D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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別にオリ主は自分を認めていないわけじゃないんです。ただいざという時に自分を切り捨てる傾向があるだけで。


第89話 強者の関心

 一誠との模擬戦も終わったその日の夜中、大一は静かに目を閉じながら自室の椅子に座り込んでいた。時刻を考えれば悪魔でもすでに眠りについている時間に、彼は頭の中にいるディオーグと話していた。

 

(悪かったな、ディオーグ)

(ようやくこの前の甘い物を逃したことを謝る気になったか)

(そっちじゃねえよ。というか、根に持ちすぎだろ…)

(むしろそれ以外に謝られる理由がわからねえだけだ)

(今日の模擬戦だよ。負けて悪かった)

 

 大一は静かに謝罪する。勝負の勝ち負けにこだわるディオーグが模擬戦とはいえ、あのような形で敗北するのは腑に落ちない筈であった。しかし彼は龍人状態の時にまったく口出しせずに、一誠との模擬戦を最後まで付き合ってくれたのだ。

 

(なんだ、その言い方?たしかに気に食わなかったが、短くても全力で戦ったんだろうが)

(いや、そうなんだけど…お前のことだから絶対に口出しすると思って)

(あんな勝っても得にならねえ勝負には興味ねえよ。だいたいそれで謝るのは意味がわからん)

 

 ディオーグの言葉に、大一はひとり頷く。彼の言う通り、この場合の謝罪は意味をなさないものであった。今回はむしろ彼に示すとしたら最後まで付き合ってくれたことへの感謝であろう。

 

(…お前の言う通りだな。この場合は協力してくれて、ありがとうってところだな)

(ますます意味がわからん)

 

 あくび半分でディオーグは答える。彼は力や勝負へのこだわりは強いものの、性格、感情的な面はからっきし…というよりも興味が無いようで、そのおかげでいまいち心が通じ合っている感覚が大一には持てなかった。大一としては今後の悪魔人生で一生付き合っていく以上、一誠とドライグのような相棒的な関係を考えていたが、その道の長さをこのやり取りだけで実感するのであった。もっとも弟たちの方もドライグがカウンセリングを受けたりと、決して健全な関係とは言えないのだが。

 そんなことを考えていると、ディオーグが疑うような声色で言葉を発する。

 

(今日のはお前らしくない行動だったな)

(なんだ?兄貴として別にいいだろ。そりゃ、あいつを立ち直らせるためとはいえ、ちょっと過保護すぎるとは思ったが…)

(つまらねえ兄弟仲とかはどうでもいいんだよ。お前、自分本位とか言いながらあの態度はらしくないって思っただけだ)

 

 ディオーグには奇妙な確信があった。初めて龍人状態へと変化した際のやり取りで、彼は大一と繋がったことに少々関心を覚えた。こだわりが強く、自分の想いを先行させる。そんな彼の発言は自分にも通じるものがあったからだ。

 それなのに、今回の一誠の件は明らかに違和感を覚えた。数か月大一の中にいて、彼が弟の性格や評判でげんなりするような想いを抱くのは知っていたし、一誠に不満をぶつけられた際も感情が煙のようにもやつく感覚をディオーグは感じとった。

 

(なんか負い目でもあるのか?)

(…ねえよ。俺はあいつに迷惑かけられっぱなしだ)

(なのに、お前は弟に真摯に向き合おうとする。自分の感情を押し殺してもな)

(ガキじゃねえんだ。いつまでも感情的にいられないんだよ)

 

 椅子の上でゆっくりと身体を伸ばしながら大一は答える。京都の時にいつもとまるで違うポジションで動いていたせいか、自分の精神的な未熟さを思い知らされた。リアスのお目付け役であり、今後悪魔として生きることを考えると余計に立ち振る舞いを見直す必要性を感じた。それこそ感情だけで突っ走るのではなく、自分の任された仕事を遂行するためのメンタル的な強さだ。

 おそらくその経験と考え方が原因だと大一は思っていた。そう思うことにしたかった。でなければ、心に引っかかる正体不明の後悔に直面するような気がしたからだ。

 

(…まあ、俺が話しても聞くことじゃねえだろうな。じゃあ、もうひとつ言わせてもらおう。ベッドの女をどうにかしろ!)

