D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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兄弟間だからこそ不満が強くなることってあると思います。それがちょっとしたことで出ちゃうこともあるでしょう。


第88話 弟との対話

 空き部屋で一誠と大一は工具の整理をしていた。2人の間に会話はなく、ガチャガチャと作業する音が不自然なほど響いていた。その空気に反するかのように、一誠の頭は穏やかでなかった。先ほどのリアスの態度に不全感を抱きつつ、自問自答を繰り返していた。

 とはいえ、工具の整理などそこまで時間を取るわけでもない。間もなく、作業を終えると大一は軽く一伸びして、一誠に声をかける。

 

「それじゃ、学園祭の準備を…と言いたいが、その前にさっきの話の続きだな」

「…やっぱりしなきゃダメか?」

「そうだな。あれをうやむやにするのは今後に響くだろう。リアスさんにも、お前にもな」

 

 大一の言葉に一誠は仕方ないように短く頷く。短いながらも作業をしたことで、一誠の表情は落ち着いているように見えた。そのためか、最初に疑問を口にしたのは彼の方からであった。

 

「…俺が悪いのかな」

「リアスさんの気持ちを無視した言葉だったとは思うよ。この際だから訊くけどな、お前本当にリアスさんがあんな態度を取ったのがわかっていないのか?」

 

 兄の指摘に、一誠は顔をしかめる。正直なところ、彼自身まったくわかっていないわけではなかった。しかしそれは彼にとって夢のような感覚が期待されるものであるのと同時に、踏み込むのもためらわれる領域であった。

 舌が重く感じるも、一誠は静かに言葉を出す。

 

「…もしかしてってくらいの考えはある。だけどありえないと思うんだ」

「悪魔になった時点でありえないも何もないだろうに。それでその考えって?」

「それは…あー…なんというか…ぶ、部長が…いや絶対無いと思うんだけど…もしかしたら…、お、俺のことが…す、好きとか…。

 いやゴメン!やっぱり今の言葉忘れてくれ!絶対にありえないことだ!」

 

 自分の発言と大一の変わらない表情を見て、一誠はすぐに首を振る。我ながらかなり傲慢な考えだと思った。彼女の「兵士」に過ぎず、眷属になったのも最近だ。あれほど優れた人物が自分に好意を抱くはずが無いとずっと考えていた。

 ただこの考えが正しかった場合、これまでの生活にすべて合点がいくのも事実であった。そしてその感情は一誠自身もリアスに対して本気で抱いていたものであった。

 

「どうしてそう思ったんだ?」

 

 責めることなくただ冷静な大一の声に、一誠は言葉を続けた。それでも兄の食えない態度には腑に落ちない感覚を覚える。

 

「…眷属には俺ら含めて男が4人いるけど、いくら部長が優しいからって…そのおっぱい揉ませてくれたり、キスしてくれるのって俺だけだし…。部長って大人っぽく見えて、すごく恋愛的なことについては乙女なイメージあるんだ。だからこそライザーの結婚をあれほど嫌がっていたし、けっこう貞操観念もしっかりしているし…」

「貞操観念はそうでもないと思うが…そこまでわかっているなら、どうして『部長』なんて呼び続ける。あの人が恋愛にこだわるなら、呼び方もこだわるものだと分かりそうだが」

「…兄貴には言ってもわからねえよ」

 

 一誠の頭には黒髪の堕天使の女性の姿がよぎった。悪魔になるきっかけとなった初恋の相手…彼女が自分に放った言葉、非情な態度、鋭い一撃、それら全てが心をむしばみ、目に見えない恐さに襲われるのであった。これほど苦しい経験を兄が理解できるとは思わなかった。

 当然、そのことを知る由もない大一は怪訝な表情であごを撫でる。

 

「あのな、言われてもいないのにわからないって断定されるのも気分が悪いんだよ。まず聞かせろって」

「別にいいだろ。とにかく俺のことは…」

「それこそ寝覚めが悪いんだよ。今のお前がリアスさんをどうにかできるとは思えないし、お前自身もその様子じゃ健全とは言えないだろうが」

「…だから兄貴に分かるわけ無いだろうって」

 

 口から発せられた声は先ほどのリアスにも匹敵するほど低く、苛立ちと怒りが込められていた。しつこい上に、なんでも見透かそうとする余裕な言動、兄だからこそ今の一誠にとって大一の淡々とした態度は、絶対に自分を理解しないものと感じて無性に腹が立った。

