D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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この辺りの他のメンバーの心情を聞いてみたいものです。


第87話 不満の爆発

 あくる日の放課後、大一は他の男性勢と共に旧校舎の一室にいた。女性陣は材料を求めて新校舎へ出向いており、本来なら先に始めればいいのだろうが前日の一誠の発言が載った新聞を読んだりして、すっかり休憩状態であった。

 

「…覚悟していても、いざ読むと困るものだ」

 

 誰に話すでもなく、大一は苦々しく呟く。彼の持っている新聞は先ほどまで一誠が読んでいたものだが、そこには『おっぱいドラゴン、スイッチをぶちゅううううっと吸う!?』と最低な見出しが書かれていた。弟のこんな話題を見て、そのまま流すことができたらどれだけ楽だっただろうか。サーゼクスやセラフォルーのような感性の持ち主ならば喜びそうだが、大一には一誠に責任感はあってもその類の愛情は持ち合わせていなかった。

 顔は新聞に向けられていたが、彼の目はまったくと言っていいほど動いていなかった。その意識は頭に集中しており、一誠とリアスのことを考えていた。早朝からリアスが露骨に一誠に対して無視するような態度を取っており、後で聞いてみれば「イッセー出入り禁止」などという貼り紙が彼の部屋に貼られていたらしい。

 昨夜、何があったのかは知らないが、朱乃と話をした次の日にこんなことが起こっているのだから、ただならぬ雰囲気を感じてしまった。

 大一の耳には一誠とギャスパー、そして先ほど入ってきたアザゼルの会話が聞こえる。「グレモリー眷属男子の訓戒」というものを話して、次の試合に不安が残るギャスパーを勇気づけていた。その力強い声が、リアスとの関係を考えるとちぐはぐな印象を感じ、大一としては不全感を覚える。

 

「ギャスパー!俺がいまからいうことを胸に刻め!『グレモリー眷属男子訓戒その1!男は女の子を守るべし』!ほら復唱!」

「お、男は女の子は女の子を守るべし!」

「よし、次!『グレモリー眷属男子訓戒その2!男はどんなときでも立ち上がること』!」

「お、男はどんなときでも立ち上がること!」

「最後!『グレモリー眷属男子訓戒その3!何が起きても決して諦めるな』!」

「よしよし、それを胸に刻んでグレモリー男子らしく戦えばいいのさ」

「は、はい!ぼ、僕、これらを胸に刻んでがんばりますぅぅぅっ!」

 

 びくびくしながらも答えるギャスパーに、一誠は胸を張っていた。そんな様子に祐斗も微笑む。

 

「いいね、それ。僕も胸に刻もうかな」

「そうしとけそうしとけ。何があっても諦めないのがグレモリー眷属の男子だぞ」

「暑苦しいねぇ。お前はいいのか?」

 

 半目で見守るアザゼルに振られるが、大一は否定するように肩をすくめた。

 

「気合いはありますよ。ただ俺みたいに一歩引いた奴がいてもいいでしょう?」

「なんだよ、兄貴。ノリ悪いな」

「じゃあ訓戒その4として『女性にセクハラをしない』というものを提案しようか」

「あ、兄貴!当てつけ過ぎるぞ!」

「ちょっとは自覚が必要だと思っただけだ」

 

 間もなく、女性陣も戻ってきてミーティングが始まった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 今回のミーティングの目的は、サイラオーグ戦の対策についてであったが、開口一番にアザゼルから告げられたのは、神器についての話であった。最近、英雄派が一般の神器所有者に対して、禁手に至る方法を触れ回っていた。危惧されるのは、その情報により多くの禁手使いが増え、結果的に圧倒的な力を手にした者達が復讐、逆襲などに走ることであった。

 

「人間がやれることの限界、超常の存在への挑戦、禁手の研究をしてきた英雄派の連中にとって、これから起こるかもしれない事象はある意味でひとつの成果だろう。人間界、冥界のどこかで不満を抱えていた神器所有者が暴動を起こすのは時間の問題だ」

 

 アザゼルの声には重苦しい緊迫感と後悔の感情が含まれていた。神器を深く研究しているからこその危険性、人間の持つ強さの再認識、テロリストの思惑…多くの理由が彼にとってこの事実の危険性を強いものにしていた。

 その空気は他の者達にも伝染するように場の空気を重くしていくが、その流れを断ち切るかのようにアザゼルは咳払いをする。

 

