D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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今回から10巻開始です。10巻冒頭のショーの裏側の出来事と思ってください。


学園祭のライオンハート
第83話 眷属の雑談


 ある日の冥界では、「おっぱいドラゴン」のステージショーが行われていた。会場は満席、多くのファンが押し寄せてその人気を博していた。主役である一誠はもちろん、ヒロインのリアスに悪役の祐斗、仲間役の小猫とグレモリー眷属が大活躍であった。

 しかしグレモリー眷属全員がその場にいるわけではない。このショーに参加していない眷属もいた。そのひとりである大一はグレモリー領の地下にあるフィールドでゼノヴィアと模擬戦をしていた。すでに開始してから30分近く経っているが、ゼノヴィアが苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべていた。

 

「どうした?それで終わりじゃないだろ」

「わかっているさ!」

 

 ゼノヴィアがエクス・デュランダルとアスカロンの2本で押し込むように連続で振るのに対して、大一は魔力で肉体を強化しつつ錨でその攻撃をいなしていく。正面から受けずに、錨の向きを調整して攻撃を滑らせるいなし方に、ゼノヴィアは歯切れの悪さを感じた。この模擬戦中ずっと攻め続けているのにもかかわらず、大一には一撃も納得のいく攻撃を入れられていないのだ。

 

「なかなか決まらないのは、いい気分じゃないな!」

「だからこそ…こうなるッ!」

 

 交互に振り下ろされる剣の連撃の隙を狙って、大一は彼女の顔に向けて蹴りを放つ。とっさに防御姿勢を取ろうとするが間に合わずに、寸前のところで彼は伸ばした脚を止めた。このままいけば蹴り飛ばされたのは疑いようも無く、そんな状況にゼノヴィアは軽く息を吐いて呟く。

 

「…上手くいかないものだ」

「それが理解できただけでも十分さ。よし、反省会としよう」

 

 模擬戦を終えた大一とゼノヴィアは隅にある飲み物とタオルが置かれている場所へと足を運ぶ。そこではギャスパーとロスヴァイセが模擬戦を見ていた。

 

「先輩達お疲れさまでした!ダイナミックな模擬戦でしたね!」

「いや、私は完全に手玉に取られたような気分だよ」

「そうですか?ゼノヴィアさんのパワーは目を見張るものがありましたが」

「ロスヴァイセさんの言う通りだよ。その勢いは大切にするべきだ」

 

 大一はペットボトルに入ったお茶を飲んで汗をぬぐう。現在、このフィールドには大一、ゼノヴィア、ギャスパー、ロスヴァイセの4人がいた。4人ともショーには正式に出ておらず(朱乃やアーシアはリアスや一誠の付き添いで向かっていた)、サイラオーグ戦も近いため一誠達が帰ってくるまでここでトレーニングに励むことにしていた。

 

「大剣だから攻撃の速度が遅れるのは仕方ないが、もう少し速い方がいいだろうな」

「振る速度は遅くないと思うんだがな」

「むしろ振った後の戻りの遅さだな。お前の体力なら、意識するだけでもだいぶ変わるだろう。あとは身体を慣らすことも大切だ」

 

 先ほどの模擬戦で気になった点を率直に指摘する。剣を振る速度は大剣を扱うにしては相当な速さを誇っている。ただそこで安心するからなのか、あるいは持ち前のパワーのおかげで倒せることが多いからなのか、剣を引いて次の攻撃に移るまでの遅さは気になった。開幕から遠距離から破壊力重視の聖なるオーラを決めることが通例になっているのも影響しているのだろうか。

 ゼノヴィアは考え込むような表情で剣を素早く振り、素早く腕を引く。この指摘に不満を示さずに素直に受け取って実践する意識を持てるのは、彼女の性格的な強みが出ていた。

 

「せっかくの二刀流だから、隙を補うように振るのもありだと思う。感情だけで突っ走るだけでは勝てないから、持っている強みは活かしていこう」

「剣士でもないのに、先輩はよく見ているな」

「お前だって意識すれば、すぐにできる。その強さは間違いないものだし、俺なんかよりも才能はハッキリしているんだ。自信を持て。お前は強いし、もっと強くなるさ」

 

 大一の言葉に、ゼノヴィアは少し照れくさそうに顔をほころばせる。素直に褒められたことに驚きと喜びが混じりつつ、らしくもなく照れを表情に出したことに困っているようにも見えた。

 

「俺の方はどうだった?」

「単純に龍人状態じゃない先輩に負けたのが悔しいな」

「そっちじゃなくてさ…」

 

 ゼノヴィアの反応は大一を戸惑わせたが、彼女の反応は間違ってもいなかった。大一の服装はいつものトレーニング用のジャージとは違い、黒い半そでのインナーを着用していた。龍人状態になるたびに上半身の服がボロボロになるという悩みをアザゼルに打ち明けたところ、伸縮性抜群のインナーを渡されたのであった。それを着ているのだから、特訓相手としては龍人状態になることを期待するのもおかしくは無いだろう。ただ、これは大一としても手を抜いているわけではなかった。