 そしてその感情は不穏な状態で口から出ていった。

 

「初恋の人に殺されかけたことあるか?残酷に否定されたことあるか?お互いに好きな人と付き合っている兄貴は無いだろう?俺は…俺は兄貴と違うんだ!なんでもかんでも上手くいっている兄貴には分からねえよ!」

 

 息も荒々しく一誠は想いを吐き出す。どこかで嫉妬していたのかもしれない。兄は学園で目立たないながらも信頼を勝ち取っており、ずば抜けた人気の朱乃と付き合っている。実力もあるし、ハッキリとしながらも落ち着いた性格は皆から慕われている…自分よりも恵まれた存在の言葉は嫌みのようにも思えてしまった。いや、それだけではここまで思わないだろう。相手がたった一個上の兄だからこそ、こんな感情を抱いたのだ。

 とはいえ、まさか罵倒のような形で自分の口から出ると思っていなかったため、すぐに冷静になった一誠はバツが悪く、兄にどう話せば良いか戸惑った。

 一方で、一誠からの予想外の言葉に大一は一瞬だけ眉を上げて目を丸くしたが、反論することなく少し押し黙った後に立ち上がった。

 

「…お前が言いたいことは分かった。ちょっと場所を変えて話そう」

 

────────────────────────────────────────────

 

「…ゴメンなさい、2人とも」

 

 リアスは朱乃とアーシア相手に静かに謝る。彼女自身、衝動的に飛び出したためどこを目指していたのかも特に無く、最終的に新校舎の影で隠れるようにうなだれていたところに朱乃とアーシアが合流した。

 

「気にしていませんわ。落ち着いたようでよかった」

「そうですよ、リアスお姉様。それに今回の件はイッセーさんに非があると思います」

「優しいのね、2人とも」

 

 軽く目を拭いながらリアスは答える。今回の一件は自分が未熟過ぎたと彼女は思った。いくら惚れた相手が自分への態度を一向に変える様子が無いからといって、その相手に八つ当たりのようにしたのは、あまりにも子どもっぽかったと反省していた。

 それでも…それでもライザー相手に果敢に挑み、自分のワガママのために命を懸けた少年には想いに応えて欲しかった。

 そんな感情がせめぎ合っていたため、優しくしてくれる親友と妹分の様子にはどんな表情をすれば分からなかった。

 

「彼にも彼の理由があるはずなのにこんなやり方…主として失格だわ」

「主がどうかは関係ないんじゃないかしら。リアスにとってどうしても納得できなかったことだったんでしょう?」

「お姉様がイッセーさんのためにアピールしていたのは私もよくわかっています。だから…だからその気持ちはわかるつもりです」

 

 アーシアがこぶしを握ってリアスを励ます。メンバーの中では最初にホームステイをしていた彼女だ。時には競い、時には共同して一誠にアピールをしてきた身としては彼女の言葉は説得力があった。

 

「私はイッセーさんとずっと一緒にいたいと思っています。そしてその未来にはお姉様も一緒がいいんです。私を救ってくれた大切な人たちと一緒が…だ、だから…」

 

 リアスを慰めるアーシアは途中で言葉がまとまらずしどろもどろになる。自分がかなり恥ずかしい言葉を紡いでいることに慌てたのだろうか。同じ相手に惚れた、いわば恋のライバルに対しての言葉とは思えないものに、リアスはおかしそうに口に手を当てる。

 

「そんな様子を見せられたら拍子抜けしちゃうわ」

「あらあら、アーシアちゃんったら。でも彼女の言う通りよ。私だってリアスがイッセーくんにアピールしてきたのを知っているんだから。あなたの想いは必ず届くはずよ。私が親友として保証してあげる」

「ありがとう。朱乃、アーシア」

 

 主としてはなんとも情けない感覚があったが、同時に安心した。自分の想いを認めてくれていたのが近くにもいたこと、そして彼女らが理解してくれていたなら、きっと一誠にもいつかは伝わるという希望が持てるのだ。

 リアスが落ち着きを取り戻して間もなく、朱乃の携帯が鳴る。開いて確認すると、大一からのメールであった。3人で内容を覗き込むと、なぜか一誠を連れて模擬戦をしてくるというものであった。

 

────────────────────────────────────────────

 

「話すって言ってもなんでここなんだよ…?」

 

 一誠は困惑した様子で口を開く。場所はいつも模擬戦をしているグレモリー領のトレーニング場であった。

 

