D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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正直、10巻はオリ主の性格的に物申したくなる場面が多い気がします。


第84話 向けられる恋

「それでは作業開始よ」

『おーっ!』

 

 ショーの翌日の放課後、学園祭の準備にオカルト研究部は励んでいた。旧校舎をまるまる使える立場であるため、それを利用した「オカルトの屋敷」を出し物とした。要するに旧校舎を使って様々な出し物をするということだ。これほど広い建物を使えるのだから、場所に困ることはないだろう。

 そのため旧校舎を改装中であったが、基本的には男性陣が力仕事なのだが…。

 

「ギャスパー、無理しなくていいぞ」

「でも僕も男子ですし…!」

 

 大量の木材を肩に抱える大一に対して、ギャスパーは身体を震わせながら同じ木材を持っていた。悪魔なのだから体力があるのは間違いないのだが、ギャスパーの場合は持っている木材の大きさが小柄な体格に合っていないために苦労しているように見えた。小猫と大差ない彼の身長では、この後も苦労するのは目に見えていた。

 

「大一先輩みたいに大きければ…こんなに苦労することも…!」

「体が大きいと、戦いでは当たる範囲も大きくなるから苦労するぞ。小回りを利かせる動きを覚えるのにどれだけ苦労したか…」

「で、でも男らしいです!僕は憧れちゃいますよ!」

「でもこの体格だったら、女子向けの服は着られないんじゃないか」

 

 大一の指摘に、ギャスパーは考え込むように押し黙る。頭の中ではがっしりとした体と可愛らしい服を天秤にかけていた。

 一方で、大一はギャスパーの顔そのままに長身の筋肉質の男が女子用の制服を着るのを想像してしまう。あまりにもアンバランスかつ珍妙な姿に自分の発言を後悔し、すぐに話題を変えた。

 

「そういやレイヴェル様はクラスではどうだった?」

「…慣れるのは大丈夫だと思います」

「まーた、歯切れの悪い言い方だな。他に気になることがあるんだろう」

「小猫ちゃんと馬が合わない雰囲気なんですよね…」

 

 ギャスパーは心配と疑問が入り混じった感情を抱きながら苦々しく話した。この日はレイヴェル・フェニックスが学園に入学してくる日でもあった。朝はリアスと一誠の2人が様子を見に行ったが、彼女は戸惑いながらもさっそく友人を作り、オカルト研究部に入部して早速手伝っていた。

 これだけならば、特別困っていることは無さそうだが、なぜか小猫がレイヴェルに対して当たりが強かった。容赦なく「焼き鳥娘」などと揶揄し、レイヴェルもやられっぱなしといかず睨みを利かせていた。一誠がとりなしても上手くいかなかったらしい。

 ギャスパーの話に大一は首をひねる。

 

「小猫らしくないな。いきなり対抗するような態度を見せるなんて」

「もちろん本気で嫌っているわけじゃないと思います。なんだかんだで今日はずっと面倒見てあげていましたし。ただ一言、二言多いというか…あの空気は怖かったですよォ…!」

「馬が合わないのかねえ。少し高飛車な面はあるが、レイヴェル様は素直だから気が合うと思ったんだが」

 

 大一の中で、小猫は規律を意識するタイプで、レイヴェルのような格式を守る性格とは気が合うと思っていた。彼女が苦手なのはそれこそ黒歌のような自由奔放かつ掴みどころのないタイプと考えていたが、ギャスパーの話を聞くと自信が無くなった。

 

「うーん、あいつはぶっきらぼうなところはあるが優しいのにな。そんな対抗心を露骨に見せるなんて…まさか…」

「なんか思いついたんですか?」

 

 大一はふとレイヴェルの態度を思い出した。小猫に対してではなく、一誠に対してだ。冥界でのパーティのあいさつの様子、わざわざ手作りのチョコレートケーキを差し入れする行動…レイヴェルが一誠に対して好意を向けているのは比を見るよりも明らかであった。

 そんな彼女に対して、小猫が敵対心をむき出しにするのはライバルと考えているからではないだろうか。思えば、一誠が「覇龍」を発動して以来、小猫は彼の削った生命力を補うために定期的に仙術によるマッサージを受けている。2人の時間もあるため、彼女が弟に好意を持ってもおかしくは無いと考えていた。というよりも、こう考えると彼の中ではすべて合点がいった。

 ギャスパーの問いに、大一はごまかすように肩をすくめながら答える。

 

「いや…ちょっと気になっただけだ。さておしゃべりも止めて、作業を続けるぞ」

 