 

「正直なところ、隙の無さに驚くよ。先輩は防御が自慢だと言っているから、純粋に受けに来るものだと思っていた」

「リアスさんや朱乃の攻撃力を知っていれば、防御がそれなりでも慢心はできないさ。無駄に受けずに逸らすことも必要だ。…まあ、最近はちょっと雑になっている気はするが」

 

 自分で話しながら、苦い表情で言葉を付け加える。龍人状態になれるようになってから戦法が大きく変化したわけではない。しかし堅牢な守りを得たことで多少の攻撃なら受けられると思い、以前よりも錨での防御を疎かにしている気がした。先日の曹操との勝負や、今後戦うであろうサイラオーグとの勝負を考えると、以前のように一部の慢心もせずに注意をすることがより必要であった。今回変化しなかったのはそれが大きな理由であった。おかげでディオーグは早々にふてくされて、無言の傍観に徹していたが。

 この大一の想いに反するように、ゼノヴィアは眉を上げる。

 

「そうか?この前の戦いでは先輩が4人相手に立ち回ってくれたおかげで助かったからな」

「あれは奴らも遊び半分の状態になっていたからな」

 

 京都での戦いを勝利とは捉えられなかった。祐斗、ゼノヴィア、イリナ、ロスヴァイセは禁手化した相手に圧倒されたし、大一の方も決定打を入れられずに最終的には袋叩き状態だ。相手を退けられたとはいえ、これを勝利と思えるのは相当な図太い性格の者だけだろう。

 

「今度はあの剣士相手に負けるつもりは無いがな!」

「私もあの時の借りは返すつもりです」

「お、お二人とも、すごい気迫ですぅ…!でもそんなに英雄派が強かったなんて…」

 

 ゼノヴィアとロスヴァイセと意気込みにギャスパーもつられて握りこぶしを作る。直後の発言が心配を表しているせいか、ちぐはぐな印象を受けた。

 

「あの時は一誠がいないと終わっていただろうな」

「『赤龍帝の三叉成駒』ですよね。僕まだ見ていないんです」

「魔王から悪魔の駒をちょっと弄ってもらったと聞いたな」

 

 先日、一誠がリアスとグレモリー家の試練を受けた際にサタンレンジャー(という名の魔王達とグレイフィア)が接触してきたのだが、その際に彼は魔王のひとりアジュカ・ベルゼブブから悪魔の駒に手を加えられていた。なんでも駒の特性が赤龍帝の力になんらかの影響を及ぼされていたらしい。

 アジュカ・ベルゼブブといえば、悪魔の駒の開発者でもあり、その他各方面でも冥界での技術発展に貢献した男であった。直接的に話したことは大一も無かったが、それほどの男に一誠は興味を抱かれたようだ。

 

「あの人はサーゼクス様と双璧を成すレベルだ。いざという時は冥界でも頼れるだろうな」

「ふーむ、イッセーくんはそんな人からも信頼されているんですね」

「…先輩も同じ『兵士』だから、駒もなんか特性が発揮するんじゃないか?」

「ないない。一誠は多くの要素が重なって出来たことだからな」

 

 目を細めながら話すゼノヴィアに、大一は手を振って否定する。一誠の話ではこの影響に加えて、先代の赤龍帝の協力と胸をつついたことが相まって「赤龍帝の三叉成駒」が生まれた。せいぜいディオーグとの繋がりしかない大一としては、特別な力を発揮できる道理は無かった。そもそも、いまだに「女王」へのプロモーションで体に負担がかかる大一には、一誠のような力を使いこなせる自信も無かった。

 ただ以前よりも強くなった自負は、彼にもある。それを考えれば、「女王」へのプロモーションも上手くいくのではないかと期待を抱いた。

 

「…ちょっと久しぶりにやってみるか」

 

 大一は息を吐いて、「女王」へのプロモーションを行う。トレーニング中はリアスからプロモーションの許可を受けていたため、すぐには出来たが…。

 

「…あっ、やっぱダメだこれ!」

 

 間もなく元の状態に戻った大一は片膝をつく。ものすごい速度で身体の魔力が乱れる上に、それに伴って体力も立っているだけでどんどん消費する。魔力の性質を変化させるのと同様に、才能やセンスなどの根本的なものが足りていないと思わざるを得なかった。

 

「ちょ、ちょっと大一くん!大丈夫ですか!?」

「え、ええ…。しかしこれはなんか前よりも厳しい気がする…」

 

 ロスヴァイセの肩を借りながら、大一はゆっくりと壁に寄りかかる。再びペットボトルのお茶を飲んで体中に水分を行きわたらせることですぐに調子が戻っていくような感覚ではあったが、さすがに戦いの中で使えるものでは無いと感じた。