(それこそ無茶な話だよ)

 

 荒ぶるディオーグに対して、大一は落ち着いて答える。視線の先には朱乃が彼のベッドで静かに寝息を立てていた。先日から朱乃に提案して以来、ほぼ毎日のように彼女と話してそのままベッドに眠りにつくことが日課になっていた。家改装で多少は大きくなったとはいえセミダブルのベッドで横になるのは緊張した。おまけに朱乃は吹っ切れたかのように身体をくっつけてくるので、昂る気持ちを抑え込むのも一苦労であった。一誠がリアス、アーシアと一緒に眠ったという話を依然聞いたことがあるが、今ではどうやっていたのかを問いただしたほどであった。

 一方でディオーグはこの現状が気に食わなかった。手狭な感じが封印されたことを思い出すようで、その不満はどんどん増幅していった。実際、大一がわざわざベッドから出たのも、彼女と一緒の状態では緊張でろくに頭が回らないからだ。

 

(あとあの女の雰囲気が気に食わん!なんか湿っぽいんだよ!)

(お前が融合してから、俺があの人と付き合うまでに泣いていたのを何度か見たからじゃねえかな…)

 

 別にディオーグに朱乃との仲を認めてもらおうとは思っていなかったが、今さらながら文句が増えるのは気分が良いものではない。

 それを知ったことでは無いと主張するかのように、ディオーグはさらに声を荒げた。

 

(あー、邪魔くせえ!)

(お前はうるさいよ…)

 

 サイラオーグ戦まであと数日とは思えないようなやり取りであった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 そしてゲーム当日、グレモリー眷属は空中都市に続くゴンドラの中にいた。ゲームの会場であるアガレス領土の都市、アグレアスは旧魔王時代に作られたもので浮かんでいる原理は謎が多く、アジュカ・ベルゼブブくらいしか理解していなかった。地上へと水が落ちて滝を形成するその構造はとても神秘的であり、見た目的にも土地の特別性を含んでいる。冥界でも特別な遺産として認定されているため、移動手段は限られていた。今回は眷属の多くが景色を一望できるゴンドラを希望したためであった。

 無邪気に外の景色を見る一誠と後輩たちを見ながら、大一は静かに嘆息する。例の一件以来、リアスと一誠の仲は表面上は落ち着いたかに見えたが、根っこのところは気まずさと行き違いがあるように感じた。

 むず痒く感じるのは何も彼らの関係性だけではない。今回、会場を決める際にもそれに類似したことが起きていた。グレモリー家、バアル家共に自らの領地での開催を強く希望していたのだ。グレモリー家は現魔王を輩出した家系であるためその特別性は冥界でも一目置かれている。一方でバアル家は大王として悪魔の中でも強い発言力を持っており、場合によっては魔王以上の強い権限を持つこともあった。結局アガレス家の領土に収まったのは、大公という立場でお互いの調整を図ったからであった。

 そんな因縁が裏であったのだから、これからの試合が魔王とバアル家の代理戦争などと考える者も少なくない。もちろんこの程度のことでサーゼクスに影響は及ぼすことは無く、せいぜい負ければサイラオーグのバックにいる有力者がわずかな恩恵を受けられる程度なのだが。

 ただこれから試合に臨む当事者としては、耳に入れて落ち着く情報ではなかった。

 

「…家の特色を得られずに苦労したサイラオーグさんを利用する上級悪魔たち、か」

 

 ぽつりとつぶやく一誠にアザゼルはため息をつく。

 

「複雑だろうが、それでいいんだよ。苦労した分、やっと注目されたと思ってやればいいじゃないか。どんな理由があろうと名のある者に認められることはひとつの成果だ。あとは結果次第だが…。お前達はあいつのことを気にせず全力で行け。自分の目的を果たすためにがむしゃらに行かないと奴には勝てん」

 

 アザゼルはそう言うが、大一としてはどこまで同意していいものかが分からなかった。彼の言う通り全力でぶつからないとサイラオーグには勝てないだろう。しかし相手は自分が現在の魔王の体勢にくさびを打ち込むバアル家の駒であることを自覚している。そうまでして上に行くために清濁併せ吞む向上心がある男だ。それほどの男と相対する以上、自分たちも少なからず覚悟する必要性を感じたのであった。