「───と、悪かったな。今日、ここに俺が来たのはサイラオーグ戦へのアドバイザーとしてだったな」

 

 重い雰囲気を打ち砕くために、一誠が率先して手を上げる。

 

「サイラオーグさんにも先生みたいにアドバイザーが付いているんですか?」

「ああ、いちおうあっちにもいるぞ。皇帝様が付いたそうだ」

「───っ!…ディハウザー・ベリアル」

 

 アザゼルの回答に一番反応したのはリアスであった。正規のレーティングゲームランキングで1位を誇る現王者…ベリアル家の当主でもある最上級悪魔であった。レーティングゲームでは名実ともにトップの存在は、リアスの目標であると同時にいずれ挑むべき最大の壁でもあった。

 それほどの男がサイラオーグにアドバイザーとしてついている。まさに実力で勝ち取った信頼であった。

 

「まあ、リアスやイッセーが上級悪魔としてゲームに参加するのならば、正式参戦後の大きな目標と見ておいていいのだろう。眷属のメンバーも主がゲームに参加する以上は避けて通れない相手だろうしな。

 さて、お前達、サイラオーグ眷属のデータは覚えたな?」

 

 意気込むように全員が頷く。といっても、彼の試合はグラシャラボラス家のものだけであり、その試合も途中でトップ同士の一騎打ちになったため眷属たちの実力をすべて把握は出来ていない。また彼らも驕ることなく日ごろから修行を重ねているおり、グレモリー眷属同様に、すでに「禍の団」との戦闘にも何度か参加している。実際の実力は前の試合よりも上なのは間違いない。記録された映像や伝聞で耳にする情報だけでも彼らの実力は、疑いようも無いほど盤石なものであった。

 立体映像で映し出される相手の情報を見ながら、ロスヴァイセがふと疑問を口にする。

 

「…この相手の『兵士』、記録映像のゲームには出てませんよね?」

 

 部屋にいた全員の視線が、映像の人物に向けられる。悪魔らしからぬサイバーな仮面をつけており、見た目からは掴みどころのない印象であった。

 この人物はサイラオーグでも滅多に動かさない眷属であり、情報もほとんど無かった。会見でもこの人物への質問はサイラオーグが代わりに答えている。しかしそれゆえに信頼と実力が窺える。それを証明するかのように、彼の「兵士」はこのひとりしかおらず、さらに使用した駒は6,7個であった。だからこそサイラオーグ戦で彼と同じくらい警戒する相手なのは間違いない。

 その後も、彼らは相手をひとりひとり分析しつつ、戦略を練っていく。もちろんルールにもよるが、彼らの特性を知ることで対策はより明確になるのだ。

 話に区切りがついたところで、一誠がアザゼルに疑問をぶつける。

 

「先生、俺達が正式にレーティングゲームに参加したとして、王者と将来的に当たる可能性は…?先生の目測でもいいですから」

「お前たちはサイラオーグと合わせて、若手でも異例の布陣だ。というのも正式に参戦もしていないのにこれだけの力を持ったメンツが集まっているんだからな。しかも実戦経験…特に世界レベルでの強敵との戦闘経験がある。その上、全員生き残っているんだからな。そんなこと、滅多に起こらないし、久方ぶりの大型新人チームと見られている。本物のゲームに参加してもかなり上を目指せるだろうよ。トップテン入りは時間の問題だろうな」

 

 この太鼓判にはほとんどが気恥ずかしい想いを感じた。テロリストや悪神ロキを抑えたことでも冥界の注目が高まり、悪魔の未来までも期待が上がるほどであった。

 

「───変えてやれ、レーティングゲームを。ランキングテン以内も皇帝も、お前たち若手がぶっ倒して新しい流れを作るんだよ」

 

 アザゼルの激励に、質問した一誠は意気込んでいた。悪魔として多くの夢や野望を叶えたい、そんな感情が手に取るように分かった。

 大一はそんな弟の背中を見ながら、アザゼルの言葉にむず痒さを感じて首を掻く。どうも最近、過大評価が止まらない気がして慣れない想いであった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 打ち合わせが終わると、アザゼルとロスヴァイセは教員として仕事のために抜けて、残ったメンバーはオカルト研究部として今度は学園祭の準備を始めようとしていた。

 だが、いざ始める前に突如テーブル上に光が現れ、魔法陣を描いていく。連絡用の魔法陣のため規模は小さかったが、その紋様は見覚えのあるフェニックス家のものであった。

 間もなくそこから現れたのは、若い女性の姿であった。金髪で高貴な印象を受ける女性を見たレイヴェルは声を上げる。

 

