行動をどうするべきかを必死で考えていた。
その一方で、ジークフリートがクーフーに話しかける。
「曹操は赤龍帝とやりたいだろうし…クーフー、手伝ってやろうか?」
「…好きにしろ。某は曹操ほど闘い方にこだわりは無いからな」
「じゃあ、最初に誰が残った獲物をやるか競争ね」
「上等だ!俺が先に潰してやる!」
英雄派の幹部たちの敵意が大一に向けられる。ただでさえ長期戦で心身ともに神経を張り詰めた状態だったのに、ここにきて4人を相手にすることは勝ち目が完全につぶれるのは必須であった。
最初に動いたのはヘラクレス。身体から無数の突起…ミサイルを作り出し、それを撃ち出す『超人による悪意の波動(デトネイション・マイティ・コメット)』で大一に仕掛けた。
『…喰らえば動けなくなるほどだろうな』
大一はぼそりと呟くと素早く魔力を探知する。ミサイルの軌道と速度を読むと、脚に魔力を集中させて地を走って回避する。爆発の余波だけでも肌に焼けるような感覚を覚えるが、それを気にしている暇はない。そのままヘラクレスの方向に突っ込んでいった。
「逃がしはしないわよ♪」
大一が走っていく途中で横から巨大なドラゴンが向かってくる。ジャンヌの禁手『断罪の聖龍(ステイク・ビクテイム・ドラグーン)』は聖剣で形作られたドラゴンを操るものであった。ギリギリのところで体をひねりながらジャンプしたため直撃は避けられたが、翼の一部と脚に攻撃を受けた。龍の皮膚が混じっていたが、それでも悪魔として光の力は手痛かった。
『くっそ…!』
「惜しい!あと少しで倒せたのに!」
「俺が貰った!」
ヘラクレスが再びミサイルを撃ち込んでくる。威力を考えれば魔力で相打ちに出来るかも怪しかった。大一は一番近いミサイルに錨を力任せに投げつけると、黒煙に紛れ込んで再びヘラクレスの懐へと入り込んだ。
そのままやるべきことを済ませると、ジャンヌがいた場所にも向かう。大量のミサイルが爆発したため黒煙はまだ晴れなかった。
「それでも魔力を辿ることはできる」
いつの間にか、後ろには禁手『阿修羅と魔龍の宴(カオスエッジ・アスラ・レヴィッジ)』で6本の腕に同数の名だたる剣を構えたジークフリートが迫っていた。
「武器なしでこの六刀を捌けるかな?」
『捌く必要は無いけどな』
大一は口からできるだけ一点に集中させた魔力を地面に向かって放つ。クーフーが強靭な脚力で踏み込んだ上に、ヘラクレスが何発も周辺にミサイルをばらまいていたため地盤が緩くなったのか、ジークフリートは足元をふらつかせた。さらに砂埃も舞ったため、目くらましにもなり、大一はすぐに離脱した。
しかし間もなく黒煙は晴れ、禁手化した英雄派の幹部たちが大一を見る。どこからともなく錨を再び取り出しており、据わっている眼で敵を睨んでいたが、相手は大一の様子よりもその周囲を見てあることに気づいた。
「なるほど、複数相手に正面からやりあうはずがないとは思っていたが…」
「貴殿は仲間達を回収していたのか」
大一の周りには血まみれの仲間達が倒れていた。戦うふりをしてなんとか4人全員を回収して、回復を受けさせようとしていた。その証拠に後ろにはアーシアが目を見開いて立っていた。彼女と一緒にいる九重もこの絶望的な状況と苦しんでいる母親に気が気でない様子であった。
先日のフェンリルとの戦いで子フェンリルが鎖を外すように動いたのを参考にしたが、大一としても想像の倍は体力を消費したように感じた。
『アーシア、みんなを頼む。回復のオーラを飛ばすよりは、まとめて近くにいた方が回復は早い』
「わ、わかりました。お兄さんも回復を───」
『あいつらがそうさせないだろう。とにかく援軍が来るまで持ちこたえる。あの4人は俺が食い止める』
大一は静かに前に出る。息を吐き、全身に魔力を再び行きわたらせた。その様子にジャンヌとヘラクレスが笑う。
「へえ、考えたものじゃない。でも私達のボスが気にしていた龍が混じっているんでしょう?その割にはやり方が地味ね」
「しぶとさと動き回り方から、龍というよりかはハイエナだぜ」
『ハイエナけっこう…勝利のために才能もチャンスも骨の髄までしゃぶりつくしてやろうじゃねえか』
言葉とは裏腹に、彼の気持ちは焦っていた。強力な剣を巧みに扱う六刀流の剣士、悪魔への特効を持つ聖剣で創られた龍を扱う聖女、破壊力抜群のミサイルが大量に撃ちだせる巨漢、相性の悪い防御を使う戦士…4人を一気に相手して勝てる道理はまるで無かった。
そんな中で大一の口から間の抜けたような声が出る。ディオーグの言葉であった。
『…なんだァ?』
ディオーグの注意は曹操と対峙していた一誠へと向けられていた。彼は仲間達が倒れていくのに涙するほど悔しがっていたが、少し前から妙なほど隙だらけで動かなくなっていた。曹操はグレートレッドをおびき出せるかの方に興味を向けていたため、一誠にはほとんど注意を向けていなかった。