 これが想像通りであろうとなかろうと、胸にしまっておくべきだと思った。他の仲間と違って、そんな態度を微塵も見せない小猫のことは静かに見守り、いざという時に応援するスタンスが正しいと感じたからだ。もっとも本音を言えば、この考え自体がアーシアやイリナの領域な気がして、口に出すこと自体が憚られる想いを抱かせるからなのだが。

 その後、大一はギャスパーや一誠、祐斗も巻き込みつつ力仕事に徹する。予想通り、ギャスパーは慣れない仕事に半泣きの状態であった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 その日の夜、皆が悪魔の仕事に備えて一度帰る中、3年生組は残って作業を進めていた。高校生として最後の学園祭というだけで、気持ちが引き締められ、同時にこの準備期間というものも長く味わっておきたかった。

 しかし長い時間作業していれば、空腹も感じる。大一の提案で休憩がてらに近場にあるラーメン屋に向かったのだが…。

 

「似合わないな」

 

 大一はポツリと小声でつぶやく。リアスと朱乃のずば抜けた美しさでラーメンを食べる姿は、それすらも絵になるというよりはミスマッチな印象が強かった。おそらくこの場所を教えてくれたアザゼルならこんな絵面にはならなかったのだろうが。

 口元を紙ナプキンで拭くリアスは不審げに大一を見る。

 

「ちょっと、それどういう意味?」

「いや、なんか2人がラーメンすすっているって、思った以上に雰囲気が似合わないなと」

「私だってこういうの食べるわよ。その度にそんなこと思っていたの?」

「白状するとそうですね」

「…3年以上命を懸けた仲間をやっていても知らないことは多いものね」

「あらあら、リアスったら感慨深くなっちゃった?」

 

 麺をすするのに一区切りをつけた朱乃も話に参加する。リアスと比べるといささか色っぽくも見えたが、あくまで大一視点だからこそでもあった。

 そんな彼女の言葉に、リアスは手を顎に当てて思い返すような表情を作る。

 

「まあ、そんな想いが無いと言えば嘘になるわね。学園の行事はもちろんのこと、私にとっては日常も含めてとても楽しかったわ。たまに授業をさぼったりとかもあったけど…」

「俺は未だにそういうの納得していませんからね」

「このタイミングで小言を挟まないでよ。とにかく実りのあるものだったわ。そもそも在学中に眷属が揃ったし、ライザーとの婚約問題も解消すると思わなかったし、それに───」

 

 リアスは一度言葉を区切って、対面に座る2人へと意味ありげな視線を向ける。

 

「こんなふうに親友同士が付き合うなんて本当に驚きの連続よ」

「あらあら、そんな改まってどうしたのかしら…」

「別に今言わなくても…」

 

 リアスの指摘に、朱乃と大一は気恥ずかしそうに顔を赤らめる。面と向かって親友から応援されるのは、喜びよりも恥ずかしさの方が上回った。

 

「しっかりと親友として言ってなかったと思っただけよ。私にとってあなた達はいざという時に背中を預けられる存在でかけがえのない親友だもの。進学しても、いえこれからの悪魔人生でも頼りにしているわ」

「もう、リアスったら今さらだわ。私こそあなたに救ってもらった身なんだもの」

「それに気が早いですよ。卒業までにまだ期間はあるんですから」

 

 そうは言うものの、大一も朱乃もリアスがこんな話題を出した気持ちはよく理解できた。学園祭が終わると、大きな学校行事は卒業式を残すだけであった。上級悪魔として、家柄的にも悩みが多かったリアスとしては学園生活や行事はかけがえのないものであるのは、想像に難くない。そんな生活に終止符が打たれるのも徐々に近づいてくるのが、この学園祭を終えればより実感させられるのだろう。

 ただ彼の言葉通り、気が早いのも事実であった。リアス自身もそれは理解しており、受け入れるように頷く。

 

「そうよね。思い出にふけるのはもっと後。差し当たってはまずやることに集中しなくちゃ」

「それでこそ我らが主ってものですよ」

「そちらの方がリアスらしいわ。学園祭とサイラオーグ様との試合を考えないとね」

「サイラオーグと言えば、今日彼の執事からお母様経由で連絡があったの。サイラオーグのお母様…私にとっては叔母様ね。その件について私とイッセーがシトリー領に行くことになったわ」

 