 そんなことを大一が考える一方で、一誠はふと思いついた疑問を口にする。

 

「今更ですが、このゲーム、テロリスト───英雄派に狙われるなんてことは?」

「あるだろうな。これだけ注目されているし、会場には業界の上役が多数揃う。狙うならここだ。あいつらにとっちゃ、お祭り騒ぎに自慢の禁手使いを投入することは大きな行動になるだろう。いちおう、警戒レベルを最大にして会場を囲んでいるんだがな。ま、杞憂に終わるかもしれん」

「どうしてそう言い切れますの?」

 

 朱乃の疑問にアザゼルは頬をかく。その仕草、表情共にどことない気まずさが含まれていた。

 

「…ヴァ―リから、個人的な連絡が届いてな」

『───っ!』

 

 この発言にその場にいた全員が息をのむ。なんでもヴァ―リもこの試合には注目しており、邪魔をさせないように睨みを利かせているらしい。もっとも彼が一番注目しているのは相変わらず一誠のことであったが。

 

「もともと曹操はここを狙っていないってことも考えられるさ。隙を狙われる可能性もあるから他の勢力も自分の陣地を警戒してるってところだ」

 

 アザゼルがまとめるように言葉を紡いですぐ、ゴンドラは目的地へと到着した。

 

────────────────────────────────────────────

 

 到着した彼らは大量の記者たちに迎えられてフラッシュをたかれるが、すぐにボディーガードの案内の元にリムジンへと乗り込んだ。車内にはレイヴェルが待機しており、準備を整えてくれていたようだ。

 この手腕に感嘆する中、アザゼルが忠告する。

 

「…お前たち、そろそろ個別にマネージャーつけろ。特にリアスとイッセーは必ずな。今回の試合、勝っても負けても知名度は上がる。日が経てば落ち着くだろうが、それでもしばらくは冥界に来るたびにこんな調子だろう。あー、そうだな、レイヴェル、お前がイッセーのマネージャーをしたらどうだ?こいつに付けば勉強になるぞ、スケベだがな」

 

 下心を示唆するようにいやらしい顔を見せるアザゼルに、真横から朱乃と大一がどこからともなく取り出したハリセンで頭部を叩く。この不意打ちにはさすがのアザゼルも目を見開いた。

 

「な、何するんだ、2人とも!」

「うふふ、ちょっとデリケートな時期でもあるんで、そういうのは控えてくださいな」

「まあ、俺の場合はもろもろの件による私怨もありますが」

「てめえ、そういうタイプじゃねえだろ!」

「なんのことやら?」

 

 大一がアザゼルの相手をしている間に、朱乃はこっそりとリアスにウインクする。少なくともリアスの方は一誠に強くあたることは無くなり、ぎこちなくも会話をしていた。一誠の方は特に変わらなかったが、2人とも覚悟は決めていたため、区切りがつけばお互いに向き合うのだろう。事情を知る身としてはむず痒いものが残る光景であったが、朱乃と大一を筆頭にサポートを決めていた。

 奇妙な空気間が続く中で、彼らを乗せたリムジンは目的地へと到着する。多くの娯楽が開催される巨大なドーム会場、アグレアス・ドーム。その隣にある巨大な高級ホテルに彼らは案内された。その絢爛な造りはどこに視線を向けても納得できるものであった。

 グレモリー眷属が専用のVIPルームに案内される道中、骸骨の顔をした人物が率いる奇妙な集団に出会った。全員がローブを羽織っており、掴みどころのない奇妙な魔力を抱えている。

 彼らが視界に入った瞬間、大一の中でディオーグの感情が大きく昂るのを感じた。その集団の中にとてつもない力を感じたのだろう。間もなく、それが事実であることが相手からの会話で明かされた。

 

≪これはこれは紅髪のグレモリーではないか。そして堕天使の総督≫

「これは、冥界下層───地獄の底こと冥府に住まう、死を司る神ハーデス殿。死神をそんなに引き連れて上に上がってきましたか。しかし悪魔と堕天使を何よりも嫌うあなたが来られるとは」

≪ファファファ…、言うてくれるものだな、カラスめが。最近上で何かとうるさいのでな、視察をな≫

「骸骨ジジイ、ギリシャ側のなかであんただけが勢力間の協定に否定的なようだな」

≪だとしたらどうする?この年寄りもロキのように屠るか?≫

 

 静かに言い放つハーデスには、身体を通り抜けるような、それでいて清々しさはまったく無い雰囲気があった。周りのローブをつけた死神たちも敵意を見せている。

 外面でそのような感覚に当てられながらも、大一は中にいるディオーグを収めようとしていた。

 

(落ち着け、この人たちと戦う道理は無いんだ)

(向こうが仕掛けて来たら話は別だろ?)