だが少しして、一誠の懐から辺り一帯を照らすほどの光を放った。光が魔法陣を形成していくと、その後に彼が叫んだ言葉にはその場にいた全員が当惑した。
「───召喚ッ!おっぱいぃぃぃぃぃッ!」
魔法陣が光り輝き、そこから見覚えのある人物が現れた。着替え中だったのか、上下下着姿のリアスだ。
「な、何事!?ここはどこ?ほ、本丸御殿…?きょ、京都?あ、あら、イッセーじゃないの?どうしてここにって、私がどうしてこんなところに!?しょ、召喚されたの!?え?え?」
リアスはどう見ても狼狽していた。着替え中に京都に、しかも戦いの真っただ中に召喚されたのだから当然の反応だろう。さらにリアスの身体を金色の光が包んでいく。この奇怪な状況には先ほどとんでもない言葉を放った一誠でも想定外だったようで、鎧姿にもかかわらず呆然としていることがわかった。
しかし大一としては今後の展開がなんとなく読めるような気がした。以前、冥界において一誠が禁手に至った時と同じような雰囲気を感じていたからだ。そうなれば一誠が次に出る行為は予想できる。
一誠はマスクを収納(鼻血でも噴いたような顔であった)すると、リアスの元へと歩いていく。
「───部長、乳をつつかせてください」
「───ッ!」
(ああ、うん…知ってた)
敵味方問わず呆然としている状況ではあったが、そんな中でクーフーのみが一誠に狙いをつけるように槍を構えていた。
すぐに気づいた大一は魔力をクーフーに撃ちだし、一気に距離を詰めて錨を振り下ろした。攻撃は盾で防がれるが、彼が一誠を攻撃することの妨害には成功した。
『冷静だな、お前は』
「赤龍帝が女性の胸をつついてパワーアップするのは有名だからな。邪魔もするものよ。貴殿も赤龍帝の兄と聞いているが、その割にはこの状況に戸惑わないのだな」
『うるせェ!俺だって出来ることなら、あのバカの頭を一発殴ってやりたいくらいだよ!とにかく俺があの2人の邪魔はさせない!』
「じゃあ、戦いも続行ということでいいかな」
クーフーがやりあっているのを見て、ジークフリートが大一の後ろにつく。二振りの魔剣で交差するように大一の背中を斬り裂いた。
不意を突かれて硬度を上げるのが不十分であったため、その背中からは多くの血が噴き出した。
『…こ、こんなので殺されるか…!』
「それじゃもう一撃───」
『喰らうか!』
大一はクーフーの首に素早く手をかけると身体を回して、位置を入れ替える。さすがにジークフリートも手を止めたが、それを見た大一はクーフーの腹に足を入れて蹴り飛ばした。
「まったく自分から仕掛けるのはバカなのかしら?」
ジャンヌの声とともに聖剣の龍が迫ってくる。すぐさま飛びあがるが、血を流しすぎたのか大一の目はかすみ始めていた。集中力も途切れ始めていたため、ここで飛び上がったのは早計であった。
狙っていたかのようにヘラクレスのミサイルが追撃してくる。受けたものこそ1発だけであったが、彼の攻撃力はそれだけでも脅威であった。全身が焼け焦げて、身体からは煙が噴き出ていた。
大一はゆっくりと地面に降り立つ。呼吸音は怪しく全身にどこまで力が入っているのはわからない。唯一、その眼だけが霞みつつも光を失っていなかった。
英雄派の幹部たちも彼を取り囲みながら関心を持つ。
「自分の力量を把握していねえのか、こいつは?」
「気力だけで立っているんじゃないかしら。オーフィスの情報じゃ、そのドラゴンも耐久力だけはとんでもなかったって話だし」
「無名相手にそこまで警戒するオーフィスもよくわからないけどね…さて誰が止めを刺す?クーフー?」
「…わかった。某が終わらせよう」
『…さっき言ったよな。チャンスもしゃぶりつくすって…兄としては不本意だけどな…』
大一がもうろう気味に言い終えた時に、一誠の声が轟く。すでにリアスの胸をつつき終えたようで、彼女の姿は見えなかったが、その魔力はどこまでも高まっていた。
「いくぜぇぇぇぇっ!ブーステッド・ギアァァァァァッ!」
溢れ出てくる強力な力、かつて暴走した時の覇龍とは似ていながらも異なる魔力…かつて負の感情に染まった大一だからこそ、今の彼の力が二天龍の悪意のような力に染まっていないことがわかった。
少し安心した大一はそのまま倒れ込みそうになるも、突然奇妙な浮遊感に襲われる。
「はったりではなさそうだな。彼を始末してさっさと…どこにいった?」
ジークフリートがあごを撫でながら不思議そうにつぶやく。先ほどまで取り囲んでいたはずの大一の姿が、一瞬目を離した隙に煙のように姿を消していたのだ。彼らが魔力を探ると彼の仲間同様に倒れ込んでいたが、先ほどとは違いその場に2人増えていた。ひとりは着物姿の狐の妖怪、もうひとりは小さな一つ目の少年であった。
「遅れるかもしれないから、距離として近い我々に打診とは…あの猿ジジイめ。炎駒同様にこれは高くつくぞ」
「大一殿、生きてますかァ!?」
バトルの際のタフなキャラって、どうしてもサンドバック状態になってしまいますよね。