 そんな大一を見ながら、ゼノヴィアがポツリと呟く。

 

「うーむ、『女王』を堕としても『女王』には成れずか…」

「ちょっと上手いこと言った気分になっているんじゃねえよ!…すまん、もうちょっと休ませてくれ」

 

 座り込む大一の顔色はよくなかった。ただのプロモーションでここまで体調を崩す自分は情けなかったが、その体調を考慮しないで反射的に大声を出すことがさらに呆れる思いであった。

 

「もちろん無理はしない方がいいさ。そうだ。せっかくだからこの休憩中に先輩に訊きたいことが───」

「この流れだと朱乃とのことだろ?お前にはアドバイスできないぞ」

「な!?先輩、それは不公平だぞ!」

 

 ブーイングのように口を尖らせるゼノヴィアであったが、そんな彼女に向けた大一の目には呆れの感情が満ちていた。

 

「お前の話って、一誠レベルの内容が多いんだよ。経験無いものを答えられるか」

「なに!?だって朱乃さんとならば、すでに経験があってもおかしくないだろッ!」

「え!?朱乃お姉様とはてっきりそこまで言っているのかと…」

「お前までどうした、ギャスパー!?」

 

 まさかのギャスパーの介入にまたしても大声が出る。勝手な思い込みではあったが、彼の口からそこまでの言及がなされるとは思いもよらなかった。鳩が豆鉄砲を食ったような表情になる大一に対して、ギャスパーとゼノヴィアは2人して冷静に呟く。

 

「だって朱乃お姉様ですし…」

「朱乃さんだしなぁ…」

 

 それだけのことではあったが、大一は理解した。一誠の龍の気を吸い取る、混浴などをまるで気にしない、コスプレ衣装を買って露骨に性的なアピールをする…ざっと思いついた言動だけでも朱乃に対して、そういった印象を持つのはおかしくないだろう。そして大一自身もそれは否定できなかった。

 反論も難しく感じた大一であったが、困ったように頭を掻いてからゆっくりと話す。

 

「…お前らのあの人のイメージはわかったから。でも今のところはそういうことは無いよ」

「そ、そうですよ!こんな若いうちからは大人として見逃せません!節度を守った付き合い方は大切ですよ!だいたい人に対して、そんなイメージを抱くのは失礼です!実際にそういった行動があるわけでもないのに!」

 

 クールダウンした様子の3人に対して、今度はロスヴァイセの方が赤面しながら矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。一番後から入った彼女からすれば、朱乃の積極的行動や誘惑的な性格を知らなくても仕方なかった。

 そんな彼女をスルーしながら、ゼノヴィアは話を続ける。

 

「じゃあ、逆に朱乃さんのような大きい胸を揉めば力が解放される可能性が…」

「一誠のような情熱は俺に無いよ」

「ゼノヴィア先輩、そんなこと小猫ちゃんに聞かれたら怒られますよ。なんか最近、気にしているようですし。僕なんかこの前ニンニクの効いたペペロンチーノを食べさせられたんですから…お、恐ろしい…!」

 

 当時の光景を思い出しながら、ギャスパーは身震いをする。彼らがいない間に、ニンニクの刑は実行させられていたようだ。

 このおふざけ話の終わりが見えないと思った大一は、軽く手を叩いて注意を向けさせる。

 

「まあ、この話はとにかく終わりだ。埒が明かないからな。いい加減に特訓を…」

「だから先輩は休んでいなって」

「そうですよ。無理は禁物です。次は私がゼノヴィアさんとやりますから。あっ、よければ持ってきた魔法の本を読んでいいですよ。大一くん、前に魔法を学びたいと聞きましたからね。このまま貸してあげます」

 

 いつの間にか平静を取り戻していたロスヴァイセは、立ち上がりかけていた大一にずっしりとした魔法の本を渡す。彼女の私物なのか使い込まれた形跡が表紙からもわかった。いくらかのページをめくっただけでも、以前アザゼルから借りた本よりも内容が濃く、実践的なものであることがわかった。

 

「北欧のものですが、かなり種類は多いですよ。使えるものがあればいいですが…」

「いや助かりますよ。ありがとうございます。戻ったら俺も悪魔関連の貸しますよ。炎駒さんから頂いたものなので、悪魔について学ぶにはぴったりです」

「ありがとうございます。大一くんは勤勉ですし、生島さんのこともありますから、頼りやすいですよ。本当に兄弟揃っていやらしくなければ、もっと頼れるんですけどね…」

「そういうロスヴァイセさんも大概じゃないですか…」

 

 残念そうに話すロスヴァイセに、大一も返す言葉でツッコミを入れる。そんな彼の頭には京都で酔った時の彼女の暴走が浮かぶのであった。

 




久しぶりに穏やかな(?)仲間とのやり取りをしている気がします。
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