「ちょっと模擬戦をやろうと思ってな」

「学園祭の準備だってあるだろ」

「朱乃達には連絡を入れた。終わったらすぐに戻るさ」

 

 一誠の疑問に答えながら、大一は上の制服を脱いでタンクトップ姿になる。その恰好を見て、一誠は目を細めた。

 

「お、おい。まさか龍人状態になるつもりかよ」

「当然だ。最近、お前とはまともに模擬戦をやっていなかったから、全力で来い。あのトリアイナだって使っていいぞ」

「さっきのことは謝るから…」

「別にそういうことじゃないんだよ。ただ俺は───」

 

 錨を出した大一はいきなり一誠へと魔力の塊を撃ち出す。威力は低いものの収束させていたため、牽制には十分な威力であった。

 

「お前の本気を見たいだけだ」

 

 この程度の一撃でやられるはずが無い、その確信が大一にはあった。そして期待通り、煙から姿を現した一誠の手にはブーステッド・ギアが装着されていた。今の一撃はその拳で防いだようだ。

 

「いくらなんでも不意打ちは卑怯だろ!」

「模擬戦に卑怯も何もねえよ。それにお前はこれくらいしないと本気を出さないだろ」

 

 大一は錨を構えて素早く一誠へと接近すると、縦横無尽にあらゆる方向から錨を振り攻めたてていった。

 一誠も顔をしかめながらその勢いに押されるように後退していく。しかし攻撃は避けるか、防ぐかでしっかりと防いでいた。とはいえ、さすがに戦闘においては大一の方が手慣れており、この攻撃を防ぎ続けるのも限界が来るのは予想できる。しかし多少でもしのげば…

 

「来た…禁手化!」

 

 不意の一撃で遅れたが、攻撃を防いでいる間になんとかカウントを間に合わせた一誠は禁手を発動する。力強く赤い鎧に身を包んだ一誠は、真っ向から大一の上から振り下ろした錨を掴んでそのまま彼ごと投げ飛ばした。

 空中で体勢を整えて受け身を取る大一は笑みを浮かべる。

 

「魔力で身体能力は上げていたんだが、あっさりとやられたな」

「くっそ!そっちが本気で来るなら…俺だって容赦しねえぞ、兄貴!」

「元からそのつもりでここに呼んだんだよ!」

 

 背中のブースト機能を使用して猛烈なスピードで一誠は接近し、先ほどのお返しとばかりに連続で拳を撃ち込む。マシンガンのごとく連続で向かってくる拳は、彼の日頃のトレーニングを裏付けるほど重く素早い攻撃であった。

 とはいえ、大一もそのまま受け続けはしない。素早く龍人状態になると、全身に魔力を行きわたらせて身体の硬度を上げた。

 

「硬い…!これが兄貴の防御力か!」

『一撃が重いな。ただこの程度じゃ俺が重さを上げれば余裕で受けきれるし、ましてやサイラオーグさんにも届かねえぞ!』

 

 タイミングを見計らって体重も上げた大一は腕を振って一誠の拳をはらうと、脚を上げて踏みつけるように振り落とす。すぐに一誠はバックステップで避けるが、重さを上げた彼の一撃はフィールドに足跡を残すほどであった。

 

「だったら、これでどうだ!」

『龍星の騎士ォォォォッッッ!』

 

 鎧からの声とともに、一誠の鎧が鋭利でしなやかなものに変化する。「騎士」に特化したトリアイナ能力であったが、大一はそれほど危惧していなかった。スピードこそあるものの、この状態の攻撃では自分をダウンさせるまでは至らないと踏んでいたからだ。

 だが一誠もそれは理解していたようで、猛烈なスピードで彼の周囲をグルグルと回っていった。

 

『こんなことしても無駄に魔力を…いや…そういうことか』

 

 一誠の狙いに気づいた時はすでに手遅れであった。あっという間にフィールドの埃やらが舞ってちょっとした竜巻になっていた。すっかり視界を封じられた大一は軽く舌打ちする。弟の戦法に出し抜かれたことに、複雑な気持ちであった。

 大一はすぐに魔力と生命力の探知へと切り替える。どうも一誠は竜巻からかなり離れた場所にいるようだ。てっきりこの状況では「戦車」形態へと変化して攻めてくるものだと予想していたため、この距離の取り方は不自然に感じた。

 だが間もなく狙いが判明した。一誠から強力な魔力が撃ち出されたことが気づいた。これはいつものドラゴンの力を撃ちだすドラゴンショットではない。「僧侶」で特化した攻撃であった。