(あの人は神の中でも特別だ。この世界にいなくてはならない存在…天地がひっくり返っても戦う時は来ないと思うよ)

 

 死を司るだけあって、ハーデスの存在はかなり重要なものであった。そのせいか黒い噂も絶えないようで、彼自身が悪魔や堕天使を毛嫌いしているのもあって友好的な印象を抱けなかった。そんな男でもかつて冥府で暴れまわったドライグとアルビオンのことから一誠には興味を示す。一誠を一瞥すると、軽く別れを言って立ち去っていった。アザゼルの話では同盟にも反対を示しているようだが、大一は表立ってロキのようなことをしてこない分、マシにも思った。それにすべての存在が手を取り合うことがわかっている以上、こんな相手がいても仕方ないことなのだ。

 もちろん、全てが否定的ではない。現に間もなく出会った2人はいきなりアザゼルに結婚話を進めてくるほどであった。どちらも体格がよく、豪快な笑いが特徴的な中年の男性…ハーデスに匹敵するギリシャ神話の神々であるゼウスとポセイドンだ。

 

「嫁を取らんのか、アザ坊!いつまでも独り身も寂しかろう!」

「紹介してやらんでもないぞ!海の女はいいのがたくさんだぁぁぁっ!ガハハハハハッ!」

「あー、余計な心配しなくていいって…」

 

あまりの豪快さにアザゼルですら押されている様子は、珍しさと愉快性を含んだ光景であった。

 

「来たぞ、お前たち」

 

 アザゼルが2人の神を相手にしている最中に、リアス達に声をかけたのは小さなドラゴンであった。一瞬、誰かを訝しむが一誠が聞き覚えのある声に思い当たった表情になる。

 

「その声、タンニーンのおっさんか!ちっちゃくなっちゃって!」

「ハハハ、もとのままだと何かと不便でな。こういう行事の時はたいていこの格好だ」

 

 見た目とはギャップがあるような力強い笑い声を上げながら、彼は一誠達を見渡す。

 

「相手は若手最強と称される男だが、お前達が劣っているとは思っていない。存分にぶつかってこい」

「もちろんさ!俺達の勝利を見届けてくれよ!」

 

 一誠が自信満々に師であるドラゴンと話す中、相変わらずディオーグはギラギラした闘争心で周りを品定めしている。なだめるのにも限界を感じた大一は、勝手に放っておいていた。

 

(あの堕天使に絡んでいる神も悪くねえな…いやそれともいつもの片目ジジイもいるし、そっちともいい加減戦いたいところだが…)

(うん?それって…)

「あっ!オーディン様!」

 

 素っ頓狂な声を上げるロスヴァイセが指さした方向には、オーディンが綺麗な女性を連れて立っていた。ロスヴァイセに気づいたオーディンはぎくりとした表情ですぐに逃げていった。

 

「ここで会ったが百年目!まてぇぇぇっ、このクソジジイィィィッ!その隣にいる新しいヴァルキリーはなんなのよぉぉぉっ!」

 

 不満を露わにしたロスヴァイセがオーディンを追いかけようとするが、ディオーグのおかげで前もって気づけた大一が素早く彼女を羽交い絞めにした。

 

「大一くん、放してください!あのジジイめぇぇっ!」

「これから試合なんですから余計に疲れることはしないでください」

「大一、ロスヴァイセをそのまま連れてきなさい」

「わかりました。ほら、行きますよ」

「腑に落ちませんッ!」

 

 じたばたと動くロスヴァイセを引きずりながら大一はリアス達の後をついていくのであった。

 




この辺り、どのように切ったらいいかがわからずに書いて直してを繰り返していました。
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