「お母様!」

『ごきげんよう、レイヴェル。急にごめんなさいね。なかなか時間が取れなくて、こんな時間帯になってしまったわ。人間界の日本では、まだ学校のお時間よね』

 

 フェニックス家当主の夫人は見かけこそ若いが、丁寧ながらも長い年数で裏打ちされた立ち回り方を心得ている雰囲気があった。

 彼女が今回連絡してきたのは一誠とリアスに用事があるからだという。

 

「ごきげんよう、おばさま。お久しぶりですわ」

『あら、リアスさん。ごきげんよう。久しぶりですわね。それと…』

「あ、どうも初めまして。兵藤一誠です」

『こちらこそ、ごきげんよう。こうしてお会いするのは初めてですわね、赤龍帝の兵藤一誠さん。このようなあいさつで申し訳ございませんわ』

 

 夫人は笑顔であいさつを行う。フェニックスの涙も需要が高まっているから、彼女の立場では忙しいのも致し方ないのだろう。

 そんな彼女にリアスも微笑みながら答える。

 

「そんなことありませんわ、おばさま。お気持ちだけで十分です。レイヴェルのことはお任せください」

『…本当にごめんなさいね、リアスさん。うちのライザーのゲーム後のケアから、レイヴェルの面倒まで見ていただいて…』

 

 夫人の言葉に、大一は少々複雑な気持ちになった。先に約束を破ったのはライザーではあったが、あの無茶なやり方には恨まれてもおかしくはない。その後、ライザーが塞ぎこんだ際に復帰する手伝いをしたのだが、大一としてはトラウマを植え付けられた相手に無茶をやらされたライザーの方が気の毒な気持ちであった。もっとも彼も現在では少しずつ復帰している上に、彼女もその辺りは気にしていないようだが。

 夫人の視線が今度は一誠に移った。

 

『それと兵藤一誠さん。特に娘をよろしく頼みますわ』

「え、ええ、もちろんです。けど、部長もいますし、俺よりももっと面倒見の良いヒトが部にもいるんで…」

『はい。もちろん、リアスさんをはじめ、皆さんに任せておけば娘のレイヴェルは何の不自由もなく人間界の学び舎で過ごせるでしょう。しかし、それとは別にあなたへお願いしたいのです。人間界で変なムシがつかないようどうか守ってやってくれないでしょうか?数々の殊勲を立てていらっしゃる赤龍帝がそばに付いていてくださるなら、私も夫も安心して吉報を待てるのです』

 

 建前だ、その言葉が大一の頭をよぎった。レイヴェルが一誠に想いを寄せているのは火を見るよりも明らかだし、冥界でのパーティでは一誠の話ばかりしているとイザベラから教えてもらった。当然、家族もその心中を知ることだろう。要するに、波風立てない形でレイヴェルを一誠に近づけたいようだ。その証拠のように彼女は去り際にレイヴェルが現在フリーの「僧侶」であることを念押ししていた。当の本人はいまいちピンと来ていない様子であったが、レイヴェルのことを守ると彼女と強く約束していた。

 

『こちらの様子は済みました。リアスさん、兵藤一誠さん、皆さん、突然のご挨拶を許してくださいましね。それではもう時間ですわ。レイヴェル、人間界でもレディとして恥ずかしくない態度として臨みなさい』

「はい、お母さま」

『それでは、皆さん。ごきげんよう』

 

 光が再び輝くと泡のように消え去り、夫人の姿も消えていた。嵐のようなあいさつに多くの者が呆然としたようであった。

 そんな中、リアスが少しおぼつかない様子で扉へと向かっていく。レイヴェルの話の時点で怪しかったが、わずかに見えたその表情は影そのものを落とし込んだように釈然としない雰囲気があった。

 そんなリアスに、一誠が心配するように声をかける。

 

「…ぶ、部長、どこに行くんですか?」

「…イッセー、私のこと、守ってくれる?」

「もちろん、部長のことを守ります!」

「…アーシアのことも?」

「え?ええ、もちろんアーシアも守ります!」

「…他の皆も?」

「それは当然です。けど…どうしたんですか、いきなりそんなことを訊いて?」

 

 リアスの声が低い。一方で、一誠はまるで意図を理解していない。その食い違う緊迫感が漂う状況を皆が見守っていた。

 