 すぐに硬度と体重を上げて、さらに錨を構えて防御姿勢を取る。あの攻撃をまともに受ければ倒れるのは間違いなかった。

 間もなく、感知した方向から向かってきた魔力を大一は真正面から受け止める。先ほどの竜巻も霧散させるほどの威力であったが、これでもフィールドを考慮した威力なのは受けた瞬間に感づいた。しかしそれ以上に驚いたのは…

 

「こいつで…どうだッ!」

 

 真横から現れた一誠の拳を、大一は顔面に受けて吹き飛ばされる。「戦車」に特化したトリアイナ形態の一撃はあまりにも重く、加えて完全に不意を突かれた大一は受け身も取れずにそのまま地面に叩きつけられた。「僧侶」の攻撃はあくまでブラフと足止めで、本命は攻撃を防いで気が抜けた瞬間の「戦車」の一撃だったのだ。攻撃を受けた瞬間に、大一はその意図を理解した。

 連続でプロモーションしたせいか一誠は肩で息をしながら、倒れ込んだ大一へと声をかける。

 

「勝負ありだ。十分だろ、兄貴」

「…ああ、十分だ」

 

 龍人状態を解きながら大一は半身を起こす。殴られた右頬は腫れており、なんとも締まらない顔になっていた。

 

「強いな、一誠。俺よりもはるかに強い」

「…まぐれだろ」

「少なくとも俺は全力を出していた。それでまぐれと言われるのは、俺としても気分が悪いな」

「何が言いたいんだよ!」

「『なんでも上手くいっている兄貴』よりお前は強いって言いたいんだよ」

 

 大一の静かながらも鋭い一言に一誠は押し黙る。怪我をしているのは兄の方なのに、弟の方が気まずそうな雰囲気であった。

 

「まったく、それほどの男が初恋の人…お前の話だとレイナーレとかいう堕天使だな。そいつに傷つけられたことがそこまで尾を引くとはな」

「…悪いかよ。怖いんだよ!また…またあんなふうに女の子に否定されるかもしれないと思うと…どうしても仲良くなることにブレーキがかかっちまうんだ。…あんな思いは二度と…嫌なんだ…」

 

 せき止めていたブレーキが外れたように一誠から本音が漏れる。身体を震わせ、地に膝をつき、ボロボロと涙をこぼしながら心情を吐露する彼の姿は哀れみと苦しさに満ちていた。

 大一は身体を起こすと一誠の元へと歩き、その傍らにしゃがみ込む。そして震えを止めるように優しく肩に手を置いた。

 

「リアスさんがお前を嫌っていると本気で思っているわけじゃないだろう。それはお前自身がよくわかっているはずだ。あの人だけじゃない。アーシアも、朱乃も、小猫も、ゼノヴィアも、イリナも、レイヴェルも、ロスヴァイセさんも…少なくともオカルト研究部の女性はお前を嫌っていないだろうな。もちろん男たちもな」

「それでも…俺は…もしも…」

「もしも何かが間違ってお前が嫌われても俺がいる。世界中の皆がお前を嫌っても、俺だけはお前の横にいて支えるよ。まあ、そんな状況にはならないだろうが」

「…なんで兄貴は…俺にそこまで…」

「お前が弟だからだ。兄貴がやるのなんてそれで十分だろ」

 

 なんとも間抜けな兄だと思った。頬は腫れているのにかける声は一貫としてしっかりしている。エロいことにひたむきだわ、勝手に不満をぶつけるわ、そんな弟に付き合ってくれるなんとも不思議な男であった。

 

「ほら、自信持て。俺に勝ったんだから、お前は少なくとも誇れるものがあるだろうよ。リアスさんのことも意識しろ」

「ああ…そうだな」

「そろそろ戻るぞ。アーシアにこの顔を回復させてもらわないと堪ったものじゃねえ」

 

 軽く頬を抑えながら、大一は立ち上がる。あまりにもしゃんとした立ち上がり方に切り替えの速度には感心した。

 一誠も同じように立ち上がるが、そんな彼に視線を合わせずに大一は歩いていった。

 

「ああ、そうだ。ひとつ言い忘れていた」

「ん?」

「悪かったな。お前が悩んでいることに気づいてやれなくてよ」

 




オリ主が傷ついても進むタイプなせいか、こんな不器用な方法しか出来ませんでした。
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