 リアスの声には先ほどの雰囲気とは別の緊張感が含まれていた。

 サイラオーグの母親はウァプラ家出身の悪魔だが、その人生は平坦とは言えなかった。悪魔の中でも家柄と血筋を重視しトップの序列であるバアル家に対して、特性である「滅び」の魔力を得られなかったサイラオーグを生んだ彼女は母子ともに侮蔑と冷遇を受けていた。バアル家の発言力もあることから援助を受けられず、最終的に2人で片田舎でひっそりと暮らすことになったが、裏では本家に対して何度も頭を下げてその回数に劣らないほど涙を流したらしい。しかも現在は悪魔特有の「眠りの病」にかかり、医療機関で生命を繋ぎとめている身であった。

 しかし彼女が幼い頃からサイラオーグを励まし、育ててきた結果、彼は母から教わった通りその肉体を極限まで屈強に鍛え上げ、ついにはバアル家を継ぐと思われていた腹違いの弟を実力でねじ伏せたことでバアル家の次期当主の権利を勝ち取った。

 サイラオーグの強さの本質は、自分達には無い遥かに強力なハングリー精神であった。幼い頃から驕らず、慢心せず、ただひたすらに鍛え上げる…だからこそあの身体能力と若手ナンバー1の名に説得力があった。

 経過を知る朱乃は少し考えながら、リアスに問う。

 

「サイラオーグ様のお母様…ミスラ・バアル様ですわね。しかしどうしてイッセーくんまで?」

「わからないわ。でもあっちはイッセーの『乳力(にゅーパワー)』に期待しているみたい」

「…あれにですか」

 

 リアスの回答に大一は苦々しい表情で口を挟む。先日の京都の一件を通じて、アザゼルが命名した一誠の持つ可能性の力だ。どうも最近、一部の者の中でそれが特別な奇跡を引き起こすとまことしやかに言われている。

 これには大一とディオーグが辟易していた。大一の方が、当然のごとくこのネーミングに納得いかなかった。弟の性欲については、大一は苦労させられた思い出しかない。それが本当に奇跡を引き起こしてピンチを切り抜くことに繋がっているのだから、素直に喜んでいいものなのかはわからなかった。

 一方でディオーグは、どうも奇跡のような出来事自体に納得していなかった。あらゆる要素をひっくるめて強さや勝負にこだわる性格ゆえ、奇跡ひとつでそのあらゆるものを覆すのは認めがたい気持ちがあるのだろう。

 大一が腑に落ちていないことを察したリアスは諌めるように言う。

 

「あなたが何を考えているのは察せられるけど抑えなさい。あちらにとっては藁にも縋ることなんだから」

「…わかっていますよ」

 

 兄としての責任感が大一を不穏にする中、朱乃が茶化すような笑顔を作る。

 

「大一もイッセーくんくらい思いきりが良ければ、それくらい考えること無いのに」

「またその話か。あれを普通にしないでくれよ」

「あら、私は愛する人がそれで気楽になれればと思っただけよ。リアスとイッセーくんみたいにね」

「…どうかしらね。イッセーは私のことを特別に思っていないんじゃないかしら」

 

 リアスの自虐的な一言に、朱乃も大一も目を丸くする。自信が溢れていて、惚れた相手への距離の詰め方に積極的な彼女らしからぬ発言に、さすがの2人も一瞬動きが止まった。

 

「どうしたの?リアスらしくないわ」

「もしかしてあいつが何かしましたか?」

「別に…ただちょっと、そんなことを思うことが最近増えただけよ」

 

 憂い、寂しさといった物悲し気な雰囲気が今のリアスにはあった。胸が好き、大切だ、頼りになる部長…ライザーの一件から惚れた身ではあったが、それが自分の気持ちばかりで一誠には響いていないようにリアスは思った。これでもかというほどアピールしているのに、彼にとって自分は「部長」でありそれ以上になれないのがもどかしく感じる。

 

「…私の魅力が足りないのかしら」

「「無い。それは絶対に無い」」

 

 誰に言うでもなくポツリと呟くリアスの言葉を朱乃と大一がきっぱりと否定する。親友として付き合ってきたからこそ、リアスの魅力はわかっていた。特に朱乃はリアスと長年付き合っていたからこそ、その美貌だけでなく優しさや強さも知っていた。一方で大一は、彼女が一誠にとって羨望の相手であり、弟が本気で惚れるであろう要素を満たしているとも理解していた。

 2人の強い言葉に、一瞬リアスは驚きながらもすぐにとりなして笑顔を作る。

 

「ごめんなさいね、2人とも。変な心配をさせちゃって。さっ、早く食べて戻りましょう」

 

 再びラーメンを食べ始めるリアスに、朱乃と大一は視線を交わす。この無理やり生みだしたような空元気を見抜けないほど、彼女らの信頼は薄いものではなかった。

 




実際、高校生の恋愛ってここまで湿っぽいものはなかなか無い気が…いやあるでしょうね。
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