「…ねぇ、イッセー」

「は、はい…」

「…あなたにとって、私は『何』?『誰』?」

「…えっと、俺にとって部長は部長で───」

「───っ!バカッ!」

 

 一誠の言葉が最後まで紡がれないうちにリアスは涙混じりに罵声を上げると、そのまま部室をあとにする。扉を開けた力強さから彼女の失望の大きさがわかるようであった。

 

「リアスお姉様!」

 

 すぐさまリアスをアーシアは追いかけようとするが、扉の前で立ち止まり一誠へと顔を向ける。

 

「イッセーさん!酷いです!あんまりです!どうしてそこで…!お姉様の気持ちをわかってあげられないんですか!」

 

 珍しく一誠に対して、露骨な怒りをぶつけるとリアスを探しに部室を出ていった。ここまで言われても、一誠はキョトンとしていた。これを皮切りに、一誠に対してダメ出しが一気に向かっていった。

 

「いまのはマズいよ、イッセーくん」

「…マ、マズいって何がだよ?」

「それが、だよ。まったく、キミときたら…女性陣の苦労がよくわかるよ」

「本当ですわ。リアスとアーシアちゃんが怒るのも当然です」

「こういうのは鈍い私でもいまのはさすがにどうかと思うぞ、イッセー」

「もう!イッセーくんって、ホントにダメダメだわ!リアスさんがかわいそう!」

「…最低です」

 

 祐斗は呆れ気味に、女性陣は怒気を含んだ声で話していく。責められる一誠は事態と理由を飲み込めておらず、とりあえず何とかするためにリアスを追いかけようとするが、すぐに朱乃に制止された。

 

「いまのイッセーくんでは追いかけてもあちらに深手を与えるだけですから、お止めなさい」

 

 一誠は愕然としていた。自分の中でもまったくわかっていないわけでは無いのだが、確証が持てない上に本人としてはあり得ない内容と考えているゆえに決定に欠けていた。

 

「…なあ、ギャスパー。俺って、そんなにダメか?」

「…えーと…。はい、とてもダメかなと…」

「あ、あの…わ、私の、私とお母様のせい、ですよね…?すみません…」

「レイヴェルちゃんは気にしなくてもいいのよ。いままでのリアスとの大事なところを考えてあげなかったイッセーくんが一番悪いのですから」

 

 ギャスパーにも言われたことで、一誠は完全にうなだれた。レイヴェルがフォローに入るも、それも朱乃が肩を置いて彼女を制止した。

 完全に取りつく島がない状況で、彼は兄へと視線を向ける。落ち込んだ上に完全に思考が戸惑っているせいか、言葉もしどろもどろであった。

 

「あ、兄貴…どうすれば…」

「…とりあえず、作業しよう。祐斗とギャスパーは買い出しを頼む。女性陣はいつも通りな。一誠、お前は空き部屋に行って工具を整理しておいてくれ。すぐに俺も行く。朱乃、ちょっとだけ話がある」

 

 少し頭を掻いた大一は手早く指示を出す。重苦しい空気の中ではあったが、それを振り払うように全員それに従った。

 

────────────────────────────────────────────

 

 皆がそれぞれ移動したのを見届けてから、大一は残った朱乃を見る。笑顔はなく、目を細めて不満と怒りを見せていた。

 

「あまりにも酷いわ。リアスがあんな態度を取っても仕方ないものよ」

「落ち着きなって。問題を解決するのに冷静さを欠いてはなんとかなるものもならないよ」

「…イッセーくんに味方するの?」

「いや、今回のことはあいつが悪いと思うよ。理由があるにしろ、一誠の態度は褒められたものじゃない」

 

 大一はあごに手を当てながら答える。数か月も一緒に住んでやきもきする状況を目の当たりにしてきたのだから、一誠の態度を肯定するつもりはさらさら無かった。同時にそんな状況を何度も見てきたからこそ、落ち着いた態度を取れていた。

 どれが最善なのかは彼にもわからなかったが、この確執は兄として、親友として解いておきたい気持ちであった。そうなればやることは…。

 

「リアスさんのこと任せてもいいか?」

「もちろんだわ。イッセーくんは…」

「それこそ俺が何とかするよ。信用できないかもしれないけど、いちおう兄なんでね」

 




ということで、次回はオリ主と一誠のいつも以上の話し合いになりそうです。胸を揉ませるなんて解決法はやらせません。
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